上 下
372 / 622
13章

346話 ついてきた理由

しおりを挟む
 ダンジョンってまあ、色々素材を手に入れたり、モンスターを倒してレベリングするなり、最奥にいるボスを倒しにいったりと、人それぞれ目的があるわけよ。
 今回の私の場合で言ったら、あると言われているレアメタルの採掘にやってきたわけだけど、まさか髭親父も同じような感じとは思っていなかったわ。

「……いちいち飲み比べする必要ある?」
「いやいや、大事な事なんだぞ」

 いつ作ったのか知らんけど、ガラスグラスに琥珀色の液体を注ぎ、さっき手に入れた氷を入れ、グラスを回しながら楽しんでいるのを見ながら休憩。
 このダンジョンに入って、暫くモンスターを相手にして深部に向かっているのだが、深部に向かう途中の足止めはこの一杯を待つって事が多い。まあ、急ぐ旅って訳でもないし、こっちも一杯貰ったり、一服したりしているからどっこいと言えばどっこいだが。

「それにしても氷ねえ……そんなに味が変わるもんなの?」
「そりゃそうさ、氷一つというよりも水の味一つで味が変わるだろ、都心の水何て飲めたもんじゃないんだぞ」
「確かに不味いわねー、うちは井戸水引っ張ってるからがぶ飲みできるし」
「だから氷も同じで、旨い不味いってのがあるんだ、勿論酒に入れたときにも風味が変わる」
「此処まで来たらアル中やんけ」

 そんなわけないと否定しているが、自分の酒に合う氷を見つけようとしている辺り、よっぽどの酒好きくらいでしかないだろうに。酒は好きだが、こんなにのめりこむほどの物じゃないから、何が良いのかさっぱり分からんが。

「何となく思ったんだけど、あんた良質な氷目当てに此処にきたんでしょ」
「おっと、ばれたか……マップ攻略に強力な味方がいると楽だからな」
「全く、珍しく付き合うって言うから何かなって思ったら……そういう事かい」

 いつも私が使ってるから珍しく使われたって事か。まったく、うちのクランの連中は私に対して何でもかんでも秘密にしすぎなんだよ。大体私が察した時にはドヤ顔されるし。

「あんたの氷批評よりも私のレアメタルの方が大事だってのになあ」
「これでもちゃんと探してやってるんだから文句を言うなって」

 ダンジョンの中でつるはしを振るって氷を採掘している親父に言われるとはな。それにしてもどれを飲んでも同じような味に感じる氷一つに此処まで執着するのは、やっぱりうまい酒を飲みたいって事か。やっぱりアル中やんけ。

「こっちはこっちでレアメタルが出てこなくてくっそストレスだってのに……いいよなあ、氷、とりあえず割っておきゃ良いんだし」
「馬鹿いうな、品質1つで味が変わるんだ、しっかり吟味しデータを取らないとだな」
「はいはい、分かった分かった」

 このまま話を聞いていたらすげえめんどくさそうだったので適当に切り上げ、採掘できそうなところを探索。勿論道中にモンスターは出てくるけど、一回味を味をしめてるから髭親父がさくっと倒して、氷を採掘して一杯やる、こんな感じの流れが多い。

「ところで、ここのボスは見つけたらどうするんだ?」
「んー、まあ別に興味ないしなあ……倒したいって言うならやるけど、どする?」
「儂も興味ないな……目的としてはアカメと変わらんわけだしな」

 折角ダンジョンにまで来たっていうのに目玉のボスは完全に放置して採取ばっかりやってるって、ゲームの開発者からしたら、作ったのにほったらかしにされる無駄要素的な感じになるんだろうか。ってのを考えてみたらそもそも辿り着く難度を下げて、もう少し見つけやすいダンジョンにするかな。
 
「あんまりマップにも人がいないからダンジョンとしての人気もなさそうだなあ」
「儂ら以外にはプレイヤーが見えないからな……踏破自体はされてるんじゃないのか」
「奥行ってボス倒して踏破だっけか、興味ないわー」

