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14章

358話 超えられるとき

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 金属がかち合う音、車のスリップ音、爆発音、剣戟音、様々な派手な音をあたりにさせながら久しぶりに出会ったちんちくりんのメインタンク2号とやり合う。明らかに最後に戦った時よりも強くなっているし、立ち回りの仕方が格段に上手くなっている……あれ、これ結構やばいきがするなあ。

『ちょっとマジになるからそっちはそっちでやって』
『そんなにあのちみっこは強いのかえ』
『強いのは最初から知ってんのよ』

 びーびー泣き言漏らしながらも付いてくるし、無茶ぶりにも応えてくれるし、初めて会った時から弱いなんてこれっぽっちも思ってなかったっての。

『こっちはこっちでねちねち戦うとしよう』
『戦闘力高いの私だけじゃねえの』
『嫌がらせ行為は得意だぞ』

 撃ち合いをしている奥で煙上がっていたり、毒霧のようなやけに毒々しい色の何かが吹き出たりしている。あっちはあっちで大変そうだな。

「よそ見出来るあたりまだ余裕そうですね」
「よそ見って訳じゃないんだがなあ」

 FPSやってる時の癖で、照準外の所も常に把握しておきたいんだよ。下手に集中すると横や後ろから撃たれたりするので状況の把握ってとっても大事なんだぞ。前にもこんな話をしたような気がしたけど、その時はチェルにいってたっけか。

「まあ、1つだけ確かなのは集中して相手しないとヤバいってのは確かさ」

 盾を構えているチェルに向けてTHで2連射、一呼吸おいて跳弾を使った1発を撃って、背面を狙う。この手法思いついたのはいつだったかな、確か犬野郎の盾を抜くために使ったっけか。とにかく正面で盾を構えている相手には中々悪くない攻撃手段よ。
 あと、もう1つ気が付いたというか分かった事があるのだが、大型拳銃の種別って当たった時の衝撃も大きくなってるのな。対人をやるとよくわかる。1発当たる為に結構ぐっと耐えるように動くというのが目に付くからだが。
 だからこそ背面に当たれば結構な衝撃で手前側に押し込める……と、思ったのだが、特にそんな事は無く、少しぐらついたくらいでしっかり耐えている。対人戦の時は確か固定ダメージも下方修正されてたっけか。

「だとしても手応えがうっすいんだよなあ……」

 撃ち切ったらすぐにTHを中折り排莢から3発纏めて装填、元に戻して腰だめで構えて少し様子見から、目の前が急に眩しくなるので嫌な予感と思いバックステップ。寸前まで立っていた所に光が集まると共に炸裂して光が飛び散る。

「……知らない攻撃なんだが」
「僕もちょっと方向性を変えたので」

 構えていた盾を横に持ち直し、目線が通るようになっているのを気が付く。なんだ、視認できる範囲に魔法でもぶっ放せるようになったのか?あいつシールドバッシュくらいしか出来なかった覚えがあったが、なんとなーく、聖属性って感じがあるし、職業パラディンにでもなったか。

「ただでさえ硬いってのに遠距離攻撃してくるのは弱点防ぎすぎじゃない?」
「まあ、結構難しいんですけどね、これ」

 眉間に皺を寄せ、こっちを凝視すると共に、同じように光の収束が始まる。ふむ、見た地点を凝視したら発動するって訳か。良いなあ、あの魔法、すげえ使いやすそう。なんて思っていたら、回避先にも収束が入り、着地を狙ってくる。なるほど、凝視さえしたら連射出来るのか。確かにMPさえあれば魔法って連打が出来る仕様ってのは知ってるが、この魔法の良い所は連射が出来るって所じゃなくて、見た地点を指定出来て、なおかつ置きで時間差攻撃出来るのが強い。
 なんて冷静に分析していたらがっつり直撃を貰って視界がちらつく。何かこれダメージって言うよりも誘導用か、コンボ組み込み用の魔法ってとこか。

「今日は僕の日ですよ」

 ちらついた視界が張れると共に目の前にチェルの盾が迫る。ああ、これは避けきれん、直撃だ。
 そう思うと共に思い切り強くシールドバッシュを貰い、後ろに吹っ飛ばされる。すげえな、魔法で回避に集中させておいて、自分は突っ込んでくるわけだな。

「ちょっと見ないうちに良い動きするようになったじゃん」
「これでもアカメさんのメインタンクなので」

 よく言ってくれるわ。こっちの攻撃は盾でうまい事防ぐうえに置き魔法と鈍重だったはずなのになんか機動力も上がっているしですげえ面倒な相手になっている。
 それにしてもがんがん前出れるようになった前衛相手はきつすぎる。細かくHPとMPポーションを飲んで回復を入れながら戦闘を続けているが、やっぱりじり貧だ。

