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11章

286話 晴れて忍者

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 それにしたって途中で強化されるってのは完全に予想外……でもなかったが、どのタイミングでされるか分からないのはちょっと今後の狩りに関して問題が出てくる気がする。

 糸玉、毒玉、前足2本使っての爪攻撃、タックルもしてくるし、噛みつきもあるな。攻撃バリエーションが増えるってのはいいんだが、単純に硬くもなるしで厄介な相手だ。
 
「さくーっと倒せないのは、消費がなあ」

 そんな余裕もない癖によく考えつくもんだよ、私は。
 オーラ付きの土蜘蛛になってからかれこれ数分戦って、隙を見ては投げ、避け重視でやってきたが、そろそろ疲れてきたし、消費も激しいし、ろくなことが無い。
 
「そろそろ、死んどけっ!」

 両手に爆裂手裏剣を構え、逃げている途中で振り向きながら投擲。足の根本辺りに2発分突き刺さると共に、爆発。もう、大分使いこんだおかげもあって、大体の爆発時間も分かるようになったのは嬉しいのか悲しいのか。
 聞きなれた爆発音とともに「ギィー」と鳴き声なのかよくわからない声を聞きつつ、MPポーションを挟んで追加の爆裂手裏剣。もう油断はしないと言うか、やはり確実に倒した事が確認できない限りは安心しない。
 そして二度目の爆発が起きて、相変わらずの爆炎、土煙、とにかくもくもく状態な所からそれなりに距離を取って忍者刀を前に構えてトラッカーを使う。
 で、暫く見据えていたらポリゴン状に消失していくので、大きく息を吐き出しつつ、構えを解かずに煙が張れて倒したのをもう一度確認してから、二回目の大きいため息を吐き出して構えを下ろす。

「戦い方がワンパターンすぎるのはもうちょっとどうにかしたい」

 その場に座り込んで息を整え投げ物ポーチの中身を確認。あと10枚も爆裂手裏剣が無いのでこの辺で切り上げて戻るか。
 それにワンパターンで倒したとはいえ、勝ちは勝ちなので良し。レベルも上がったし、打剣も何か知らんがぽろっと手に入った。打剣を取れた時のアンロック文言は『規定条件を達成』だったので投げ物で倒すって条件だったかもしれない。
 が、ぶっちゃけそんな事はどうでも良くて、手に入った事の方が大事になる。
 そういう訳で補給もかねて一旦ドルイテンに帰還。



「なーんか、人多いわね……」

 北口から転移地点の方にぷらぷらと歩きつつ、他プレイヤーを見ながらいつもと言うかさっきと違う状況を見ながら少し思案。情報クランから何かしらの事漏れたか?
 ま、いいや、どうせここで悩んだり考えても私の狩りに影響もないし、そんな事より打剣とろーぜ。

 ドルイテンから直通クランハウスで、いつもの2Fに戻ったら椅子に座って葉巻を口に咥える。と、すぐさま火を付けにくるシオン。
 
「……誰も出迎え出来なかったらどうするの?」
「そんな事はありえません、マスターアカメ様が設定した通りの配置が守られていますので絶対に誰かがいます」

 無表情ではあるが、得意げな顔をしている……気がする。
 とりあえず何回かわしゃわしゃと撫でまわしてやってから葉巻を堪能しつつ、スキルメニューを開いて打剣を取るとしよう。

「ボスなにやってん?」
「忍者の成果をあげてんの」

 いつになくボロボロになっているようなポンコツピンクがふいーっと一息入れながら私の後ろから覗いてくる。ちなみに第三者が人のメニュー画面を見てもウインドウを開いているってだけ認識されるので、どういう事をしているかってのは分からない。

