最強と言われてたのに蓋を開けたら超難度不遇職

鎌霧

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19章

485話 自分より強い奴

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「マジで言ってる?」
「マジで言ってるな」

 煙草を咥えて紫煙を辺りに燻らせながら目の前にいるアホ面かましたポンコツピンクを見据える。

「私は良いけど……配信していい?」
「それはダメだな」
「ちぇー……じゃあ後で行く」
「待ってるぞ」

 こういう時に顔を知っているってのは強い。まあ、いきなりポンコツピンクのクランハウスに行って、大きく椅子に座って待つってのも中々だったけど、頭下げるとは思ってなかっただろうな。私の知ってる限り、私の欲しいスキルを使っているのがこいつだけって理由なのだが、頭を下げる事にプライド無くて良かったわ。

「とりあえず先に行くか」

 そういう訳でさくっと闘技場に向かって置く。何か最近此処にばっかり行ってる気がするけど、仕方がないね。待ち合わせするのに便利だし、マップに出てモンスターを倒すって目的でもないので都合のいい所。
 そういえば何でこんな事になっているかって言うと、私の今のクラン連中と話し合った結果……ではなく、戦って分かった私の弱点を克服するためにここに来ている。やる事はやって、不安要素は一つでも潰しておきたいってのが大きい理由でもある。と、言っても理由が集めた連中の制御が出来ない時やカバーするのに現状の能力じゃきついってのが悲しい所。



 
 暫くして、闘技場の待合室でポンコツピンクを待っていると、1人引き連れてようやく到着する。煙草に火でもつけようかと思っていたところだったので、ちょうどいい。

「ボスってやっぱり目的の為なら手段は問わないし、マジだよね?」
「そりゃそうだが」
「だから、最適な特訓仲間連れてきた」

 確かにまあ、今目の前にいるポンコツピンクが連れてきた奴は、私も知っている限り、このゲームにおける近接戦最強プレイヤーって言える奴だな。

「やほぉ」

 色々髪の毛やら装備を弄ったのか、どんどん兎になっているバトルジャンキーの奴がへらへらした顔でこっちを見てくる。最初は茶髪でうさ耳も無かったはずなのに、今じゃ銀髪うさ耳赤眼でごついレガース、更に凶悪な造形になっているブーツが目立つようになっている。

「でもさあボス、イベントで敵同士になるのによく私のとこきたね」
「イベントでは敵だけど、今はそうじゃないだろ?それに私の知ってる限り、まともにガンカタ使えてるのはお前だけだ」

 そんな事をいってやると、にやけて「いやぁ?」なんて否定してくる。私の所にいた癖に、勿論って言わないのは説教案件だけどな。

「で、何でマイカも連れてきたんだ」
「スキルの取得方法って知ってるよね?」
「条件となる行動を規定回数以上行う、だったな」
「そうだよぉ、モンスター、プレイヤー相手問わずねぇ」

 つまるところ、1人で特訓するよりも2人相手にして行動回数を増やして取得速度を速めた方が効率が良いって訳だ。モンスター相手だとどうしてもやりにくいというか、取得が難しい物もあるから、狙って覚えるのならプレイヤー相手が良い。
 数値的な所で言えばモンスターの方が取得回数にボーナスが付いて、なおかつ経験値も貰えるメリットがあるのだが、回数を重ねにくいデメリットもある。プレイヤー相手なら、スキルを取得するだけなら一番楽ではあるが、取得回数にボーナスは付かないし経験値も入らないからスキルだけ大量に覚えてSPが足りないって事になる。
 ま、どっちにしろ後者の使い方は狙ってスキルを覚える邪道なやり方ではある。端的に言えばゲーム寿命を削る方法を取る訳で、あまり多用するのはお勧めしない。

「協力してくれるのは嬉しいが、回数重ねる前にやられそうだな」

 ポンコツピンクの配信までは見てないが、流れてくる噂やあのバイオレットとマイカが連れまわして無事だったんだから、かなりの実力者にはなってるだろう。特にガンナーで接近戦メインってなると頭一つは飛びぬけてるはず。

「ボスと戦うのなんて久々だし、良い装備揃えてきたよ」
「そうそう、中々アカメちゃん戦ってくれなかったもんねぇ」

 すっかりバトルジャンキーの顔だよ、全く……。

「ももえ、配信してる方が強いってあるか?」
「そりゃー、見られてたら魅せプレイもするけど」
「じゃあ配信していいぞ、こっちは顔隠すから」

 ぽちぽちっと例のアーマースキンを付けたら顔は隠れる。汎用スキンってすげえ便利だな。髪色変えたり、サングラス掛けたりあれこれやってたのが懐かしい。デメリットは上から下まで固定の衣装って所が問題にはなるけど。

