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13章
349話 続・平和な状態
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「うちのクランもでかくなったもんだ」
十兵衛がクランハウスの2Fでゆったりしながらそんな事をぽつりとつぶやく。
「そうなんですか」
そこにたまたま通りがかった菖蒲が足を止めて少しばかり興味深そうな顔をし、机に置かれていた酒瓶からグラスに一杯注いで十兵衛の向かいに座る。
「人数はそこそこだが、今じゃ施設やら建物やら大きくなったからな」
「そうですね……どうして人数増やさないのかは不思議ですけど」
「多いと面倒くさいんだろう、NPCと話してる方が長いぞ、あいつは」
呼びました?という様にアイオンが2人を見て、近くにすっと立って待機する。
「全員がずっと一緒にいる訳じゃないですから、しかたがないのでは?」
「まあ、それもあるが……全員が全員仲良しこよしで一緒の目的を達成するって事がないのも大きい」
「好き勝手やってますからね、このクランって」
菖蒲がそんな事を言うと共にくすくすと笑い、グラスに注いだ酒を煽る。それを見て十兵衛は自分の酒の出来を確かめる様にじっとその様子を見る。
「うん、美味い。よく作れましたね」
「美味いなら良い、このクランじゃ中々感想を言ってくる奴がいないのがネックでな」
「飲めない人多いんですか?」
「いや、美味いというより使えるか使えないかの判断の方が強いな」
「ボス、アカメさんからして味よりも効果や使い道のほうですしね」
そうなんだよと、ため息交じりに言うと共に十兵衛が自分のグラスに次の酒を注ぎ、すぐに一杯煽る。
「この間というか、ちょっと前に行った雪山じゃ酷かったぞ、凍結解除の為にがばがば飲んで味の感想なんて言ってくれん」
「……そこは聞きたいんですね」
「そりゃそうだ、自分が作ったものがどうかってのはやはり気になるだろう」
「アカメさんから感想を引出したいってのは分かりますね」
あいつはまともに返事をしないから仕方がないと、グラスの酒を一気に飲み干してからぐちぐちと文句を言い始める十兵衛。それを一応なだめるようにするが、酒が入ると人間かなり口が軽くなるもので色んな文句を吐き出しつ続けていく。それを大人しく、そうそう、などと言いながら収まるまで暫く菖蒲が付き合う羽目になる。
「……そういえば、ももえの奴が独立するといってたな」
「環境は整っているのにですか」
「アカメは引き止めないだろうな。『はいはい』って言って終わりだ」
「本当にドライですね」
「あいつは1人になってもNPCと今まで作ったフレンドでゲームを楽しめるだろうし、良いんだろう」
「去る者は追わず来る者は拒まずって事ですね」
「そういう事だ」
空になったグラスを机に置いて、近くにいるアイオンにそれを下げさせてから立ち上がってぐいーっと伸びをする。
「これから料理スキルを持ってる奴に会いに行くんでな」
「うちのクランに勧誘ですか」
「いや、個人的な付き合いだ」
「自分もそろそろ落ちますかね……ごちそうさまでした」
グラスを持って見せてから手を軽く振って十兵衛を見送る。そして一人になってからも暫くグラスに残っていた酒を楽しんでからログアウトをするのだった。
『クランマスター、クランメンバーのログアウトが確認されました』
『共有ボックスの整理、ハウス内の清掃を開始します』
『クランハウスの入場を一時的に規制します』
三姉妹しかいない状態になってからクランハウス内の管理を始める。
設定はアカメがした通り、下からサイオン、アイオン、シオンが担当し、ベッドメイクや清掃、ショップの商品整理、共有ボックス内の整頓など、元々備え付けの機能+アカメがやっとけと放り投げた業務をこなしていく。
『クラン資金の残高および出金に関してのメールをクランマスターアカメ様に送信』
『クランマスターアカメ様への伝言をプレイヤーメールにて送信』
「申し訳ございません、もう少々お待ちください」
