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8章

233話 類は友を押し付けられる

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「あんたの所の子、1人くれない?」
「アカメちゃん。幾らマフィアだからって人身売買はダメじゃないかしらぁ?」
「薬も売ってるわよ」
「火って字入れないと怪しさ爆発じゃないのぉ」

 裁縫クランの2Fの客間で二人でお茶をしながらそんな会話を続ける。
 そういえば料理スキルもそろそろやるか、料理アイテムや食材にバフ効果が付いたから高値取引されてるって聞いたから良い商売になりそうだ。
 バフ効果の掛かる薬まで売り始めたら本格的にやばいクランになりそうだ。
 
「それで、1人使える子欲しいんだけど」
「んー、あたしのとこも、人手不足なんだけどねぇ……」
「金はあるわよ」
「その金で解決するって手段に出るの、嫌いじゃないけど、最近太々しくなってきたんじゃないのぉ?」
「溜めておいて腐らせるなら持っててもしゃーないでしょ、ばら撒いて使う方が好きなのよ」

 そういえばどこでお茶を手に入れてるのやら。
 あの犬野郎もどこから量産しているのか不思議だわ。

「ちょっと待ってなさい?」

 「ずずず」とお茶を啜りながら連絡しているのを眺める。
 あんなごつい身なりしているのにしゃなりしゃなり動くわ、お茶啜ってる時も小指立ててるし、仕草は下手な女性より女性らしいわ……やっべ、私って女子力低いな。

「クランハウスに作業場作ってくれるなら良いって言ってるわ」
「地下でもいいか?確か25万くらいだっけか」
「グレードによるわよぉ、紹介した子がギルドLv高いから、買ったげて?」
「上位のって普通買えないんじゃないのか?」
「パーティー組んで一緒に買えばいいのよぉ、ギルド関係の施設購入する時のちょっとしたテクだから覚えておくといいわぁ」

 やっぱりGLvの高い奴らは奴らで色々と知っているテクニックが多いな。いちいちレベリングするってのも大変だからそういった「抜け道」を用意しておいたのだろう。
 勿論いきなり高レベルの施設を購入するってのも手だけど、その場合だと資金力がめちゃくちゃかかるから、あくまでも「金を持っている奴の抜け道」なんだろうな。
 何でもかんでもそうだけど、やっぱ物を言ってくるのは金よ、金。

「で、どんなこ?」
「そうねぇ……ガチデザイナーで防具性能二の次で職人気質な……イケメン!」

 と、お茶をしているゴリマッチョの後ろから1人、金髪翠目の長身のイケメンエルフがやってくる。あー、これはゴリマッチョが好きそうなモデルしてるわ。

「お呼びですか」
「ええ、ちょっとこの人の所に行って、色々手伝いをしてくれない?」
「この人と言うのは」

 ゴリマッチョが横にずれて私の姿を見せる。
 で、私の恰好を見るやいなや、その場に崩れ落ちて唸り始める。別に変な恰好してるわけじゃないのに何なんだ、一体。

「ごめんねぇ、この子、ガチだからぁ……」
「そりゃいいけど、使い物になるのか?」
「腕は保証するけど、融通の利かない所とかあるから、頑張ってっ!」

 そういうとそそくさと部屋を後にする。
 もしかして扱いがめんどくさいから私に押し付けたんじゃないのか?
 そんな事を思いながらしばらく待っていると這ったままこっちに近づいてくる。思わず悲鳴を上げちまったよ、クソ。

「そ、そのTシャツどこで……!」
「あー、これ……服飾スキンだけど」
「私は今悔しいです、散々色々なデザインを考え、服を作って来たのに、結局はそういったTシャツを着るんだからぁ!」

 だんだんと地面を拳で叩きつけながら悔し泣きをし始める。
 やべぇ、ドン引きだよ……そもそもこのTシャツを実装しているのは運営だろ……って、思ったけど、好き好んできてるのは私だったか。

「ちょ、ちょっとゴリ、ゴリマッチョ……薫!薫ぅ!」
「お名前は、お名前は何ですか!」
「ア、アカメ……」
「決めました、私はアカメさんの所で貴方の気に入る服を作ります。その代わり、私のデザインした服を着て貰います!」
「そりゃ防具だから着るけど……」
「いいえ、見た目で、です!」

