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19章

487話 存在が強すぎる

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「ボス、まだ覚えれない?」
「なんか単純に近接戦の対処が上手になってる気がするなぁ」

 うつ伏せに倒れている後ろのほうからそんな声が聞こえる。
 上手になってるって言われても散々ボコられて未だに勝ちを拾えていないのに何を褒めているのやら。何事も結果が出ていなきゃ全部意味ないんだっての。

「今ので151回目だぞ、死んだの」
「いやいや、最初よりも動き良くなってるよ」
「スキルじゃなくて実力が上がってるってのも変な話だよねぇ」

 リアルの体が痛いわけじゃないし、HPが0になったら目の前が真っ暗になるだけだが、精神的にはあんまりよろしくないんだけど?負け続けるのってやっぱりいい気分ではないし、上手いこと連携して戦ってくる相手に対して上手に動けない自分にもイラっとする。どっちかっていうと後者のほうが問題だな。

「っていうかここまでやってんだから、そろそろガンカタ覚えてほしいわ」
「メインとサブ次第で行動回数が変わるから何ともかなあ……私の時は……うん……」
「ももえちゃんの時は相当苦労してたっけかなぁ……だからアカメちゃんも、って思ったけど結構やってるはずだよねぇ」

 専門的にやってきているわけじゃないから、そこまで回数をこなせている気はしない。なんだったら接近戦は刀を使ってきたから銃での接近戦は防御だけ。ガンカタってのを考えると攻撃と防御の両立がされていないとカウントされていない感じもする。
 そもそもこのスキルの発現ってのも、どういう条件か、必要行動回数はどれくらいか、そういうの含めて完全にマスクデータになっているわけだから、でかい袋の中に手突っ込んで当たりを引くまで何度もくじを引いているのがわかりやすいか。

「それにしたって、私をボコっているだけの配信ってどうなんだ」
「んー、結構見られてるね、修行シーンって漫画でも大事だし」

 もの好きな連中もいるもんだな。

「一応ガンカタは覚えれてないけど、耐久系のスキルはちょこちょこ手に入っているから、こっちはこっちで考えるか……っと、そろそろいい時間だろ?」
「あたしは大丈夫だからもうちょっと付き合うよぉ」
「私はクランの作戦会議かな、これでも結構大手なんだよねー」
 
 それにしたってここからマイカと一対一ってのはそれはそれできついんだけど。なんてことを考えていたら、ももえの奴が呼ばれたようで、闘技場を離脱していく。こういう時は案外ドライだな、あいつ。

「そういえばクランの連中は元気か?」

 くるくると銃を回して構え直して臨戦態勢に入ったマイカに尋ねる。

「元気だよぉ、何人か新人も入ったし、クランハウスも拡張したりアカメちゃんの時よりも勢力拡大中」
「それはそれで悔しいっていうか、複雑な感情が出るわ」

 そこそこのため息を吐き出してから突っ込んでくるマイカの蹴りを銃で受けて、すぐさま接射。これも散々っぱらやってきたけど、当たるってタイミングで撃ってるのに避けてくるんだからむかつくわ。っていうか目の前で射撃した瞬間に避けるもんだからどういう根性してんだ。

「やっぱニーナちゃんがアカメちゃんに預かったって意識があるからねぇ、いつ戻ってくるのぉ?」
「今回のイベントで上手いこといったら、だな」

 蹴りを防御しつつ、射撃攻撃を織り交ぜ暫く打ち合いを続けてから威力の高い蹴り技をもらって後ずさる。速度が乗らないとダメージが出ないとは言ったけど、連続攻撃で加速してダメージを上げてくるのは流石にずるいよな。51回死んだ時に気が付いたが。

「それにしてもそんなに一番になりたいのぉ?」
「そりゃそうよ、ガンナーだから、○○だから、そういうの抜きにな」

 新しいマガジンを入れて呼吸を整えてから構えて突っ込む。ガンカタを使うにあたってガンナーでよく使う後ろに下がって戦うってのはあまり良くない。とにかく前に出て攻めるのが大事だというので、20回くらいやられた時に教えてもらった。
 
「何だかんだでアカメちゃんも戦闘好きだしぃ、センスもあるから闘技場1位みたいなのしてると思ったのになぁ」
「あんたが一番私の知り合いとして古参なんだから、私のこと良く知ってるでしょ」

 射撃しながら前進、射撃に対してぎりぎりを避けて肉薄してくるマイカに対して2本目の銃で受け、反撃、距離が空いたら積極的に詰めて体をぶつけながら常に肉薄する。蹴り一発ではそこまでダメージは出ないけど、連続攻撃に移ってくるからとにかく攻撃の手を防御に回してこっちが攻め立てないと近接戦で負ける。アクティブスキルって殆どないわけだし、パッシブ型の辛いところがよく出るわ。

「アカメちゃんとやるのは下手な相手より楽しいから好きだよぉ?」
「それはいつも聞いてるってのっ!」

 攻撃の手が甘くすり抜けてきた攻撃が右頬をとらえてくると、そのまま天地がひっくり返る。
 クソ、どこまでやったらスキルを覚えてこいつらに勝てるんだよ。






 そもそもなんだけど、ボスのスキル覚えるための特訓方法、あれかなり頭のおかしいやり方だからね?

「別に普通じゃないの?」
「接近戦の行動回数を重ねるために近接戦闘をこなすのが間違っている……どういうことだ」

 普通は同じくらいの実力の人と拮抗するように戦って回数を重ねていくのがセオリーでしょ?それをガン無視して、ガンカタ使いの私と『悪魔のウサギ』を相手するような人だから。

「悪魔のウサギってどういうあだ名だよ」
「ソロかつ蹴り技だけで高レベルボスを倒しまくってるプレイヤー、近接最強なんて言われてる」
「こっわ」

 近接戦が得意じゃなくて、捌ければ問題ないって状態のボスが、いきなり接近戦メインで戦っている時点でおかしいんだよね。150回だっけ?そのくらいやられてたから悔しがっているけど、2:1で戦っているうえに、適正距離じゃない立ち回りであれだけ善戦してるのが不思議だもん。

「ポンコツピンクはボスにぞっこん」
「はよ付き合え」
「告白する度胸はないだろ」

 いやいやいやいや、ボスのあの感じ見たらわかるでしょ、恋人関係なんて絶対無理だし、自分の芯を死んでもずらさない人よ、そういう関係になっても首輪で括られて尻ひっぱたかれるだけだもん。

「ああいうタイプに限ってめちゃくちゃ甘えさせてくれたりして」
「ポンコツピンクがいじめられてたら速攻でぶちぎれそう」
「はよ付き合え」

 えー、そんな気しないわー……絶対こき使われる亭主関白じゃん。

「ボスが旦那、確定事項」
「男前のボスが旦那、ポンコツピンクが嫁か」

 どっちにしろだよ、ボスに釣り合うかどうかって難しすぎるでしょ?あの人の隣に立つのは難しいって……なんだけど、今回の特訓に誘われた時は興奮したねー、あのボスが頭下げて教えてくれって、我が目を疑ったよ。

「嫁に旦那が頭を下げたからか」
「勝手に夫婦仲にしてるのこっわ、引くわ」

 まー、どっちにしろ不釣り合いなのはそーだよ、強いとか弱いとかそういうのを抜きにしてあの人の考えてるところまで行くの難しいもん。

「嫁は旦那を立てる」

 そろそろ嫁旦那いじりやめーや。
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