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22章

583話 生身の部分≠人の心

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「あー、たまんねえ」

 転がってるプレイヤーの一人を見下ろしながら銃口が出ている右手首を眺めてにんまり。この体にして、何度も、何度も、何度も、何度も戦ってきた。試行錯誤と何本もの手足を失い、あれこれとスキルと性能を上げていき、およそ人間とも言えないレベルにまで食い込んだこの機械の体。黒光りの滑らかな艶が出るこの義手がたまらないくらい愛おしい。

「もうちょっと機能的なのも良いけど、この黒光りの感じもたまらないのよねー」

 ぐりっと手首を捻ると銃口が引っ込んで、指先からびっしりと入り込んだ綺麗なモールドを見てにんまり。

「……あんまり調子に乗るんじゃないよ!」
「悦に浸るのは良い事だろう?」

 銃と刀を持った別のプレイヤーが満面な笑みを浮かべていたところに銃撃しながら距離を詰めてくる。最近はこういうハイブリッド型が増えてきたような気もする。

「私としてはガンナーの可能性が広がっているのは良い事なんだが……」

 撃ちこんでくる銃弾を半身になり、右腕を上半身から頭を隠す程度に構えながら回避と出方を伺いながら後退。足の速さは向こうの方が「まだ」上か。

「うん、うん、良いね、『足』の実験には十分な機動力だ」
「いつまでもガンナーでデカい顔してんじゃ、ない、よ!」
「そうか、まだそんな風に思われてるのか、私は」

 詰めてくる間、左で抜いた銃を脇を締めた状態で撃ち、反撃しながら銃撃のしあい。ガンカタ使いもそうだが、接近戦に重きを置いているガンナーは大体足の速さを売りにする。そして特にだが、近接職+サブガンナー、これの場合、異様に引っかかる行動がある。

「っと……詰められたか」

 飛ぶ斬撃のスキル……ではなく、伸びる斬撃系スキル。風切り音と共に振り抜いてくる攻撃をピーカブースタイルで防御。金属音が響くのが若干の耳障りだが仕方がない。

「傷物にするとはやってくれるなあ」

 防御を解いて反撃、するときにはかなり前に突っ込まれているので、これをどう反撃するかがガンナーの腕の見せ所ともいえる。とは言え、前までやっていた、とにかく近づかれたらどうにかこうにか連射して相手の距離を取らせる、こんな単純な事しかできなかったわけだが。

 突っ込んできて、2撃目を振るうタイミングで、此方が防御を解いた右腕を振るう。じゃこっと音をさせると共にさっきよりも甲高い金属音を発しながら攻撃を受けてから右へと受け流す。そのまま受け流した勢いで右に寄れた相手を左から強襲。左を思い切り振り下ろすと共に、先ほどと同じじゃこっと音を響かせるとそのまま相手が倒れ込む。

「ふむ、ふむ、良い感じ」

 自分の腕から生えている細身の刃が光を反射し、ぎらりと光る。いわゆるマンティスブレードの仕込みだが初見殺しにはピッタリ。強度は多少なりと心もとないが、一撃必殺だったりトドメを差す程度には使いやすい。そんな事を考えつつ腕を素早く引くと、義手に収納され、元通り。

「あれこれ仕込みまくれるのは良いけど、使い勝手やらは難しい問題だなあ」

 色々と仕込めば仕込むほど、トレードオフで強度の部分や装填数、仕込む武器の強さ、制約は結構あるのだがその辺のバランスを考えないといけない。勿論詰めに詰め込んで、めちゃめちゃ強度や耐久、防御力が低いけど手数や初見殺しに特化させたりもできる。逆に1個だけ、もしくは何も仕込まずに防御用と割り切っての運用も出来る。

「さー、次は誰かな?」

 代わりと言ってはなんだが、義肢に換装した所に装備は付けられるが仕込みが使えなくなるのでその辺の感じはかなりバランスを取っている。そもそも義肢を使ってるのが今の所、私だけなのでそういう心配だったり運用は誰も分からないが。

