上 下
215 / 617
7章

200話 一時的同盟

しおりを挟む
 結構な長さの地雷原を抜け、しばらくまた走っていると所謂テクニカルコースに突入した。
 うむ、あの地雷原は中々大変だったわけだが、このコースはこのコースで厳しいものがある。何が大変かと言うと、やはりカーブの多さや、落下ポイントがある事だ。
 道幅も狭くなるので、小競り合いで弾かれるとそのまま落下して復帰するまでの間がロスになる。大型の機体だとハンドリングがきつい傾向にあるので、減速をしなければならない、逆に小さい機体はこの辺で差をつけると言った形だな。
 
「うーむ、中々……大変なイベントに参加したな」

 面白そうだと思って参加したが、なかなかしっかりと一本のゲームとして成立させるように調整していると言うのが分かる。
 とは言え、本来の目的はアカメと戦ってみると言う点なので、あまり勝敗は気にならない所ではあるのだが、勝つ為にイベントに参加していると言うのを考えると先頭集団にいないと言うのは厳しいかもしれん。
 何をやるのか分からんうえに、強引な加速方法でも見つけて出遅れを取り返す何て事もあり得る話だからな。

「おっと、こんな時にも攻撃してくるとは……」

 大きめのカーブに差し掛かる手前で、小競り合いに巻き込まれる。確かになんでもありなのでいつまでも攻撃されないと言う事は無いだから当たり前だな。
 射程のある長剣で振ってくるのを槍で受け、はじき返しながら足で黒雲を操ってカーブを曲がる。そういえば騎馬戦なんて初めてやったが、しっかりこの辺りもゲームとして補正が掛かっているので難なく操る事が出来る。
 そんな事よりも今は並走して戦っている相手をどう突き放すかが問題だ。

「うぬ、中々、やってくれる」

 同じように騎馬に乗ったのが長剣を振るってくるのでそれを槍で叩き、刃を交えながら並走し、コースに沿いながら戦闘を続けるわけだが、やはり中々難しい。
 あまりマルチタスクと言うのが得意ではないので、相手の攻撃を捌きつつ、馬の操作をしてコースから落下したり、なるべく減速しない様に気を付けたりと、やる事が多すぎる。

「やはりおとなしく酒造してのんびりゲームしてるほうが性に合っておるのう!」

 槍の柄で受けると共にくるりと槍を動かして相手の長剣を巻き込んで上へと跳ね上げ、獲物が無くなった相手へ、振り上げた槍をそのまま一気に振り下ろして相手プレイヤーを馬上から叩き落とす。
 いや、浅い、しっかり耐えて落ちないように手綱を握っている。なかなか肝の据わった奴だが、このまま並走しているとまた邪魔になるかもしれんし、追撃しておこう。
 とは言え、流石にプレイヤー諸共動物を切るのはあまりいい気分ではないので、ぴっと手綱を斬ってから石突で突き落とす。すまんな、これも勝負だ。

「全く、こんなバチバチの状態でアカメなんて見つからんぞ……」
「いや、その通りで」

 アウトコース側から聞こえた声に反応してすぐに槍を構えるが、オープンカーで優雅に紅茶を啜っている犬顔が1人。ああ、こいつは見た事あるし、手合わせもしたな。

「なんだ、ガウェインか」
「前回のイベントぶりで。今日はアカメさんとは一緒じゃないんですか」
「まあな、探して首を狙ってるんだがな、見たのか?」
「いえ、見掛けてませんね……地雷原でそれっぽいのがいたらしいですけど、私は私で序盤に集中砲火を貰ってしまって出遅れましたから見てないんですけどね」
「防御特化のわりに落ちるの早くないか?」
「車の方を狙われたら流石に防ぎきれないのでね」
「盾が使える方が良かったんじゃないのか?」

 それだとお茶が飲めないので、と言う様にティーカップを見せてくる。
 そういえばこの間アカメに、セットを貰ったが、当の本人はまともに飲まず、クラン員で飲み干してしまったんだった。それにしても、クランも建てたからスカウトはもうできないと言うのにいまだに諦めていないのか。

「で、どうする、ここでやり合うか?」
「そうですね……ここは一時休戦で、先頭集団に追いつくと言うのはどうでしょう」
「ふむ……悪くはない提案だ」
「スリップストリームで交互に走れば加速するのでそれでいきましょう」
「馬でも良いのか」
「そういう細かいルールは気にしたら負けですよ」

