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22章

577話 falseta

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 不敵に笑っている犬野郎を見ながら次の手を考える。どうもまだ何かを隠している感じがあるので注意したいのだが、何処まで通用するかが分からないのがポイント。だから、相手の隠し札を出し切らせてからこっちも残りのリソースをつぎ込んで叩き潰したい。

「その犬っ面を歪ませてやりたいわ」
「できるものなら」

 盾を持っていないが仕込みはあるだろうから、それを引き出すために更にハンドガンで追撃。数発直撃するが特に動じずに大きくため息と言うか息を吐いて何かを決めた顔で此方を見直してくる。

「やはり、貴女は素敵です。対人でも対モンスターでも私に此処までこのゲームで覚悟を決めさせるとは」
「照れるから銃弾をやろう」

 遮るようにまた一発。盾は持っていないし強化した徹甲弾ならあいつの装甲を抜けるのは実証済みなので殺意の高いヘッドショット。を、持っていた剣で防がれパキンと良い音をさせて撃ち折る。予備はあるだろうけど攻勢は今よ。

「ほんっと、しぶとい!」

 そう言いながらまた一発ぶっ放すと共に金属音でも肉に当たる音でもない物が響き、咄嗟にもう何発か追撃を入れるが同じような音が鳴る。

「技術の進歩は貴女の専売特許ですが……こっちも負けていませんよ」

 持ち手しかない剣を軽く振るいびたっと構える。何かしら光の粒子がちらちらと見えているのを見てさっきの音の違う原因をさっと理解する。

「こっちが工学だってのに、そっちは光学って事かい」
「悪くないでしょう?」
「何だったらそれも欲しい」

 光学銃ってのもなかなかに悪くない。マガジンの様にするのか、オーバーヒート方式にするのかってのもあるし、反動も基本的に無いから使いやすさも抜群。金属の使う部分も少なくできるから軽量化も出来る。って実銃を使ったことも触ったこともないから想像の話ばっかりだけど、良い所は結構あると思う。

「だけど、浪漫が無いな」

 やっぱりカチャカチャ銃弾を弄る方が私は好きだ。

「勝つためには手段を選んでられないのでは?」

 接近からのサーベル。ビームなのかエネルギーなのか、色々名称はあるだろうけど光剣の刃を咄嗟に受けようとしハンドガンの銃剣で受け、ると共に焼ける鉄の匂いをさせるのでパッと手を離してバックステップ。じりじりと焼き斬れる音を聞きつつ目の前で真っ二つになる自分の銃を見ながら一息。折角装甲が抜ける徹甲弾入りだったのに、撃ち切ってもないのにもったいねえ。

「頭回してるに決まってるでしょーが」

 インベントリ使用は対人戦で不毛になるから制限されている。だからこそインベントリを使わないでイカサマのようにアイテム諸々使える特殊な職業をサブにしたってのにそれを悉く覆してくるのが目の前にいる犬野郎。そりゃ後発で、ゲームシステムをガンナーの火力でごり押してたのは確かだから、習熟的な部分では向こうの方が強いのは当たり前なんだけど。

「だとしても、やりにく過ぎる」

 遠距離攻撃にしっかり耐性を持って、接近戦も強い、そのうえで耐久力も高い。傍から見たら本当に理想的なステータスと装備、完璧ともいえる前衛職。火力の少なさは装備やスキルで補えるから弱点らしい弱点もない。ゲーム内でトッププレイヤーだって事もよくわかる。

「……めんどくせえ奴……」

 ぼつっと言いながら自分の手元の武器と相手の状況を考え、頭の中を拘束回転させる。






 はっきり言って相性が悪すぎる。一発当たるだけで高火力と固定ダメージが入ってくる上に、何を出してくるかが全く持って分からないせいで此方から突っ込むのが危なすぎる。見た感じで言えば装備を瞬時に出すのはアイテムや装備をフルに使えるアイテム師の様な職業のはず。装備を多く付ければ付ける程、自分のステータスが落ちるのは基本だし、色々な銃、手数を確保するのならばスキルで装備を引っ張ってくればいい。そのうえで何丁、どんな銃を持っているか分からないのも困り所。
 
「ガトリングにキャノン、貫通弾……新しい職かスキルを持ち込んではいるはず」

 振っていた光剣、ビームのサーベルやらライトなセーバーやらあれこれ名称があるが、光剣としておこう。中身は機械と言うわけではなくMP消費の魔法攻撃のようなものなので、意識的にONOFFをしなければならないのは面倒だが、切れ味と防御力を兼ね備えた強武器なのは間違いない。ひたすらMPを消費するので自分の大量にあるHPをMPに変換して維持しているのであまり長期戦をやられると負けも視野に入ってくる。

「時間をかける意味もないですし、決着付けましょうか」
「案外余裕ないな、お前」

 そういう所は目ざとい。って言うかそもそも頭の使い方がガチゲーマーだからこそ、分析力も高い。まだこっちの種は割れてないだろうが、時間の問題だろう。だからこそ、こっちから仕掛け、バカスカ撃たれる前に片を付ける。此処で出し惜しみしてやられるくらいなら全力で戦う方が良い。

「本当に、終わらせますよ!」

 バシバシと撃ち込んでくる銃弾を一瞬発動させた光剣で受け撃ち落してから接近して振り上げ気味に一閃。ブウンと鈍い音を響かせつつ、斬撃の軌跡を宙に描くが、しっかりとバックステップで避けられる。単純に回避が上手、中距離で戦うのがメインの職とは言え、やらざるを得ない接近戦をカバーできている万能感。距離を取れば豊富な重火器で、接近されても回避に集中して反撃射撃で距離を取って一息ついてから攻勢に。

「やりにくい事この上ない」

 手持ちの銃、まだマガジンを仕込んでいるのは確実だろうから、あれを無力化して一気にケリを付けたいところだが、そう簡単にやらせてくれるわけはない。此方の攻撃、向こうが回避と反撃、それを受けてまた接近。これを繰り返し、どちらかが折れるまでの勝負。どんなボスでも、どんなプレイヤーでもやったことのない勝負になるとは。

「そういえば、今までずっと私は言ってなかったことがあるんだけど、今ここで言うかな」

 此方の攻撃を避け、髪の毛を焦がしながらもにんまりとギザ歯を見せる笑いをしてからぽつりと。

「ガンナーとして、私は大したことないとか、強い奴はごろごろしてるなんて事を言ってたけど……全部撤回するわ」

 直後に後ろからの衝撃、軽く視界が明滅しながら横目でちらりと見れば、銃身の先が切れた銃から硝煙が上がっている。こういう事をするから油断ならない。

「やっぱり、私がガンナー最強だわ」

 先の短くなった銃が吸い寄せられるようにアカメの手元に行くと、パシッと小気味良い音と共にキャッチし、構え直す。

「折角あれこれ準備してきたんだから、全部使うまで倒れないでくれよ」

 そう言いながらスカートを捲ると、ストッキングにマウントしてあるマガジンを取りだしてリロードしている。本気でゲームをしているのは変わりないが、正真正銘覚悟を決めたと言う事だろう。たかがゲームにと言われればそうだが……本気で遊ぶってのはこういう事なのだろう。

「その余裕な笑みを浮かべなくさせてあげますよ」

 出し惜しみしてる余裕はないのはこっちもだ。
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