「おうおう、闘技場荒らしがでかい顔してんじゃねえぞ!」
「乱入上等のルールで何言ってんだ」

 ごつめの筋肉達磨がこっちにのしのしと向かってきながら叫び声をあげる。あの手の奴は突っ込んでくるから結構対処しやすかったり……。

「食らいやがれ、豪火球!」

 とか思ってたら、結構な魔法型。そういえば義肢の弱点の一つに魔法に弱いってのもあった。あんまり魔法を使ってくるモンスターがいないからそっちの対処は今後の課題か。

「おっと……それはちょっと聞いてないな」

 迫りくるでかい火球、距離はまだあるので一呼吸おいてから詠唱一つ。

「限定解除ラビットフット」

 そう言うと、義足の形状ががしゃんと変わり逆関節に。そのまま軽くしゃがんでから思い切りジャンプ。あっという間に数m上に飛び上がり筋肉魔法使いの上に。

「上は動けないぞ!」

 こっちに向かって両手を突き出すと細かい火の矢が飛んでくる。まあ上を取って狙われるのも想定済みではあるのだが。

「オーソドックスな魔法使いのくせに、小癪だ」

 そのまま上空で狙い撃ちされている状態で、攻撃を貰うのは仕方が無いとして、どうするかと言えば。

「全く、これだから」

 腕を畳み、足を揃え、可能な限り被弾箇所を小さくしたうえで、相手の頭を狙ってただただ踏みつけに行く。足にも色々仕込みは出来るが、こういうのを想定して耐久力に振っている義足なので幾ら魔法だからと言ってすぐに破壊されるほどのものではない。とは言え、相手がぎりぎりまでこっちに攻撃していたおかげもあって、足裏である程度攻撃を受けながらそのまま頭を踏みつけて、踏み台にして距離を取る事が結構簡単だったり。

「ぐえ!」
「耐久力のある魔法使いだ」

 最近こういうビルドが流行ってるのか。

「うーん、魔法使い相手の立ち回りがまだいまいちだ」

 軽く飛びながら足の具合を見つつ、体勢を立て直した相手が更に詠唱をしているのを確認。

「こういう時、自分の性格が嫌になるよなあ」

 今回の闘技場での参戦は自分の性能限界を試すものだから、すぐに倒しちゃ勿体ない。再戦はすぐできるけど初見の反応ってのは大事。

「ほらほら、撃たないと勝てないぞ」

 腰からいつものハンドガンを抜いて相手の足元に射撃して挑発。こういう事も出来るようになるまで結構掛かったけど、やはり出来るようになる時がゲームの一番楽しい所よな。

「あんまり舐めるんじゃねえぞ!」

 そう言うと共に、此方の進路をふさぐように左右に氷塊が立ち並び、一直線に相手と対峙。向こうは向こうでぎゅうっと指を合わせて溜めている。

「くたばれ、化物め!」
「こんなに美人なのに」

 ばちんと大きく指が鳴ると共に、雷光がこちらに走る。バチバチと嫌な音をさせながら飛んでくる魔法に対して両手を構えて一旦受け。ばちいっと大きく音が響くと共に、義手の中に入れてあった武器がダメになる感覚が伝わってくる。

「うっわ、まともに受けるもんじゃねえ」

 生身の胴体まではダメージ入ってないのであくまでも義手のダメージ換算って事みたいだ。

「ふーむ、魔法はこんな感じか」

 自分のやってることがあまりにもファンタジーとかけ離れてるせいで忘れがち。

「お返しは、こうだな」

 まともに受けて狼狽えた相手を見据え、ぐっと逆関節の足を溜めてから一気に解き放つ。前傾姿勢のまま、一歩ずつ踏み出すたびに加速し、距離を詰めた瞬間に思いきりぶん殴る。
 頬に拳がめり込む感触、相手のうめき声、全力疾走でオーバーヒートしたのか焼ける金属の匂い。

「……ああ、たまらない」

 ギザ歯をにんまりと、恍惚な顔を浮かべながらぶん殴った相手を見据える。

「もっとヤろう、まだまだいけるだろ?」

 新しい門出には物足りない。
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