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9章
243話 大脱走からの
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土竜のトンネル工事は順調だった。
なんだったら空き缶もあのままヘリの部分を使ってがりがり削って行く事で木製スプーンよりも手早く掘り進め、たまった土砂は土魔法で無理やり押し込んで処理。暇を見つけてはガリガリザクザク掘り進める根性は素晴らしい。
私はと言うとあっちに行っては囚人を殴り、こっちにいっては看守を殴り、騒ぎを立てに立てまくて悪目立ちをしまくっていた。
「あんなに殴り合いしたの何て久々だわ」
「そうなのか」
「大体ガンナーだし、殴りあいは私の仕事じゃないのよ、そういうのはうちのクランにいる鉄砲玉がやってるし」
煙草を口に咥えて上下に揺らしながら、土竜の休憩時間中に話を続ける。流石に一日中掘り返しているだけあって金網のあたりまで行っているので、今日中には脱獄できるな。
調達屋の話もある程度目処が立ったので、次は脱獄手段がどれくらいあるかを2周目で確認、3周目でタイムアタックって流れが良いか。
「ガンナーで宇宙猫T……あっ!」
「何の『あ』よ、何の」
「んーあー……いや、対人イベントの時にやられた奴が、今そういう格好だって……」
色んな所に喧嘩売っている訳じゃないが、あんだけぼんぼん爆破して火炎瓶で燃やしまわってりゃ嫌でも覚えられるか。でも恨んでいる相手ってのが多いから、誰かが分からんな。
土魔法を使って、私の事を知っていて、対人イベントでやられた奴……んー、思い当たらんな。そもそも有象無象の顔なんて知らんがな。
「PvPの恨み辛みってチートだったりクッソムカつく煽りされたくらいだけじゃないのか」
「んー、まあ、自分は別に気にしてないんだけど、うちのクランがなあ」
「へぇ、あんたの所そんなとこなんだ」
「うちはファーマークランでね、あんたにやられて全滅したからちょっと目の敵にしてるだけよ」
そういえば爆破して土砂ごと吹っ飛ばしたわ。すっかり忘れてたよ。
「だから、協力していた私を裏切るってか?」
「いやいや、そこまでは流石にない。自分はあんたにやられたわけでもないからな」
「割り切れない人の話ずーっと聞くのって中々の苦痛だかんなあ」
「まあ、良い所まで行って負けたから悔しさ爆発って事だなー……気持ちは分からんでもない」
確かにギリギリまで行って負けたら私も悔しいのは確かだけど、相手を恨むほどじゃないかな。
それにしたってファーマークランの連中はどんだけ嫉妬深いのやら。
「ま、それは良いとしてトンネルはどうなの」
「我ながらあの空き缶で良く掘れたと思うくらいには良い出来よ、後はいつ決行するか」
「出来るなら夜だな、さっさとおさらばして、2周目をやりたい」
「イベントに積極的」
「やっぱゲームをしているんだから楽しまないと損じゃない?一発ぽっきりじゃなくて、期間限定で開催してるんだから、盛り上げるためにもなあ」
煙草を咥え、火を付けるいつもの流れからふーっと大きめに紫煙を吐き出し一服。
「私が騒ぎを起こしてダウンしている間にあんたが先に脱獄したりしてね」
「そんな事するメリットがないから」
「ま、それもそうね、あんだけ時間稼ぎしたんだから、むしろ感謝してほしいわ」
違いねえ、と一言聞きつつ、ぼうっと周りの人数を数える。
「そういえば脱走した奴、いるみたいね」
「そうなのか?」
「調達屋に朝話をきいたら、したのがいるんだってさ……どうやらゲーム開始12~24時間ごとに全体の情報を更新するっぽいのよ」
「つまり?」
「情報の更新がされる前に誰かが脱走して、それが調達屋の耳に入ったって事……それにしてもどうやったか気になるわー……そこまでは分からんって言われたから、完全な経過報告だったし」
ぽぁっと煙の輪を出しながら、どういうタイミングで脱獄するかを考える。基本的には夜しかタイミングが無いわけだが。
「あんたは、いつ出たいとかあるん?」
「もう掘り終わるから、すぐにでもいいぐらいだが」
「じゃあ、やっぱり今夜決行だな、とりあえずまた騒ぎを起こして……と、思ったんだけど、次やったら隔離されるらしくて、もうできないんだよなあ」