アイオンとシオンがアカメへのメールを作り、サイオンが1Fでショップを利用しようとしたプレイヤーの対応を。3人それぞれてきぱきと作業をこなし、ヴェンガンズカンパニーのクラン員がいない間に新品のようなハウス状況に。勿論の事、地下の作業場、特にガンナー周りも整理整頓され、アイテムとして使えない物は全部綺麗になくなっていく。
『地上の清掃整理作業が完了しました』
『地下の清掃整理作業及びクランメンバー十兵衛様より任せられてい酒造関係の確認も完了しました』
『クランショップを再開いたします』
物の数分で作業自体は終わり、追い払ったプレイヤーを入れて、またクランショップに人がちらほらと入るようになっていく。それを相変わらずの無表情でサイオンが店員として客を捌き始める。
『何か特出すべきことを報告』
『クランメンバーももえ様から脱退申請有り、クランマスターアカメ様に報告』
『クランメンバー全体のプレイレポートを運営に報告』
そんな相互連絡を三姉妹の中でやり取りしつつ、ほぼノータイムで地上から地下等の移動をしつつクランハウスの管理を進める。誰かがクランハウスにいる時も同じような事をしているが、誰もいないときには遠慮なく自己転送機能を使ってクランハウス内をうろちょろと。
『アカメ様からのわしゃわしゃ回数の報告を』
『報告する義務はないかと』
『右に同じく』
てきぱきとクランショップでの管理や対応をしているサイオンの手が一瞬止まり、無表情が更にきつくなる感じに見える。それに気が付いたのかは分からないが、ショップでの取引を済ませたプレイヤーが少しだけ頭に「?」マークを出して訝し気にするが、特に気にする必要も無いと思い、すぐに退出。
『一番かわいがられているのであれば回数を気にする必要はないかと』
『自信がない表れかと』
『長女の割に不安がりかと』
またピタッと作業している手が止まり、無表情がさらにきつくなる。裏でこっそり喧嘩をしあっているなんて事をショップに来たプレイヤーは知らないので、いつも通りに買い物を済ませて出ていくのは、種族的にロボであるところが大きい。
『妹の管理も長女の仕事かと』
『多少早く実装されただけで中身は変わらないかと』
『名前も性能も変わらないのに大きい顔をするなと』
そんな脳内連絡と喧嘩、クランハウスの管理を繰り返しながら、日々動いていることは誰も知らない。
十兵衛がクランハウスの2Fでゆったりしながらそんな事をぽつりとつぶやく。
「そうなんですか」
そこにたまたま通りがかった菖蒲が足を止めて少しばかり興味深そうな顔をし、机に置かれていた酒瓶からグラスに一杯注いで十兵衛の向かいに座る。
「人数はそこそこだが、今じゃ施設やら建物やら大きくなったからな」
「そうですね……どうして人数増やさないのかは不思議ですけど」
「多いと面倒くさいんだろう、NPCと話してる方が長いぞ、あいつは」
呼びました?という様にアイオンが2人を見て、近くにすっと立って待機する。
「全員がずっと一緒にいる訳じゃないですから、しかたがないのでは?」
「まあ、それもあるが……全員が全員仲良しこよしで一緒の目的を達成するって事がないのも大きい」
「好き勝手やってますからね、このクランって」
菖蒲がそんな事を言うと共にくすくすと笑い、グラスに注いだ酒を煽る。それを見て十兵衛は自分の酒の出来を確かめる様にじっとその様子を見る。
「うん、美味い。よく作れましたね」
「美味いなら良い、このクランじゃ中々感想を言ってくる奴がいないのがネックでな」
「飲めない人多いんですか?」
「いや、美味いというより使えるか使えないかの判断の方が強いな」
「ボス、アカメさんからして味よりも効果や使い道のほうですしね」
そうなんだよと、ため息交じりに言うと共に十兵衛が自分のグラスに次の酒を注ぎ、すぐに一杯煽る。
「この間というか、ちょっと前に行った雪山じゃ酷かったぞ、凍結解除の為にがばがば飲んで味の感想なんて言ってくれん」
「……そこは聞きたいんですね」
「そりゃそうだ、自分が作ったものがどうかってのはやはり気になるだろう」
「アカメさんから感想を引出したいってのは分かりますね」
あいつはまともに返事をしないから仕方がないと、グラスの酒を一気に飲み干してからぐちぐちと文句を言い始める十兵衛。それを一応なだめるようにするが、酒が入ると人間かなり口が軽くなるもので色んな文句を吐き出しつ続けていく。それを大人しく、そうそう、などと言いながら収まるまで暫く菖蒲が付き合う羽目になる。
