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12章

308話 長い付き合い

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 火炎瓶ビジネス。ある意味では炎上商法って……これ前にも言ったな。
 西エリア3-1の襲撃もぎりぎりの所で持ちこたえているが、失敗ってのは癪なので多少は前に出て前線構築する方が……と考えたのだが、プレイヤー全体のケツに火が付いている状態で前線はなかなか強いから私一人いなくても別に問題はなかろうよ。
 やっぱりゲームをやっていればポンコツですら強くなる、あのバトルジャンキーに至ってはもうよくわからん位に強くなってるって言われている。私の目の前じゃとにかく手のかかる妹くらいにしか感じないので、強いという想像ってのが全くもって出来ない。

「いつも一緒にいるけど、ジャンキーってどれくらい強いんだ?」
「んー、蹴り技主体の格闘職としては最強格じゃないかな、そろそろ覚える蹴り技が無いって言ってたくらいだし」
「どんだけやりこんでんのよ、あいつは」

 うちのクラン員がどれくらい強いのかって実は知らないのよね。大雑把に強いってのは分かるんだけど、どの程度の実力で何が出来るのかを分かっていない。今まで何度か組んで無茶ぶりを要求してそれをこなしているから強いのはわかるんだけど。

「マイカってβからずっとやってるのもあるし、あんな感じでしょ?だからおねーさんが雑に扱うの、楽しいってさ」
「ふーむ、変な奴ばっかりだな」

 葉巻を揺らしながらそんなことを呟き、また別のクランを後にする。そろそろ火炎瓶のストックも無いし、これくらいで引き上げかな。
 
「とりあえず今日の売り込みはこんな所だから、前線行ってひと暴れでもする?」
「それもいいけど、まだクランハウスに火炎瓶なかったっけ」
「あるにはあるけど、そんなにぼんぼんばら撒く必要も無いし、試供品を渡した所が使ってくれれば口コミで広がるって思ってねー」
「そんなに楽観的でいいの?」
「これくらい楽観的に構えておいた方がうまく行くもんよ」

 ぷあーっと葉巻の紫煙を吐きだしながらクランの連中がいる所に向かう。
 補給も済ませて西に来ているって報告も貰ったし、後はどの辺で戦っているかってのが問題か。西の戦場にまで来ているのはジャンキー、ポンコツ、金髪エルフの3人。
 それにしても何で金髪エルフまできてるのやら、裁縫ばっかりやってるのに何を思って……って言うかあいつドルイテンまで来れたんだな。

「して、首尾は」
「ボスぅ!マイカさんが無茶凸ばっかすんだけどぉ!」
「はいはい……金髪エルフが前出るなんて珍しいわね」
「その突撃してる人が新しい防具を着てるので、それの性能確認ですよ」

 ポンコツを片手間に宥めつつ、やっていることをなるほどと納得しながら聞いていく。結局実地で直に確認した方が後で報告されるよりも分かりやすいって事か。まあ、何でもそうだけど、やっぱり聞いたりなんだりするより自分で試したり、見る方が良いに決まってる。悪い意味ではなく、いい意味でゲーム脳に染まってきたな。

「で、どんな防具?」
「拘束衣ですね」
「またマニアックなもんを拵えたなあ……」
「デザインは可愛いですよ?」

 ちらっと暴れまわっているジャンキーの方を見ると、腕を拘束していて余っている袖の部分がマフラーの様にはためいて炎の様に蠢いている。

「何でわざわざあんなことしてるん?」
「料理アイテムが味をマイナス方向に振り切るとプラス能力が付くのは」
「知ってる、産業廃棄物食ってるからよく知ってる」
「それと一緒で、防具もマイナスの効果をワザと付けてプラスの効果を付与してるんですよ」

 蹴り技しか使わないから、腕を封じてその分の能力を上げるための服って事か。全体的に底上げするって方向しか思いつかなかったから体の一部を制限して別の能力を上げるって発想は無かったな。

「あの防具だと腕を使えない代わりに、足技スキルの威力上昇って感じです」
「面白い事考えるわねえ……」
「考えたのはマイカさんですよ」

 戦い事にばっかりあいつは頭が回ってるのな。

「ガンナーだとなにかなあ……目の1つ封じてみる?」
「やってみる価値はあるかもしれんけど、プラス効果が分からんって」
「流石にやってみないと分からないですけど、試すなら試すで良いですよ」