ちなみに隔離されると玉ねぎ刻みの刑になるらしい。地味にやらしいな。
「さて、と……じゃあ夜に合わせて準備を進めるか」
吸い切った煙草をぴっと弾き飛ばして立ち上がり、ぐいーっと伸びをする。
そういえばあんまり言及してなかったが、宇宙猫Tシャツ、地味に胸の大きさでぐいっとプリントが伸びていたりする。
「んじゃ、夕食の後でいいか」
「りょーかい」
相変わらずの緩い感じに手を振って一旦別れる。
「脱出者の人数は」
「今日までで4人、明日には2人増えそうだがな」
やっぱり深夜0時で情報が更新されるっぽいな。情報戦何てめんどくさい事はしたくないぞ。
「そういや元々持っていたアイテムってどこに保管されてるとかしらん?」
「保管庫は向こうにあると聞いたぞ」
イベントクリアした時に全部戻ってくるのは確定だとして、イベント参加中に没収されたアイテムや装備品を回収できるなら攻略方法がまた変わってくるんだよな。
ステゴロで殴り合うってのも手だけど、やっぱり私としては銃でばんばん撃ち合うってのが好き。看守全員撃ちのめして正面から堂々と出ていくってのもいいな。
「今度脱走する時は暴動でも起こしてこの監獄制圧してやろーかしら」
「なんだ、また戻ってくる気なのか?物好きな奴だな」
「三食昼寝付きだからなぁ、環境的に最高じゃん」
「ポジティブだなあ……その考え方」
ついでに言えば食後の運動もあるし、娯楽は少ないけど自由時間も多いから、最悪とまではいかないが、まあまあな環境。
「どっちにしろ、一回はおさらばしておきたいかな」
「ま、がんばんな」
そう言われつつ、最後の取引、と言っても入用な物が空き缶くらいしかないので、煙草と空き缶を交換してからその場を後にする。
「最後の空き缶よ」
「もうちょっと良い道具だったら、時短になったんだけどな」
深夜に二人揃って狭い穴倉で土を処理し、穴を掘り進め、地中に軽く埋まっている金網の所にまでやってくる。
「此処さえ抜けりゃ後は地上に出るだけだな」
「ディックとトムじゃないトンネルだったら大丈夫よ」
「なんだ、それ」
「生きている間に見るべき名作映画よ」
ハリーって名前だったらトンネルとしては完璧なんだがなあ……あとバイクが欲しい、って思ったけど、あれは柵越え失敗して有刺鉄線に突っ込んでるから駄目だな。
「よし、金網も抜けたぞ」
「替わる?」
「そうだな」
ぺたっと土竜が伏せたのでその上を通り、前後交代してから空き缶を使い、金網を通った所から斜め上に掘り進めていく。
「ああ、うん、確かに尻尾うざいな……」
「意識したら動かせるけど、しなかったらちょろちょろ動くんだからしょうがないでしょ」
軽口を叩きつつ掘り進めるうちに手ごたえが軽くなる。
そして最後の一掘りをすると、ばらばらと天井が崩れて落ちる。
「先出ていいわよ」
「お、悪いね」
さっきと同じような切り替え方で前に行かせて、囮に使う。
万が一ばれていて取っ捕まっていても私じゃないからいいだろうしな……で、土竜が先に出ていくのを確認して。
「大丈夫なん?」
「ああ、このまま抜けられそうだ」
上で待っているようなのでそのまま付いて行き、手を取られて引き上げられる。
しっかり金網の先、何もないと言うか、監獄の外に出ているのを確認すると共に、2人でこそこそと脱走する。
「あっさり脱出できたなあ」
メールに飛んでくる脱出おめでとうメールを確認しながらクランハウスの2Fでまったりと葉巻を咥える。
着順としては6番目、トンネル掘って脱出と言うのを記載されている。後はタイムだったり、色々と書いてある。結構リザルトが詳しいな。
ちなみに4日も掛かった訳だが、リアルタイムで2時間程度だった。どういう原理なんだろう。
「お、ボスおかえり」
「今日も配信か?」
「イベント参加しよっかなーって、ボスは?」
「さっき1回目をやってきたところね」
そう言いながらメニューを開きイベントのページを開いていく。
「で、どうだったの?」
「ネタバレは配信してたら御法度じゃない?ま、楽しかったわよ、色々考える事が多いし」
「んじゃー、私も参加しようかなー」
「頑張りなさい、私も2周目やるから」
「え、やるんだ」
「私って、結構凝り性でねー、んじゃまたな」
