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12章

321話 朝に嗅ぐ格別な匂い

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 あれから半日程、色々仕込みを終えたので今日はクラン全体でドルイテンの襲撃に参加中。もうちょっと具体的に言えばドルイテンの南エリア3-3、襲撃開始してまだ数分って所だ。

「今回はマジでやるから」
「私らは前線構築だし、先行こうぜー」

 相変わらずのバトルジャンキー組がとっとと前に出て、人波を気にせず突っ込んで行き、モンスターが吹っ飛んでいくのが見える。切り込み隊長としてすげえ優秀、物怖じしないからどんだけ強い相手だろうがまずぶつかっていくってのが頭のネジ外れてる証拠だけど。

「私も前に出るから、十兵衛、ガヘリス、ニーナはついてこい」
「あ、はい……あれ?」

 犬耳が首を傾げてこっちを見てくるがとりあえずスルーして、そのまま作戦内容を。
 
「バイパーと菖蒲は後衛でいい、特に菖蒲、あんた戦えないんだから」
「いやいや、人並みには戦えますって」

 ぶんぶんと持っていたショートソードを振るうが、頼りないなあ。裁縫辺りやってるんだから、糸を武器に使ったりするのが定番だけど、そう言うのはないんかね。
 にしても、糸って……ちょっと特殊な主人公が使う、やたらとトリッキーな武器って印象だけど、あれ、浪漫はあるけど現実的に考えるとどういう原理なのか不思議だよな。

「いいのか、俺も後ろで」
「最近無茶させてたから楽できるポジにしてんのよ、気に入らなきゃ前出てきていいし」
「それじゃあ、まあ、遠慮なく」

 まあ、本当はあんたのガトリング使うとうちの物資が急速に減っていくからってのが原因だから、後ろで援護射撃してもらう方が良いってのもある。ついでに言えば引くときの制圧射撃が出来るのも強みだから置いておくのもある。おっと、中々に信頼を寄せているじゃないか、私って。

「任せたわよ」
「あいよ」

 さてと、これで全体的な動きは良いだろう。

『ももえ、配信の準備は』
『はーい、できてまーす』
『それじゃあ、派手にやってやろうじゃないの、あんた達』

 急造のアイテムと装備を揃えたし、そっちのお披露目と行こうじゃない。

「さっきアカメさん、普通に名前言ってきたんですけど……」
「ん、ああ、やる気になったって事だろう、ドジ踏むと本気で説教飛んでくるぞ」
「つーか、爺さんもヘマすんじゃねえぞ」

 バトルジャンキー組が蹴散らし、前線で場所を取る間の移動中のちょっとした会話が聞こえる。まあ、そう言う事だからきりきり働くんだぞ。
 



『んじゃあ、配信するよー!』

 ポンコツがそう言うとキャラクターの頭上少し上に赤い丸が点灯する。今まで別に触れていなかったが、配信しているとああやってマークが付くのを話している時に分かった。

『はーい、今日はクランの皆と襲撃イベにきてまーす、まあうちのボスが配信しろって言うのもあるんだけど』

 ああやって動きながら会話できるってのは素直に凄いな。私としては手の出ない所なので素直に尊敬する……なんてことを思っていたらこっちにポンコツが向いてカメラを向けてくるのでとりあえずワンポーズ取ってみる。
 
「うちのクランの新製品と、クランの強さを知ってもらおうと思ってね」
『だってさ、今の所いつもの面子で前線張ってるからボスの所までは来てないから何も無いけどねー』
「だから私も前に出るって事、危なくなったらすぐ引けるように後ろもいるわけだし」

 そう言いながら親指で後ろの方に視線を向けさせる。
 配信慣れしていない犬耳と髭親父はがちがちで手を振る、猫耳の方は相変わらず素っ気ない態度で斧を担いでいるが、ちょっと見せつけている辺りカメラ意識しているな。

