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21章

573話 モグラパニック

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 ボスが弱いってのは考えられないのでかなり慎重に立ち回りはしているのだが、4倍速は聞いてねえぞ。1歩進むと4歩、と言うか4マス?とにかくえらい勢いで離れていって、大体20マス分くらい先に行くとワープして別の所から真っすぐ自分の所に突っ込んでくる。とは言え、そこまでやばい相手って訳ではなく、対処方法さえわかればそこまで苦戦する相手じゃない……なんて事を考えていた時期がありました。

「相手の攻撃をやり過ごしてから、後ろに回って素早く銃撃しなきゃならんのに4倍速はやり過ぎだろ!」

 一瞬で離れていくせいで近距離系の銃器は全く持って使えないし、距離が離れたら変な所にすっとんでいくから命中的な不安も出てくる。何だろう、このちゃんと倒すのが難しいボスって感動すら覚える。大体が理不尽と言うか、本当に倒せるのか?ってボスばっかりいたから、ちゃんとした対応さえ出来ればちゃんと倒せるボスのはず。ローグライク系のゲームって理不尽なボスはあんまりいない……訳でもないな、十分めんどくさいやつ多いわ。

「まあ、雑魚はいないからゆっくりじっくり相手して倒せれば良いか?」
 
 マジでこれで雑魚も沸いてきたらストレス溜まりまくってた気がする。一緒にいてもいいシチュエーションもあるけど、これは雑魚と一緒にしちゃいけないパターンのボスか?。何だったら弱い方ではあるよな。3倍速3回攻撃透過してくる雑魚の方がよっぽど強そうな感じがあるし。

「どっちにしろ最後の最後までしんどいのは勘弁してもらいたいか……」

 ふいーっと一息ついて葉巻でもつけたい所だけど、マップと敵の位置関係を把握するのに大変だからそんな事は出来ない。そもそも持ってきてないし、持ち込めないし。とにかくやる事は出てきたのを叩いて、攻撃を避けて、また叩いてを繰り返す。

「……あ、そうか、モグラたたきって事ね」

 何で今になってこんな事を思いついたのやら。って言うか、そういうイベントなのか。

「偉い苦労して、やってきた割に、なんともまあ古典的な」

 そんな事を言っていれば目の前をバカでかいモグラがしゃかしゃかと通過していく。4倍速だからあまり下手に歩くと轢かれるので牛歩戦術にはなっているが、確実性は高い。全く、何時間もかけてこんな戦い方になるとは思ってなかったよ。

「とか余裕ぶっこいてたらさらに倍速で動いたりしてなあ」

 こういう悪い予感ばっかり当たるのはゲーマーの性かな。








 
「やっぱり何かしらのスキルが必要か?」
「ぽいのは出来るんですけど、大型になりがちですね」

 原理は分かっている。今時ネットで探せばどういうものかが出てくるので、それを使って組み立てたり製造するのが当たり前……なんだが、それでも限界がある。あれこれ試行錯誤はしているがうまく成功した試しがない。出来たとしてもかなり大型化して使い物にならないので、そこから小型をしていくのだが、どうしても頭打ちになる地点がある。

「誰かがキーになるスキルとかそれっぽいものを持ってるって話も聞かんからな……」
「バイパーさん、やっぱりもうちょっと情報クラン辺りに協力してみたら」
「それもしているんだけど……やっぱり足で稼ぐしかないか」

 ガンナーのギルドでは工学品もちらほらと置いてあるので作れるはずではある。のだが、プレイヤーが構造なりを調べて、オプションパーツを作ると大体失敗する。成功しても形になっているだけ、と言った有様だ。そういうわけで、前提条件が足りないのが続いている。こういうのは作り続けてスキルが発現して……ってのがパターンではあるが、そういうこともなく時間と材料ばかり浪費している。

「一旦、もう少し簡単なオプションでってのはやり続けているし、やっぱりギルドの貢献度上げたりがセオリーなのか……」

 うーんと唸りながらクラン員との話し合いを終わり、自分の作業場に向かいドアを開ける。

「随分とお悩みのようで」

 作業場に戻り、椅子に座って一息付こうと思っていたら、見知った顔が椅子に座って葉巻を咥えながら何かしらの筒を回して遊んでいる。黒髪赤目のギザ歯、いつものように楽しそうにしてこっちを見るので、つられて口角を上げる。

「何の用だよ、ボス」
「このギルド、乗っ取ってやろうかなーって」
「んなことしなくても、あんたのいうとおり動くって」
「それも知ってる……から、あんたにプレゼント」

 手に持っていた筒を投げ渡してくるのでまじまじと見つめる。大きさとしては10cm)ほど、太さもそこまでなく、片方は透明、もう片方は刻印が入ってる。

「MP消費で付くタイプか……どれ」

 刻印の部分に手を当てて魔力というかMPを流し込むイメージをすると、透明な部分から光が漏れはじめ、むけていた方が明るくなる。

「ってただの懐中電灯じゃないか……これのどこがプレゼントなんだ」
「そのサイズ感で、結構明るいでしょ。ランタンやら松明やら、照明系の魔法があるってのにね」
「……いや、ちょっと待て……これ、どう作ってるんだ?」
「ねー、どう作ったと思う?」

 こういうことを言うってこと、クランをよこせって言ったこと、詰まるところ。

「工学系スキル?」
「せいかーい。めっちゃでかいモグラ叩きした甲斐があったわ」
「それと引き換えって、マジで言ってるのか……すげえわ、ボス」
「私はスキルを教える、あんた私のために動く、WinWinで二人とも幸せ、どう?」
「餌が美味すぎるよ、全く……断る理由ないだろ」

 これも自分が得をするからって理由なんだろうけど、独占したほうが暫くは金回りにはっからないはずだし、文化や技術は1段階上にいける。スキルを使うことでより小型化、ガンナーとしてもっと楽になるって考えだろう。ついでに言えば、自分であれこれやるのがめんどいから丸投げってことでもあるんだろう。

「じゃあ、何作る?」
「好きなのでいいわよ。適当にいい感じにこなれてきたらまた何か貰いにくるから」

 そういうと銃を1丁取り出してこっちに見せながら機嫌よく鼻歌を歌う。いつぞやにロテアとか言うのに渡した銃だが、なぜ……ってことは。

「変装してまで秘密裏に探してたって、よっぽど探したのか」
「しばらくアカメじゃなく過ごしたのも面白かったけどねー……んじゃ、教えようか」
「他のところには?
「ポンコツピンクと偽物のところにも行って話はしたかな……まあ詳しいのはここでだけど」
「正解すぎるわ、マジで」

 相変わらず餌の巻き方が上手い。
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