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9章

253話 怪我の功名

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『攻撃パターンは手の攻撃、尻尾、光線、火球、地ならし……後は見た奴は?』
『体から衝撃波飛ばしてプレイヤーとの距離を取るってのもあるねぇ』
『ああ、くそ、咆哮でスキル消し飛ばしたぞあいつ!』
『銃弾通らない時あるんだけどー!』

 前線組の話をメモ帳で纏めつつ、ライフルを持ち上げて別の建物へと葉巻を咥えて悠々と移動する。

『ガトリングでも通じない時あるな、当たり所で弾くっぽいか?』
『多分装甲持ちなんだろう、FWSは貫通だからダメージログが出たし』

 次のNPCの建物に入り、屋上へと上がってまたライフルを構えて何発か撃ち込み、また移動。
 流石に多人数でやっているだけあって接近戦連中にヘイトが向かうので遠距離職は結構気軽に撃ち込めるのはいいんだが、遠距離対策が結構しっかりしている。
 脱獄と脱出ゲームで知り合いやら仲間を作って連携してレイドボスに挑んでくださいって感じなのかね。その割には結構すぐに出てきた気がするけど。

『前線の戦況は』
『ダメージ自体は通るねぇ、ただでかいからHPが削れてるかが分かりにくい感じぃ!』
『右の振り抜きが来るぞ!』

 少し離れた位置にいるレイドボスが右手を振り抜くと何人かのプレイヤーが吹っ飛ばされ、こっちにも風圧がやってくる。モデルにしたモンスターに比べて腕が結構動くから、上位互換みたいになっているな。
 これ、このまま遠距離ペしぺしで余裕勝ち出来そうだ。

『ボス!ボース!そっちいってる!そっちいってる!』
『ああ、分かってる』

 暫く遠距離で銃声を響かせながら様子を伺っていたが、確かに移動を開始しているな。こっちからの弾幕が強いせいか、ヘイトが溜まったのかね。
 建物3個程離れた所でバイパーも移動し始めているのに気が付いたのか、此方に目線を送って移動しようと合図を飛ばしてくる。
 それを見て頷き、さっさと降りようってと言いかけた所で爆風により吹っ飛ばされて大通りに落下する。これだけで落下で30、爆風で25ダメージ。防具無かったら死んでるわ。

「いっだぁ……!クッソ、建物に隠れるか……!」

 多分攻撃としては火球だな、とりあえず射線が切れる物陰に隠れてHPポーションをがぶ飲みして回復、するのに合わせて吹っ飛んだ葉巻を咥え直して火を付け、ライフルに装填。
 やる事が多いな、私は。

 それにしてもT2Wって直接的な攻撃貰うよりも環境ダメージや間接的に発生するダメージが痛すぎる。今回に関しては落下ダメージの方が強いし、大ゾンビにやられた時も叩きつけだが吹っ飛ばされて死んでたな。
 
『ボス、生きてるか?』
『死にかけ、回復したらすぐ戻る』
『遠距離していたキャラに火球の連射をしてるみたいでこっち側にいたプレイヤーもだいぶ吹っ飛ばされたぞ』
『近距離と遠距離で一定回数攻撃を貰ったらターゲットを変えるシステムになってるのかなー……』

 ポーションでの回復、装填しっかりと済ませて立ち回りをもう一度考える。
 近距離遠距離でターゲットを変えるって言うのなら、どちらでもすぐにスイッチ出来るポジションまで前に出た方が回避も攻撃もしやすい気がするな。

『周辺を焼き払っている間に前に出よう、あいつの遠距離近距離の判定距離も把握しておきたい』
『この状況で前に出るか?』
『もう少しまとまった方が良いと思ってね』
『分かった、こっちの攻撃が過ぎたら一回ボスに合流する』

 遠距離、と言うか火球とブレスで焼け野原を作っている間、バイパーとの連絡をしながらうちの前衛組のいる方へと侵攻。
 レイドボスはぐるりと360度の遠距離攻撃を済ませた後、また接近戦に切り替わったのか、近接連中とがんがんとやり合い始める。

