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15章

371話 他人から見た時の弱点

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「ついにここも俺だけになったな」

 クランハウスの地下、射撃場で新しい銃の試射をしながらぽつりとそんな事を零す。まあ、もともとうちのクランってボスが集めた必要な人材を集中させて、自分がよりよくゲームを出来るようにした……ってのが建前と言うか表向きの話ではある。実際は自分に敵対した相手を叩き潰す為に作った急造のクランだって言うんだから、真実ってのは時に恐ろしい。
 だからこそいつ空中分解するか分からん……なーんて言ってたんだが、クランハウスの拡張始めてからは自室ほったらかしにしてこっちに居座ってあれこれやってた……なんて思ったからちょっと聞きにボスの自宅に行こうとしたら本人以外入出禁止になっていた。

「あそこまで徹底的にやってるとなると、暫くはダメか」

 ボスって相当頑固者だし、自分が間違っているって確かな事が分からない限りは「私が全て正しい」っていう位にはエゴが強い。もうちょっと良い言い方をしたら、芯が太い。今回の事はその芯が揺らいだか折れたか、自分の確信が揺らいだせいだろう。

「バイパーさん、銃みてー」
「お前はお前で自由だし」

 ニーナの奴がクランマスターになったからももえの出禁も解除されたのだが、出禁が解除された理由を聞いたらこの世の終わりのような顔をしていた。自分から入って、自分から出て、ようやく出禁が解除されたらその憧れた人物がいなくなってるって言うんだから、そうなるか。

「自分のクランはどうしたんだ……折角独立したのに」
「私だってオフの場所が欲しいからさあ?ボスとは連絡取れてる?」
「完全にシャットアウトだな、研究開発中のアタッチメント関係でメッセージを送ったが無反応、自宅も行けないし、何個か開発してた計画が足止めされてる」
「ちなみにどんなの開発していたの?」
「今頓挫してるのはマズル関係、特殊弾頭、増設系だな」

 メニューを開いてメモ帳を確認。この辺りの開発主導はボスだったのもあって手を付けていない。あくまでもボスの手伝いでどういうコンセプトで開発しているのか分からないのが理由になる。
 
「にしても、ボス居なくなるの急だよねえ、うちのクランでも結構騒がれたし」
「原因の一端はお前だけどな」
「ん-、まあ……そうなんだけど、何となーくボスが弱くなったって気もしたんだよねえ」

 いや、弱くなったわけじゃない、周りが強くなる速度に付いていけてなくなったんだ。MMOだから自分がゲームをしている間も他人が強くなっているのは当たり前だし、自分に合わせて周りが強くなるなんてのは自分で選んで戦えるモンスターくらいなもんだ。ただそれに気が付いたのが、今回のイベントで負けたからって話だ。とは言え、弱点が多いのも原因ではあるんだが。

「……絶対に外に漏らさないって約束できるか?」
「こう見えてもその辺の分別はつきますぅー」
「分かった、ちょっとまて」

 射撃場の入口に一応立ち入り禁止と書いた看板を置いてから射撃場の少し奥の所に。

「周りが強くなってるのもあったが、ボスの強さが頭打ちになったのは分かるか?」
「そうかなあ、相変わらずの立ち回りと高火力だから脅威だったけど」
「そこなんだ、立ち回りの仕方が確立されているし、当てれば倒せる高火力……以外の強みは何かって話だ」

 一応こういう手が無いぞと言うのは本人にも言っていたのだが、あまり聞いてもらえなかった覚えがある。分かっていると返事を貰ったが、結果的にこうなっているのであればあまり耳に入ってなかったわけか。

「えー……なんだろ……低耐久?」
「それも一つの正解だが、見て気が付いたのはまず手数の少なさ、そして切れる手札が少ないことだ」
「スモークとフラッシュ食らったし、普通に単発式から複数装填出来る銃が増えたけど?」
「スモークはトラッカーで有利を作る為、フラッシュに関しては立て直しの為だろ?どうしても3発撃ったら確実に装填を入れないといけないし、もう一つ致命的な弱点もある」
「弱点って?」
「まず装填スキルが前提だし、大型種の銃は取り回しの難がある」

 いくら補正があるからってどうしても他の銃に比べてもたついている所がある。マガジンで素早く装填して反撃と言うのが出来ないので、リロードを頻度を考えるとやはり数発撃って装填は弱点にもなる。多分種類と言うか発見されてないだけでマガジン式の大型銃、鳥の名前が付いた奴辺りもあるはず。

「お前みたいに2丁拳銃で片手で牽制しつつリロードってのもリボルバーだと難しいし、何より大型銃で2丁は見た事がない」
「うーん、まあ確かにボスってランペイジくらいしか連射武器無かったし、切り替え切り替えでやってたね」
「鳳仙花と新銃、ランペイジしか持ってなかったのも慢心ではある」
「あの新銃、一発えげつない程ダメージ出たし、それもあったんじゃないかな」
「武器を絞るって事は悪くないが、前者2本の手数の少なさよ」

 ボス自体、あまり銃をあれこれガンベルトに提げるとステータスが下がるうえに、投物も合わせて使い始めてのもあってインベントリからの取り出し、使用にしてたんだったかな……投げ物か、多分そこもあるんだろう。

「手数の少なさを補う投擲物は悪い選択肢じゃないんだけどな、火力の無さもある」
「……バイパーさんさあ、すっごいボスの事見てるよね」

 そりゃあ何だかんだでこのゲームの方向性が決まったのがボスのおかげになるわけだし、どういう事をしてるかや、装備やスキルも見るに決まってるだろうに。

「で、まあ、弱いというか、総合的に見て高レベル帯に片足突っ込んでたのに、色々と弱い所が露呈したって事だ」
「ふーむ……そんな感じはなかったけどなあ」
「スキルも暫く増えてないって言っていたし、ここが限界だったんだろう」
「パッシブ型の限界かあ……じゃあどうなったら強くなれると思う?」

 そんな事を言われるので少しばかり腕を組んで考えてみる。装備に関しては本人の使い所の話なので、変えるとしたらスキル構成、ただアクティブ系のスキルを充実させてもMP管理の関係があるので良くはないだろう。

「今揃っているスキルの限界であって、ボスの感じから言えばさらにパッシブスキルを揃えていくのが正道だな」
「それじゃあ邪道は?」
「邪道って訳じゃないが、魔法や忍術を伸ばして疑似的に両手で攻撃が出来るようになると一味違った感じにはなるな」

 今の所考えられるのはこんな所か。どういう感じに強くなるかと言うのは本人次第だから、あくまで予想でしかない。どういう選択をするのか、どういう形で戻ってくるのかはその時にならないと分からない。

「そうかあ、ちなみにこの話ってのは」
「勿論ここだけの話にしとけ、配信でぽろっと言ってボスに知られてみろ、それこそ絶縁だぞ」
「流石の私でも言う訳ないって……私だってボスラブだしねー」
「一番ラブなのはうちの三姉妹なんだろうけどな」

 ちらっと射撃場の入口を見れば、サイオンが入口に立って、封鎖をしている。ああいう所に気が回ってくると恐ろしいな、あのNPC。

「ちぇー、嫉妬しちゃう」
「人を好きになる事あるのかね、うちのボスは」
「多分?」

 よっぽどじゃなければ人に興味のない奴だからなあ、うちのボスって。
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