「じゃー、アカメちゃんやろぉー?」
「それじゃー、配信するね」

 てきぱきと準備をしていって個別の対戦ルームに。
 それにしてもこの闘技場すげえルール細かく弄れるのな。残機制、時間制、ハンデマッチを付けたり、でっかく乱闘が出来そうだ。今まで散々使ってきたけど、ルールまで細かく気にしたことは無かったからなあ……ちなみに今回のルーム設定、残機無限のHPが0になったらその場で復活して戦いまくれる、所謂プラクティスモードのようなもの。こういうのってやたらと稼げる「穴」を潰すのが運営なんだけど、どうせレベルを上げないと使い物にならないから放置してるんだろうな。優しいのか厳しいのかよく分からん。

「それで、ガンカタはどう覚えるんだ」
「格闘と銃撃を織り交ぜて近接戦闘をこなして相手にダメージを与える……の、はず」
「その『はず』の一言であれと戦うんだぞ」

 ぴっと指差した方向、ストレッチをしているマイカが頭に?マークを浮かべてこっちを見てくる。本気でぞっとするんだけど、あいつと戦うの。

「まー、とにかく、あれこれ言う前に動くのがボスでしょー?」

 隣同士で喋っている所へそれをカットインするように、じゃきっと愛用の銃をももえが引き抜くとこっちに向けて射撃。いつも通り無理な体勢を支えるために尻尾を使って姿勢維持をしつつの回避。

「メットに傷がついたろーが」
「油断大敵だから」
「言ったなてめえ」

 体勢を戻してこっちも同じように銃を抜いてコンパクトな構えで射撃反撃。を、しようとしたら、グリップ部分を下から蹴り上げられて銃口を上げられる。攻撃を貰ってすぐさま戻そうと動いた所、眼前にいきなり銃口を付きつけられるのでまた体を捻り回避を入れる。

「回避と攻撃を織り交ぜないと駄目だよ、ボス!」

 回避を入れた後のちょっとした硬直で接近され、格闘攻撃を貰いながらじりじりと下がる。銃口を向けられればどうしても射線から体をずらすって固定概念って言うか常識が頭にこびりついているおかげで、回避後が後手に回っている。
 
「それに、私だけ注意してたら、すっ飛んでくるよ?」

 ももえの銃口を弾き、見様見真似と記憶を掘り起こして銃口を向け直して射撃する瞬間、ももえの後ろから走って来る影1つ。舌打ちを入れて、もう一丁銃を抜いてももえの方に牽制を入れながら走ってくる奴に向けての射撃。
 
「日に日に化物じみてきてるな!」

 射撃に合わせてジグザグ走行で回避接近するので、咄嗟にももえを蹴り飛ばして進路妨害を試みながら一息入れてまた銃を構える。なんて、事をやっていれば接近されるのは当たり前。蹴り飛ばしたももえがマイカの足場になるように背中を貸す。

「とりあえず、これからスパルタしようねぇー」

 相変わらず呑気な感じに喋っているが威圧感が半端ない。
 飛び上がったマイカがそのまま飛び蹴りをかまし、バックステップでそれを避けると共に舞い上がる土煙。このまま煙に塗れて、って事をしたらトラッカー持ちのももえがいるから、またバックステップ数回繰り出して土煙から抜けて体勢を整えよう……とした瞬間、思い切り腹に蹴りを貰う。

「あたしとしても、強いボスが好きだしぃ?」

 そのまま蹴りを振りぬかれると、勢いよく闘技場の壁に叩きつけられ壁が陥没する。
 蹴りと叩きつけの威力で視界が明滅し、意識が飛びかける。実際に意識が飛ぶって言うか、HPが0になると目の前が真っ暗になるので、まあ死にかけてるって事には変わりないか。

「うっわ、視界ちかつく……!」
「まだ数分もやってないよ?」
「一回死んだ方が回復の手間省けるよぉ」

 クソ、むちゃくちゃ言いやがってこいつらは。

「そもそも近接戦強すぎるんだよ、お前らは」

 ふらつきながら立ち上がり、自分のこめかみに銃口を当てて引き金を絞る。
 直後に視界が真っ暗になりながら自分が倒れるのが分かる。
 
「自殺するってこういう事なんかね」

 割れたバイザーが修復されて、元通りになりながら立ち上がる。
 確かにまだまだこれからだな。
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