イベントの参加申請をすると共にすぐにマッチング開始。
あー、しまった……葉巻吸い切ってからやりゃあ良かった。
なんだったら空き缶もあのままヘリの部分を使ってがりがり削って行く事で木製スプーンよりも手早く掘り進め、たまった土砂は土魔法で無理やり押し込んで処理。暇を見つけてはガリガリザクザク掘り進める根性は素晴らしい。
私はと言うとあっちに行っては囚人を殴り、こっちにいっては看守を殴り、騒ぎを立てに立てまくて悪目立ちをしまくっていた。
「あんなに殴り合いしたの何て久々だわ」
「そうなのか」
「大体ガンナーだし、殴りあいは私の仕事じゃないのよ、そういうのはうちのクランにいる鉄砲玉がやってるし」
煙草を口に咥えて上下に揺らしながら、土竜の休憩時間中に話を続ける。流石に一日中掘り返しているだけあって金網のあたりまで行っているので、今日中には脱獄できるな。
調達屋の話もある程度目処が立ったので、次は脱獄手段がどれくらいあるかを2周目で確認、3周目でタイムアタックって流れが良いか。
「ガンナーで宇宙猫T……あっ!」
「何の『あ』よ、何の」
「んーあー……いや、対人イベントの時にやられた奴が、今そういう格好だって……」
色んな所に喧嘩売っている訳じゃないが、あんだけぼんぼん爆破して火炎瓶で燃やしまわってりゃ嫌でも覚えられるか。でも恨んでいる相手ってのが多いから、誰かが分からんな。
土魔法を使って、私の事を知っていて、対人イベントでやられた奴……んー、思い当たらんな。そもそも有象無象の顔なんて知らんがな。
「PvPの恨み辛みってチートだったりクッソムカつく煽りされたくらいだけじゃないのか」
「んー、まあ、自分は別に気にしてないんだけど、うちのクランがなあ」
「へぇ、あんたの所そんなとこなんだ」
「うちはファーマークランでね、あんたにやられて全滅したからちょっと目の敵にしてるだけよ」
そういえば爆破して土砂ごと吹っ飛ばしたわ。すっかり忘れてたよ。
「だから、協力していた私を裏切るってか?」
「いやいや、そこまでは流石にない。自分はあんたにやられたわけでもないからな」
「割り切れない人の話ずーっと聞くのって中々の苦痛だかんなあ」
「まあ、良い所まで行って負けたから悔しさ爆発って事だなー……気持ちは分からんでもない」
確かにギリギリまで行って負けたら私も悔しいのは確かだけど、相手を恨むほどじゃないかな。
それにしたってファーマークランの連中はどんだけ嫉妬深いのやら。
「ま、それは良いとしてトンネルはどうなの」
「我ながらあの空き缶で良く掘れたと思うくらいには良い出来よ、後はいつ決行するか」
「出来るなら夜だな、さっさとおさらばして、2周目をやりたい」
「イベントに積極的」
「やっぱゲームをしているんだから楽しまないと損じゃない?一発ぽっきりじゃなくて、期間限定で開催してるんだから、盛り上げるためにもなあ」
煙草を咥え、火を付けるいつもの流れからふーっと大きめに紫煙を吐き出し一服。
「私が騒ぎを起こしてダウンしている間にあんたが先に脱獄したりしてね」
「そんな事するメリットがないから」
「ま、それもそうね、あんだけ時間稼ぎしたんだから、むしろ感謝してほしいわ」
違いねえ、と一言聞きつつ、ぼうっと周りの人数を数える。
「そういえば脱走した奴、いるみたいね」
「そうなのか?」
「調達屋に朝話をきいたら、したのがいるんだってさ……どうやらゲーム開始12~24時間ごとに全体の情報を更新するっぽいのよ」
「つまり?」
「情報の更新がされる前に誰かが脱走して、それが調達屋の耳に入ったって事……それにしてもどうやったか気になるわー……そこまでは分からんって言われたから、完全な経過報告だったし」
ぽぁっと煙の輪を出しながら、どういうタイミングで脱獄するかを考える。基本的には夜しかタイミングが無いわけだが。
「あんたは、いつ出たいとかあるん?」
「もう掘り終わるから、すぐにでもいいぐらいだが」
「じゃあ、やっぱり今夜決行だな、とりあえずまた騒ぎを起こして……と、思ったんだけど、次やったら隔離されるらしくて、もうできないんだよなあ」
ちなみに隔離されると玉ねぎ刻みの刑になるらしい。地味にやらしいな。
「さて、と……じゃあ夜に合わせて準備を進めるか」
吸い切った煙草をぴっと弾き飛ばして立ち上がり、ぐいーっと伸びをする。