「ただ、それでも私が負けるのはねえよ!」

 一旦バックステップで距離を取り、メニューを開きメインとサブの職を切り替え、ガンベルトにTHを提げてから忍者刀を抜いて低い体勢からの斬り上げ。これはまだ知らないだろう。

「うわ!?」
「そういう顔見るの好きだわ」

 驚き狼狽えたので少し下がったのを見て、その瞬間に投げ物ポーチから手裏剣を取り出し、指の間に入る分、3枚の手裏剣をスナップを効かせて投げ付け追撃。威力は弱いからあくまで牽制用で、目くらましのような物だ。勿論ど正面から投げているだけなのであっさり防がれるが、視線を切る事に関しては成功しているし、近接攻撃を防ぐというのにシフトしているので、此処が攻め時。
 もう何度か忍者刀で攻撃し、嫌がったのか一旦距離を取ったタイミングで職の切り替え、忍者刀を仕舞いTHを抜くと同時に遠心力を付けての三度撃ち曲撃ち跳弾。
 三発同時発射の音と共に、螺旋状の軌道を描きながら曲撃ちで盾の横をすり抜け、地面からの跳弾で本体に確実に当てに行く。
 直撃したのかぐうっと唸る声が漏れ、その一瞬を見逃さず、装填からの曲撃ち跳弾で追撃。確実に何発から貰っているのでこのまま押し切って4人とも全員叩きのめして……。

「なんて、思ってるんでしょ!」

 いきなり盾を真っすぐに構え何か動作をすると共に十字型に変形。ああ、これはやばい、絶対避けないとやばい、明らかに見た目から範囲攻撃だろうし、私のFWS的な奥義スキルだ。それにしても何であんなに撃ち込んでるのにそこまで効いてないんだ?かなりの数を撃ち込んだし、直撃もしてるってのに平気で反撃してくるにしてはHPや防御が高すぎる。

「幾らアカメさんが強いからって、それが僕の負ける理由にはならないです!」

 十字型の盾が強く光、辺り一面が真っ白に染まっていく。
 
「今日は、勝たせてもらいますよ!」

 このゲームをしていて一番やばいわ、これは避けきれないだろうと判断して気休め程度のガンシールドを展開、更に身を縮めて少しでも被弾箇所を減らす。此処までやってぎりぎり瀕死って所か、あー、くそ、やっぱり正面切って戦うとなると弱いわ、私。
 そうして身構えて、チェルの攻撃、十字型のビームをガンシールドで受けると共に後方に思いきり吹っ飛ばされ、どこぞの持ち主の車に叩きつけられ、視界が明滅する。
 
「……あー、くそ……動けねえ」
「皆、こっちから逃げるよ!」

 吹っ飛ばされた時にTHも手を離してしまい、手元にはない。インベントリに入れてある銃は全てマガジンが空、ついでに叩きつけられた衝撃でHPは残っているものの動けない状況。

『拙者と斎藤殿では押さえきれぬ』
『路地に逃げられたら追いかけられん』

 ギリギリで抑えられていた壁が1枚無くなったら、後は数で押し込める。私がぐったりしながらチェルの行方を目線で追うが、目線でしか追えずに、あっさりと視界から外れて逃げられる。
 そして私の視界には赤い警告が何個も出ているうえにぴくりとも動けない。くっそ、してやられた、しかも銃撃を耐えるし、あいつの防御力の秘密も分からんかった。


 そうして周りが落ち着く少しの間でぽつりと零す。
 
「完全に私の負けだわ」

 耐久もあってなおかつ威力も高い攻撃を出せるってふざけてるな、あいつ。

「悪魔殿、大丈夫か」

 すこしぼうっとしてると言うか、ぐったりしている所に忍者がやって来てごそごそとHPポーションやらを取り出して私にぶっかけてくる。もうちょっとちゃんとした扱いしろよ。

「状態異常がすげえ出てるから暫く動けん、爺呼んで車回してくんない?」
「悪魔殿も人並みにやられるのだな」
「私を何だと思ってんだ……あとあれ、銃拾ってきて」
「先に車に乗せるぞ」

 道の横、思った以上にボコボコになった車が止まり、そこまで肩で担がれ、後部座席に放り込まれる。シートにぐったり横になり、少ししたら忍者が助手席に乗り込むと、ついでに寝転がっている私にTHを渡してくる。

「人が足りん」
「そうじゃの、味方はもう少しほしい」
「近接系が一人いると塩梅はいいか」
「まあ、今超悔しいから暫く癇癪起こすから無視しててよ」

 そういうと共に後部座席で寝転がっている状態であのちんちくりん相手の文句だったり、何だよって話をぶちまけまくる。
 暫く、前に座って忍者と爺は黙ったままだった。
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