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10章

281話 勝率悪し

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 結構打ち込んでいる割には全然倒れないな。
 2、3回はまともに爆発の直撃を貰っているはずなんだが、相変わらずあの盾の奥でこっちを睨んでいる目には死んでいない。
 そもそも闘技場のルールで固定HPとMPになっているから、私の火力が足りてないと言う事か?
 一応あの爆裂手裏剣って火薬15gは入れているから30ダメくらいは入ると思うんだが、そうでもないのか。ボマースキルも加味したら45くらいは出ると思うが、何か見落としている事はあったか……。

「そういやHP強化のスキルって闘技場でも乗るんだっけ?」
「そりゃ勿論」
「だったか」

 そういや対人イベントの時にもあったな、ステータス強化系のスキルは固定から上乗せされるってやつ。ああ、もう、サンドバックとして優秀過ぎて惚れるわ。

「だからって硬くね?」
「爆発、炸裂系の魔法、道具の対策は貴方にやられた時から結構やってきたつもりですよ」

 確かに対爆、対ショックの姿勢に移るまでの判断と動作が速いな、今の所は。
 それにしてもこのサンドバックは丈夫で長持ちってのが一番良い所よ。

 闘技場での対人中でもインベントリは開けて道具や装備を入れ替える事も可能ではあるのだが、使うと数十秒インベントリが開けなくなる制限付き。それでも使えないよりはましだし、私の様な遠距離職は弾切れ起こすと負け確だし、その辺の救済措置か?どっちにしろ引き出すのは追加の苦無を取り出しておくだけだが。

「そういえば投げ物変えて何かあるんですか?」
「無いね、手裏剣と苦無の元々の攻撃力で戦ってるだけだし、打剣取ったら補正掛かるんじゃない?」
「ふむ、装備しなくても補助として使える投擲を選択したと言う事ですね」
「わかってんじゃないの」

 大振り気味に上から投げ放つ手裏剣を弾かれながらどうしようかと考える。
 普通に投げてもしっかりガードしてくるのがまあ鬱陶しい。
 レベルが高いというのもあるのだが、そもそものスキルの充実さや、リアル経験値、装備、ぶっちゃけたところ私の勝ち筋が「まともに爆破を食らわせる」と言う点しかない。寧ろそれ以外……いや、あるな、ガンナーに切り替えて数発食らわせるってのもあったわ。
 ただそれじゃあいつも通りの固定ダメを使っての立ち回りだから、わざわざ呼んだ必要ってのが無くなるわ。今私に重要なのはそうそうに死なない上に、私の実験台になってくれるか否かよ。

「防御力に任せた耐久以外の攻撃方法なかったっけ?」
「いや、そんな器用な事出来ないですよ、遠距離は耐えて、近距離はカウンターのタンク型ですから」

 そんな事を言っていたらショートソードを此方に投げてくる。
 縦に回転しながらなので避けるのは容易いが……いきなり攻勢に出るのにそんな事するか?
 とにかくファイアエンチャントで爆裂手裏剣1つを準備して、その剣、ではなく通常の手裏剣と合わせ、爆裂を足元に、通常の物を相手に向けて放つ。当たり前だが弾かれるし、爆発も直撃しないだろうけど、多少の足止めは出来るだろうと、思っていたら真っすぐ突っ込んできやがった。
 
 シールドチャージ何て出来るようになってたのか。
 まあ、防ぐ手段もなければ回避するスキルも無いのでもろに直撃。
 そのまま後方に吹っ飛ばされて転がり、立ち上がろうとすると目の前に閃光が走る。

「意外と好戦的じゃん」
「負けるのは嫌いなんで」
 
 完全に目を防がれた。
 フラッシュグレネードなんてあったのか?いや、炸裂する音もしなければ、手ぶらだったはず。盾で爆風を防いだのは見えたが、どういう事よ。
 頭にはてなマークを浮かべつつも目がくらんだ状態で後ろに下がりつつ、相手の剣を抜く音、走りこむ音を頼りに苦無を投げて位置を確認。
 投げた割に手ごたえを感じない。どうにか目が慣れてきたので開いた時にはがっつり相手の間合い、片腕だけ防具を外して、生身で苦無を受けて音を立てさせないし、呻き声の1つすら漏らさないとは。