「悪い、思った以上に攻撃が熾烈だった」
「だろうな、私の近くにいた奴も回復しながら息荒くしてたし」

 私達だけではないので勿論古参から新参までの遠距離攻撃持ちのプレイヤーがいたが、ブレスと火球で吹き飛んだり、防御に手いっぱいで疲弊していたのはちらりと見えた。まあ、他人が吹っ飛んだところでうちの被害が出る訳じゃないのでどうでも良いと言えばどうでも良いのだが。

「残りの弾は」
「フルマガジンが10個、入れてない銃弾が50発あるな」
「ガトしか使わないなら入れてない銃弾全部くれ」

 二人揃って肩に銃器を担ぎ、大通りを練り歩き接近しながらトレードを済ませ、銃弾を受け取っておく。

「それにしても前衛は派手にやってるわね」
「炸裂、爆破魔法も発見されたらしいから、近接魔法職ってのも出てるらしいぞ」
「ガンナーは銃が強いせいで攻撃スキルあんまりないのよね」

 他のゲームで言えばパッシブ型に基本分類されるのがガンナーだが……ももえの奴は結構アクティブスキルが多いからINTにステータス振ってMP余裕を作りたいなんてことも言ってたっけか。
 
「……そういや菖蒲の奴みた?」
「土日は本業が忙しいってよ」
「あんまりにも引きこもってるから頭からすっぽ抜けてたわ」

 ステータス補正の付いた防具でも着ればいいのにって思った矢先に思い出した。
 見た目は派手だけど引きこもってるからすぐ忘れるんだよなあ……ショップの商品を勝手に使えって言ってるし、サイオン姉妹が基本相手してるからなあ。

「クラン員忘れるのってどうなんだ」
「戦闘一切出来ないし、裁縫専門で囲ったからしょーがないでしょ」

 今度良い素材手に入れてやるから、忘れていたことは内緒にしておこう。

『そっちに合流するわ』
『確認した、こっちの場所は分かるか?』
『真っすぐだから問題ない、ちょい後方くらいで援護射撃するわ』
『あー、ごめん、前衛組一回引いてぇ』
『銃弾持ってきてぇ!』
『殿するからさっさと合流しろ!』

 おーおー、飛び交う飛び交う。前線組は中々大変みたいだな。


 
『削れてる感じやパターン変わったってのはある?』
『ないな、結構他の連中とも戦ったが、怯みすらしない』
『攻撃パターンも決まってないから次はこれってのもわかんないねぇ』

 お恵みくだせえと言っているももえに銃弾を分けつつ、ここまで戦って分かった事をまとめたメモ帳を開きながら第1回作戦会議。
 
 と、言っても私とバイパーの交戦距離を詰めてなるべく固まって行動すると言うだけだが。

『なあ、他のプレイヤーと共闘するってのはどうよ』
『それも有りだな……レベルが低ければ低いほど与ダメが上がって被ダメが下がる特殊仕様ってのは見つけたぞ』
『……協調性のないうちのクランで新規を取り入れて協力って出来ると思うか?』

 しばしの沈黙。他プレイヤーのやられた叫び声と火球の爆発音がより一層聞こえる位には全員が黙る。そう、うちのクランの最大の弱点は人脈が無いと言うのと、商人連中を叩き潰したときに悪目立ちしたせいでマフィア扱いされているって事だ。
 ……だからこそ何も知らない新規を集めて協力って方法は取れると言えば取れるのだが、新規は新規で集まって協力する方がイベント的には楽しいと思うんだよな。そもそも私の指示に付いてこれる奴ってそうそういないわ。

『やっぱうちの戦闘員構成でやろう、どうしても駄目ならどうにかする』
『どうにかできるのか』
『チェルと犬野郎がいるからな、ちょっと協力しろって要請するだけよ』
『今しないのー?』
『漁夫するにはまだ早いでしょ』

 私の数少ないフレンドから戦力になりそうな奴はそこだけだな。

『それにしてもやたらと硬いわね、あいつ』

 見上げて暴れまわっているレイドボスを見ていると、火球が飛んでくる。ああ、これは直撃するわ……とりあえずニーナに指示を出し、前に出させてでかい斧の側面で防御して耐えて貰う。

