上 下
448 / 622
16章

418話 ただでは転ばない

しおりを挟む
「やべ、動けねえ……」

 仰向けに倒れたまま、起きている状況を見える範囲で見つつ、音で判断していく。動けないからこそ標的にされないので戦況を良く把握できる。私が吹っ飛ばしてやった左腕の方……だと思うのだが、音が集中している方があるので、そっちに回り込んで集中砲火でもかましているか?
 
「あー、つまらん」

 HPはからっから、右半身は頭から足の先まで動かせないし、撃った反動でMPも無いし、久々にこんな感じになっている。ボロボロになりながらも動けていた時は多かったし、何だったらやられるときは一発で死んでいたから半殺しにされてほったらかしは何気に初めての経験だ。

「左半身は動かせるけど」

 ゆっくりずりずりと動けばタワーシールドまでは行けるだろうけど、それでやられたら元も子も無い。MPポーションでも飲めれば銃操作を使って自分の体を引っ張る何て事も出来そうだが、自分でポーション出すのすらきつい。こうなったら黙って後はボスを倒されるのを待つだけか。

 それにしても毎回毎回いつも良い所で上手くいかない事が多すぎる。今回だって余計なイレギュラーで被弾してこんな状態になってるし、詰めが甘い。そういえばあのアホ連中は左側で見なかったから必死こいて右に回ったっぽいな。これある意味でMPKになるから通報してやろうか。

「……いや、まだ終わってないわ」

 こっちには見向きもしてこないので、辛うじて動く左腕でインベントリを開く。それにしても動くだけで目の前で警告表示と警告音がずーっと表示され鳴り響くの鬱陶しいな。とにかくインベントリを開いてどうにかこうにかポーションを取り出して回復を入れる。
 が、右半身に関しては特に治るわけではなく、ただただHPを回復するだけで状態異常扱いになっている、不能の右腕右足右目は相変わらずぴくりとも反応しない。前にこういう戦い方をした時は、犬野郎の弟がいたから回復出来ていたが、回復役のいない職だと状態異常に弱い、こういう右半身が不能になる状態異常ってのも珍しいとは思うが。

 とりあえずHPポーションとMPポーションを狙われない程度のゆっくりした動きで使い回復。吹っ飛んでいるだけあって、最大HPが半分ほど減少するおまけつき。動かせない上にHPも減らされてるし、これイベント中に治す事難しいだろう。
 
「さて、と……これでいいか」

 そのまま這いずってどうにかタワーシールドに隠れてから持たれるように体勢を戻す。

『戦況は』
『大分装甲は削ってる、ちらちらコアが見えるな』
『アカメさんの方に援護はいりますか!』
『他のパーティも結構やられていますし、僕らが生き残ってるのもぎりぎりですよ』
『私もタワーシールド作るかな』
『なるほど、まあ頑張ろうって事か……サンダースはこっちに来なくていいぞ』

 視界の悪い中、戦況を聞いてどう立ち回るかを考える。
 装甲が剥がれてるって事は、私がやって、こうして起き上がるまでに他のパーティやうちの連中が頑張って小型ゴーレムを剥がしていったって事だな。
 
「左だけ使って立ったりなんだりするのきついな、こりゃ」

 片手でインベントリからPウサ銃を取り出し、足で固定したうえでナイフを取り外し、少しでも扱いやすくしたうえで、タワーシールドの上部にPウサ銃を置いて一息。この動作をするだけでやたらと苦労する。前にリアルで右手を怪我して動かせなくなった時があったが、その時を思い出す。
 
「こうしたら、行けるか」

 Pウサ銃のストックを右肩に押し付けつつ左手を引き金に掛ける。
 他のプレイヤーが頑張ってるおかげで、序盤の時よりも小型ゴーレムが減っているのでビーム攻撃の弾幕が薄くなっているのと、私よりも前にいるプレイヤーのおかげでこっちにあまり攻撃が向かなくなているのは僥倖、体勢を決めてから一旦狙ってしゃがんでまた一息。

「確か新スキルの派生があったから……ああ、これこれ」

 今まであまり使わないから取っていないからほったらかしにしていた物が1つ。
 三度撃ちのレベルは最大で、さらにそこから進化出来たのだが特にやっていなかった四度撃ち、五度撃ちまでSPをつぎ込んでやる。2個分スキルを上げるだけでSP消費22だよ、折角レベルを上げて37まで貯めてたってのに。


スキル名:五度撃ち レベル:5(MAX)
詳細:【アクティブ】【MP消費10】
  :発動すると即時に最大5連射する。任意で4発までの連射も可
備考:レベル上昇により連射間隔の短縮
  :フルオート、前装銃の場合使用不可、進化終了


 これでPウサ銃の装填数を一度で叩き込める。
 まあ、その代わりにMPかなり消費するから燃費は相変わらず悪い。銃操作を活用するためにInt上げておいて良かった。何ていうかぱっと思いついた時にSPなりアイテムや装備を使う癖はそのうち直さないと駄目そうだ。
 
「ふー……そろそろケリ付けよう」

 さっきと同じ狙い方をし、ゆっくりと息を吐き出してから、銃操作で右半身が動かない分をカバーし、細かい調整は左手で行う。
 それにしてもまったく、ビームは飛ばすわ、右半身は使えなくするわ、ずっと面倒なボスだわ。

「昔も言ったなあ、こんな事」

 ビーム攻撃が強かろうが、右半身が使えなかろうが、ろくに動けもしないが。

「この程度で私が諦める理由には何一つならん」

 ゆっくりと息を吐き出した後、深く静かになおかつ大きく息を吸って止める。
 そして引き金を絞りながらスキルを発動。
 Pウサ銃に装填されていた5発の弾が連続して銃声を響かせたうえ、ボスゴーレムへと飛んでいき。胴体部分、ちらちらと見えていたコアゴーレムの横、小型の更に奥にいる中型ゴーレムを消し飛ばす。
 勿論反撃の一手でビームが飛んでくるので慌てて後ろに倒れ込み、シールドの裏に隠れようにするがろくに体を動けない状況じゃ動作が遅れるので被弾、ビーム攻撃の余波でそのまま仰向けに倒れる。

「……諦める理由にはならんが、諦めなきゃならない原因にはなりそうだ」

 仰向けのまま、吹っ飛ばされたPウサ銃を銃操作で手元に引き寄せ、杖の様にして体を起こす。
 なに、簡単な事だ、あいつが倒れるまで、回復して撃って反撃すればいいだけの事。半分になったHPでも1発で全部吹っ飛ばないのはしっかり防具が機能しているわけだし、死ななきゃ安い。

「倒した後のことは……ま、大丈夫だろ」

 ありったけ、ではないが結構気張らんとダメだな。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

処理中です...