上 下
526 / 622
19章

493話 古巣の強敵

しおりを挟む
 アリスの奴を引っ込めてひたすら上で戦っていたおかげもあって接近戦のコツが掴めたのは良かった。とはいえ、だいぶ手の内を晒したのは事実。ひたすら撃ちまくったり、アイテムを使いまくったツケは……ま、いつものことか。
 とりあえず本選に出れることは確定したのだが、予選してすぐに本選って流れじゃなく、翌日に持ち越し。しかもそのうえで、準決勝やら決勝に関してはさらに後でって流れ。なんともまあ、長期的なイベントスケジュール……って考えたけど、そりゃ人数集めてあれこれやるなら土日に重ねたほうが良いわな。今までのイベントスケジュールってかなり詰まってたし、かなりハイペースだったのを考えれば妥当な判断。

「と、行っても来週にはケリがつくっぽいけど」

 自宅の庭先で一服しながらインフォメーションを眺めてからため息一つ。さっき予選が終わっていつもの街並みに戻ってきたので、とりあえず一息ついてから戻ってどうするかを考えている。ヤスの奴はやることがあるから後で合流するらしい。他の連中もそれぞれの用事を済ませに行った。それにしたってバタついてるな。もうちょっとゆっくりしても……って思ったけど、次の試合が明日だからそんなこともできんか。

「アイテム消費無しってのはいい制度なんだけどなぁ……1日そこらで準備って難しいわ」

 手元で銃弾を転がしながら、ヤスの帰りを待つ。正直なところ、あいつの謀略だったりマネージャーとしての腕前に信用しきっているのが悪い方向に行かなければいいんだが……あいつ土壇場で裏切ったりしないだろうな。
 
「他の連中はそれぞれ呼ばれないと来ないし、傭兵部隊みたいだ」

 エルアル姉妹はさっさとどこかにいって、イベント時間にならないと来ないというし、松田もアリスも誘ったのに断って何かをやりいく、関口の爺も試したいことがあるっていって闘技場にとんぼ返り……何ともまあ、自由すぎる。

「私もこんな事しないであれこれやった方がいいんだろうけど、流石に疲れたしなあ」

 ぷはーっと紫煙を吐き出しながらだらだらタイム。レベル上げしたりアイテム作ったりすればいいんだろうけど、疲れることした後ってぼうっとゲームだけつけてだらだらやるのも常よ。勝ちたいくせにこういう所がダメなんだよな。

「戻ったっす」
「おーう」

 戻ってきたヤスに手をぷらぷらと振りつつ、フィーラからグラスを受け取って酒を注がせる。

「で、次は何やってたんだ」
「クランの注目度を調べてきたっす、どのくらいマークがきつくなるのか気になったっす」
「結果は」
「……大した事ないってのが正直なところっすね、派手に動いた姉御に関しては『参加している』ってくらいの情報っす」
「心配しすぎるほどじゃないってか」
「幸いなことにそういう事っす」

 メニューからいろいろ記載しておいたメモ帳を開いてあれこれ整理しながら会話を続けていく。私が思っていた以上にマークがきつくならないっていう点では良かった。ついでに言えば無名のクランだからそこまで気にするほどでもないってのがでかい。

「元々私の名前は知られてるから良いとして、クランは新興したてだからか……油断してくれりゃいいんだが」
「どうすっかねー……大手のクランは情報クランの連中も食い込んで水面下でバチバチっす」
「それも踏まえて私の所にきたか」

 琥珀色の酒、醸造所で散々作ってきたウイスキーをグラスで回し、うっすらと色をグラスにつけるのを見てから一気に煽る。

「うちの諜報員はおしゃべりだからちょっと不安だが」
「腕は悪くないじゃないっすか」
「20万ドルでスナイパーを雇ってきたら信用してもいいぞ」

 そんな無茶は無理っすと言いながら目の前にいるガンナーより強い奴はいないとも言ってくる。うんうん、そういうちゃんとした評価をしてくるところが好きなんだ。さて、マークがきつくないのがわかったわけだから結構自由に動ける。

