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12章

320話 アカメのいないところ

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「あれ、ボスどこいったの?」
「アカメなら次の襲撃対策だとか言って自宅に戻ったな」
「犬野郎の弟をまた連れてたけど、本腰いれるんじゃねえのか」

 ももえ、十兵衛、ニーナの井戸端会議。
 相変わらず各々が好き勝手に動いているので、たまたまクランに行った時にいれば、多少近況なり世間話をしたら、またそれぞれの作業に戻っていく。
 クランチャットと言うか、専用の会話もある事はあるが、そもそもアカメが連絡するために使う場合が多く、殆どがいるいない、共有ボックスの中身はどうとか言う業務連絡くらいしかない。
 しかもその会話で起きる『いるいない』もどこにいるかまでは聞くのがいないのでクランハウスに来て『やっぱりいねえ』って話になる。

「ボスがガヘリスくん呼びつけるって事はマジなんだろうねー……配信準備しとこ」
「どこの誰かしらねーけど、火付けたのは悪手だな」
「巻き込まれるこっちの身にもなってほしいな」

 うんうんと十兵衛が頷きつつ、アイオンにグラスを一つ頼んで持ってきてもらう。アカメは特に気にしていないが、ヴェンガンズカンパニーのクランハウスはしっかり家財が揃っていたりする。アカメがいつも使っている椅子もニーナが作ってしれっと置いたらお気に入りとして座っている。
 
「何をやるかと聞いたのは?」
「じぇんじぇーん、ボスって人に言わないで驚かせるのが悪いとこだよね」
「俺様も聞いてねえな……自宅って事は硝石丘か……爺さんの酒蔵また空にされるんじゃねえのか?」
「いや、それはないな、酒造クランから大量に酒とアルコール仕入れているから、こっちも向こうも手を付けてないと言っている」
「あー、そこからボス仕入れてたんだ、共有ボックスに死ぬほどあったし」

 クラン員で共有しているボックスも、5割ガンナー用、3割がそれぞれの好きな物、残った2割がアカメが集めたいらない物だったり使う物を大量に放り込まれている。そして、その共有ボックスの整理をするのはシオンの仕事だったりする。

「ま、配信映えするから何でもいいかな」
「何かしてほしけりゃ連絡がくんだろ、あれこれやってるんだし心配するほどじゃねえよ」
「ニーナはアカメの事をよく分かってるな」
「っせーよ!てめーが心配しすぎなんだっての」

 悪態を付き、ぷりぷりと怒りながらニーナが2Fの転移地点からさっさと移動する。

「とりあえず私も火炎瓶捌いてくるかなぁ……ボスのせいで忙しいんだよねー」
「……そんなに心配してるか、儂は」
「仲間って言うか、父子的な感じ?見てないと色々やらかすから気にしてるーって」

 そう言われれば自分の顎髭をもしゃもしゃと弄り、なるほどと小さく呟く。

「んじゃ、まったねー」
「ふむ、儂も行くか」

 アイオンからグラスを受け取り、自作の酒を呷って一息付けてからももえに続いて十兵衛もクランハウスを後にする。
 




「瓶に細工しろって鍛冶だっての、こっちは!」
「対爆装備なんて作った事ないっての!」

 生産組のバイパーと菖蒲が地下の作業場で二人揃って、蒸留器から出した酒を飲みつつアカメに悪態を付いている。大体無茶ぶりの思い付きで振り回されている所もあるので、しかめっ面でグラスを傾けて勝手に酒盛りをしている。

「そらー、任せて貰ってるけど、丸投げの度合いが酷いんだよ、最近」
「最初は細かくあれこれ指定してたんですけど、確かに丸投げが多くなってる」
「生産職は生産職で大変だって言うのにあいまいなんだよったくー」

 いちいちグラスに注いでいたのを直で飲み始めながらげふーっと大きめの息を吐き出しつつも、がちゃがちゃと手元でガラス瓶を弄る。それにそうだそうだと言いつつも、手元で色々な素材を弄繰り回す菖蒲。傍から見れば節操がない。

「まあ、頼まれたらやるけどよぉ、もうちょっと労ってもいいよなあ」
「代わりに自由にやらせてるだろ、ってカウンター貰うんでしょうけど」
「あー、それ、それな、人使い荒いんだよ、ったく」

