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9章

256話 二つ名

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「倒れるぞー!」

 ぐらついたレイドボスが大きくよろめいていき、執拗に攻め立てていた成果がやっと出てきたのか倒れ始める。
 紫髪が大剣を押し込んだまま、それの峰に撃ちさらに押し込み、合わせてうちのクラン員、他のプレイヤーの猛攻を食らってようやく倒れる。

『いけいけいけ!』

 合図を出すと共にクラン員が全員が首を狙ってがんがんと攻撃し、紫髪の大剣へと攻撃して肉の斬れる音をさせながらどんどんと押し込んでいく。

『足りんぞ!』
『全部撃て全部!残ったの全部使え!』
『やってるだろ!』

 ガトリングの連射音や金属を蹴ったり殴ったりする硬質な音、すっころんでバタついているレイドボスの首にこれでもかと言うくらいには響き渡る。
 私も私で近づいて、紫髪が押し込んでいる大剣に零距離射撃で110mm対艦ライフルを押し付けてがんがんと撃ちまくる。

『切れろ、斬れろ、キレろ!』
「おねーさん、そろそろスキル時間切れるんだけどー!」
「その腰に付いてる刃物は飾りか馬鹿!」

 こうなってきたらもう執念でも何でもいいわ、ここで全部出し切って絶対に斬ってこの首持ち帰ってやるからな。

「おねーさん、人使い荒すぎだわー!」

 腰から、インベントリから、背中から、懐からとにかく剣に限らず斧、槍、刀等を取り出してはがんがんと斬りつけて食い込ませていく。
 こっちもこっちで深く刺さった剣を狙い、撃ち、装填しては三連射、ポーションをがぶ飲みしてとにかく連射。ああ、どんどんと弾が減っていく。サバイバル系のゲームの銃弾もひたすらため込んでおきたいってのになあ。

『これで取れなかったら、お前ら全員銃弾製造マラソンさせるからな!』

 銃身が赤熱し、何十発か連射していると途端にボルトが詰まる。

「クソ、ジャムった!」

 インベントリにすぐさま戻し、腰に提げていたG4を使ってさらにバンバンと銃声を響かせながら連射追撃。ロングマガジンの中身を撃ち切ればすぐに新しいマガジンに切り替え連射して、刃を食い込ませる。
 やっぱりこんな雑な作戦じゃダメか。ええい、こんな事ならもっと計画的にやるべきだった。でも、もうちょいなんだよなあ、もうちょい。私のアイテムももうちょいで切れるわけだが。
 
『弾切れしたから、もう無理!』
『ガトも撃ち切った、後は前衛組に任せるわ』
『深くは刺さるが、斬れんな』
『何かないのかよ!俺様もこれ以上攻撃できねーぞ!』
『打撃じゃ斬れないよぉー!』

「一二三!お前の人脈で使えるのいねーのか!」
「ダウンしたからって攻撃されないわけじゃないすよ!うちのバイオレット使ったじゃないっすか!」
「えへへ、私ももう限界ー」

 あの紫髪はバイオレットって言うのか……結構そのまんまな名前じゃねえか、って思ったけど私も人の事言えないわ。
 それにしても押し倒すのに全力出した弊害が此処まで出てくるとは思わなかった。

「もっと人ふやしときゃ良かったよ!」

 G4のマガジンも全部使い切り、残りはCHで撃ち込むしかない。110mm対艦ライフルに関してはジャムったせいで修理と言うか、しっかり直さないと使用できない。確率が低いからあんまり気にしてなかったが、破損って武器の状態あるの忘れてたわ。
 って言うかもう此処まで来たら使える武器が無い。G4もCHも110mmも押し込むには足りないし、後は……後は?

「あったわぁ!」

 インベントリからまた1丁銃を抜き出して散々傷つけた首に、取り出したウサ銃の銃剣を突き立てて撃ちつつ押し込む。やっぱり最後の最後まで信用できるのは最初に使った銃って事か。

『マイカ、こっち着ておもいっきり銃床ふみつけぇ!』
『うい、りょー……かいっ!』

 私の肩を駆け上がり、飛び上がり、突き刺したウサ銃の銃床部分を思いっきり踏みつけると一気に深く刺さり、途中で止まる。

『ええい、しぶとい奴め!』

 突き刺した状態から三度撃ち、二度撃ち、MPポーションを挟んで装填してワンセット。
 繰り返すほどに少しずつ押し進めて、もう少し。

『立ち上がるぞ!』
『分かってる分かってる、ファーマー連中の足止めも限界だろうし、出し切れアホ共!』
『うちのボスは無茶ばっかり言って!』
『おら、死ねよー!』
『誰がアホだ、ボケっ!』
『うわー、やばーん♪』

 




「ねーねー、おねーさんって結局どういう感じの人なん?」
「ん?そうっすねぇ、2回くらいしか共闘した事がないから、噂込みの話にもなってもいいって言うならっすけど」
「それでマスター的にはどんな感じなの?」
「んー……まあ、とにかく熾烈な人、普通の人も思いつくけどやらないことをやるのに躊躇いが無いって所がでかいっす。あと正直な所、本人の戦闘力だけで言えば、銃の火力ありきって所があるっすねぇ、ごり押ししやすいってのもあるっすから、実はそこまで強いかって言われると違うっすかね」
「そんな事ないくらい強いと思ったけど」
「ガチの戦闘職と比べれば不遇と言われているのはわかるっすよ、最初のイベントの時は高火力出せる爆弾を使って転ばせるってのをメインだったっすから、別に上位に食い込むって事は無かったっす」

 そういえばチェルシーさんは元気っすかね、あそこのクランから独立して自分のクランを持って今じゃ忍者集めてやってるっすけど、初心者向けクランとか言われたっけか。
 
「その次は単純にダンジョンアタックで一緒になったっすけど、本格的に共闘したのはそこっすね。何が強いかって言われると戦闘力以外の所っすね。立ち回りや発想、機転の良さが強みっすよ」
「へー、マスターの評価高いなぁ」
「ゲーム慣れしている人ならあれくらいはできると思うっすけど、ガンナーとしてどう動くかの正解はアカメさんっすかねー、やっぱりT2Wのガンナーとして慣れているの一番強いとこっす」

 ガンナーとして弱いと言うのを理解しているからこそ、あの強さがある気がする。そして何よりもあの貪欲さってのがPvEメインのゲームにしては珍しいのも相まっているすかねー。

「数少ないガンナーってのもあって、色々と二つ名があったりもするっていってたっすねぇ……個人的に一番笑ったのは『膝砕き』ってのが元居たクランで言われた奴っすね、イベントが進むと『爆弾魔』『マフィアのボス』ってのが通称になっていったっすねえ」
「まー、あれを見たり、イベント参加してたらそう言うのもわかるけどねー」
「今回のイベントで『首狩り』って増えたみたいっすけどねー?」

 ヴェンガンズカンパニーのクランハウス入口上に置いてあるレイドボスのトロフィーを見ながら2人で頷く。
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