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11章

301話 虹色の不味さ

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 世の中にはどうしても相容れない存在ってのがいるわけよ。
 物凄い有名な所で言えば、きのこたけのこ戦争だよね、もう50年以上争っている中々長い戦争だし、これからも絶対に終結しない戦争だよなあ。この手の話題の時に「いや、私は〇〇派」って第三勢力を言うやつは黙ってろと思う。
 で、何でこういう話になっているかと言うと、料理系プレイヤーのガチ度が予想以上に高すぎるって事がある。このゲームで言えば対人に関しては闘技場のみではあるのだが、それ以外にも戦う方法と言うか、争う方法ってのはある。そりゃあ、もう料理漫画って大体バトルしてるもんだよね。
 
 露店街はいつも通り出来ているのだが、街の拡大、人口増加、料理系アイテムのアップデートに伴い、露店街が発展、料理専門の露店街が形成されている事になった……らしい。
 おうおう、お前ら露店を出している連中は私に感謝すべきなんだからな。今までの煩雑な露店街じゃなくて、しっかりと区画整備とルールが出来て分かりやすく、見やすくなったんだから。そう思えばあの商人連中にも感謝しないと行けないな。あ、やっべー、あいつら垢BANされてたわ。てへぺろてへぺろ。

「あ、あの技は……!」
「知っているのか、お前!」
「6本の包丁を使い、瞬時に食材を処理するという……」

 なんかやってるわー、アホな事やってるわー。
 路上で自分たちの料理スキルを使って野外調理で、多分無駄な動きなんだろうけど、そういうのを披露しながらどっちが美味い料理を作れるかを競っている。ちなみに採点と言うか、評価するのは周りのギャラリー1人に向けて、味と効果で勝負するらしい。
 味は分かるが効果ってのはどうなんだろうな、いくら美味しくても効果が悪かったら負けって事だし、幾ら不味くても効果がえげつなかったら勝てるって事なのか……あれ、勝負としては結構真っ当な所だな、ぶっちぎりの効果かぶっちぎりの美味さ、両方あれば他は蹂躙出来る。

「意外と面白いか……?」

 向こうでは相変わらずクッキングバトルをしているので面白そうだから本格的な観戦。ただ単に食材を切っているだけなのにエフェクトの付いた派手なスキルで切り刻む必要ってのはあるのか?いや、そもそも、普通に料理して材料の組み合わせをうまい料理を作っていくってのはダメなのか。

「ねえ、何であんなに派手にやってんの?」
「……何でだろうな」

 近くにいた他のプレイヤーに聞いてみるが、何となく微妙な話だな、と考え込んでいる。
 美味くて有用ってだけの勝敗でいいんだったらパフォーマンスの意味って話だからなあ……あれが売上勝負って言うのならパフォーマンスで気を引いて、売り上げを伸ばすってならまだ分かる。単純に見てて「すげえ」って思えるのはあるけど、やっぱり意味はあんましないよな。

 そんな事を思っていたら料理が出来たのでギャラリーがそれを食べに行くのを見るので、それに合わせて私もメニューを覗いてどんなものかを確認する。
 なるほど、露店に出したものは幾らでも食べられる上に、テイクアウトも自由自在。その代わりに新しいメニューを入れるとゲーム内で4日間保存されて、その期間が過ぎると自動的に消去されるみたいだ。しっかり購入可能時間も書いてあるのでそう言う事なんだろ。
 でもこれはいいな、一回作って放り込んで置いたら後はガンガンメニューを作って足していけばいいって訳じゃなくて、ある程度能動的に動かないと行けないってのはゲームをやらせようとする意志が見える。
 まあ、そんな運営側の事なんて知ったこっちゃないので、メニューから派手に作っていた料理を選択すると、手元に購入した料理が現れる。
 
「あれだけやって串焼きやんけ!」

 ちなみにメニュー名も凄い長い物だったのだが、要約すると肉串になるわ。とりあえずもっちゃもっちゃと購入した肉串を食べてみる。うん、普通にうまいな、効果はStr3アップで持続時間がゲーム内1時間、結構使える料理アイテムだ。

「初めて使ってみたけど面白いシステムになったなあ」

 あの頃はとりえあずもしゃもしゃと適当に満腹度を回復してあのころと比べたらよっぽど優遇されている。Str3アップだって言ってみたらLv3分のステータスだし、料理中のステータスアップのバフで無理やり上の装備を使うって事も出来るみたいだ。こんな事知っていたら、わざわざStrにステ振ってCHを装備する事をしなくても良かったのかな。

「上手いけど、私の欲しい物じゃないから使わないのよねー」

 食べ終わった肉の刺さった串を口に咥えて揺らして次の露店を見て回る。



「耐性アップは中々見つからないなあ……ある事はあったけど、デメリットありきだし」

 何個か見つけた耐性アップの料理、例えば火属性に耐性を得るものだが、15秒に1回持続ダメージで1HP入る代わりに強めの耐性を得る事が出来る。そりゃあ食べたらすぐに強くなりますってそんな都合の良い事ではないって事だな。