 弄繰り回していたガラス瓶を置いて、レシピを確認。

「そっちはどうなんだ、また無茶な装備作ってくれって言われたみたいだけど」
「同じスーツを作ってその上で、耐性を変えろって言うんですよ、で、付与したこともない耐爆だって……無茶言い過ぎなんですよ!」
「あー、でたでた、色々用意はするけど手伝いはできねえパターン……信頼してるんだろうけど、丸投げがなぁ」

 はあーっと大きく2人でため息を付きながら暫く酒盛りを続ける。
 
「で、目処は?」
「たってる、何だかんだマイカさんやバイオレットさんが集めてる素材もあるし、ボスが集めてるのもあるから」
「出来ねえよ!って頭ごなしに拒否らせない状況ってのもまたなあ……」
「厄介な人に捕まりましたよ、ほんと」

 うんうんと2人で頷き、レシピを更新しつつも二人で暫く騒ぎ続ける。




「おねーさん、またなんかやるみたい」
「んー、売られた喧嘩を買うってだけでしょ」
「売られた喧嘩かあ、よくおねーさんと戦おうと思うね」
「このゲームがPK有りならとっくの昔に壊滅させてると思うよぉ」
「おねーさん、ゲーム上手だけどそんなにガチガチなんだ」

 バイオレットとマイカで第4エリアの3辺りまでやってきてレベリング中。ももえはこの戦いについてこれないので置いてきた。
 相変わらずの蹴り技、また相変わらずの全身刃物を装備して蹴り飛ばし、切り伏せ、じゃんじゃかモンスターを倒しまくり、ドロップ品を回収していく。
 2人の装備もバイパーと菖蒲、ニーナが頼まれれば作っているのでレア品含めて使わない奴は共有ボックスに突っ込んでほったらかし。あとは頼んで出来上がるのが待つというオートメーション式になっている。

「いやー、ガチでしょー、一緒にやってて『あ、やべえ』って思ったのはゾンビ相手してた時に1体1体確実に首刎ねて退路確保してた時」
「倒したら消えるのにそこまでするんだ……」
「倒したら勝ちって思ってるからボスに強力な攻撃与えながら吹っ飛ぶの見たときも関心したねぇ」
「自爆特攻?」
「そうそう、アカメちゃんの怖い所はそこなんだよねぇ」

 モンスターの首に足を引っ掛け引き倒すと、そのまま捻って首を折るように動いてモンスターを倒す。バイオレットからしたらそうやって確実に仕留めるあんたも大概だって思う訳だが。

「自爆特攻って言うかぁ……『自分がやられてもどうにかできる状況にする』って部分かなぁ、PvP、PvE共に、勝ちに貪欲ってとこ」
「なるほどねぇ……確かにおねーさん、負けるって嫌いそう」

 飛び掛かってきた人型モンスターの両手を2刀で落として、狼狽えた所で大太刀を背中から抜いて上段から一気に振り下ろし。斬ると言うよりも叩き潰す様にしてモンスターを倒す。
 マイカからしたらそうやって倒すのも大概じゃない?って思う訳だが。

「負けるのは大嫌いだねぇ、レースイベントの時はうちのクラン総動員でどうにかこうにかだし、諦めないからめっちゃ苦戦したからねぇ」
「レースイベントは上位陣しか動画になってなかったから見れないのよねー」
「ああ、でも、ももちゃんの配信動画のアーカイブはあるかなぁ」

 しばらく戦い、諸々倒し、一息つけるとヴィエに戻ってクランハウスに帰還する。
 で、すぐにクランの共有ボックスに溜めこんだドロップ品をぶん投げると、アイオン姉妹がちょっとだけ嫌な顔をする。もちろん理由は使わないアイテムは全て雑多に突っ込むせいだ。

「おつおつー」
「もうちょっと回っても良いけど、そろそろくるかなぁ」

『エルスタンに襲撃が予想されています。襲撃開始は2時間後になります』

「ほらきたぁ」
「でもエルスタンだから、どーする?」
「そりゃあ、行くに決まってるよぉ、あたしってアカメちゃんラブだからついてっちゃうしぃ」
「うちのクランはボスにメロメロだねー」
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