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11章

283話 無くなった有給パワー

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 T2Wのサービス開始から一ヶ月ちょい。
 私の有休パワーも使い切り、夕方~深夜くらいまでしかログインできない状況になってしまった。こういう時に限っては海外の労働環境が羨ましい。
 それでも連続ログインと言うか続けてゲーム自体はやっているので、大きく突き放されたりはしない状況ではある。
 それと合わせてこのゲームが何でT2RじゃなくてT2Wと表記されているかってのも運営としての皮肉と言うかログイン出来る時間が限られてから思い知ったのだが『Time To Win』に掛けているって事なんだろう。
 ただランキング系の制度が闘技場とレース場にしかないので、必死こいて時間を掛けてやる必要な事ってあんまりないと言えばない。
 それでもやっぱり掛けられる時間が少なくなると、今までやっていただらだらとりあえず思いついた事をやるのも出来なくなるのでもうちょっとは効率のいいゲームの仕方をしないとなあ……効率はオンラインゲームの宿命。



『To The World Roadへようこそ』

 ログイン用の白い光の輪を出しながらクランハウスに。
 これまたいつもの様にサイオンが出迎えてくれるので、いつも座っている椅子にどかっと座りこんでから何をするか考える。
 
 この間さんざん犬野郎と戦ったが、結局打剣は手に入らなかったし、それさえ覚えられれば、もうちょっと忍者でレベリングがしやすくなって、ガンナーにもSPを回せるはずなんだよな。
 そうなってくるとやっぱり地道にレベリングしつつ、各地の素材を集めまわって、うちのクラン員共の満足度を上げてやるか。
 ログイン時間のずれ込みってのも出てくるだろうし、噛み合わなくて合わないってなると……うちの敏腕秘書に伝言させたり、黒板を使って連絡するって感じだな。

「ログインしたうちのクラン員に欲しい素材やアイテム聞いておいて」
「かしこまりました」
「何かあれば連絡かメールして」
「はい、いってらっしゃいませ」

 いつものお辞儀をしてくるのでわしゃっと撫でまわしてから、早速レベリング。


 の前に、爆裂手裏剣の量産、ついでに忍者ギルドで手裏剣の追加購入、共有ボックスに放り込まれている展開式のガンシールドを引っ張り出して準備完了。
 軽い盾って段階で使いやすいし、投げるのにも阻害しないから優秀だな、これ。受ける時しか効果が出ないってのがネックではあるけど。

「さて、と……これでいいか」

 苦無は打剣取るまで使わないし、暫くは忍者だから……余計なアイテムも預けておくか。
 
 それにしたってクランハウスにマイハウスが便利で仕方がない。もうちょっとクラン資金に余裕が出来たら2号店でもゼイテ辺りに作るってのも夢があると考えたいたが、よく見たら資金も10m超えていたし、サブマス頼んで好きにやらせてみるってのも面白いかもしれん。髭親父辺りに1店舗任せてみるか。

「それにしてもガンナーやるのに何で忍者やってんのかしらねえ、私」

 装備が外れるっていう制約さえどうにかできればガンナーと忍者を切り替えてあれこれ出来るんだが、どうしてもその辺の切り替えをうまくできるスキルがあったりしそうだが。
 ひたすらメインとサブを切り替えるって言う無駄行為を50回くらい試したがもっとやらないと駄目か。また何度か切り替えをし、準備を完了している所に、髭親父の奴がまたひょっこりとやってくる。

「何やってるんだ?」
「レベリングの準備……が、終わった所」
「気を付けていけよ」
「ういうい……あー、そうだ、クランハウス1個好きにさせるって言ったらどうする?」
「そう言われても、今で十分足りてるからな、無駄遣いばっかりするんじゃないぞ」

 そういやこいつ、結構真面目だったわ。だからこそ任せるかなと思う訳だが。

「うちのクランで一番常識があるから1店舗任せようかなーって」
「そんな事しなくても売り上げはあるからいいだろう、欲しかったらクランの連中が我儘言ってくるだろうしな」
「ま、そうね……じゃあ、何かあったらいつも通りでよろしこ」
「そう言う事だ、気を付けていってこい」

 あんまり欲が無いとそれはそれで寂しい感じもある。
 まあ、そんな事よりレベリングしに行こう。




「ログイン時間が限られるとタイミング合わないで会えなくなる奴が出るだろうなあ……」

 こればっかりはしょうがない事なので諦めるしかないな。休みの日にはしっかり相手するって事でトントンにしよう。
 ちなみに今日のログインは仕事が終わった後なので夕方くらいからやり始めている。リアル時間2~3時間やったら風呂やら飯やら片付けて再ログインして、それで大体12時回らない程度って所か。

「なー、そう思うだろ?」

 葉巻を揺らしつつ、目の前の敵。勝手知ったる相手のコボルト。
 散々荒らしまわった北東エリア1-1と言う事と何度も戦ってきた相手なので、大した苦戦するわけもなく、しっかり攻撃を受けて反撃をする。
 と言っても手裏剣で足を止めさせて爆裂手裏剣でダメージと目くらまし、そこから忍者刀を真っすぐに構えつつ脇を締めてぶれないように固めた状態で突き貫く。
 爆裂手裏剣で煙が上がってくる所はトラッカーでカバーできるのでむしろやりやすいともいえる。近接武器を使って分かった事もあるのだが、ちゃんとモンスター自体に急所の判定があるとは……どこぞの黒いボディで真っ赤な目をしているライダーのような必殺技を思い出す。
 止めを刺すときはしっかり捻りを入れて一気に引き抜く。