「マイカ、バイオレット、援護」
「アカメちゃん前線なんて珍しいねぇー」
「おねーさん、パース!」

 前に出ると紫髪が背中の刀を投げ渡してくるのでCHを上に投げて、上がっている間に刀を片手で掴んでそのまま一気に振り下ろし。接近してきたモンスターに一撃加えると共に、上げていたCHを掴み直して一発。勿論撃ったらすぐに排莢し、ベルトに引っ掛けるように銃本体を回転、装填してじゃこっと音を鳴らして銃身を戻す。

「ひゅー……やるぅ」
「私が刀しか使えないのよく知ってるわね」
「いや?たまたま使ってなかったから」

 サブ忍者のちょっとした恩恵が出たから良かったが、別の武器だったらこんなに上手くいってないからな。そもそも今回は新しい物を紹介するのがメインだって言うのに。

「まったく、とりあえず本題に戻るけど、最近出回っている火炎瓶だけど、うちで売っているのは0.5ℓのアルコールが入った瓶で類似品に注意してほしいのよ」

 ポンコツの横からやってきたモンスターに対してCHを抜き打ち。体制がぐらついた所で中衛にいた髭親父が追撃し撃退。良い連携だし、よく見てるわ、ほんと。

「そもそも容量の少ないみみっちい火炎瓶何てうちのクランが売る訳じゃないでしょ?」
『……そこははいともいいえとも言えないんだよねえ』
「買いたい人が調整したいって言うならそうするってだけ、だから火炎瓶くださいって言えば0.5ℓが最低になるんだって」
『でも容量の差で変わるか分かんないじゃんかあ』

 そう言われるので待っていましたと言う様に葉巻に火を付けて大きく紫煙を吸い、吐き出しながら葉巻でインベントリからいつものビール瓶ではなく、丸底フラスコの形をした火炎瓶を取り出す。

「で、もう1つ思いついたわけよ、うちのクランだって分かる瓶と威力であればクレームのつけようがないでしょ?」

 そうして形の変えた丸底フラスコの火炎瓶。火を付けた状態で丸になっている部分を握ってしゅぱっと野球のフォームでジャンキーに向かって投げる。

「仕様変更で投げやすくなったのは今の通り、マイカ蹴り飛ばして」
「はい、よっ……とぉ」

 投げられた丸底火炎瓶の底を足の甲で受け、二度三度ぽんぽんとリフテンィグしてから襲撃モンスターの群れに蹴り入れると一気に燃え広がり、辺り一面を火の海にさせる。我ながらいい出来だ、改良点は一つだけではないけど、とりあえず今はあれでいい。
 そういえばボマー効果がどういう風に適用されるのかってのも判明し、最後に接触したプレイヤーに依存されるっぽい。

「ほら、よく燃える、そこらへんの量産品に比べてうちのは威力が折り紙付きよ」

 ギザ歯を見せにぃーっとポンコツに向けて笑いつつ、後ろはごうごうと燃え盛る映像を見せつける。ああー、やべえ、この私の考えてたものが成功した時、すげえ楽しい。

「それにあの燃え盛ってる所にこんな事も出来るじゃない?」

 インベントリからまたアイテム1つ取り出して燃え盛っている火の海に放り込む。して、少しするとともに爆破音が響き、多くのモンスターがまた吹っ飛んでいく。流石に爆発した瞬間に火の海は吹き飛び消えていったが、ある程度のクレーターが出来る威力なのをじゃじゃーんと手を付けて見せつける。
 その様子を見ていた周りのプレイヤーも、何故か止まったモンスターもこっちを見て固まっている。

『うっわ、えっぐ……』
「でもねえ、これだけの威力だし、中々高額品なのよねぇ……だからもうちょっと楽しい物も作っておいたのよ」

 はっとして動き始めた他プレイヤーや、モンスターをジャンキー組に任せ、周りはジャンキーと中衛、後衛の連中に任せて商品発表会を続ける。

「やっぱり新しいおもちゃってのはみんなで楽しむもんでしょ?」

 インベントリから太めの筒を取り出して足元にゴトっと音をさせて落とし、斜め方向に立ててモンスターの方へと向けておく。

『それで、どういうものなの?』
「お、いいね、分かりやすいその流れ」

 そして先程火の海に放り込んだものと同じものを取り出して筒の中に、さらに上からばらばらと金属片を入れて魔力と言うか、MPを消費してやる。そして手を開いて見せながらゆっくりとカウントダウン。