『あっちっ……俺様を盾扱いするとはいい度胸だな!』
『あんたが一番耐えれるんだから仕方ないでしょ』
『それにしても良く暴れるボスだな……首狙えるのか、本当に』
『やってみなきゃわかんないしねぇ、前につんのめらせてダウン取ってみるぅ?』
『じゃ、デカブツ相手の得意戦法をやるか』

 そうだな、いちいち上にいってやるってのはガンナーじゃ出来ないし、動き回ってくるから狙いも付けにくい。だったら転ばせてうつ伏せのようにして、動き出す前に銃弾で首の肉をそぎ落とすか。
 そういえば大ゾンビを片付ける時も足狙いだったな。ただし今回に関してはパイプ爆弾無しではあるが。
 
『足を狙って、使い物にさせなくしてから尻尾を引っ張って転ばせる……事ができりゃいいんだがな』
『それこそ他のプレイヤーに協力してもらわんと駄目だろう』
『まずは足へし折ろーぜー?』

 そういうわけで第1回作戦会議は終了。
 足元を崩し、倒して首をもぎ取り、トロフィーを作る。
 文章だけにしていたらすっごい簡単なんだが、それをやるまでが中々遠い。

『じゃあ、行くわよあんた達』

 それぞれの返事をし、戦闘を続けている所に再参戦。
 前衛組はとにかく足元に潜り込み、殴る蹴る、斬りつけて撃ち込むわけだが、足踏みするだけで揺れ、一瞬動けない所を蹴られるので前衛組は大変だな。

 まあ、私もそれなりに近い所で撃ち続けないといけないが。

『今って銃弾の材料どれくらいだったかな』
『1発2,000Zが相場だっけー?』
『DPS確保しなきゃならないから、がんがん使うの気が引けるわ』

 前衛組が殴っている右足、それに追撃をかます様にCHで狙い撃ち込む。
 大きい発砲音を響かせ、バシュっと排出音、キンっと薬莢の落ちる音、ああ、この一連の流れ、音を聞くだけでも楽しい。
 もう1丁この銃欲しいな、そしたら2丁拳銃も出来るし、交互撃ちで隙がなくなるからメリットばかりだ。
 
『効いてる感じがずっとないな』

 何十発目かを撃ち込み装填しながらレイドボスを見上げる。
 当たり前だがタイマンでやっているよりは攻撃を貰わないので、私自体は足踏みでの地ならしと咆哮を気を付ければ今の所問題はない。
 隣ではガトリングでの弾幕、足元では前衛組の猛攻、火力自体はかなり出ているはずなのに、一向に進展しない。

『移動速度がちょっと遅くなったぁ?』
『ダメージは蓄積してるみたいだな』

 初期面子の2人は至って冷静に状況を把握して報告してくれるのでありがたい。
 ももえに至っては配信映えするポイントで攻撃したり、下からレイドボスの懐を映してばっかり。ニーナはニーナでいちいちキレるせいで煩い。隣のバイパーはハッピートリガーで中毒だから、危ない状態にならないと動かない。
 自由過ぎるだろ、うちの連中は。

「振り回しがくるぞー!」

 多少あきれながら攻撃を続けている時に、声が響く。うちのクラン員じゃない、他のプレイヤーからの警告か。
 咄嗟に反応して全員がしゃがんで尻尾の攻撃を避けるのだが、私だけ出遅れた。
 1発装填のデメリットと言うか、モーションをキャンセルできないせいでしゃがんで回避しきれなかった。
 尻尾の振り回しにそのまま吹っ飛ばされると思ったが、遠心力のせいで尻尾に張り付いたまま、回転が終わるまで振り回される。

「ああ、くそ、舐めやがって……!」

 尻尾にくっついたままガンベルトからG4を抜き、尻尾に銃口を付けてバンバンと撃ち込む。通常のボスやタイマンならこの一撃で多少なりと怯んでくれるが、大型なせいで手応えゼロ。駄目だ、この状況を打開できる方法が止まってくれるまで待つしかない。
 分かりやすく言うとコーヒーカップを回しまくって、自然に止まるまでカップの内側で身動きが取れない、あれと一緒の状況。

