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8章

226話 やるならやるででかく行こう

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「なー、ボス……もうちょっと考えてからやった方が良かったんじゃないのか?」
「何言ってんのよ、こういうのはインパクトが大事って言われてるじゃない」
「ねー、殴って良いんでしょー!」
「……こんな作戦でいいんですか……」

 犬耳ショタを混ぜたバトルジャンキー組と一緒に目の前にいるバカでかいドラゴンを見つつ葉巻を咥え、火を付ける。そして少し大きくかつ深く紫煙を吸い込んでから吐き出す。
 それにしてもでかいな、どうやってバトルジャンキー組の2人はこんなのを相手にして立ち回っていたのやら。ちなみにバトルジャンキー組はこいつを既に撃破している。なんだったらマイカ1人で倒してると言っていたが、眉唾ものだな。

「それで、アカメちゃんはどうしたいって?」
「今から私がFWSであいつをぶっ殺す、其れを配信してもらうだけよ」
「……で、僕は?」
「ひたすら私に回復するだけのヒールタンク」

 やっぱりと言う顔をしてため息交じりに杖と盾を構え始める。
 ももえの奴もいつもの配信準備を始めながらバタバタと戦闘準備をしている横で、葉巻を咥えたままFWS用の砲身を取り出してCHを装着。

「やっぱこういうのは派手にやるべきだろ?」

 大きく口を開けて咆哮をしているドラゴンに銃口を向けたままチャージを開始。
 スキルカスタムみたいな事が実装されて、無意味に起動音声とか付けられたら最高なのになあ。

「……勇者立ちでバカでかい砲身を構えるって凄い映える絵ですね……」
「あのポンコツピンクにそんなカメラワークを期待できないってのが、悲しい所よ」

 後ろで控えている犬耳ショタににぃーっといつもの笑みを浮かべて返事をしながら砲身が展開し、チャージされていくのを待つ。

「マイカ、ももえ、頼むわよ」
「ういー!」
「配信は任せろー!」

 反撃の狼煙にしては、かなりでかいな、こりゃ。




 少し遡り。

「そういう訳だから、あんたの所のヒーラー貸してくんない?」
「そうは言ってもですね、うちのクランもそこまで人員がいるわけでは」
「嘘つけ、前線組のお前がヒーラー確保してないわけないだろ」

 転移地点のいつものベンチで横並びに座ったまま、相変わらず器用に紅茶を楽しむ犬野郎を横目に、大股を開いて、膝に肘を当てて前傾姿勢の状態でじろじろと転移してくるのを眺める。

「……あまり変な風に人を眺めるのはよろしくないのでは」
「印象付けよ、印象付け。私よりもよっぽど有名なあんたと対等に話してるってだけでメリットじゃない」

 そもそもこんな異色な組み合わせが珍しいから見ていると言った感じはあるのだが。

「まあ、良いですよ……うちの弟を呼びましょう、中々優秀なヒーラーですから気に入りますよ」
「振り回して潰れない奴なら、なおの事いいんだけどな」
「私の可愛い弟ですから、あんまり無茶はさせないでくださいよ」

 犬の歯を見せながらくつくつと笑って紅茶を啜っている。お前、お茶菓子位用意しとけよ。

「ひたすらに私のHPを回復してくれりゃいいから、そこまで無茶させる事はあんましないと思うわよ」
「どうですかね、人使いが荒すぎるのを十兵衛さんが愚痴ってましたよ」
「いつのまに仲良くなってたのやら……まあ前回のイベントか」
「児雷也さんも一緒になって大人の飲み会ですよ」

 知らんところで色々な奴が繋がっているのはオンラインならではだな。そうなるとこの間強調した者同士で仲良くでもなってるって事か。運営の思惑通りに動かされているプレイヤーが多いが……円滑と言うか、世界やコミュニティを楽しめって言う事なんだろう。

「可能ならすぐにでもあんたのヒーラーを暫くうちで雇っておきたいんだけど、いい?」
「早めに返してくださいよ、あんまりアカメさんの所にいると染まってしまいそうですから」