「これで爆発オチまではないか」

 ザシュっと音をさせながらポリゴン状に消失していくコボルトを眺めて一息。
 葉巻を咥え、火を付けようとした時に、手が止まる。

「……どうやら新しいイベントでも開始したか」

 北東エリアはそこらで歩いている野良モンスターは比較的数が少なく、山岳地帯に点在している拠点に多くモンスターが配置されている。
 今目の前で見つけた巡回モンスター、今回はドレイクだが……オーラの様な物が見える、って言うか見えている。
 明らかに今までいなかったタイプの状態異常だが、どういう効果かってのが問題だな。

「死んでも金と経験が飛ぶだけだし、戦った経験は稼げるからやってみるか」

 ガンシールドを展開してからオーラ付きのファイアドレイクに先制攻撃。
 投擲スキルも最大なので真っすぐ速く投げられた手裏剣が飛んでいくが、当たる直前に盾で叩き通しぎょろっとこっちを見て速足気味に此方に向かってくる。
 向かってくる相手を見つつ、後ろに敵がいないのをちらりと確認してから下がりつつ手裏剣を投げ続ける。
 真っすぐ投げているとは言え、局所でもある手足や頭を狙って攻撃している個所を散らしているのだがしっかり落としてきやがる。

「強化モンスターって事で確定だな」

 同じように手裏剣を投げ、足元とドレイク本体に爆裂手裏剣を織り交ぜて投げ入れ、爆破。
 北東エリア1-1でお馴染みになった爆発音と土煙を上げている中でトラッカーを使って相手の動向を見据える。
 
「やりやがる」

 にぃっとギザ歯を見せながら、土煙に上がっている中をトラッカーで見るが、しっかりと盾で最小限のダメージにしたうえでこっちに突っ込んでくるのは変わらない。
 ……忍者のままじゃ負けるわ、これ。決定力に欠けるし、忍者刀で不意打ちかましに突き込んで行っても返り討ちになる可能性は高い。危険な橋をわざわざわたる必要はない。

「切り替え時は隙だらけなのがな」

 メニューを開きステータス画面、メインとサブを切り替える承認をする、ところで火球が飛んでくるので操作をキャンセルと言うか、メニュー画面をかき消されて強制キャンセルを掛けられる。

「あちち……!」

 まだ土煙が収まってないのにこっちをしっかり狙ってくるのは何かギミックでもあるのか?どっちにしろ出し惜しみしたら負ける。
 ファイアエンチャントにトラッカーで、消費しまくっているMPをポーションで回復し、ちょいちょい削られていたHPも合わせて回復し、一定距離を保ち手裏剣を投げて牽制し続ける中、一気に距離を詰めてくる。
 ちょっとそれは予想外だわ。ガンシールドと合わせて忍者刀も引き抜き、相手のサーベル攻撃を一度受ける。
 受けるだけでもダメージ入るし、押し込まれたら勝てねえ、ここから横や前、後ろにいなして距離を取る事も出来ないくらいに押し込んでくる。やばい、ちょっと近接受けても大丈夫だって思った、数秒前の私を殴りたい。

「クソ、予想以上に強いじゃねえか!」

 押し込んでくるサーベルを受けている所、零距離で火球を発射されて吹っ飛ばされる。耐火コートにしたうえで強化入れておいてマジで良かった。
 とにかく吹っ飛ばされて転がり、立ち上がると共に相手を確認、二撃目をかましてくる為にどかどかと走ってくるドレイクを確認。

「そろそろマジでヤってやるからなあ!」

 吹っ飛ばされたおかげで開いた距離を使い、CHを引き抜いて中折りもたもたとリロードを済ませた状態で握っていると、サーベルの二撃目が飛んでくるのでギャリリと音をさせてガンシールドで受けながら、タイミングを見計らう。
 そしてそのまま口を開けて火球を吐き出すところにCHの銃口をねじ入れて引き金を絞る。
 このゲームで適正外の武器を使うと色々とデメリットがあるのだが、この状態なら反動で吹っ飛んだとしても問題ないはず。
 
「いっだぁ!?」

 銃声を大きく響かせると共にドレイクの鼻やら口やらから煙を上げて力が抜けていくのを感じるのだが、それよりも何よりもCHの反動ダメージが痛すぎる。適正外の装備だからって15も喰らうってのは予想外だったし、このまま勢いに任せて倒しきらないと多分返せない。
 CHを手放し、忍者刀を引き抜いてから両手で握り、一気に突き捻り殺す。

「ぶは、きつ……!」

 しっかりと捻り切り、ポリゴン状に消失していくドレイクを眺めつつ咥えっぱなしだった葉巻に火を……つけようと思ったのだが、火球で丸焦げになっていたのでぷっと吐き捨てる。

「この強化モンスターがアプデなのかイベントなのか、分かんないのが気になるわ」

 後でインフォメーションでも見ておくか。
 
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