 やってきたオークを殆ど流れ作業の様に片付け、採掘ポイントを確認しつつ、酒の一休憩を挟みつつ、がんがんと奥に進んでいく。
 

 それにしてもやっぱり全然採掘ポイントが見つからない。
 横道を見つけようと後ろを見たり、左右を確認もしているってのに隠し要素的な物は無し。アリの巣の様に下に下に行く感じのダンジョンなので、向かう先が分かりやすいというのは良い点。
 と、言っても採掘ポイントが浅い所にある訳もなく、ずんずん進んでいくしかないのはボスへと一直線とも言える。当たり前だけど、どん詰まりまでいけば普通に遭遇するよね。

「……明らかにあれはボスだな」
「此処まで来るのに全然採掘ポイントないし、ボス倒すのが条件かもなあ……あー、めんどくさ……」
「やるか?」
「30秒でやるから」
「いつもの奴だな、分かった」

 もう対ボス用お決まりと言った感じのFWS、30秒かけて1発ぽっきり、再発射がクソ長いってのでバランスとってるつもりだろうけど、明らかにバランスブレイカー、もうちょっとマイルドにして使いやすくしてくれてもいいんだけど、それはそれで面白くなさそうだし、なんとも調整の難しいスキルだ。




「アイスドラゴンって割には大したこと無かったな」
「ドラゴン=強キャラってどのゲームでもそうだけど、途中からインフレについていけなくなるイメージはあるわね」

 ポリゴン状に消失していくでかいドラゴンを眺めつつFWSの砲身をインベントリに戻しながらボス周辺を散策。もう一つくらい奥に大きめの空洞があるっぽいのでそこにいけばなんらかの収穫くらいはあるだろうよ。

『氷河洞穴の踏破がされました、以降マップにダンジョン位置と名前が表示されます』

 個別のシステムアナウンスが響くのだが、そこまで大事な事じゃないからどうでも良いな。って言うか未踏破だったんだな、此処のダンジョンって。結構雑に侵攻してあっさりとボス倒して踏破完了ってのも味気なさすぎるきがするんだが、まあ良し。

「こんな所に来る変態はそんなにいないって事だなー……何かあった?」
「ボス部屋にはないな、奥に空間があるみたいだし、行くか」
「サクッと見つけて帰る予定だったんだけどなあ」

 減ったMPをポーションで回復しつつ最深部に辿り着く。
 珍しく壁面が氷じゃなくて、普通の岩になっているあたり、ここが狙いの場所だったっぽい。
 近づいてじっくり見てみれば採掘ポイントが発生しているし、さっさとつるはし振るってえんやこらっと。
 で、なんともまあ、さっくりとレアメタルが手に入るっていう。 

「アルミとクロム、ついでにチタンかあ……マグネシウム辺り欲しかった」
「銃は詳しくしらんが、どこまで使えるんだ?」
「全部合金として使えばいい線行くけど、アルミだけはちょっと特殊かな、MMS《メタル・マトリックス・コンポジット》ってのに出来れば使えるかな」
「爺には分からん用語だ」
「とにかく使えるって事」





 そんなこんなで、しばらく髭親父と二人で氷とレアメタルの採掘に勤しみ、十分な量を取れた後、帰還スクロールで一気に街へ戻ってクランハウスに戻り始める。

「デートはどうだった?」
「自分の娘と同じような歳の子とデートと言うのはな」
「楽しかったのか楽しくなかったのでいえば?」
「つまらなくは無かったな」
「素直じゃないなあ」

 隣同士で歩きつつ、うれうれと指で髭親父の肩をぐりぐり押し付けてやると小さくやめんかと言って指を払ってくる。物凄く不快だったり、嫌だったらこういう風にやってこないあたり、まあ、いつものノリってやつだ。

「とりあえず暫くはトカゲの奴と、ポンコツを使って射撃場引きこもりかな」
「薬莢くらい片付けたらどうだ、この間ももえの奴が空薬莢踏んですっころんでたぞ」
「一定時間で消えるんだけど、あいつは運が悪いのよ」

 銃弾をインベントリから1発取り出して手の中で遊ぶように転がして見せる。
 
「硝煙が漂い、金属薬莢の落ちる音が響く作業場って、中々良いじゃない」
「儂からいわせりゃど変態だな」

 良い匂いと音なのになあ。
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...