 失礼な奴だ、と言いながら2人でくつくつと笑い、暫くベンチで談笑を続ける。

 ……時間にして10分程度、ベンチに座ったまま、葉巻の半分程度を吸った所で犬耳のショタがやってくる。

「あの頃と違ってこっちからパーティを頼むとはな」
「まあ……ある意味で、念願ですよ」

 ふふっと笑っているのを見ながらベンチから立ち上がり、ぐいっと伸びをする。

「一旦抜けてうちで雇って置いていい?」
「ちゃんと返してくださいよ」
「……人を物扱いするのやめてくださいよ……」

 で、さくっとクラン入れなおしてヒーラー1人確保。

『1人、攫ったから可愛がってやんのよ』
『いや、攫ったって言い方はちょっと……』
『新たなる犠牲者か……神経すり減らして潰すんじゃないぞ』
『南無南無』

 髭親父とトカゲはすぐに悪い方向にもっていって……今の所うちのクランで潰れた奴なんて誰1人いないんだからすり潰した事ないってのになあ。
 そもそも神経すり減らしてダメになる奴は私のクランに向いていないし、スカウトなんてしないぞ。

『まあ、あの犬野郎に使われてるんだから、大丈夫でしょ。暫くは私のヒールタンクで使うから。あとマイカとももえがログインしたら連絡して』
『了解だが、何やるんだ?』
『そりゃ手当たり次第のボスを一撃で潰していくのを配信させんのよ』




「アカメさんに付いてきた僕が馬鹿だったと思います」
「煩いわね、良いから回復と防御しなさい」
「マイカさんとももえさんが前線張ってるから大丈夫じゃないですか」
「範囲攻撃はノーカン」

 チャージ開始数秒から、マイカが時限強化でがんがんとドラゴンを殴りつつ、ももえは早速購入したロングマガジンを駆使して援護射撃……しつつ配信で私の事を映している。
 ちなみにだが、クラン員だからって手加減はしないのできっちりとロングマガジンの3,000Zは徴収した。代わりに貰ったのはそれくらいまけてくれとの嘆きだったが。

「あと20秒、なるべく挟んで正面にドラゴン据えておいてちょーだい」

 甲高い音をさせながらどんどんと変形が進んで行く砲身を犬耳ショタが覗き見ながら引いた声を出している。まあ、見てれば確かに引くわな。

 改めてこのFWSだが、確かに発射までには15秒掛かるのは変わらないが、その前段階で変形時間が加味されるので実際に発射するまでは大体30秒程度かかる。
 
 まず勇者立ちの状態、そこから砲身の後部から反動抑制のバイポッドが展開、その次に砲身中央から外装が前にずれて、銃口から凹凸の亀裂が入り、がぱっと伸びた中央部分までが開く。
 大体此処までが10秒程度、チャージ完了が15秒で残りの5秒は照準時間って事だな。

「そのうち、チェーンガンやフックガンを作って相手の足止めする為だけの銃でも作るかな」
「ヒールタンクってこういう事ですか!」

 前でブレス攻撃を魔法で防ぎ、余波で貰ったダメージを回復してもらい、しっかり狙いを付ける。

「マイカ、銃口の前に出てからあいつの顎、蹴り上げてくんない?」
「うちのボスは無理難題を押し付けてくるね!」
「はいはい、援護援護」

 横からロングマガジンの入れたG4でばんばんと撃ち込むももえの援護を受け、軽く怯んだ所をマイカが一気に詰めて、飛び蹴りからのアッパー攻撃。
 上手く顎下を晒し、顎下から胴体を無防備に晒してくれる。やっぱりマイカの奴、戦闘力と対応力はピカイチだな。

 あまりにも上手くいったのに、にぃっと笑い、頭を吹っ飛ばしてやろうと思っていたのを切り替えて胴体中心部。
 FWSの良い所は『当たれば死ぬ』って所よ。
 そして久々に「いい笑顔」をしながら引き金を絞る。
 
 


 後日、配信していたポンコツピンクのチャンネルが大炎上したらしい。
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