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20章

538話 新しい物

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 イエティの軍団をぼこって目的地にたどり着けば、さくっと採掘して終わり。今回に関しては暇をしていた犬野郎を引っ張りこんで私の用事に付き合わせた形になるので、特に寄り道することもなくさっさとクランハウスに帰還。RPGのゲームでありがちだよな、道中くっそ長いのに帰り道は秒って。余韻って大事だよなあ。

「あー、終わった終わった……結構骨の折れる場所だったわ」
「環境の方がきつい所でしたね、種族的に防寒はそこまででしたが」
「うっわ、便利、ドラゴニアンって爬虫類扱いだから防寒しっかりしないとダメだってのに」

 なんか地味に種族部分で寒い暑いの体感温度に差があるっぽい。犬野郎の方が防寒対策がちょっと甘いのも毛皮の有無なんだろうな、短毛種のくせに。とりあえず着込んでいたファーの付いたコートを脱いでアイテムボックスに放り込んでいつものように煙草を咥える。完全にゲーム内のバットステータスにヘビースモーカーってあるだろうな。

「いつもそれ咥えてますけど、美味しいんですか」
「ん-……いや、口寂しいってだけかな」

 煙草を咥えた状態で上下に揺らしながら、ちょっと考える。最初はまあ、カッコいいからなんて事を考えてたけど、とりあえず咥えて吹かしているだけと言えば、その通りだな。イベントも暫くなく、細かいアプデなりなんなりをするらしいから、スキル2の枠でも育ててゆっくり過ごすってのもありだな。

「こういうのもありますよ?」

 今後の事を考えつつ防寒装備を仕舞い込んでいると、犬野郎から差し出される。棒付きのキャンディ。ちゅぱるあれ、丸型のロリポップ。しかも指に3本くらい持ってるし、案外味のバリエーションはあるっぽい。

「この世界の料理スキル、めちゃめちゃレベル上がってない?」
「ゲーム自体のシミュレーター精度が高いので、ゲーム内で試作した料理を現実で再現しやすいらしいですよ。だから逆も再現でもやれるようで、今じゃモンスターと戦うより料理人同士で戦うほうが多いとか」

 半透明の茶色の飴を1本受け取り、包みを剥がしてぱくっと。コーラ味まで再現してるって事は、コーラ自体が存在しているのか。そりゃまあ、あれだけ酒を造れるんだから再現くらい行けるのか。って言うか料理対決見てみたいな。

「さて、と……次のクエストで此処でのクランでの仕事も終わりだな」

 ころころと口の中で飴玉を転がしながら、器用に棒の部分を上下に揺らしたりして楽しむ。あ、これ地味にステータス上がってる。
 
「そうですね、南エリアにいる海竜のボスを倒すので終わりですが……明日の20時予定です」
「攻略方法と攻撃パターンを見つけるまで待機して最後の最後でぶっぱなす、だっけか……前にも結構やってたわ」
「フルメンバーで行くので、出番は後ですから、のんびり待機で」
「そうさせてもらうわ」

 もう2本持っていた分も受け取りつつ、犬野郎のクランハウスの大広間で一服する。対面に座った犬野郎が目の前でポットに手からお湯を入れ、慣れた手つきでカップ等も温めて、しっかりとした手順で紅茶を入れていく。

「このゲーム、結構嗜好品も凝ってるよなあ……」

 あっという間に紅茶を作り終わり、私と自分用のカップを並べて、ついでにお茶菓子も出してくれる。至れり尽くせりってこういう事よな。とりあえず口にしているロリポップはバリバリとギザ歯で噛み砕いて食べ終わる。

「アイテムのデータ数が膨大ですからね、開発的は長期運用を考えているのでは?」
「AIの作りも丁寧だしなあ……味やらなんやらわかるのは脳味噌大丈夫か?って思うけど」

 それに無茶して一旦ログアウトさせられたりしたし、安全面が心配ってのは付きまとうが……一応その辺の厳しい基準はパスしてるんだよな。VRMMOって言うかフルダイブ系の端末周りはえぐいぐらいに審査も厳しいわ、安全面のパス項目も多いって言うがユーザーにはその厳しさはわからんわな。

「事故死したのは聞きませんね、フルダイブ技術の確立初期には戻ってこれなくなる、みたいなことはあったみたいですが」
「そらあ、こえーわ」
 
 紅茶を啜りつつ、お茶菓子を放り込んでいると、まばらにクランハウスに戻ってくるメンバーを見る。
 流石にイベント戦の面子はいないが、それでもかなり強い位置にいることはよくわかる。人見知り以外強いメタリカ。殴り支援のガヘリスくらいしか良く知らないとはいえ、数日このクランでとっかえひっかえ色んな奴と組んでいると、それぞれの強さがある。
 犬野郎にあこがれたタンクは、まー、硬いし立ち回りも良いしで、優秀な壁役、しっかりゲームを理解しているからヘイトの取り方も上手い。タンクがしっかりしている分、火力を出せる職の前衛、後衛はまー、堅実的。バトルジャンキーやら刀狂と私の所にもいたけど、あの連中とは全然反対にいる連中が多い。もー、そりゃお手本のようなステータスとスキル構成。面白みがないと言えば面白みがないんだけど、確実と言えば確実。

「あの連中、どこから集めてきたん?」
「うちは面接官がしっかりしていますからね」
「自分では見ないんだ」
「しっかり分業制なので」

 入ってくる奴を片っ端から見て判断してたらこんな規模にはなってないし、妥当なところ。うちはずっと少数精鋭だし、やっぱこういう所が大手と弱小の違いよね。

「それにしてもここ数日、中々面白かったわ」
「それは僥倖」
「あんまり触れてない所を触れたってのは良い経験だったわ」

 ギミック盛りまくりのダンジョンとボス戦や、ウェーブクリア型のモンスターハウスだけの場所だったりと、知らないことは多かった。そこ以外は素材ばっかり集めていたのはいつも通り。

「私もここが片付いたら……結構誘われてるクランあるから、そっちに行きつつ試作でもするかな」
「色々見ると面白いですよ、さて……今日はそろそろログアウトですかね」
「ういうい、じゃーなー」

 話していればすっかりなくなった紅茶とお茶菓子の皿をてきぱきと片付け、さっさとログアウトする犬野郎を見送ってから、同じようにログアウトする。





 そして次の日の20時。

「散々っぱら攻撃して、攻撃パターン見た後はさくっと倒すだけって」

 いつもながらの対ボス最強兵器のFWSを構えたままで、沈んで消えていく海竜を眺めながら舐め終わったロリポップの棒を取り、少しプラプラとさせる。

「飽きさせないゲームだ事」

 にぃっとギザ歯を見せる笑みを浮かべながらもう一度口に咥えて、上下に揺らす。
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