上 下
396 / 622
14章

368話 覚悟

しおりを挟む
『お疲れさまでした
 現時刻を持って勢力争いイベントを終了いたします。
 今回新しく実装されたマップは数日後に行う大型アップデートの際に正式実装となります。
 また、イベントの順位等含めては別途メールでお知らせいたします』

 ログインするとそんな音声と言うか、インフォメーションが目の前に表示され、ぴこんとメールの着信音が響く。順位としては、自分の陣営が3位、自分自身の貢献度が陣営内で3514位。全体で言えば圏外。結構積極的に動いていたはずなんだが、それでも上の方はだいぶ精力的に動いていたっぽい。まあ、上がいるってのは当たり前の話なので、そこまで悔しい訳じゃない……なんて事はなく、死ぬほど悔しい。
 私自身に火が付いたのが遅かったせいもあるし、どうやら複数パーティを組んで効率を上げるのが正解だったらしい。そんな事は知らずに爺と忍者を連れまわして暴れまわっただけに終わる。が、結局のところ一人で張り切って空回りした結果だ。かなり付き合わせてしまい、その上で勝てもしない、負け続けた結果がこうなってくると本当に情けない。イベントが全部終わり、メールを確認したうえで悪かったと一言謝罪のメールを一つ。

「情けない、最弱職云々の前に、自分の甘さが腹立つ」

 あまりにも不甲斐ない結果と立ち回りの仕方、全てにおいて甘ったれてる。これくらいの武器があればどうにかなるだろうって慢心、大したレベリングもスキルも揃えてこなかったのも固定ダメージの上り幅が大きくなって、そこまで使わなかったってのがでかい。レベリングはまあいいとして、アクティブスキルの層が薄すぎて、攻撃の手が激しいと追いつかない。
 今まで装備だけ見直していれば問題ないと思っていたが、対人にある程度本腰を入れるとなると、そこの調整もしなきゃならない。ついでに言えば投擲と打剣の為だけに取得した忍者も上手い事噛み合っていないので、ここもどうにかしないといけない。つまりやるべきことがかなりあったというのに、その殆どを大丈夫だと気楽に考えていたって事だ。何やってんだ私。
 とりあえず大きくため息を吐いてから、イベント結果を噛みしめてからその日はログアウト……の前に、クラン員に集合メールを送っておく。



 イベント後、何でもない普通の日に珍しくクラン員と三姉妹をクランハウスの2Fに集めて、大体全員が定位置に座っている。当たり前だがポンコツの奴はもう部外者扱いなので呼んでいない。まあ、ここは当たり前だよね。

「前回のイベントはどうだった?」

 これまたいつもの椅子に座って各々の戦績を聞いてみる。純生産、半生産の菖蒲とニーナに関してはそこまで順位が高い訳じゃなかったが、他の連中は総合順位が表示される圏内にいる。相変わらずマイカの奴がぶっちぎりで上位と言うのは分かっていたが他の連中もそこそこ良い所にいるとは。何だったら陣営自体の順位が低くても個人順位が高いのもいるくらいだ。
 で、1人1人の順位を聞いたうえで大きくため息を吐きだすと共に、例の件を思い出して覚悟を決める。

「今回のイベント、私だけ成績が振るわなかったわ」
「結構派手に動いてた割にか」
「あたしみたいに前線出張って、ずーっと戦闘って訳にもいかんし、しょうがないんじゃないのぉ?」

 特に成績の良かった2人に言われるとまた、それなりにイラっとする。成績順で言えば、マイカ、十兵衛、バイオレット、バイパー、ニーナ、菖蒲、私の順になる。とは言えバイパーとニーナの差がかなりある上に、菖蒲と私の差がどれくらいかもわからん。ただ一つ言えるのは生産キャラ以下の動きしか出来なかったという事だ。

「こう、まあ色々聞いたわけだけど、1つ決めた事があってさ……ちょっとまあ、それの話含めて集まって貰ったんだわ」
「全員が上位陣になるように共通装備でも作るのか?」
「大方クラン資金の使い道って所だろ、大したこと無い話なら俺様は行くぞ」
「……座って聞け」