「状態異常系がさっぱり見つからないのがなあ……あるとは思うんだけど」

 結構な数の露店を見てきたが、大体は攻撃防御を上げるもの、ちょっと珍しい所でステータスアップって所かな。上り幅的には1~5で上り幅が大きいほど価格は高く、数もあまり見かけない。当たり前っちゃ当たり前だが。
 で、さらに言えばこのゲームの料理システムも中々に面白い。色々な素材を使えば美味い料理を作れるのだが、代わりに上げられる能力幅が弱くなる。逆に不味い料理を敢えて作る事で上げられる能力を高めることができる。
 なので料理系プレイヤーは美味しく、強い料理を作るのに試行錯誤しているという事になる。あのパフォーマンスも効果を維持させつつ、うまい料理にする為に必要な物らしい。ほんとかどうかは知らんが。

「別に美味い料理じゃなくてもいいんだけどなあ」

 どっちかって言うと性能や効果重視だから美味しさは問わない。いや、そりゃ美味しい物を食べたいってのはあるけど、其れで効果が悪くなるっていうなら目を瞑るしかない。
 ふいーっとため息を吐き出していると、また料理バトルの様な事を始めるのでまったり観戦。

 今見ている二人の内一人、鍋に色々突っ込みまくって圧力を掛けているっぽい?何か固形のブロック状の物をごろんと取り出すと、食べやすい大きさにカットして終わり。
 そして反対側の相手はスキルを使って派手なパフォーマンスをしながら色とりどりの素材を使ってそりゃあもう、凄まじい勢いで料理を完成させていく。

 私としては前者の雑な感じ、嫌いじゃない。むしろ色々と作業工程を吹っ飛ばしてカロリーがあるメイトにしている感じは何だったら効率的で素晴らしい。ただ、見た感じで言えばクッソ不味いと思うわ。
 それにしてもこの料理バトル、その場で露店を展開、売上勝負!って感じなんだろうなあ。平和な世の中なこって。

 とりあえず派手にパフォーマンスを行っていた料理を購入して一口、美味し。あれだけやっておいてサンドイッチってのがちょっと笑えるが、中々いい味。効果はInt3 Res1アップで中々に優秀。やっぱり色々とやっている方が良い効果が付くみたいだが……私には不要な物なので無しだわ。

 で、その反対側、機能性を求めまくった素材のごった煮ブロックを一口。
 うん、なんだろうな、形容しがたい、味の調和も取れていないし、食べるところが変わると味が不愉快に変わるって言う、ちぐはぐな感じ。思わず眉間に皺が寄るほどの苦みが来たと思うと、口を尖らせるような酸っぱさが来たり、虹色の不味さが走って来てパンチを食らわしてくるような感じ。問題の効能自体は全ステ1Up、そしてなおかつHPの自動回復速度上昇付き。但し微妙な味。

「うっわ、最初の方に食ってたMRE思い出すわ……いや、あれと一緒か……」

 しっかり食べきってから味の感想を述べているとゲロまずブロックを作っていた驚いた顔をしている。
 まさかあんなの食べてたのかって顔だな。満腹度を上げるだけとは言えあんなの好き好んで食べていたような奴は私くらいなもんだし。

「味は悪いけど、こういう効果の方が使い道はあるわ」

 ちなみにだが料理効果は最後に食べた物が上書きされるのでIntの上がっていた料理の方に関してはとっくに消えている。

「……あんた、MRE食ってたのか」
「アプデで満腹度がなくなるまではねー、1個10Zくらいで投げ売りされてたから重宝してたわ」

 効果も悪くないし、どのプレイヤーでも使えるし、何一つ腐る事がない効果だからこれも悪くはないんだけどさ。

「産業廃棄物って言われたかな、あれは」
「まあ不味いってのは確かだけど、安価で効果も上々だったし嫌いじゃなかったわ」
「MRE御用達とは恐れ入った」
「露店が雑に並べてあった時だし、結構前なんだけど。気が付いてたら無くなってたのよね、MRE大量に売っていた露店」

 何個か購入しようか考えつつ、やっぱり耐性を上げるものじゃないからパスだな、と考えていたら。料理人がくつくつと笑いを押さえている。

「なあ、あんた、欲しい料理があるのか?」
「よくわかったわねえ」
「此処に来る奴なんて十中八九そうだよ……何が欲しいんだ」
「状態異常全般かしらねー……魔法防御も欲しいけど、そっちは急ぎじゃないし」
「分かった、明日までにどうにか出来ると思う、来れるか?」
「別に良いけど、初対面の相手にそこまですると裏が怖いわねー」

 葉巻を咥えながら相手を見据えると、からからとした笑い声をあげた後に口角を上げる。

「産業廃棄物の処理をしてくれた感謝だよ」

 なんのこっちゃ。
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