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10章

266話 可愛い子は千尋の谷に落とす

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 初心者3人組、中々良い連携をしている。
 あまりにも普通過ぎてあだ名が思いつかないくらいには普通に立ちまわっているので、あんまり私の出番がない。
 一応先導したうえでトラッカーを使って索敵を続けてるので不意打ちされることはないのだが、暗闇洞窟でのトラッカーは自爆行為が過ぎたと反省。
 天井や飛び回るバットがまあうざったい。ノンアクティブで1匹殴ったら何匹か纏まって攻撃を返してくる相手ではあるのだが、索敵する時に周囲を見回すと視界にちらつくのが集中力を切ってくるのが、まあ鬱陶しい。
 まあまあな頻度でちらつくのでちょいちょい舌打ちをするのだが、その舌打ちを聞かれた時に何となく申し訳なさそうな顔をしてくるので何でもないと言ってフォロー。別にあんた達が悪いって訳じゃないって。

『アカメさん、このダンジョンにいつ来たんですか?』
『んー、ゲームを始めたての時かな、暫く来てなかったけど、人はやっぱ増えたわね』
『うちらみたいな新規プレイヤーはこの辺でレベル上げるのが一般的やね』
『硬い奴に、潜伏系モンスター、人型モンスター、飛行系だから今までのエリアと違うってのもあるっぽいな』

 確かにモンスターのバリエーションが増えるから、今後のことを考えると、良いダンジョンには仕上がっている。光源が必要だったり、どのくらい深く潜って戻ろうかと言うのも考えられるし、ちょうどいい。
 ロックラックもそんなに強力じゃないけど、今後出てくる硬い相手にどうするか、コボルトの様な人型モンスターの対応、バットに至っては飛行系ではあるが飛んでいる相手も今後ちらほら出るから練習相手にはちょうどいいのか。生息数が少なく潜伏している場合が多いので地味だが、ラージスネークもいたな。

 それにしても一時の硝石ブームに比べて人はかなり減ったらしいのだが、それでも移動していれば戦闘している音は聞こえるし、他のプレイヤーとすれ違って軽く会釈したりと人のいるダンジョンにすっかり様変わりしている。
 プレイヤーが増えて需要があるダンジョンだから競争率も中々って事か。レベルが上がっても、それなりにいいアイテムがあるなら周回して稼ぐってのもあるし、今後人は途切れないようになるっぽい。
 何と言うか、最初は硝石の情報漏らした奴をそこそこ恨んだわけだが、ゲームが盛り上がるっていう点で見れば悪くはないか。
 
『さてと……そろそろボスの所だけど、いける?』
『そんなに簡単に見つけられるん?』
『トラッカ―って言って、モンスターを強調表示できるのよ、これ』

 赤い眼を指さしつつ、天井をぐるりと見渡す。
 やっぱり結構な数のバットの中に1体だけ大きい個体がいるのを発見。

『投擲持ってるのいる?』
『俺がやるよ』

 ヒーラーなのに釣りスキルを持ってるとは、なかなか将来有望。
 足元に転がっていた石を手に取り、しっかりとしたオーバースローで上方に石を投げる。あんなに射に構えておいて実は野球少年だったりして。

『んー……もうちょい右に投げて』
『分かった』

 一投目はボールだったので、方向修正を入れてからの二投目。
 ぴっと投げた石がそのまま真っすぐ天井に行き死球のストライク。

『うん、釣れたな。他のパーティーはちらほらいるけど、ボスには目もくれてないし、頑張らないとな』
『柊は後ろに戻って、僕が前に出る』
『じゃあうちはアカメさん守るわ』

 羽ばたき音をさせながら、光源の元に晒される女王バット。がっつり大きいって訳じゃないけど、群体化してるんだったかな、こいつ……今回に関しては音爆弾も持ってきてないし、盾役はちょっと頼りないから勝てるかちょっと不安。
 
