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13章

339話 意外な趣味

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 前回の雪原攻略から1日。
 私なりにログアウトしている最中にもアウトドア用品や雪山へ行くときの装備品を調べていたわけだが、これがまあ中々面白いのな。自分では120%リアルでやらないし、やれない趣味だけど、これに関する道具や動画を見るのって結構好きなんだよね、絶対やらないけど。

『そういう訳でアウトドアに詳しい奴はいないか?』
『ゲームしてる時点で中々いないと思うが』
『それはそれ、これはこれだと思うんだけど、やっぱいないかあ……ってかあんたは子供いるって』
『昔は連れて行ったが、今はリタイア組だから、そういうのはとんとやらん』

 だからこっちにかなり入り浸りと言うか、のめり込んでゲームしてるってのはよくわかってる。うちのクランで結構な年長者で子供もいる髭親父はやるかなーと思っていたら、逆にそういうのに連れていく年齢の子供じゃないって事か。

『あたしもないかなぁ……そういうのに縁がないし』
『私もないねー、外持ち出す機材も無いから』
『そもそも興味ないね』

 ジャンキー組も全滅か。紫なんてどこぞのソルジャーみたいな事を言いだしているけど、まあ、この辺に関してはそもそも期待していない。ポンコツに関しては微塵も期待は無かった。

『自分もやらないですね、仕事あるんで』
『外は出るけどそっちの趣味はないな』
『俺様はよくやるぞ』

 生産系も全滅……って思ってたら一人すげえ意外な奴が手を上げやがった。って言うか珍しく全員から返事を貰った事も驚きではあるが、それよりも猫耳がそういうのを趣味としている方が驚きだっていう。

『一番意外だったわ、そういうのやるんだ』
『文句あんのかよ』
『ないない、寧ろありがたいくらいだって』

 クラン会話を続けながら何個目かのダブルバレルG4を弄りつつ、話を進めていく。

『じゃあ、個人に切り替えるわ』

 そういえば全員が返事をし、猫耳に至っては少し嬉しそうにしている。
 まあ、気持ちは分からんでもない、自分の趣味を理解してくれる人がいると私だって嬉しいしな。

『で、何を聞きたいんだ』
『今攻略しているマップが雪原なんだけど、どういう装備が良いかなって』

 二つ合わせた銃身を纏めて引き絞り、しっかり薬莢が二つ同時に飛び出たのを見てうんうんと納得。今の所は問題なし。

『雪原か……確か南西エリアだよな、あそこって』
『行った事あるのか?』
『そもそも大体のマップを歩いてるからな』

 この返事で確信した、こいつガチだ。
 ログインしていない時には仕事なり外の趣味をして、ログインしたらしたで自分の趣味で木工をしつつ、歩き回ってアウトドアに興じていると……こうやって考えてみると、私よりこのゲームを楽しんでいる上に、趣味も楽しんでいるってすげえな。
 
『とりあえずどんな装備してるのか教えろ』
『防寒用のコート1枚』
『お前、雪山舐めてんのか?』
『いや、ゲームとしてぎりぎりを見てるだけで、別に舐めてる訳じゃないって、これでも雪国育ちだしな』

 だって自分でもこんな装備でアタックできるわけがねえって知ってるから相談し始めているわけだし。

『ならいいが……とりあえず一般的な装備って知ってるか?』
『そりゃそうよ、とにかく肌の露出を抑えるのは当たり前として、滑り止め用のスパイク、ストック、ピッケル辺り?』
『ゲームの攻略としても良い所だな、用意は?』
『小物はゴリマッチョが、その他は全然用意してない』

 クラン会話越しにも大きめのため息を吐き出される。
 って言っても、フィールド上で移動がしやすくなるって所に焦点を当てているから、食料なりテントなりの大きい、かさ張るような荷物ってのはインベントリに全部放り込めるのでその辺は考慮していない。なんだったらリアルよりもこういうファンタジー世界でキャンプするって結構流行るんじゃないの?モンスターに襲われるってのを加味しなきゃだけど。

『まあいい、もう少ししたら使ってた装備やるよ』
『あれ、珍しくそんな事していい訳?』
『ゲームとはいえ、古い装備って中々処分に困るんだよ、だったら使ってもらった方が良いしな』

 なんかいつにもまして優しいというか、穏やかなのは珍しい。
 どこでも誰でもそうだけど、やっぱり自分が好きなジャンルに対して興味を持ってもらうってのはそんなにいい事なのか。
 私だったら聞かれたら最低限の事を教えて、それでも駄目だったらもう一度来いってスパルタするしなあ……あー、懐かしいなあ、FPSやTPSで教えてくれって言うからスパルタしてやったら二度とゲームしなくなったの。それにしても誘った趣味がハマるかも分からないから他人に言われても基本的に黙ってる事が多くなったのはいつからだったかな。

『共有ボックスかうちの秘書に預けておいたら道具出すぞ』
『じゃあ、それでいいか、物はアイゼンとピッケル、ストックになるから他のは揃えろ』
『他って言っても何いるんだ、こっちはド素人だぞー』
『カマクラが出来るからいいがそれを作る道具、暖を取る為のアイテムもいるな、まあゲームなんだし、後は自力でやれ』
『そういう投げっぱなしにするの、嫌いじゃないわね』

 ……そういえば木工ってそこまで戦闘力が無いのに、どうやってアウトドアしているんだろうか。

『そういえばどうやってアクティブの多い所にのんびりキャンプしに行けるんだ?』
『そりゃ生産職限定のアクティブ回避スキルがあるからだろ、今更何言ってるんだ』

 おお、そんなスキル初耳なんだが?

『いや、戦闘職だから知らんって』
『相手モンスターに対して+5レベルならこっちから手を出さない限り無害なの知らんのか』
『そんなん知らん』
『これがあるから自前で素材を取りに行けるんだよ、常識だろ』

 そんな生産の常識なんて知らんがな。
 
『とりあえず装備揃えて雪山アタックしてくるわ』
『おう、アウトドアは良いぞ、ボス』

 声だけだが、少しだけ楽しそうな声を聞いてから、向こうが会話を切る。
 リアルじゃやらないけど、ゲームで出来るならちょっと本腰入れて楽しむかな。

「に、しても意外だったなあ……あいつ、アウトドア趣味があるなんて」

 まだ一ヶ月くらいの付き合いだが、リアル事情を知っているのは髭親父くらいか。
 子供がいてリタイア組になる歳っての知らんが……まあ、深いところを知ってもしょうがないし、聞いたところでどうするんだって話にもなるからこの辺はまあいいだろう。

「それにしてもワンポイントの攻略だって言うのになんか色々やる事増えちまった気がする」

 ダブルバレルG4をまたバラシて調整しつつ、共有ボックスを開いて、猫耳の奴が持ってくる道具を待つ。

「冬季迷彩とかもいいかもしれんなあ……こういうのが好きな奴はいたっけか」

 相変わらずゴールが長いよ。
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