上 下
340 / 622
12章

315話 戦争は変わった

しおりを挟む
 襲撃イベントの回数も中々増えているのでプレイヤー全体の練度も上がり、エリアをガンガン突破されるって事も無くなってきた。何よりも私がばら撒いている火炎瓶と焙烙玉がゆっくりだが浸透しているってのが確認できている。
 火さえつけられれば安定してダメージや状態異常、範囲攻撃が出せるんだから、悪い事が無いってのは大きい。低レベルの初心者でも捕まえて焙烙玉投げ込ませてパワーレベリングさせるってのも面白いかもしれんな。
 
「そういや今人口どれくらいいるんだったかな」

 初期生産で5万、追加生産で確か本体同梱が5万、このゲームに対応しているHMDならDL版も発売されたって言うから最低でも10万はいるとしても人口は増加傾向、今の所対抗馬として別のタイトルもあるけど新作大型タイトルなだけあるし、今後次第だなあ。
 一気に人口増やしてサーバーに負荷かけまくって、増強からの過疎化で設備投資分の赤字を出してそこからサービス終了って言う悪循環になるくらいなら徐々に増やして状況を見る方が圧倒的にいい。

「うちも新人育成考えるかなぁ……いや、ダメか、確実に道を外しておかしいことになる」

 そもそも私は良いとして、酒狂い、銃器狂い、裁縫狂い、性格ねじ曲がり、配信ジャンキー、バトルジャンキー×2……なんだ、こうやって並べていったら私が一番まともじゃないか、しっかりしないといけないなー。

「と、今回はそう言う事じゃなくてだな」

 今回目的としているのは火炎瓶、焙烙玉を卸したクランやプレイヤーに使用感を聞いて、どういう感じかを聞き取りすることにある。アフターサービスのしっかりした営業ってのもこの業界で生き残る秘訣。まあ、業界って言うかゲームで、私に売られた喧嘩に勝つ為だけど。

 それにしてもこうやって前線手前で移動しているだけで、あちこちで火の手があがり、時折大きい炸裂音が響く。うーん、この戦場で嗅ぐ、火薬と燃える匂い、たまらんな。





「毎度様」
「丁度良かった、火炎瓶あるかな?」
「例の量が少ない火炎瓶も使い切ったの?」

 インベントリを開き、在庫を確認しながら用意。もう稼ぐことにシフトしているから上位陣から絞れるだけ絞れればそれでいいだろう。

「やっぱり量が少ないと範囲がな、2本使って同じ範囲をカバーするのも手数が増えるからいまいちだ」
「狭い所で投げるなら良いんだろうけど、戦場が広いからそうなるわな」

 火炎瓶のアイテムデータを取り出して何ダース必要か聞いて、その分を取り出しトレード。ここのクランは気前がいいから結構な数を注文してくれるのが非常にいい。何だかんだであの犬野郎の所と同じ位に大きく強い所だって知るのはまた別の機会になるんだが。

「焙烙玉はいる?」
「例の爆弾か……試供品はないのか」
「火薬の末端価格が高いから試供品あげても良いけど2個までかな」

 とりあえずその2個分を渡すと物珍しそうな顔をし、手に取って回しながら見ているのでもう1つ取り出して前線の方に向かう。

「使い方はまあ火付けて投げるだけ、この導火線の長さだと大体火付けて10秒ってとこ」
「威力は?」
「見た方が早いわ」

 生活火魔法で着火し、投擲でモンスターの所へオーバースローでしゅぱっと投げ込む。

「あー、やべ、私スキルついてるから威力高いわ」

 あんまり爆破物って使ってないから結構忘れがちになるのよね、ボマー。限定的過ぎるスキルだから補正も強いってのは分かる。とりあえず炸裂すると共に数匹のモンスターが纏めて吹っ飛んでポリゴン状になって消失していく様を2人揃って涼しい顔をしながら眺める。

「ちなみにこれ1つどれくらいなんだ?」
「えーっと、火薬1gが今4kだから……1個9万かな」
「大体20gであの威力なのか?」
「ボマーなしだともうちょっと威力は低いけど、結構なダメージは出るわ」
「中々凶悪な値段と威力だが、やっぱり値段がなあ」
「結構ギリだからこれ以上下げるはちょっとねえ」

 って言うけど、元値は結構安かったりする。硝石の値段もかなり落ち着いてきてるしガンナーも増えているので火薬自体は珍しくなくなっている……のだが、火薬をそのまま爆薬として使うガンナーってのは結構少ない。
 一応これも理由がちゃんとあって、ガンナーってやっぱり自分の火力を出す為には銃弾を揃えなきゃいけないわけで、20gだとケチれば10発分にはなるのに、1発の威力を求めて爆弾を作るのは少ない。勿論ガンナー以外のプレイヤーが爆弾は作る事もあるが、やはり大量生産向けのアイテムではないので趣味の範囲が多い。なので実用レベルの爆弾を作って売るってだけでうちのクランは珍しい部類に入るって事だ。

