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10章

260話 ドルイテン

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 急にモンスターが魔法使ってくるってのはずるいんじゃねえかな。
 私って魔法防御に関しちゃ紙装甲なんてレベルじゃなくて、裸同然。耐火はあるけど、それ以外の属性攻撃は単純に抜けてくるし、魔法防御は微塵も上がっていない。
 そもそも今の重ね着ももう少し防御力のあるもの1枚にした方がいいってのはよくわかっている。金はあるし、そろそろ防具の新調もしないと。

「やっぱ撃てないと弱いな、ガンナー」

 振り下ろされる爪の攻撃をウサ銃で受けて押し返せ……ない。いや、そうか、向こうのSTRが私よりも高いってだけだから、がんがん押し込んでくるわけか。
 って言うか、このままじゃやばい。こういうのは横に滑らせると言うのがいいんだっけか。とにかく真横に構えていたウサ銃を斜めに構えて、右下がりにするように左手に力を入れ、右手の力を抜くと共に、思い通りと言うか、狙い通りに私の右下へと振り下ろしされ、土煙をあげながら地面を抉る。
 おーおー、すげえ威力だ。
 単純に物理魔法共に強い相手だし、こいつよりもレベルの高いのが2匹もこのマップにいるってのが脅威だわ。
 とにかく振り下ろして体勢が崩れている所を狙って、右腰に入れたCHを抜いて引き金を絞る。が、当たり前だが弾は入っていないのでカチンと撃鉄が当たる音が響くのみで、発射されるわけがない。

「ああ、そうだ、忘れてたわ!」

 体勢を戻すのに合わせて上に振り抜いてくる爪の攻撃をバックステップで避けるが、私の猫Tシャツが切り裂かれる。ちなみに街に戻ったら装備のこういった損壊は元に戻ってくれるので問題なしだが、ダメージはしっかり入る。
 くそ、1発で20くらいのダメージが入るから、すぐにポーションで回復しなきゃならないのは攻撃の手が緩んでしょうがない。もうちょっと銃弾込めてから来るべきだったか。

 ぶんぶんとそのまま左右の爪の攻撃を振ってくるのをいつものよう、泥臭く尻餅をついたりごろごろと転がったり、必死に避けながらとりあえずその場にあった木を遮蔽物としてシャドウデーモンの間に入れて一度射線を切る。

「葉巻を咥える余裕もないな」

 ガンベルトに入れてあった残り5発の内1発をCHに装填を使い、すぐに弾を込めて腰に下げ直しつつ、どこにいるかを確認。
 3mくらい上にホバリングしながら、こっちを見ているのですぐにその木から離れると、衝撃が背中に伝わってくる。これだよこれ、さっき貰った魔法攻撃。単純に魔力の塊をぶつけてくるのだが、単純だからこその威力ってのが伝わってくる。

 それにしたって、銃弾が無いとこんなに太刀打ちできないし、防御も足りないし、何にもないない。
 まあ、こういう時の戦法ってのは決まってるんだけどな。

「逃げると相場が決まっている」

 ウサ銃とCHがしっかり落ちないのを確認してからその場から走りだし、シャドウデーモンとの距離を開けて……いけたら良かったんだがな。
 飛んでるから移動速度は速いし、遠距離攻撃はしてくるし、走りながらポーション飲みつつ、ひたすらに北に行き、他のアクティブモンスターにも殴られながらドルイテンを目指す。
 それにしたって他のモンスターは途中で諦めてくれるが何度かやりあったせいで全然追跡を切る事ができん。

「くっそ、しつこい……犬野郎がナンパしてきたくらいにしつこい!」

 別にぐいぐいとくる奴が嫌いと言う訳ではなく、しつこいのが嫌いなだけだ。
 ちらちらと後ろを見ながら走り、急降下攻撃をしてきたのに合わせて飛び込み前転。色々なアクションゲームでよくある回避ができるとは思わなかったわ。