『マイカとバイオレットは危ないから射線開けろよ』

 そうしてカウントダウンが終わると共に、大きめの炸裂音、更にモンスターの叫び声が上がってポリゴン状に消失していくのがちらほらと見えている。たなびくスーツが大人しくなり、振ってきた土埃を払いながら、またにぃーっと口角を上げて紫煙を大きく吐き出す。

「もうちょい改良の余地ありだけど、ま、こんなもんね」

 しゅうしゅうと音を鳴らして、筒の口から上がる硝煙を味わい、出来をしっかりと堪能。

「ガンナーとしての経験を使った、誰でも使える大型兵器……でもないか、簡単に言えば大砲よ大砲」
『経験って、大きくしただけじゃ……』
「そう、そこ。やっぱり強くて軽く使いやすい武器や道具になっていくのはリアルだけど……そんな事よりでかくて強くて派手な奴をぶっ放せるほうが楽しいじゃない?」

 足元に転がっている大砲を足で小突きながら満足な顔を浮かべる。
 あっぶねえ、試射するの忘れてたから一発本番だったけど、上手くいったわ。まあ、そもそもパイプ銃を大型化しただけだから、そこまでの難度や不安じゃなかったけど、試し撃ちしてないのはやっぱり、ね。

「昔は私も苦労したわ、唯一のガンナーで諦めずにやってきたってのもあるわけだし、今は資金も人材もいるからこそ、『遊び』だとね」

 そう言いながらもう3個程同じような筒を足元に落として放射状になるように筒の位置を調整して配信先の連中に見せつけ、一気にMPを消費して点火。さっきよりも大きい音を響かせて更にモンスターが消失していく様を見せ、明らかにドン引きしているポンコツに向かっていつもよりも凶悪な笑みを浮かべる。

「MPさえ消費すればLv1でも使えて高火力、アイテム扱いだから装備も圧迫しないし、完璧ともいえるわ」
『頭おかしいアイテム作ってるわー……』
「折角使えるアイテムがあるのに使わない、試行錯誤もしない、無駄にインベントリに腐らせるなら景気よく使った方が楽しめるってもんよ」

 四発撃ち込んだだけで正面の殆どのモンスターが消え伏せ、火の手を上げ、爆心地を作り、文字通り武器商人の様に、実演販売しているのを配信者……含めて周りにも周知させるというのもあるので派手にやっているという所はある。
 効果は上々、注目を浴びているという点でもかなりいい。前線ちょい手前でやっているだけあって、FFも起きていないから何から何まで上手くいっている。
 だからと言って調子に乗ると足元を掬われるので、しっかりと周辺警戒をさせるし、ジャンキー連中を深追いさせないようにしている。強制連行した犬耳も回復しやすい位置に付けさせているから抜かりなし。

「今回の襲撃が終わってから、欲しいのはうちのクランに直接来て、買いに来てもらう事になるけど、場所はこの間、ももえが案内させたし分かってるか」
『クランに金掛け過ぎですって言われましたー』
「溜めて腐らせるくらいなら経済まわすべきでしょ」

 前方に関しては完全に余裕が出来たのでジャンキーと紫髪の少し後ろまで前に出て、CHを上に向けて1発。辺りに発砲音をさせてから、合図を送る。

「私に喧嘩を売った事を後悔させろ」

 そう言うと共に、クラン総動員で先程使った大筒を自分の足元に並べ、モンスターに向かって一斉発射。私を中心に爆発音が連続で鳴り響き、黒色火薬特有の白い煙が辺りをを包む中、大きくそこで深呼吸する。

「やっぱ火薬の匂いは格別だわ」
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