「とりあえず3個貰うかな」
「毎度あり」

 27万Zの硬貨データを貰って焙烙玉3個を渡してトレード終了。導火線の弄り方や投げる時の注意をレクチャーし、その場を後にする。

 それにしても戦い方が変わって来てるよなあ。個々で撃破の速い動きが出来るならさくさく倒して回るってのが基本だけどそうじゃない場合はとにかく範囲攻撃かまして処理していくのが基本戦術。で、そこで問題になってくるのがどうしても範囲攻撃を持てない職。
 地味に売れ行きが良いのがヒーラーやバフを掛ける援護職や、純戦闘職じゃない生産系の連中も結構使ってるって聞いている。もう何でもかんでも聞きまくってるな、最近の私って。

『アカメさんいますか?』
『あんたから連絡なんて珍しいわね』

 葉巻に着火して次の所に行こうと思っていた時に珍しくちんちくりんから連絡がくる。暫くぶりに連絡したような気がするなあ。

『投げ物売ってるって聞いたんですけど、買えますか?』
『場所はどこ?』
『北の3-3ですね』

 今日は東にいるから一旦移動しなきゃならんのは多少面倒くさいが、折角の頼み事だし向かってやろう。何だかんだでゲーム初期からの付き合いだからちょっとはおまけしてやるか。

 



 移動自体は多少面倒くさいけど、襲撃中は余計なモンスターが少なくなっているのでエリアの先に進みやすいってのはメリットの1つ。ただ、襲撃中に第4の街まで行ってやろうとオーラモンスターの集団に突っ込んで行った時は死ぬかと思った。って言うか死んだ。楽して先に進むってのはダメって事。

「営業回りするってのも大変だよ」
「相変わらず良い恰好してますね」
「あんたと初めて会った時はキャットスーツだったかしらね」

 インベントリから火炎瓶と焙烙玉を取り出し見せながら、ちょっとした思い出話に花を咲かせる。あの時はアンデッド系モンスターにビビり倒してたってのに偉くなったもんだ。

「それにしても搦め手使うなんて珍しいんじゃないの」
「えっと、やっぱりここまで来るとレベルの低いメンバーが付いてこれない事が多くて」
「そらそうでしょ、此処のレベルアベレージ結構高いし、HPは落ちてるとは言え強化モンスターよ」
「なので援護をしてもらう事で立ち回り含めて勉強してもらおうと」

 レベルの高い相手に対しても火炎瓶って耐性がなかったら分断できるし、焙烙玉は安定したダメージを取れるって、どこで知ったのやら……って思ったけど、対人の時に思いっきりぶつけてたわ。

「変に早めにレベル上げるとスキル覚えなくて苦労しない?」
「そうなんですけどね、レベルが足りないから連れていけないってそれもちょっと……流石にヴィエまではいきませんけど」
「うちの連中は私の事置いてさっさと行っちゃうわね」

 けらけらと軽く笑いながら何本かの火炎瓶と焙烙玉を渡す。顔なじみって事で多少なりと融通するけど、知ってなきゃ渡してないからな。

「パイプやめたんですか」
「作成の手間を省いたって言いなさい?使い方は分かるだろうし、威力も知ってるだろうから、それで試して上手く行くなら購入でいい?」
「アカメさんは相変わらずですね」
「会った時からかわんないって素敵でしょ」
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~

夜桜てる
SF
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるFUTURO発売から早二年。 多くの人々の希望を受け、遂に発売された世界初のVRMMO『Never Dream Online』 一人の男子高校生である朝倉奈月は、後輩でありβ版参加勢である梨原実夜と共にNDOを始める。 主人公が後輩女子とイチャイチャしつつも、とにかくVRゲームを楽しみ尽くす!! 小説家になろうからの転載です。

Free Emblem On-line

ユキさん
ファンタジー
今の世の中、ゲームと言えばVRゲームが主流であり人々は数多のVRゲームに魅了されていく。そんなVRゲームの中で待望されていたタイトルがβテストを経て、ついに発売されたのだった。 VRMMO『Free Emblem Online』 通称『F.E.O』 自由過ぎることが売りのこのゲームを、「あんちゃんも気に入ると思うよ~。だから…ね? 一緒にやろうぜぃ♪」とのことで、βテスターの妹より一式を渡される。妹より渡された『F.E.O』、仕事もあるが…、「折角だし、やってみるとしようか。」圧倒的な世界に驚きながらも、MMO初心者である男が自由気ままに『F.E.O』を楽しむ。 ソロでユニークモンスターを討伐、武器防具やアイテムも他の追随を許さない、それでいてPCよりもNPCと仲が良い変わり者。 そんな強面悪党顔の初心者が冒険や生産においてその名を轟かし、本人の知らぬ間に世界を引っ張る存在となっていく。 なろうにも投稿してあります。だいぶ前の未完ですがね。

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...