 それにしても、人の座っている椅子、しかも背もたれの所にみんなして寄りかかるのは何かあるのかね。正面からいきなり出てくるよりは全然良いんだけどさ。
 
 ぎしぎしと二人分の体重を支えて軋んでいる椅子の音を聞きながら、スキル振りタイムよ。
 今回は打剣のみなので、さくっと一気にレベルマックス。投擲と打剣は別物として扱われているので、三度撃ちのように、スキル自体が新しい物に切り替わると言う訳ではなかった。が、この辺は読み通りではある。
 投擲に関しては投げる物が正確に素早く投げられるというものであって、そこらへんに転がっている石だったり、手持ちの武器にも適用がされる。
 で、打剣に関しては手裏剣や苦無、これぞ忍者って感じの飛び道具に関してプラス補正が掛かるので、別物って扱いになる。

「何かスキル上げたっしょ」
「そうよー、やっとやりたい事の1つが片付いたって所」
「あー、ガンナーの弱い所を補うって話だっけか……ボス別に弱くないから良いんじゃないの?」
「弱くないから取らないじゃなくて、さらに強くなるために取るのよ」

 
スキル名:打剣 レベル:5(MAX)
詳細:【パッシブ】
  :手裏剣、苦無種の道具を投げる際に正確かつ素早く遠く投げられる
  :攻撃+15 命中+15上昇補正有り
備考:変則的な打ち方の場合のマイナス補正を打消し
  :手裏剣苦無種の扱いが上手くなる


 中々悪くない。あくまでも投擲の強化派生だが、これでさらに打ち易くなると言うのであればそれで良し。ついでにメイン職をガンナーにしようと思ったが、もう少し試してSP稼いでからでも遅くないな。
 とりあえずインベントリから手裏剣を一枚取り出してしゅぱっと上に回転を掛けながら浮かして、落ちてくるのをキャッチ。
 その様子を見て小さく拍手をしているシオンを見てから少し得意げな顔をしてみる。

「ボス器用だねぇ」
「スキルのおかげだって……そーいや、あんたに貸してたライフル、どうだったのよ」
「あー、あれ……」
「壊したならまだ許してやるけど、無くしたりしたらどうなるか分かってんでしょうね」

 しゅるるるっと音をさせた手裏剣を上にあげて、キャッチするのを繰り返しつつ、ちらりと横にいるポンコツピンクを見つめる。

「いやいやいや、私がポンコツだからってそれは酷くない!?」
「やりそうだから先に釘刺したのよ」
「ちゃんと手元にあるし、撃てるってば!ただ、配信する時に映えるからさぁ、もーちょっと使いたいんだよね」
「棒術覚えて振り回しながら撃ってる何て事やってんじゃないでしょうね」
「……知ってた?」

 こいつの配信アーカイブはログアウトした時や、仕事の休憩時間の時にちょくちょく見たのだが、サブ職で格闘系を取っているのもあって、棒術を使ってあのデカブツライフルを振り回しつつ、撃っていたのを見つけたってだけだ。
 確かに棒状で長いからって転用できるとは思ってなかったので意外な使い方と感心したくらいなのだがな。

「そんなにあれ欲しいなら金出しなさい、金」
「だからイベントポイント溜まったら新品渡すから、ちょーだいー?」
「しょうがないわねー……ちゃんと同じもので返しなさいよ」
「ボスやっさしいー」

 背もたれの上で動くのでぎしぎしと椅子が悲鳴を上げるように軋む。
 ええい、鬱陶しい奴め。

「私に借りを作ると大きいわよ」
「でもちゃんと返せば優しいじゃん?」

 ぷにぷにっと私の頬っぺたを突いてくるのでため息を吐き出しつつもある程度好きにさせる。
 何となくシオンが羨ましそうに此方を見ているきがするのだが、こんなに感情を出すようなメイドロボじゃなかった気がする。

「それじゃあとりあえず実験台になって貰おうかしらね」
「えー……ボスって対人ガチじゃんか」
「それで借り1つチャラにしてやるんだから安いでしょ」

 配信もしていいからと付け加えたらすぐに喜んで尻尾を振ってくる。

「馬鹿な奴だぜ」
「んー?」
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