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17章

439話 急な申し出

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「私もまだまだだなあ」

 半壊と言うか辛うじて胴体と頭部が残っている機体から這い出て一息。
 この間の3馬鹿相手に大立ち回りをしたおかげもあってやたらと対戦の持ち込みをされるようになった。まだゲーム初めて2日目の初心者に何をやって来てんだって思うけど、それでもまあ、向こうじゃ出来ない面白い戦闘が出来ているのも確かだ。
 って言うか血気盛んなアホが多すぎるんだよ。軽くPvEでもしにいくかなーと思ったらカロリーの高い対人戦を仕掛けられることが多い。初狩り、3馬鹿、その後は双子機、合体機、変形機、超軽量機……まー、あれこれと戦う羽目になった。今相手したのは超重量大型機、6脚でがっしゃんがっしゃん動いてくるのは良いとして、弾幕が厚すぎるわ、装甲がっちがちだわ、一発食らったら装甲抜いてくるわで苦戦しまくったのはついさっき。まあそれでも倒したんですけど。

「ただ、もうバリエーションはないべ」

 結構色んな相手を叩きのめしてきたけど、これ以上は想像がつかない。バリエーション豊かな相手には困らないのは良い事なんだけど、困らないからこそ飽きてくるってのもある。後は単純に、今の所大したことない連中ばかりなのもでかい。こういうのは一時的な話題性で相手しているのがでかいだろうな。T2Wにおけるランカーだったり戦闘力の高い連中は「誰だそいつ?」って感じだろうしね。

「最低あと1日、最高で5日はここでやらなきゃいけないしなあ」

 メンテがさっさと開けたらT2Wに戻りたくなってきた、あまり長い事離れるとそのゲームのやる気と言うかモチベーションが下がっていくからなるべく早い事戻りたい。けど、それは開発の頑張り次第だから何とも言えん。焦って実装してバグや不具合出て結局メンテなんて事もあるから、ここはしっかりやってほしい。早くやりたいけど、運営も人間だからしゃーないね。

 そんな事を考えていたらまた対戦の申し込みがあるので承認。何だかんだで私も結構戦闘民族だよなあ。珍しく場所と時間が指定されているので、そっちに向かう……前に、機体の修復と武器の回収か。中破していても最低限動けるのはなんだろう、運営側の優しさかな。とりあえず超重量機体の頭からソードを引き抜いて肩にマウントしてから指定場所に向かう。

 



「対戦を受けていただき感謝いたす」
「あー、はいはい……有象無象よりは楽しませてくれるんでしょ」

 すっかり機体も直して、いつも通りと言うかT2Wの時と一緒のシールド、ソード、ライフルの基本編成で呼んできた相手と対峙する。ずっと戦闘ばっかりやってる気がするけど、何もないよりはこうして遊んでいる方が楽しいわ。
 
 そんな事よりも相手の機体を見てどう立ち回るかの方が問題だな。
 何て言うか、武士って感じの装甲と刀が腰にあり、それ以外は目立った特徴が無い。
 この手のゲームでああいった極化している機体って、その極化している物に対してしっかり方向が向いているから余計な部分をそぎ落としているはず。つまるところ今まで倒していた有象無象の連中ってのはそれとなくまとめてはいるが、ある程度は無難な所に落ち着いていたって事になる。

「では、宜しくお願いする」
「こういうやつに限って厄介なのよね」

 腰に提げていた刀に手を掛けて構えているのを見てから、こっちもシールドを構えていつもの様にライフルの銃身をマウントしてじっと見据え、そしてどっちも動かずに相手の出方を伺う。よくある先に動いた方がどうこうってこういう事なんだろうけど、それはどっちも必殺の距離だったり、ダメージが甚大に出るわけで。
 そもそも機体を乗っているから一撃でやられるのは滅多にないし、距離も空いてる、こっちの方が先手を取った方が強いのは明確。こっちからすぐにライフルで射撃。銃声……と言うよりも、そもそもでかい銃なので砲撃のような音をさせて一発。轟くような風切り音を発して向こうの侍機に向かっていき着弾、の寸前に金属が弾かれる音が響く。

「……マジか」

 腰に差していた刀が日光を反射……なんて一般的な刀の感じではなく、日光の「に」の字も返さない程の黒いカーボンブレード……まあ、日本刀よね、それが銃弾を斬り伏せている。確かにそこそこでかい銃弾ではあるけど、機体の運動性能だけであんな芸当が出来るのか?

