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10章

272話 二度目のガンナー引退

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 そういえば観戦許可なんてしてたんだったな。
 まあ、見ていたのはトカゲだけのはずなので特に目立ったことも無いだろう。

「ねー、もういっかいー!」
「やんないって言ってんでしょ……しつこい女は嫌われるわよ」
「お疲れさん」

 受付の方へと戻ってくるとトカゲが楽しそうな顔をしているので、ガンシールドを外して投げ渡す。

「おっと……どうだった、これ」
「展開と収納は便利だけど、展開できるシールド部分が少し大きすぎかな。結構視界を防ぎやすいからその辺もうちょい弄って」

 そう言ってやるとメモ帳を開いて改良点を書き込んでいるのを見つつ、駄々をこねる紫髪をあしらう。負けず嫌いって部分で言えば嫌いじゃないんだけど、ここは素直に勝ち逃げさせてもらおう。

「それにしても魔法を使うってのは意外だったよ、何時覚えたんだ」
「ちょっと前だけど、葉巻の火を付けるには不向きだったわ」
「でもがんがん葉巻燃やしてたけど、あれはどうしたの?」
「火を付けるのと燃やすってのは別でしょ、手持ちの葉巻全部使った割にはうまく行ったわ」

 1発当てるのに26,000Z分の葉巻を使ったんだからちょっとは誇らしく思ってほしいな。
 消耗品が後で全部帰ってくるってのありきだったから使えたのと、まあまあな煙が出てくれたって言う、思いつきの割にはうまく行ったというのも大きいが。

「……砂糖ってあったっけ?」
「確か料理ギルドにあったと思うけど、何か思いついたのか」
「砂糖と硝石でスモークグレネード作れるなあって思ってさ」

 確か作れたはず、リアルじゃ物凄い危険だから色々作成の手順が合った覚えがあるのだが、お得意のゲーム処理であらかた正解してたら多分作れると思う。
 
「でも煙幕ってそんなに使える?視界防ぐし、そうでもないと思うんだけど」
「ガンナーはトラッカーがあるからそうでもないわよ、本体が見えていてもいいけど、足跡さえあればどこにいるか分かるし」
「そうなると暗視や遠見の視覚系スキルってのも欲しいな……流石にスモークの中身は知らんからボスが自分で作るしかないぞ」

 そこなんだよなあ、技術的な問題はトカゲがどうにかできるのだが、化学的な問題は私の方になる。トカゲとポンコツも火薬までは作れたけど雷管は私がやったしな。いまだに雷酸水銀なのでもうちょっと作りやすくて量産しやすいものにしたい。
 この辺は私の調べ方と知識量の限界が目に見えてきたのでログアウトした時にまた確認しないとなあ。

「スキルも増やしたいけどSP無いし、レベリングもなあ……」
「一応SPを稼ぐちょっとした技もあるけど、やってみる?」
「それってサブ育成じゃなかったか?」

 今までおもいっきり忘れていたが、サブ職ってシステムがあったな。
 これ結構複雑そうだから、しっかり説明をしてほしいんだが……紫髪とトカゲはサブ職取ってるって事か?

「って言うかトカゲと紫髪はそのサブ育成ってやってるわけ?」

 2人揃って同時に頷いて「お前やってないのか?」って顔で見てくる。やってねーんだよ、悪いか。

「って言うかサブ職のルールを知らないからその辺を詳しく知りたいんだけど、此処で立ち話でやるってのもなあ……ちょっと買い物してから戻るからクランハウスで合流でいい?」
「じゃあ、私野良戦してからいくかな」
「俺はガンシールドの調整だな、30分後くらいでいいか」
「じゃ、後でな」

 そのまま現地解散し、諸々必要な物を購入してからクランハウスに。





「じゃー、サブ職講座ね」
「最近色々と勉強するものばっかりな気がする」

 ちょっと前に魔法について聞いたばっかりだというのに、今回はサブ職の勉強か。
 私としては文章で見るよりも話を聞いた方が分かる人間なので非常にありがたい。
 
 ちなみに私が買ってきた必要な物ってのは黒板。露店に行ったら家具として普通に売っていたので購入してクランハウスの2Fに設置しておいた。チョークと黒板消しは付属品としてくっついてくる親切設計でとっても便利。
 
「サブ職ってのは、ステータスとスキルを持ちこして別の職をやるってものなんだけど、これは知ってる?」
「聞いてる、自分の基本Lvが30になったら別の職が出来るって奴だろ」
「そうだね、サブ職のルールはそれ。追加で言えばサブ職は本職のレベル以上には上がらないし、ステアップは無しってのがあるよ」

 本当に別の職を一時的に使えるってだけの話なんだな。だからこそのサブって話なんだろう。

「レベル上がる事における恩恵ってのがSPの増加で、サブ職は全部職業外のスキルになるから職業レベルも上がらない」
「そもそも職業レベルっているのか?」
「今の所二次職になる為の足掛かりかな、どれだけスキル振ってるかって目安だから数値が多くても『スキルいっぱい振ってるんですねー』ってくらい」

 ……こいつ、チョーク持ってるくせに黒板に何一つ書きやがらねえ、折角1万もしたってう言うのになあ。

「で、サブ育成ってのなんだけど、まあ大体分かるでしょ」

 さらに言えば説明すら飽きてきたか。

「本職で上げておいたスキルとステータスでサブ職のレベルを上げてSPを稼いで、その稼いだ分を本職に当てる……って事だろ」
「そうそう、ただまぁ……ガンナーって専門職だから、厳しいと思うよ?」
「まあねー……どっちにしろ、なのよ」

 いつもの動作をすると素早く寄ってくるサイオン。
 ふいーっと紫煙を吐き出して、手に葉巻を持ったままでゆらゆらと揺らす。

「さっきの対人もそうだけど、普通に対モンスター、エリア3以降に行くのにあまりにも手札が無いってのが結構やばいって改めて感じてねぇ……魔法とアイテムであんたには勝ったけど、これから先の相手にも銃のごり押しが利かない相手も増えてるし」

 黒板の前にいる紫髪をぼうっと眺めながら葉巻の先を唇で器用に上下に揺らしつつ、背もたれに思い切りもたれる。

「銃が専用武器でサブ職に何を取ろうが扱えないから、何もスキルを持っていない状態でとにかく戦わなきゃいけないってのも分かってんのよ」

 ガンナーがサブ職を使うのにあたって一番厳しいのがこれよ。唯一無二の職と武器だから引継ぎするメリットってのがステータスだけ。
 一度ジャンキーに銃を持たせてガンフー的な事をやらせてみたのだが反動で銃は吹っ飛ばすわ、的には当たらないわ、挙句の果てには故障させるわで散々だった。まあ、その銃はポンコツのだったから別にいいんだけど。

「つまり『微妙に』強くニューゲームって事だな」
「おねーさんの場合はそうだね、バイパーが気にしていたのはそこ」

 そういやトカゲの奴は用事が終わってないのか、後で来るとか言っていたな。

「まー……どっちにしろ特化するにしてもSPは足りないからサブ職取ってくるか」
「取るのは冒険者ギルドだねー、細かいルールはあそこでも教えてくれるよん」
「……だったらここで聞く必要はなかった気がする」
「気にしない気にしない」

 まったく、何を考えているのやら……教えてくれるのは良いとしてだ。

「さーて、ガンナーやめるか」

 前はガンナーのままだったが、文字通りガンナーをやめる事になるとは。
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