「……そういえば、ももえの奴が独立するといってたな」
「環境は整っているのにですか」
「アカメは引き止めないだろうな。『はいはい』って言って終わりだ」
「本当にドライですね」
「あいつは1人になってもNPCと今まで作ったフレンドでゲームを楽しめるだろうし、良いんだろう」
「去る者は追わず来る者は拒まずって事ですね」
「そういう事だ」
空になったグラスを机に置いて、近くにいるアイオンにそれを下げさせてから立ち上がってぐいーっと伸びをする。
「これから料理スキルを持ってる奴に会いに行くんでな」
「うちのクランに勧誘ですか」
「いや、個人的な付き合いだ」
「自分もそろそろ落ちますかね……ごちそうさまでした」
グラスを持って見せてから手を軽く振って十兵衛を見送る。そして一人になってからも暫くグラスに残っていた酒を楽しんでからログアウトをするのだった。
『クランマスター、クランメンバーのログアウトが確認されました』
『共有ボックスの整理、ハウス内の清掃を開始します』
『クランハウスの入場を一時的に規制します』
三姉妹しかいない状態になってからクランハウス内の管理を始める。
設定はアカメがした通り、下からサイオン、アイオン、シオンが担当し、ベッドメイクや清掃、ショップの商品整理、共有ボックス内の整頓など、元々備え付けの機能+アカメがやっとけと放り投げた業務をこなしていく。
『クラン資金の残高および出金に関してのメールをクランマスターアカメ様に送信』
『クランマスターアカメ様への伝言をプレイヤーメールにて送信』
「申し訳ございません、もう少々お待ちください」
アイオンとシオンがアカメへのメールを作り、サイオンが1Fでショップを利用しようとしたプレイヤーの対応を。3人それぞれてきぱきと作業をこなし、ヴェンガンズカンパニーのクラン員がいない間に新品のようなハウス状況に。勿論の事、地下の作業場、特にガンナー周りも整理整頓され、アイテムとして使えない物は全部綺麗になくなっていく。
『地上の清掃整理作業が完了しました』
『地下の清掃整理作業及びクランメンバー十兵衛様より任せられてい酒造関係の確認も完了しました』
『クランショップを再開いたします』
物の数分で作業自体は終わり、追い払ったプレイヤーを入れて、またクランショップに人がちらほらと入るようになっていく。それを相変わらずの無表情でサイオンが店員として客を捌き始める。
『何か特出すべきことを報告』
『クランメンバーももえ様から脱退申請有り、クランマスターアカメ様に報告』
『クランメンバー全体のプレイレポートを運営に報告』
そんな相互連絡を三姉妹の中でやり取りしつつ、ほぼノータイムで地上から地下等の移動をしつつクランハウスの管理を進める。誰かがクランハウスにいる時も同じような事をしているが、誰もいないときには遠慮なく自己転送機能を使ってクランハウス内をうろちょろと。
『アカメ様からのわしゃわしゃ回数の報告を』
『報告する義務はないかと』
『右に同じく』
てきぱきとクランショップでの管理や対応をしているサイオンの手が一瞬止まり、無表情が更にきつくなる感じに見える。それに気が付いたのかは分からないが、ショップでの取引を済ませたプレイヤーが少しだけ頭に「?」マークを出して訝し気にするが、特に気にする必要も無いと思い、すぐに退出。
『一番かわいがられているのであれば回数を気にする必要はないかと』
『自信がない表れかと』
『長女の割に不安がりかと』
またピタッと作業している手が止まり、無表情がさらにきつくなる。裏でこっそり喧嘩をしあっているなんて事をショップに来たプレイヤーは知らないので、いつも通りに買い物を済ませて出ていくのは、種族的にロボであるところが大きい。
『妹の管理も長女の仕事かと』
『多少早く実装されただけで中身は変わらないかと』
『名前も性能も変わらないのに大きい顔をするなと』
そんな脳内連絡と喧嘩、クランハウスの管理を繰り返しながら、日々動いていることは誰も知らない。
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