『来るよ!』
『うっわ、蝙蝠きっしょ!』

 前衛2人が剣と盾でバットを捌いている後ろでどうするかを考える。
 ……あれ、私って基本的に「点」の攻撃しかできないから面制圧しなきゃいけない相手ってすげえきつくない?ウサ銃もそうだし、FWSなんて極で点での攻撃だろ?
 犬野郎と来た時には単純にあいつの事を盾にしたから防御は良し、攻撃は攻撃で音爆弾があったからどうにかなっていたが、今回は無いしどうするかな。
 よくよく考えてみれば、共有ボックスが出来てからいらないアイテム、使わないアイテムをあっちにがんがん放り込んでるから、その場でサクッと何かしらアイテムを作ってその場しのぎの創意工夫ができないと言うのがでかいわ。

『改めてだけど、私とあのボスの相性クッソ悪いわ』
『今更!?』
『と、とりあえずどう攻撃したらいいか教えてほしいんですけど!』

 前衛2人は良いツッコミをしてくるなあ。とりあえずどうするかって言うと、カウンター攻撃でちまちま削って倒すか、一気に焼き払う攻撃に出るとか、うーん……。

『遠距離でかつある程度の範囲攻撃を持っているのは?』

 飛んでくるバットを銃剣で斬り払ってから、囲まれないように、前2人を壁際の方へと誘導しつつ、どうするかを考え続ける。

『うちは、飛ばせる斬撃があるね』
『俺は聖属性の魔法』
『僕は無いかな』
『ふーむ……分かった、シロを主軸に立ち回ろう、ユーマは前で盾、柊は回復をメインに立ち回ろう』

 大きい塊で飛んでくる蝙蝠をユーマが盾でがりがり受けているのを後ろから支えつつ、シロの持っている剣に付与魔法を掛けてから、剣を振れと目線を送ると、それを察したのか横に広がる火のついた斬撃が蝙蝠の塊に飛び、炸裂する。付与魔法のかかったスキルは多少性質が変化するって事か?
 
『よし、このまま盾受けしながら数を減らす』
『でも細かいのが多くて回復が間に合わないぞ!』
『大きいのはシロ、細かいのは任せろ』

 向かってくる蝙蝠に向けてファイアと唱えれば光に集まる蛾の様に、勝手に飛んできて燃えてくれるので処理も楽ちん、4回でガス欠するけどな。

『そういえばポーションの数も少ないままだったな』
『下級なら何本か分けれますけど?』
『そういう気を使う前に飛んでくる蝙蝠防がないとヤバいわよ』

 飛び掛かってくる蝙蝠の攻撃を受け、うめき声を漏らす。なかなか反応が悪くないな、柊もすぐに回復に入ってるし、ゲームセンスが若くていいなあ、もっと上手になると思う。

『MP切れたぁー!』

 何度目かの飛ぶ火の斬撃で焼き払うと癇癪を起こしたように、声を上げてポーションをばたばた取り出すのを横目に、ファイアでカバー。結構落としている割に、中々数が減らないな。
 結構な数を燃やし、斬りつけ、大量の蝙蝠を焼き払ってきたおかげもあってか女王蝙蝠は中々小さくなっている。
 ぱっと大きさを確認したうえで深く大きめのため息を吐き出してからインベントリから葉巻を取り出し燃え落ちた蝙蝠を使って火を付ける。

『よーし、これから先は私は手を出さんから、頑張れ』
『え、急に!?』
『えー、なんでなん』
『鬼か……』

 うんうん、その反応いいねえ。

『強い奴に引っ張られて自分の実力以上の所に放り込まれるより、自力で何とかするのも大事なのよ』

 葉巻の煙を燻らせつつ、前2人の後ろに隠れて一息。

『せっかくのゲームなんだし、思いっきり楽しまないと損じゃない』

 にぃっと口角を上げてくつくつと笑いつつ、自分に向かってきた蝙蝠を叩き落とし、紫煙を吐いて三人の顔をしっかり見つめる。

『ほーら、頑張れ頑張れ♪』

 きっとこのゲームをしていて一番凶悪な笑みを浮かべているんだろうな、私は。
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