 フレンドコールも拾いやがらねえぞ、あのゴリマッチョ。
 すごい情熱はあるんだけど、空回りするからめんどくさいって思われていたって事か。

「分かった、分かったから……とりあえずアンタの要求はそれね……作業場も欲しいんでしょ」
「自腹を切るんで場所だけください、あなたが気に入る服を絶対に作って見せますので!」

 すっと立ち上がり、埃を払ってじっとこっちを見てくる。
 確かにガチだわ、ゴリマッチョや鍛冶クランの連中がガチじゃないのかって言われるとそういう話ではなく、ガチと言う事に対して方向性が違いすぎるんだ。
 向こうはゲームとして性能を求めるわけだが、こいつはデザインや機能美の方にガチなんだ。

「見た目だけじゃだめだから、性能ありきのも作れるんでしょ?」
「勿論その上で、見た目装備をですね」

 ふーむと一度唸ってから装備メニューを開いて見た目装備だけを外してスーツ姿に。
 勿論このスーツ姿もじっくりと上から下まで眺めてから感嘆の声を漏らす。

「機能美と性能を兼ね備えるってこういう事なんだけど、これが出来るわけ?」
「製作者は……薫さんですね、ゲームとしての性能と見た目を両立して、この完成度……」
「だからあんたにはゴリマッチョ……薫の奴に負けないようなものを作るって気概があるかって話よ」
「それは勿論、そうじゃなければクビくくって死んでやります」
「ああ、うん、そこまでもってるなら何にも言う事ないわ」

 何だろう、この面倒な感じ。顔が良いのに中身が残念って言われそう。
 意外とリアルじゃまともな人間関係としっかりした人だったりするんだよなあ……すっげえド下ネタ連発する人が実は中身女性ですげえ硬い仕事してたって事も経験あるし、見た目と中身は比例しないって事か。

「じゃあ、クランの申請送るから、ルージュ脱退して?」
「はい、ではよろしくお願いします」

 すぱっとクラン申請を送ってから一緒にクランハウスに向かう。

『めんどくさいけど、腕はいいからよろしくねっ♪』
『覚えてろよ、てめえ』

 私のクランってこういうめんどくさいのしかいないな、マジで。



「で、あんたの名前は?」
「菖蒲と言います」
「和風ぅー……まあ、とりあえずアンタの作業場を買わなきゃならんからなあ」

 そのままクランハウスに入り、ショップの陳列をしているサイオンを呼びつける。

「これはアカメさんの趣味ですか?」
「服装なら運営の趣味よ、着せ替えも出来るみたいだし、嫌がらなきゃ好きにしていいわよ」

 そう言いながらぽちぽちと運営メニューを開いてどこに施設を作るかを決めていく。

「外が見れる見れない」
「見れた方がいいです」
「試着させる、させたい」
「もちろん」

 どうせ使う事になるし、そろそろ考えていたからいいか。
 100万さらに投資して1Fの広さを増やして、裁縫に必要な作業場やら試着やらの物を購入。こっちは30万程度。

「じゃ、30万ね、用意出来たらうちのメイド秘書に渡しておいて、細かい事やわからんことは随時ってとこか……質問は」
「材料や素材はどうしたら?ルージュでは委託してましたけど」
「クランメンバーに戦闘狂がいるから、そいつに頼みなさい、第4エリア手前くらいなら一人で雑魚からボスまで狩ってきてくれるわ」
「……戦闘やイベントに出なくても?」
「いいわよ、クランの要望を聞いてくれて納期を守る。ゲームプレイをする上で迷惑行為をしないっていうならあんたがどんなものを作ろうが売ろうが、自由にしていい」

 葉巻を咥え、いつもの様に火を付けてもらい、紫煙を燻らせながらルールを説明し、今ログインしている連中への紹介と挨拶を済ませて一通り終わり。
 それが終われば早速菖蒲の奴は作業場に籠り、自分の持っていた素材でばりばりと服を作り始める。

 その様子を見てから2Fに上がって、手頃な椅子に座り、ぷあーっと息を吐き出す。

「あとは錬金、細工、料理ってとこか」

 早くスキル2枠を代用できる人員を増やさないとな。
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