そういえばあんまり言及してなかったが、宇宙猫Tシャツ、地味に胸の大きさでぐいっとプリントが伸びていたりする。
「んじゃ、夕食の後でいいか」
「りょーかい」
相変わらずの緩い感じに手を振って一旦別れる。
「脱出者の人数は」
「今日までで4人、明日には2人増えそうだがな」
やっぱり深夜0時で情報が更新されるっぽいな。情報戦何てめんどくさい事はしたくないぞ。
「そういや元々持っていたアイテムってどこに保管されてるとかしらん?」
「保管庫は向こうにあると聞いたぞ」
イベントクリアした時に全部戻ってくるのは確定だとして、イベント参加中に没収されたアイテムや装備品を回収できるなら攻略方法がまた変わってくるんだよな。
ステゴロで殴り合うってのも手だけど、やっぱり私としては銃でばんばん撃ち合うってのが好き。看守全員撃ちのめして正面から堂々と出ていくってのもいいな。
「今度脱走する時は暴動でも起こしてこの監獄制圧してやろーかしら」
「なんだ、また戻ってくる気なのか?物好きな奴だな」
「三食昼寝付きだからなぁ、環境的に最高じゃん」
「ポジティブだなあ……その考え方」
ついでに言えば食後の運動もあるし、娯楽は少ないけど自由時間も多いから、最悪とまではいかないが、まあまあな環境。
「どっちにしろ、一回はおさらばしておきたいかな」
「ま、がんばんな」
そう言われつつ、最後の取引、と言っても入用な物が空き缶くらいしかないので、煙草と空き缶を交換してからその場を後にする。
「最後の空き缶よ」
「もうちょっと良い道具だったら、時短になったんだけどな」
深夜に二人揃って狭い穴倉で土を処理し、穴を掘り進め、地中に軽く埋まっている金網の所にまでやってくる。
「此処さえ抜けりゃ後は地上に出るだけだな」
「ディックとトムじゃないトンネルだったら大丈夫よ」
「なんだ、それ」
「生きている間に見るべき名作映画よ」
ハリーって名前だったらトンネルとしては完璧なんだがなあ……あとバイクが欲しい、って思ったけど、あれは柵越え失敗して有刺鉄線に突っ込んでるから駄目だな。
「よし、金網も抜けたぞ」
「替わる?」
「そうだな」
ぺたっと土竜が伏せたのでその上を通り、前後交代してから空き缶を使い、金網を通った所から斜め上に掘り進めていく。
「ああ、うん、確かに尻尾うざいな……」
「意識したら動かせるけど、しなかったらちょろちょろ動くんだからしょうがないでしょ」
軽口を叩きつつ掘り進めるうちに手ごたえが軽くなる。
そして最後の一掘りをすると、ばらばらと天井が崩れて落ちる。
「先出ていいわよ」
「お、悪いね」
さっきと同じような切り替え方で前に行かせて、囮に使う。
万が一ばれていて取っ捕まっていても私じゃないからいいだろうしな……で、土竜が先に出ていくのを確認して。
「大丈夫なん?」
「ああ、このまま抜けられそうだ」
上で待っているようなのでそのまま付いて行き、手を取られて引き上げられる。
しっかり金網の先、何もないと言うか、監獄の外に出ているのを確認すると共に、2人でこそこそと脱走する。
「あっさり脱出できたなあ」
メールに飛んでくる脱出おめでとうメールを確認しながらクランハウスの2Fでまったりと葉巻を咥える。
着順としては6番目、トンネル掘って脱出と言うのを記載されている。後はタイムだったり、色々と書いてある。結構リザルトが詳しいな。
ちなみに4日も掛かった訳だが、リアルタイムで2時間程度だった。どういう原理なんだろう。
「お、ボスおかえり」
「今日も配信か?」
「イベント参加しよっかなーって、ボスは?」
「さっき1回目をやってきたところね」
そう言いながらメニューを開きイベントのページを開いていく。
「で、どうだったの?」
「ネタバレは配信してたら御法度じゃない?ま、楽しかったわよ、色々考える事が多いし」
「んじゃー、私も参加しようかなー」
「頑張りなさい、私も2周目やるから」
「え、やるんだ」
「私って、結構凝り性でねー、んじゃまたな」
イベントの参加申請をすると共にすぐにマッチング開始。
あー、しまった……葉巻吸い切ってからやりゃあ良かった。
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