 するっと人の前に出ると同時に徐々に加速していく。最高速度は一定だが、確かに一時的にそれを超える事が出来るんだな、馬だが。
 しかしテクニカルコース、詰まるところコースが結構曲がりくねっていたり、高低差、障害物が多いとあるので、操作性の方が要求されるところで加速した所で?と、思ったのだが意外とギリギリのラインを攻めるじゃないか。
 プレイヤーも多い分、道幅には余裕があるので曲がり切れずに吹っ飛ぶと言う事はあまりないが、プレイヤー数の多さから通れるところは結構狭かったりする。

「こんな事ならもう少し遠距離攻撃出来るようにしておけば良かったですね」
「イベントごとにスキル覚えてらんないだろうに」

 しばらく進んで、ガウェインの車を抜いたので先頭を切り替える。
 もう少しスリップストリームの速度増加は緩いと思っていたのだが、そうでもないな。結構な加速もするし、交互にやる事で際限無く上がっていく。
 当たり前だが速度が上がりすぎると曲がり切れなくなってくるので、その辺は様子を見ながら適宜減速を入れ、前後を入れ替えるが、まだまだ先頭集団は見えてこない。

「大分離されてるのか?」
「20~30秒遅れてますね、大きい先頭集団での戦闘もあって、そこで脱落したのが私達と同じ方法で即席チームで追走……ってのがガチ勢のやり方みたいで」
「どこからそんな情報仕入れたんだ」
「クランチャットはオープンですからね、個人戦とは言えそこまでは封鎖しなかったよう、でっ」

 「ずざー」っと土煙を上げながらドリフトしているのを体を倒して黒雲が曲がりやすいように荷重移動をしつつ付いて行く。峠で紙コップのお茶をこぼさずにドリフトの練習でもしていたのか?

「レースゲームに対してガチのプレイヤーがいるので、そこからの情報ですけどね」
「うちのクランはアカメ位だな、そこまでガチと言うのは」
「どういう繋がりで今のクランが出来たのかは不思議ですけどね」
「そうだな……アカメの奴が自分で楽が出来る人選ってとこだな」

 儂は酒造用、マイカはイベント時の前衛、バイパーとニーナは手が回らなくなった銃器開発と木工周り、ももえに関しては自分からやってきたと言うのもあるが、宣伝係って所か。表に出るのは必要な時だけで良いと言っているので、矢面に立たせる気なんだろう。

「随分と利己的で」
「そういうやつだろう、交代だ」

 また前に出て速度を維持して先に進む、結構大変ではあるが、これを平然とやっている先頭集団ってどういう事なんだろうか。
 ラリーレースと言ってはいるが、どちらかと言うとロードレースって感じだ。あれも全体的に集団になって先頭集団に追いついたり、協調と言うのがあるらしいからな。乗っているのがロードバイクじゃなくて色んなものってだけだ。
 
「で、まだ追いつかないのか」
「そんな事言っても2人じゃ厳しいんですよ、誰かいないんですか」
「適当な脱落した奴を引っ張り、使わんとな……」

 辺りを見回しつつ、手頃な奴がいないかと確認するわけだが、あまり良いのはいない。あまり触れてはいないだけで、他の連中も同じような手法で先頭集団に追いつこうとしている。
 レース開始でそこそこの時間が経っているのと、システムが徐々に理解されてきたからこそ、だな。

「あまり良さげなのはいないぞ」
「あそこの忍者はどうですか?」

 びょこびょこ跳ねている蛙に乗っているプレイヤーが一人。色んなのがいるとは言ったが、ついに車輪でもないのか?速度は気持ち悪いくらい出ているが。

「そこの君、先頭集団に追いつきたいんだが、協力しないかい?」
「何奴!拙者、他人の手など……」
「このまま出遅れるのであれば構わんがな」
「うぬ、ぬぅ、あい、わかった、協力しよう!」
「理解の速い人は嫌いじゃないですよ」

 しかし、馬と蛙と車……どういう編成なんだろうか。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生したと思った世界はVRMMOの中だった

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,598pt お気に入り:7,294

押しかけ嫁はオレ様!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:33

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:528

処理中です...