「こちとら、曲撃ち持ちじゃい!」

 前転しながら腰のCHを引き抜いて急降下攻撃後、飛び上がるまでのタイミングで狙い撃ち。化け物らしい「ギィ」と耳障りな声を発して怯んだすきに立ち上がってすぐに走り出す。
 やっぱりもっと弾幕張れないとガンナーの強みが全然でないわ、くっそ、覚えてろよ、お前も。




「あー、クソ、やっぱガンナー弱いわ」

 あれから走り続け、何だかんだでやっとドルイテンに辿り着く。
 エルスタン、ゼイテ、ドルイテンとやってきたわけだけど、あんまり街中の様子は変わりないな。一応ちょっとだけ外壁だったり家の色は違ってくるのでその辺で差別化してるんだろう。

 とりあえず転移地点でもある街の中央に行き、近くにあるベンチにどかっと座って葉巻で一服。ついでに転移地点の登録もしておいたのでこれでクランハウスから飛べるようになったな。
 とりあえず露店とショップを見て、何が売っているのかチェックしよう。

「消耗品周りはあんまし変わらないわねぇ……ガンナーギルドがあるわけでもないから弾を買えるわけでもないし…お、中級ポーション売ってるじゃない」

 
名称:HP中級ポーション
詳細:HPを30回復 それなりな美味しさ クールタイム20秒


「回復頻度が減るから全部買い直し候補だな、1本500Zだから5倍くらい値段上がってるのはあれだけど」

 錬金で中級ポーション揃えるってのも有りか、自作していた時は金がなかったからどうにかこうにか作ってはいたけど、もう別に作らなくてもいいくらいに金はある。うちの敏腕秘書の忠告メールさえ無視できればって話はついてくるのだが。
 ちなみにMP中級ポーションも売ってはいたのだが、私のMP量じゃ明らかに過多なのでそっちは下級のままで問題ないな。それにしても1ヵ月もやっておいてやっと中級かよって話はあるんだけど。
 あと、めぼしい消耗品に関しては特にないな、素材関係は今の私には関係が無くなってしまったと言うのも大きい。


 で、ドルイテンの露店街にやって来て、其方の方も物色。
 流石にエルスタンとゼイテに比べればかなり禍々しい素材や強力な武器が揃っている。
 とは言えそれはあくまでも一般的な職の話であってガンナーになってくるとあまり意味がないと言うのが悲しい所。
 
「武器は専用じゃないと駄目だからなあ……エルスタンのガンナーギルドで全部揃いそうな感じもするんだが、レアドロップで銃が落ちるなんてこともないのかね」

 ボス再戦はしたことないし、そうそう簡単にレア装備やアイテムがぼろっと落ちる事もないのでよくわからん。あ、一度だけ落ちた事はあったけど、くれてやったな、そういや。
 ってのを考えると、獲物使い、なおかつ遠距離攻撃をしてくるって条件が付いているボスを探して倒すのがいいのか。
 水辺にいる奴は結構狙い所な気がするな。水鉄砲を主体に攻撃してくる奴だと、そういう武器が手に入りそうだし、ちょっと気になる。
 ……そういや水鉄砲も作れたりするのかな。めちゃくちゃ圧を掛けて撃つとすごい威力が出るぜ!って頭の悪い感じのネタ武器を作るのも面白そうだ。今度トカゲの奴に頼んでみるか。

「一通り見て回ったけど私の欲しい物は売ってないな」

 何個かバフ効果の付いている料理もあったが、結構な高額品だった。効果が強いものだとゲーム内時間で30分程度しか持たないってのも起因しているんだろう。そういえば料理もやるやるいってやってないわ。
 うーん、やる事は思いつくけど、ちょっとやってみたいな止まりなんだよなあ……生産系の職をやっているのはどうモチベーションを維持しているのか不思議だ。

「一回帰ってやっぱ弾入れてから戻るか」

 とりあえず一通りドルイテンを観光してからクランハウスに戻るとするかね。
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