 いつもよりもトーンが低いのを感じたのか、ニーナの奴が黙り、素直に言う事を聞く。流石にいつもの雰囲気ではないのを感じたのか、他のクラン員も私の様子を見ながら同じように黙って話を聞き始める。

「イベントの結果やお前らと戦ってよくわかった事があってだな、私が弱いって事だ」

 何をどう考えて弱いと言ってるんだ、なんて感じで見られるがそのまま言葉を続けていく。

「バイオレットと十兵衛には結果的に勝ててはいるが、ほぼ初見殺し。バイパー、ニーナ、マイカには手も出なくて、ボコボコにされたのは事実だろ」

 確かに、と納得したような声が漏れる中、ぽつぽつと今回のイベントに関しての事実を並べていく。
 
「ここまでクランが大きくなったのはお前らのおかげだし、それぞれ私の思い通りに動いてくれてたのも確かってのは知ってるけど」

 手を組んで、親指だけをくるくると回しながら言葉を探す。
 こういうのは苦手なんだよ。

「それを踏まえた上で、私が弱くなったってのもお前らが原因になってるんだよ」

 少しだけ伏目がちに、なおかつ誰とも視線を合わせないようにしながらぽつりぽつりと。

「だからこそ、私が私であるために、クランを解散しようと思う」
「……本気だったか」
「ええー、クランハウスとか三姉妹どうするのー?」
「そうだ、この場所もそうだし施設含めてかなりの額を入れてるだろ、何も解散ってのも」
「あたしはアカメちゃんが決めたなら何も反論しないけど」
「深刻そうな顔してそんな事考えてたのかてめえ」
「自分の作業が無くなるのは寂しいですが」

 各々反応を返しつつ、ぎゃあぎゃあと騒ぐので、少しばかりそれに耳を傾けるが、私の決心が揺らぐことが無いと知っているはずだ。だからと言う訳ではないが、それぞれで文句を私にぶつけ続ける。

「まあ、まて……アカメがこうなったら折れないのは全員知ってるだろう」

 十兵衛がとりあえず年の功なのか、長い付き合いなのか分からないが周りを押さえて、その場を仕切り始める。

「解散はダメだ、儂の酒造所もあるし、菖蒲やバイパー、ニーナの生産拠点にもなってるだろう?」
「知ってる」
「……だから、出ていくのはアカメだけだ、クランの譲渡をしてお前だけ抜ければいい」
「いや、うちの管理を全部やる奴なんていないでしょ」

 何て事を言えば我先にと手を上げて一言「俺様がやる」とニーナが私の前にやってくる。

「こんな快適なクランハウスがあんのに俺様が手放すわけ無いだろ、てめえがやってる時よりも儲けてやるから、権利譲渡しろ」
「だったらあたしも欲しいなあ、帰る場所って必要だしぃ」
「俺もやれるな」
「おねーさんのいない間くらいならいいかなー」
「自分も問題ないですね」
「……だとよ、どうする、アカメ」

 全員手を上げてくるってのは予想してなかったな。

「私たちはクランマスター、アカメ様の決定に従いますので」
「右に同じく」
「左に同じく」

 三姉妹の方も私の少し後ろで決定に従いますと文句も言わずに私の決定待ちになっている。
 そんな状態からクランハウスのメニュー画面を出して、クランの権限、つまるところクランマスターの地位をニーナに渡す。

「てめえが帰ってくる場所がないくらいにでかい所にしてやるから覚悟しろよ」
「楽しみにしてるよ」

 そう言いながら、いつもの様に口角を上げた笑い顔を見せながらクランの脱退をする。
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

魔界建築家 井原 ”はじまお外伝”

どたぬき
ファンタジー
 ある日乗っていた飛行機が事故にあり、死んだはずの井原は名もない世界に神によって召喚された。現代を生きていた井原は、そこで神に”ダンジョンマスター”になって欲しいと懇願された。自身も建物を建てたい思いもあり、二つ返事で頷いた…。そんなダンジョンマスターの”はじまお”本編とは全くテイストの違う”普通のダンジョンマスター物”です。タグは書いていくうちに足していきます。  なろうさんに、これの本編である”はじまりのまおう”があります。そちらも一緒にご覧ください。こちらもあちらも、一日一話を目標に書いています。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

処理中です...