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19章

496話 うぬぼれ

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「さーて、どこに行ったかな」

 トラッカーで足跡や移動した痕跡を探りながらマップを進む。本当だったらほかの連中と合流した方がいいんだろうけど、十兵衛がすぐに引いたのを考えると、私に戦力を結構割り振ってぶつけてくると踏んでいる。ヴェンガンズの戦力を考えたら……さっき戦った十兵衛、近接戦闘スペシャリストのマイカ、狂戦士のバイオレット、戦斧使いのニーナ、ガンスミスのバイパーこうやって考えたら近接戦に強いのしかおらんな。後衛としては私、ももえ、バイパー、ちょっと特殊なところで菖蒲か。

「菖蒲はそこまで戦闘をするタイプじゃないし、ももえは別クラン……十兵衛が一旦引いてこっちにくるとしたら、新規加入した連中をぶつけるのはリスキーだから、私の立ち回りを考えたら先に潰しにくる……」

 いや、違う、私メインで考えてるのがそもそも間違っている。
 色々な手を使ってきたけど、そういう搦手を使う前提で……いや、接近戦のエキスパートが多いクランで敢えて十兵衛だけぶつけて、そのあとに改めて私にぶつけてくるか?違うな、先に十兵衛をぶつけて私を叩こうとして、反撃を貰って危険だと判断、後回しにして他のクラン員を叩きにいったとしたら?

『ヤス!状況は!』
『自分と松田、アリスでどうにか耐えてるっす、エルアル姉妹と関口の爺様は分断されてわからんっす』
『やられたのはいるか?』
『今の所いないっす』

 そうなるとやっぱり私を最初に潰しに掛ったか。
 試合開始すぐに派手な戦闘を起こして分断しつつ、職業、スキル、能力が大体分かっているクランマスターでもある私を落としにかかる……こんなにも理にかなっている動きをしてくるとは、ニーナの奴、だいぶ本気出してるな。

「……そうなると、こんなことしている場合じゃないな」

 ゆったりではないが、そこまで急いでいない足取りから小走りに痕跡を追い始める。あんまり本気で走って不意打ちを貰ったら、耐久の低い私じゃ耐えられない。警戒しつつ、不意打ちを貰わないようにしながらなおかつ急いで合流する。なんていうかもうちょっと器用にできりゃ……。

「やべっ……」

 ハイライトされた足跡ばかりに気を取られて、何かを踏み抜いた。
 咄嗟に足を引き、バックステップをかました瞬間、踏み抜いた所が大きく爆発……いや、爆発っていうか火柱が上がる。

「魔法トラップを使ってくる奴がいる?」

 しかもバックステップ踏んだところにもさらに横から細く多いツララが飛んでくる。咄嗟にハンドガンを抜いて魔法を受けるが、裂傷が体中に走る。なるほど、こういう仕込みをしたうえで十兵衛の奴と合流、自分はトラップを敷いたから後は倒されてもオーケーって事か?

「近接系に見せかけての魔法系って事だったか……クソ、こりゃ厄介だぞ」

 ツララによって先が吹っ飛ばされた煙草をぷっと吐き捨て、状態を確認した後、トラッカーを解除。多分だけど、このトラッカーを使って追跡してくるってのも想定済みなんだろう。先に仕掛けておけばトラッカーの痕跡表示も時間経過で消えていくから、足跡ばっかりみている私には非常に効果的。

「一番の敵は身内って事か」

 新しい煙草を咥え、ため息を大きく吐き出してから火を付け一服。やっぱ私が集めた面子だけあって私の事をよーくわかってる。






「ククッ、中々やる」
「こんな強い相手がまだいるなんて知らんかったわー」

 そこら中に斬撃の痕を残し、ぜいぜいと荒い息を関口とバイオレットの二人が揃って整える。
 試合開始すぐ、「こいつと戦う」という感じにぶつかり、分断されてここにやってきたのだが、これまた二人揃ってずっと戦い続けている。

「しかし、こちらとて易々とやられるわけはいかんのでな」
「それはこっちも同じことよ」

 しっかり正面から見据えて、関口が居合の構えを深くし、同じようにバイオレットもびゅんびゅんと刀を振るいながらタイミングを計る。さほど長くなく、短くもない時間の静寂、口火を切ったのはバイオレットの投げナイフから。
 高速で飛んでくるナイフを鞘に納めたまま、柄の部分で弾いてタイミングと距離を測りながら、突っ込んでいくバイオレットを見据える関口。
 その関口から数歩の所、じゃららっと音を鳴らしながらバイオレットが蛇腹剣を振るい相手の攻撃間合いからの一撃、鞘の部分を防御に回させ、手が止まったところで素早く蛇腹剣を引き、手放して、別の刀を一気に抜く。

「面白い事ばかりする」
「光栄だね」
 
 蛇腹剣の巻きつかれた鞘を手放し、引かれた勢いを使い、刀を抜いて振ってきた攻撃を受ける。金属同士ぶつかる音を大きく響かせてからぎちぎちと音を響かせつつ鍔迫り合いに。

「そろそろ決着付けるかね」
「それには賛成」

 強く力を入れてまた距離を離した後、すぐに打ち合い、剣戟を繰り広げながら火花を散らす。実力は互角、後は根競べに勝つかどうか。お互い楽しそうに、何度も、何度も何度も打ち合い続け、刀がぶつかるたびにその勢いと強さが増し、この戦闘で一番大きくぶつかると、距離を軽く取ってからにんまりと笑い合う。これが最後だとお互い分かっているかのような状況から、二人とも一気に駆け出して、すれ違いざまに一撃。
 
「決着は今度じゃな」
「あー、もー、むかつくー」

 お互い静止した状態からポリゴン状に消失していき、決着。






「ああ、もうダメです!終わりですよ!」
「はいはい、まだ大丈夫っす、回復入れるっす」

 アリスを矢面に出し攻撃を受けてもらっている間に、松田が後ろで回復薬を作っては回復を入れて、ヤスが状況を確認。ついでに横と後ろもヤスが警戒中。分断されたとはいえ、アリスはその場で攻撃を耐えて、微動だにしないおかげまだやりやすい。

「本当なら動きつつ、分断されたエルアル姉妹と姉御、関口の爺様を回収したい所っす」
「それは無理ですな!アリス殿の足だと逃げるのは厳しいですぞ!」
「そうっすね、少しずつ下がりながらいけるっす?」

 後ろでぎゃーぎゃーと騒がれ、前からは攻撃を貰っているのだが、かなり涼しい顔で頷いて、攻撃の反動を貰って後ろに下がっているように見せながら移動を開始。

「手の内晒している姉御がやばいっすかねー……あとは戦闘狂の関口の爺様は悪い癖がでなければ……」
「エルアル殿はどうですかな!」
「足止めしている相手次第っす、集結しないとやばいのは向こうもこっちも同じっす」
「つまり拮抗状態って事ですな!あんまり無茶すぎるとアリス殿が限界になりますぞ!」
「分かってるっす!」

 魔法に斬撃、銃弾も飛んでくるのを防いでいるアリスを見てヤスが少し考える。こっちからも多少なりと反撃はしているが、どうも手ごたえを感じていない。

「貼り付けにして回り込まれるとやばいっす」
「それじゃあ前は拙者とアリス殿で抑えるので、ヤス殿が行くべきでは!」
「まあ、そうっすね……あんまり戦闘向きじゃないっすけど……」

 はーっと大きくため息を吐き出してヤスが低姿勢のまま、後ろの方へと。

「それにしたって攻撃の手が厳しいですなあ!」

 
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