 そういえば余ってる眼帯がクラン共有のアイテムボックスに突っ込んだまんまだったな。あれを使ってもらうかね。

「それにしてもぎりぎりまで攻められている割に余裕っぽいけど、何かあったのか」
「いやー?単純に他のプレイヤーが頑張ってるみたい」

 新しいマガジンに弾を込めながら冷静に状況を見極められるようになっているポンコツ、何か寂しいな……一発引っぱたいておこう。

「いたーい!」
「おねーさん、可愛くないからって引っぱたくのはどーなのよ」
「ポンコツのポンコツ部分が無くなったら魅力半減じゃん」

 あー、確かにと紫髪と金髪エルフが頷いているのでムキになって怒るポンコツを眺めながら暴れまわっているジャンキーの方をちらっと見やる。それにしても腕を使えないって制限だけであれだけ暴れまわれるってどんだけ強いんだろうか。

「たまにはジャンキーと一緒に前出るか」
「最近ボス戦ってるところ見てないなあ」
「私もあんまり見てない」
「他の人が戦ってるのすら見た事ないです」

 揺らしていた葉巻の紫煙をいつものようにため息交じりに吐き出しつつジャンキーの所へと向かう。





「生きてるかー」
「生きてるよぉ」

 後ろはあの3人に任せたまま、ジャンキーの少し後ろの辺りまでやって来てから声を掛ける。久々にジャンキーの立ち回りを近くで見るわけだがすげえな、バトルセンスの塊だなこいつ。

「っと、どーしたのぉ?」
「たまには近くで戦おうって思ったんだけどな」

 モンスターを踏み出しにして後方2回転でこっちに戻って着地すると楽しそうにするジャンキー、うさ耳付けたから楽しそうにそれがぴょこぴょこと動いている。
 
「私がいなくても別に苦戦する様子ってのはなさそうだけどね」

 踏み台にしたモンスターがよろけていたのでCHを抜き打ちで一発入れて撃破、すぐさま装填して次の銃弾を入れている間に、飛び掛かってくるモンスターはジャンキーがカットイン、左足で攻撃を受け止めてからそこを軸にして右足で顔面を蹴りつけて距離を開けさせる。
 勿論そこで距離の開いた所をCHで追撃、ダメージを与えて叫び声を上げている所にジャンキーがさらに追撃、すげーな、空中で2連撃までは見たけど踏み台にして3連続蹴り浴びせてるわ。

「いやー、そんな事ないよぉ?アカメちゃんとやるのたのしーし?」
「はいはい、楽しい楽しい」
「もぉー、本当なのにぃ」

 バシュっと音を立て中折れ排莢、装填の流れを軽口叩きながら行い、空いた方の手でジャンキーの着地を狙ってきたモンスターに対して手裏剣と苦無1本ずつで足止め、その足止めしたのを身を捻りダボついた袖で目の辺りにぶつけて視界を防ぐと共に横回転からの蹴り下ろし。

「えぐい攻撃するわね」
「アカメちゃんも手増えてるじゃんかぁ」

 ゆっくり歩きながらしっかり装填しながら少し後ろに下がり囲まれず、ジャンキーの邪魔しない位置に動きながら紫煙で輪っかを作って遊ぶ。

「腕使えないだけで威力そんなに上がる物なの?」
「えーっと、ちょっとまってね」

 そういや腕使えないのにどうやってメニュー出すんだ?って思ったら、音声と視認でちゃんと操作できている。やっぱこういうちょっとした変化にも付いて行けるのがゲームセンスか。私は私でコントローラーの設定ちょっと変えたら全然付いて行けない人間なので素直にすげえわ。

「足技の威力2倍だって書いてあるねぇ、代わりに腕を使う装備、アイテム、スキル、魔法が全部禁止」
「ガンナーじゃ使えないなあ、それ……」
「あたしが蹴り技しか使わないからこそだし、普通の人じゃ無理じゃないかなぁ、っと」

 次に襲い掛かってくるモンスターをサマーソルトで反撃すると共に後ろに飛んでくるので、下に潜って肩を足場に。
 人の肩で飛び上がるのでそれに合わせて少し上に力を込めてやると高く飛び、落ちてくる勢いのママ思い切りモンスターの頭を踏みつけて撃破。

「そう言う事してくれるから面白いだよねぇ」
「何だかんだで長い付き合いだろ」

 踏まれた肩を払いながら、まだそれなりな数がいるモンスターを眺めてふいーっとまた一息。

「やっぱりもうちょっと威厳のある強さを持った方がいいかね
「十分強いのにぃ」
「お飾りってのは好きじゃないのよ、私って」

 まだ銃買い込んでないし、報告もまだだしな。
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