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12章

319話 火を付けられる

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「本当に嫌われてるんですね」
「あそこのクランマスターだけにな」

 ドワーフって大体粗暴って言うか、性格に難がある奴多くないか?まともなドワーフ種族ってちんちくりん以外見た事ねえ。こういうのを思い出すたびに何度も言っているが、別に規約違反だったり迷惑行為をしないかぎりは性格に難があろうが、口が悪かろうが、そこはいい。ただ、もうちょっと可愛げのあるドワーフも見てみたいもんだ。

「この界隈、狭くてやんなるわー」
「しょうがないですよ、古参と新規って顔合わせる事ないんですから」
「こら、無視するんじゃない!」

 しゅっしゅとドワーフ特有の短い手を使ってのジャブが私の下腹部にぺちぺちと当てられる。ダメージも無いし衝撃も無ければ何にもないが、絵面がちょっとよろしくない。
 
「って言うか前の大型イベントの時に謝ったじゃないの」
「誠意が足りん、誠意が」
「3回回ってごめんなさいって言えとか言ってたのが誠意を持ちだすのか」

 ぺちぺち叩かれてるので頭を抑え込んで。距離を取らせて空振りさせてみる。そのうち今日はこの辺で許してやるとかいいそうだ。
 それにしてもどうしたらこいつの機嫌は直してくれるのかな。今日に限ってはドラゴン頭の奴がいないから手の施しようがない。
 
「一応ほら、仲直りもかねてきてるわけだしさあ」
「しょーがないなぁ……そろそろ許してやるっ」

 よくもまあ、そんな口を言えるなお前は。頭掴んで左右に振ってやる。

「やめろよー!」
「ごめん、つい憎たらしくて」
「今本音漏れたでしょ!」

 きいーっと拗ねながら腕をぶんぶんと空ぶっている。性格はさておき、ドワーフって可愛いから好きなんだよね。ドラゴニアン選んでるからってのもある気がするけど、小さくて可愛いは正義。

「そのうち捕まえる予定の料理人がきたら本格的に融通するからさあ」
「しこたま買えよ、このやろう」

 素直なやっちゃなあ……。
 って言うかこのやり取りをしている間にファーマークランの他のプレイヤーを見ていたけど、微笑ましく見つめられていた。こういうやり取りが日常茶飯事のようで、愛されてるのか弄られてるのか。幸いなのかどうかは分からないが本人は気にしていない様子。

「それにほら、欲しい物があればうちのバトルジャンキー組は突破力高いからすぐ持ってきてくれるわよ」
「物は言いようですねえ……」
「そこ、煩いわよ」

 犬耳の方を指さしてから口に人差し指を当ててしーっと。
 それにしたって何でこんなやつがファーマー……と、思ったけど、牧場経営するゲームもあるし、ああいう感覚で作りまくれる。そう考えていくとハマる人はがっつりドハマりする内容だからか。アクションゲームとそういう牧場経営の合わさったものは事実、シリーズとしてしっかりあるもんな。

「そういう訳だから今後ともよろしく!」

 これ以上いてもなんかめんどくさそうなので犬耳を引き連れ、有無を言わさずにファーマークランを後にする……やべ、連絡先聞くの忘れた。


 とにかくこれで2クランの顔合わせは出来たから少なからず繋がりは出来た。後ろ盾になってくれるかって言われるとまた別の所だけど、何にせよ悪くない関係性を持たせておくのが大事。
 戦車砲の開発までしなきゃならないのは完全に予想外だし、なんだったら料理できるプレイヤーもさっさと見つけないといけなくなったってのはあるが。

「ギャザラーのとこと知り合いになれなかったのが痛いが、まあいいわ」
「クランハウス=倉庫扱いみたいですから……兄さんのフレンドと僕が繋がってない事もあるんで」

 そりゃそうだ、うちのクラン員の繋がりもどこがどうなっているのかさっぱり分からないから、とんでもない奴とフレンドになっているのもいるかもしれん。だからってクラン員のフレンドまで把握するってなったらそれはそれで気持ち悪いわ。勿論それが兄弟や家族だとしても、そこのプライベートはしっかりするべき。

『ボス、火炎瓶絡みのクレームが来た』
『どういうクレームよ』
『配信や使っている所を見た時よりも威力も範囲も狭いって』
『ボマーの有無は?』
『説明したが、どういう事だって言われたよ』

 ああ、しまった、そっちの対応は失念していた。レシピも材料も簡単だから真似されるのは分かっていたが、うちで販売していない奴のクレームが来るとは。
 今の火炎瓶商売、実のところ色んな奴が手を出していて、私を狙った商人連中以外もちょくちょくと作り始めているうえに、私を恨んでる商人連中に対してのさらにカウンターのように火炎瓶を売っているって話も聞いた。
 つまるところ『私vs商人連中』ではなく『私vs商人連中vs商人連中に敵対vs有象無象』って言う四つ巴くらいの状況になっている。だからこそ、最初に流通させて、一番派手に使って宣伝している私の所に関係ない3陣営の話がやってくるって訳だ。

『うちの火炎瓶数本持たせて、別の所で作った奴だって言っとけ』
『分かった』

 トカゲとの連絡を一度切って大きめにため息を吐き出す。
 こうなってくるとうちで作ったって何かしらの対策を入れて分かりやすくするしかない。ビン側の方に何か細工を入れるか、配信宣伝してる時に特徴の一つや二つ説明するか?どっちにしろ余計な手間を掛けさせてくれるよ、全く。

「どうしたんですか」
「思っていた以上に事業が上手くいってた弊害かな」
「色んなことに手出してますね……」

 そういう色んな事をやるのがこのゲーム含めての醍醐味って話よ。ただその醍醐味を色んな奴がやって、そのとばっちりがこっちにやってきているってだけ。
 リスペクトして真似するのはいいけど、売るなら売るでしっかり商品説明をしたうえで、クレームが付かないような予防線を張るべきだし、他の所に迷惑をかけるなっての。

「まあねえ……ただ、やっぱり相手がいると燃えてくるんだよね、私も」
「その辺は兄さんもそうですが、よくわからないです……」
「そうだなあ……ゴールの見えないマラソンとゴールが明確なマラソン、どっちがいい?」

 そりゃもちろんって顔をするのでそう言う事と指を指して葉巻に火を付け一服。
 こうなったらまたぶっちぎりで目立って私が元祖だって事を見せつけるべきだな。

「あんたのところ、襲撃イベントの順位狙ってる?」
「そんなでもないですけど……」
『あんたの弟また貸しなさい』
『はい、どうぞ』
「じゃあ、またうちのクランで働いてもらうわ、許可貰ったから」
「えっ、いや、何で……!?」
「優秀なヒーラー役ってうちのクランにいないから」

 継戦能力ってのが低いから、HPタンクが欲しくなるんだよね。
 ガンナー派生でアイテムシューター的な銃があればポンコツ辺りに持たせて援護させたりも出来るんだけど、そういうちょっと王道から外れた職ってのはあんまり聞いた事が無い。検証するのも難しいから、そういう変なのが好きな捻くれ者に期待しよう。

「そういう訳だから、宜しく」
「まあ、いいですけど……あんまし無茶させないでくださいよ
「あんたのそう言う所が気に入ってんのよ」

 犬耳わしゃわしゃ弄ってからふいーっと紫煙を吐きだし、自分のクランハウスへと戻る。
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