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12章

318話 タンクの元ネタ

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「どのクランもやっぱりクランハウスを小さくても持つのがいいのかね」
「そりゃそうですよ、便利ですから……あ、ここですよ」

 エルスタンの中央、南東側に向けて少し歩いたところにあるクランハウス。サイズ的にはSか、とにかくため込むってだけならSハウス買って共有ボックス設置しておけば無尽蔵に詰めれるが……あれ、よくよく考えたら個人のアイテムボックスって無限だし、別にクランハウス建ててため込むって必要ないよな。
 とは言え私だって装備と最低限のアイテム用意してギリギリまで採取して帰還して溜めこむってのは、核戦争後の世界で散々やってきたから、分からんでもないけどさ。

「すいませーん」

 クランハウスの扉にノックしている犬耳の後ろで周りをきょろきょろと見渡す。あんまりこっちのほうまで来ないし、街が大きくなったのもあって街並みの確認ってちょっと新鮮だわ。
 何だかんだで色々とやってきたわけだけど、こうしてまったり街中確認するってのもしてなかったなあ……
今日も平和に、屋根の上をプレイヤーが走り回ってらぁ。

 移動スキルかあ、ポンコツを除いたジャンキー連中はその手のスキルも持ってるみたいだし、結構汎用スキルとして存在してるんかね。

「アカメさん、いないみたいです……って何を?」
「こう、壁登り出来るかなーって」

 クランハウスの横にあった2F建てのレンガ造りの民家の壁を踏み上に行けるかどうかを試してみただけ。当たり前だけど出来るわけもなく壁を一回踏むって行為もあって壁ジャンプ見たいな事にはなったけど。それにしても留守ってあるんだな、フレンドリストから連絡してるわけじゃないのは後で文句を言って置こう。

「一応いるって兄さんから聞いてはいたんですけど、とりあえずタンク系クランにいきません?」
「ゲームでの約束ってうっすいからなあ……次はどっち」
「南西側なのでこのまま反対です」
「あー、移動スキルほしいわー」

 街中の転移もあるけど、基本的にフィールドの4方入口の所にしかない。大きくなった街って考えたらやっぱり移動できるスキルが欲しい。
 一応レースイベントで使っていた機体を街中でも使えるらしいから、さくっと入手しておくのもいいかもしれん。結局取る取る言って何にも手付けてないし。

「うちの六脚戦車もそろそろ納車すっかなあ」
「街中でレース機使うのは条件がありますよ……それより早く行きましょう」

 最初はおどおどしていた犬耳も、慣れると結構ずけずけ言ってくるんだよなあ。やっぱりあの犬野郎の弟なだけあるわ。

「やだ、自分から言い出したけど、めんどくさくなってきた」
「そう言わずに、ほら行きますよ」

 たるそうな顔してため息吐いていたらぐいぐいと袖を引っ張られて連れられて行く。


 

 タンクだって言うし、規模的にはそんなに大きくない……なんて思っていたのだが、中規模の程度のクランかな。外見的にはうちと同じレンガ造りの建物で中は結構こざっぱりしている。

「すいませーん!」

 一応犬野郎に言われてるからってのもあってしっかり先導してくれるってのは嬉しい所。私じゃコミュ力全然ないし、会話続けられないから誰かがいると本当に楽だわ。
 チャット入力系の会話ですら語尾に「w」付けたり絵文字付けたりすることもなく淡々とやる方だし、セルフツッコミしてるの見ると寒気すら感じるわ。

「はいはい、何でしょうか」
「今日は紹介したい人がいまして」

 どうも、と会釈しつつ、出てきた人物をちらり。うちにも髭親父がいるけど、あれはどちらかと言えばおっさん。出てきたのはもう爺さんって感じの人。リアルでも爺さんだったらよっぽどのゲーマーだが。

「見た目とステータスは関係ないけど、前にいると心配するわねえ」
「おや……おやおや……」

 当たり障りのない老人と言った感じのキャラモデルで私よりも圧倒的に小さいのが私の事をじいっと見つめてくる。

「お前さん、爆弾を使ってた人じゃろ」
「ん、まあ、大っぴらに使ったのは私かな」
「ふむ、ふむ……ちょっといいかえ?」

 手招きされてクランハウスの地下に誘われる。とりあえずどういう事だろうなと、言う様に犬耳と顔を見合わせてから、その地下室に行く訳だが。タンクはタンクでもタンク《戦車》のほうかい。

「えっと……戦車ですね、これ」
「戦車よねえ……」

 地下1Fに博物館でもできるんじゃないかって位に並べられている文字通りのタンク。ああ、でもよく見たらガワだけ作ってるイミテーションか。

「そっちは趣味で作った物じゃが、3両目以降はちゃんと自走するもんじゃよ」

 まさか何でもできるからってこんなものを作る奴がいるとは……流石に鉄板を組み合わせたものだから戦車名まで出てくるって訳じゃないけど分かってる人が見れば分かるって感じの形にはなっている。私も戦車物のゲームをしたりするから多少なりと知ってはいるけど、なんだったかなあ、これ。

「って言うか戦車なんてあったんですか……?」
「この間のレースイベントでも戦車はあっただろ。私が選択したのも6脚戦車だし、結構マニアックなのもあったじゃないの」
「そう、そこ……内部もしっかり作りこまれているが1人でも操縦できるのが良いんじゃが……」

 なんかまためんどくさい事を言われそうだ。

「砲が、問題でのう……普通の榴弾じゃ面白くなくて」
「火薬は渡せるけど、弾頭まではうちでも作れないわよ」
「銃や爆弾も作ってると聞いて期待したんじゃがなあ……」
「自分達で作りなさいよ、此処まで作れるんだからできるでしょ」

 つまるところ、向こうはうちのクランの技術が欲しくて、たまたま犬野郎と繋がっていたから話としては丁度よかったって事か。都合がよすぎる気がするが、まあいいだろう。

「そういうわけで研究したいアイテムが欲しい、代わりにうちの関係者はお前さんに協力する、どうじゃ?」
「……こっちが欲しいのは金属系素材、アルミやマグネシウムみたいなのあると嬉しいわね」
「ふむ、それじゃあ、伝えておくかの……交渉成立じゃ」

 しょぼくれた爺さんって思ったけど、ゲーム慣れしているわ。中身が普通の人かもしれないけど、こういう話や流れに持って行けるって単純に感心する。

「んじゃ、フレンド飛ばしてっと」
「ほいほい……儂は斎藤じゃ」

 爺は爺だけど、こういう感じを見るにマムシって事か。まあ横の繋がりが出来るし、細かい事は丸めてぽい。とりあえずクランハウスの入口まで戻って見送られるので手を振ってその場を後にする時に一つ思い出す。

「私はドイツ戦車の方が好きだわ」
「……用意しておこう」

 とりあえず話に付いてこれなくなっていた犬耳を引き連れてクランハウスを後にする。





「最後はファーマーですね」
「あんまり私良い顔されてないのよねえ、あそこの連中に」
「何かしたんですか?」
「爆破しただけって言うのにあいつら根に持ちすぎなのよ」

 そろそろ許してくれてもいいんだけどなあ。あいつら根に持ち過ぎだよ。
 って言うか前に一回謝ったと思うから、そろそろ時効だよ、時効。

「って言うかファーマーは良いかなあ……一応知り合いいるし、そいつと話すよ」
「良いから行きますよ!」

 責任感の強い弟を持ったらこんな風になるんだろうなあ……。
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