「問題は相手のほうっす、まだ発表されてないからどういう相手がくるかわからなので手の打ちようがないっす」
「突破してそうな大手クランはわかってるだろ?」
「そこはもちろんっす」

 おかわりを貰いながら設置しておいた黒板にクラン名をどんどんと書いていく。
 いつも通りごちゃまぜでぶっこんでバトロワしているわけじゃなかったのでやっぱ大きいところは必然的に残りやすい……と、思ったのだがそうでもなかった。

「優勝候補は結構いるっす、いわゆるレベルも高くて名前の売れてるクランを筆頭に、それぞれ職に特化した人数が多い所、少数ながら有名人のいるクラン……姉御の元クラン、とかっす」

 あれよあれよと書き込まれていくのを見ながらグラスをゆっくりと回し傾ける。他人に興味がなさすぎるせいで、クラン名を書き込まれても殆どがわからん。私のかかわりがあったやつのはわかるけど、それ以外はまったくもってわからん。滅茶苦茶わかってるような顔で余裕もある感じで酒と煙草と女……はいないな、フィーラはちょっと違う、どっちにしろ全部当たるわけじゃないからそこまで気にする必要もないだろう。

「ま、当たった時に考えよう、警戒はするけど」
「楽観的っす……うちは人数も少ないからちゃんと作戦を立てたほうがいいと思うっす」
「逆よ、逆、人数が少ないからしっかり作戦組めるんだし、ここでじたばたしてもしゃーないって」
「その感じでやばいことになっても仕方ないっすよ?」
「その時は、その時」

 そんな事を言いながら、ヤスに新しいグラスを持ってこさせる。







『さあ、始まりました、クラン対抗トーナメント。実況はわたくし、ゲームWiki非公式運営のメアリーと、解説はGM様にお越しいただいております』
『はい、よろしくお願いします』
『予選から1日経ってからの本選ですが、珍しく長期的なスケジュールになっていますね』
『そうですね、サービス開始から3か月ほどですが初速も悪くなく、ユーザーも増えている傾向になったののも要因になります』
『数日で終わってたら勿体ないという事ですね』
『こんな事ができるんだ、という宣伝にもなっていますので、是非イベントの動画を見てほしいです』
『リアルタイム、アーカイブは動画サイトに、またゲーム内でも見れますのでどうぞお願いいたします』

『さて、第1回戦ですが、少人数対少人数のぶつかり合いになるそうですね』
『無差別級としては、珍しい組み合わせでもありますから、どうなるか楽しみです』
『そうですね、そしていつまでも待たせても仕方ありません、早速行きましょう……クラン対抗トーナメント無差別級第1回戦!ヴェンガンズカンパニーVSと、仲間たち!』

「嫌な予感っていうと当たるって信じる?」
「信じるっす」

しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

言霊付与術師は、VRMMOでほのぼのライフを送りたい

工藤 流優空
SF
社畜?社会人4年目に突入する紗蘭は、合計10連勤達成中のある日、VRMMOの世界にダイブする。 ゲームの世界でくらいは、ほのぼのライフをエンジョイしたいと願った彼女。 女神様の前でステータス決定している最中に 「言霊の力が活かせるジョブがいい」 とお願いした。すると彼女には「言霊エンチャンター」という謎のジョブが!? 彼女の行く末は、夢見たほのぼのライフか、それとも……。 これは、現代とVRMMOの世界を行き来するとある社畜?の物語。 (当分、毎日21時10分更新予定。基本ほのぼの日常しかありません。ダラダラ日常が過ぎていく、そんな感じの小説がお好きな方にぜひ。戦闘その他血沸き肉躍るファンタジーお求めの方にはおそらく合わないかも)

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

処理中です...