「負けるのすげームカつく」
「でしょうね」

 上から袈裟斬りにショートソードが振るわれると、視界が白くなってから暗転。
 闘技場の待機部屋に戻される。




 やっぱり接近戦が弱いってのは遠距離職の定めと言うのがよーくわかったのだが、そもそもどうやって目くらましをしてきたのかが問題よ。
 なんとなーく、分かってはいるけど、そんな事可能か?って状態ではある。

「やっぱり忍者を進めたらどうです?回避や身代わりなんてあるらしいですし」
「負かした相手に言うセリフかよ、それ」
「ぎりぎりでしたけどね」

 相変わらずの犬顔で笑いながら、紅茶を出してくるので遠慮なく貰って置く。
 まあこんな感じにサンドバックとしてすぐに呼べるけど、こんなんでも高レベルのトッププレイヤーには違い無いってのを忘れていたよ。

「最後のあれ、洞窟で使った光源でしょ」
「お、わかりました?視覚系のモンスターにはかなり有効なんですよ、あれ」
「辺りを照らせられるほどの光量の物を目の前でだされたらそら眩むわ」

 いつぞや私と洞窟に行った時に使ったあれだな。ああいう便利魔法を戦闘に転用できるのは発想力が高い証拠よ。
 
「戦闘ばっかりだと思ってたけど、よくあんなこと思いついたわね」
「実は対人で使うのは初めてなんですよ」

 人差し指を口に当てて「しー」っと黙っててください。みたいな事をしてくる。光魔法じゃなくて「生活」光魔法って事か。そんなに黙っている必要も無いとは思うんだが、生活魔法って全体的に便利な物が多い気がしてきた。

「つーかあんたにずーっと負けてんのよね」
「そんな事はないんですけどね……そもそも最初は私が負けていましたし」
「対人イベントの時だろ?」
「いえ、怪異イベントの時ですよ」

 紅茶を啜りながら思い出話をするように小さく笑っている犬野郎を見つつ、あいつと一緒のグループだったかを思い出す。別にいなかったと思うんだよな、あんときはジャンキーの奴が最高戦力だったはずだし。

「別グループだっけ?」
「そうですよ、あの時、全体グループ順位で1位を取っていたじゃないですか」
「あー、あれ……私が1位って訳じゃなかったし」
「そのせいで私の全1位が取れなかった時から、貴女が羨ましかったですよ」
「……何、口説いてんの?」
「最初に出会った時に振られてますから」

 そういえばそんな事もあったなあ。最初は確か犬耳ショタとだったっけか。

「他人なんてどーでもいい私がこんな話したり、人付き合いしてんのが不思議だわ」

 貰った紅茶を啜りつつ、ふいーっと一息。

「だからあんな大きいクランになったんじゃないんですか?」
「馬鹿言ってんじゃないわよ、うちのクランは資金力があるだけだって」
「そうだとしてもですよ、フリーだったらそっちのクランに行きたいくらいですし」

 はいはい、と軽き聞き流しつつ残った紅茶を飲み干しつつ、メモ帳を開きさっきの戦いで思いついた事を書き込んでいく。

「で、まあ、さっきの戦闘なんだけど、爆裂手裏剣はどうだった?」
「切り替えが速い事で……そうですね、爆破ってのを分かってると対策はしようがありますけど、パイプ爆弾や火炎瓶に比べて咄嗟に反応しにくいです」
「じゃあ通常の手裏剣と苦無はそうでもなかったって事か」
「投げ物の攻撃力ルールが「投げる物」に付随した威力になりますからね、元々の威力が低いその二つだと脅威には感じないというのはありますが、防御に手を回さないと行けないのは厳しいですね」
「まあ、これをメインに立ち回るって訳じゃないからいいかな……ついでにガンナーの私とも相手しない?」
「そっちの方が気合入れて戦わないと行けないじゃないですか」
「あんたが相手してる間に色々試しておきたいのよ、サンドバックとして優秀だし」

 しょうがないですね、と言いながらも付き合ってくれるあんたは嫌いじゃないわよ。
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