「参る」

 わざわざこっちに聞こえるようにオープン回線を使って声を掛けてくると共に、一気にブーストダッシュでこっちに突っ込んでくる。そのまま棒立ちで攻撃を受ける訳もないので後ろに下がりながらライフルを撃ち迎撃、なのだが接近してくる間に自身の獲物であっさりと弾を弾き、叩き落としてくる。なんだよその防御策は。いや、慣れてたら出来るのか。こういう事があるからビーム兵器が主流になってるとか?雑魚が射撃弾いてくるわけじゃないからまだいいが。

「何それ、基本なの?」
「某を倒せたら教えよう」
 
 射撃牽制も虚しく接近を許してしまうので、そのまま攻撃を振ってくる。当たり前だけどすぐさま防御としてシールドで斬撃を受けるが、一発でお釈迦にされる。そして斬り返しの一撃でライフルもマップ達にされてご臨終。機体の反応速度が速過ぎてこっちが追いついてこない。基本的に選んだパーツで機体スペックが決まるはずなのにどういう事なんだ?
 そんなあれこれを考えているとぶんぶんと刀を振ってくるのでこっちもこっちでソードを抜いて対応。金属音と火花を散らしながら打ち合いをし、相手の動きをじっくりと観察……する余裕がない。
 
「上級者様が初心者狩りか」
「主はそんなものではなかろう?」

 強く打ち合い、こっちのソードが弾かれたのに合わせて一旦バックブーストし、距離を取りながらメニューを開いて次の装備を。

「させん」

 見た目以上に足の速い相手のせいで装備の呼出すらままならない。
 ブーストを掛け、フェイントを織り交ぜて回避している中、さらに加速した相手が一気に刀で突き攻撃。これは、避けきれん。

「やっぱ特化している奴は強い」

 剣先が音速を超えていそうな勢いで迫る中、咄嗟に右掌を出し、腕を真っすぐにしてその攻撃を受ける。うっわ、これT2Wで食らったら超痛いだろうな。嫌な音を右腕から聞きつつ、勢いが殺せなかった相手がそのまま突き入れ、手のひらから肘部分までを貫通。咄嗟に脇を締めると共に前ブーストをかけて機体同士をぶつけた上で相手の刀を動かせない様に。
 
「すぐ泥臭くなるんだから」

 まだ動く右手で刀を握って固定、フリーになっている左で相手の顔面を殴る。殴るって言うか叩くだけなのだが、とにかくダメージが入るとかどうとかじゃなく、叩き殴って泥臭い戦い方をしていく。なんかいっつもこれだな。

 流石にこっちが殴ってるので向こうも空いた手でこっちの頭部を殴ってくる。こうなったらどっちが先に根を上げるかの勝負。お互いにがしゃがしゃと殴り合いし続け、先に嫌がったのは向こう。ぱっと刀を離してこっちを蹴り飛ばしてくるので、バックブーストで間合いを取る。そしてすぐさま貫かれた右腕に刺さっている刀を握り、腕のパージと共に鞘の様になっている右腕から引き抜いて左1本で構えて前ブースト。

「そろそろ、くたばれ!」
「まだ終わらんよ!」

 何故かもたついていた侍機に向けて横に一気に刀を振るって一撃。大きく甲高い金属音が響くと共に刀の刀身がへし折れて宙を舞う。一瞬何が起こったのかさっぱりわからず思考が停止したが、どうやら私のソードで侍機の刀を折っただけ。いや、どうやってやったんだ?いくら頑丈だからってこの刀、そんなに難しい装備だったか?
 刀を振り切って完全にがら空きになった右側から、思い切りソードを叩きつけられ、装甲がひしゃげ、めきめきと食い込むと共に、警告音が鳴り響く。反撃と思い、折れた刀を振るうが、体勢も悪くリーチも威力も失った武器で出来る事なんてたかが知れている。追撃の2振り目を食らえば下半身が死に、ごしゃっと音を立てて倒れ込んで、決着。

「あー、くそ……初めて負けたわ」
「かなりギリギリだったが、いい試合であった」

 機体で器用にお辞儀して、自分の刀を回収すると、近くで正座をして私の事を待ちはじめる。
 なんか言いたげだし、とりあえず話くらいは聞いてみるか。こっちもコックピットから出て、地上に着地。そうすると向こうも降りてこっちに来るので、手頃な所に座ってため息一つ。

「いきなりで申し訳ないが、某とチームを組んでいただけないか」
「は?」

 開口一番いきなりなんじゃい。

「実は明日、イベントの一環でチーム戦のトーナメントがあるのだが、それに出るために力を貸していただけないか」
「私じゃなくても良さそうだと思うけど?」
「他のプレイヤーはお主より反応も立ち回りも悪いのが多かったのでな、受けてくれないか」
「……ん-……まあ、いいけど、何個か条件があるわ」

 ぴっと指を見せながら一つずつ条件を言っていく。

「まず私のやってるメインゲームが再開したらそっちを優先するのが一つ、二つ目はさっきの戦闘の疑問点を答える事、最後の条件はやるからには勝つ事、守れる?」
「あい、わかった」
「で、戦力はどれくらいあるわけ?」
「うむ、某とお主だけだ!」

 幸先悪いな、おい。
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