 軽く意識を飛ばしつつ、回転が終わると共に、慣性の法則で、さっきまで戦っていた反対側に方へとすっ飛ばされる。

『アカメ!』
『大丈夫だ、そのまま作戦続行でいい』
『ボスかっこいいー!』
『お前は後で引っぱたく!』



 反対側に飛ばされ、ごろごろと地面を転がり、跳ね、他のプレイヤーにぶち当たりながらなんとか止まるころにはまた瀕死だよ。

「ああ、いってぇ……!」

 転がったままぜいぜいと息を吐き出しつつ、インベントリからポーションを倒れたまま飲み、回復を図る。ただ目回しって状態異常も掛かっていて立ち上がる事が出来ないので、大の字のままG4のマガジンを抜いて銃弾を入れなおす。
 ちなみに私のほかにも同じように尻尾に巻き込まれて生きてはいるが動けない状態のプレイヤーが結構転がっている。

「おー、大丈夫か、あんた」
「これ見て大丈夫って言えるわけないだろ」

 腕に力を込めて声の方向へごろっと転がると、どこかで見たドラゴンヘッドにその他数人のプレイヤーが視界に入る。確かファーマークランだったっけか、こいつら。

「お、うちらを爆破した人じゃん?」
「マスター、何時まで恨んでるん」
「だってだってー!」

 チェルのようなちんちくりんドワーフがムキになって地団太を踏んでいる。あれ、こいつだっけか吹っ飛ばしたの。

「とりあえず起こしてくんない?」
「ふん、そのままはいつくばっていればいい!」

 ドワーフに見下ろされるって中々ない経験だな。

「悪いな、いつもは良い人なんだけど、よっぽど悔しかったみたいで」

 ドラゴンヘッドに体を起こされ、おぼつかない足で立ち上がる。
 視界が揺れるって訳じゃないが、ぐわんぐわんと地面が揺れている感覚が足に伝わってくる。こんな状態異常もあるなんて、知らんかったわ。

「あー、きもちわり……あんた達はなにやってたん」
「尻尾切って漫画肉でも作ろうって話をね」

 ああ、それは素敵な考え方。有名な漫画で修行中にTレックスの尻尾を輪切りにして飢えをしのいでいた話があったな。
 つまり、こいつらは尻尾、私らは首。

「……いい話があるんだけど、乗らない?」
「って、言ってるけど?」
「3回回ってワンって言ったらきいたげますぅー!」

 倒し倒されの対人イベントの件を引きずり過ぎだろ。
 中身は子供だけど、ファーマーやってるって事は子供ではないだろうけどだよ。

「わかったわかった……悪かったって」
「わかりゃいいんだよわかりゃー!」
「すいませんね、うちのマスターが」

 別に悪びれた様子もなく、なんだったら少し楽しそうにしながらすいませんと言ってくるのがちょっと癇に障るが、ここはまあいいだろう。

「でー、何したいって?」
「あんた達は尻尾を切りたい、私は首を落としたい。今足を疲弊させてるから、そこの準備が終わったら思いっきりあんた達が尻尾を引っ張ってくれたら、転ばせることできそうでしょ」

 ふんふんとファーマークランの連中が頷いている、この作戦はある意味で土魔法を頼りにしているって事になる。そのまま作戦内容とどういう動きをするのかを言いつつ、たまに飛んでくる火球をファーマー連中が土魔法で防いだりしながら作戦を聞いてくれる。

「ふぅん、まあいいよ、面白そうだし協力したげる」
「助かるわ」

 ドラゴンヘッドから離れて少し飛び跳ね、自分が揺れていないのを確認してからレイドボスに向き直って装弾しているのをしっかり確認し、準備完了。

「脱獄以来だけど、宜しく頼むわ」
「今回も短い付き合いになりそうだが」

 びたんびたんと尻尾を振ってるレイドボスの背中を見上げてから大きめに息を吐く。
 怪我の功名ではあるけど、脱獄しておいて良かった。
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