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6章

189話 私の城

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『露店商品が売り切れました、売上金を回収してください』

 結構早い段階で売り切れ……と言う訳でもなく、あれからまた丸一日くらい経っていたりする。
 相変わらず、ジャガイモ育てて硝石回収して、細々した作業をしたり、レベリングの為の効率のいい狩場を探したりしながら、ピンク髪と売り切れるのを待っていたと言う事になる。
 常にイベントや戦闘、何かしらの事をやり続けるっていつ休まるんだよって話になるし、普通にゲームやってりゃ虚無タイムなんてしょっちゅう起きる事よ。

「さてと、露店回収するか」

 いつもの様に自宅からエルスタンに戻り、自分の露店の売り上げをサクッと回収する。
 私の作ったパイプ爆弾と火炎瓶はどこで使われるんだろうか。基本的にこのゲームでFFは無いのだが、爆弾関係は確か食らったような?イベントじゃないときに使って他の奴を巻き添えにしたことがないから何とも言えない。
 ただシステム的に認められているのなら、巻き添えを食らった奴が悪いから私は悪くねえ。そもそも道具が悪いわけじゃなくて、その道具の使い方が悪い奴が一番の悪ってのもどっかの会社が言っていたな。
 
「これで70万、貯金が100万、合わせて170万っと……この金額で一等地のクランハウス買ってやろうや」

 葉巻を取り出して一服……は、せずに禁煙中。1本結構高いし、銃弾用にお金残さないと行けないから、節約しないとね。私これでも結構散財する方なんだけど、此処は我慢所。

『これからクランハウス購入しに行くんだけど、どこがいいとか希望ある?』
『お前の自宅を使うから別にどこでもいいぞ』
『あたしも庭あるしぃ』
『右に同じく』
『俺様もだな』
『お前らなあ……じゃあ、好きに決めるぞ』

 そう言うと口を揃えて「どうぞ」と。
 ボス思いなのか、私の自宅の完成度が高いせいで必要が無いかのどっちかって言うか、後者だな。わざわざ別の施設を新しくしたところでそれ以上の便利さは出てこないか。
 
 それじゃあ、まあ、好きに購入してみようじゃない?

 私としてはアクセスの良い別荘にはなるんだが、考えてみたら自宅の利便性が非常に高い。
 全部の街から行く事が出来るし、施設も揃っているからわざわざ、そこに行くメリットってなんだよって話ではあるんだが。
 
 こうなってくるともうすぱっと使える第二の自宅って事で考えないと駄目だな。
 一応最初に考えていたのはガンナーギルドの少し近くで、なおかつ大通りに面してある一等地、ついでにいえばあのゴリマッチョの店の近くでもある所。
 ……で、いいか。

 最初に考えていたガンナーギルドにも近く、転移地点からも近い、よく使う施設と言うか、よく会いに行っている奴の所にも近い、アイテムショップは多少遠いけど、そこはしょうがないな。
 
 で、久々に冒険者ギルドに行ってクラン関係の手続きをしていく。
 何て言うか冒険者ギルドの需要高すぎじゃね?大体の手続き此処でやれるってのはいいかもしれんけど、いちいち色んな所に行ってたらい回しにされるよりかは全然楽よ。

「クランハウスの購入でよろしいでしょうか」
「はいはい、購入よ」
「では、購入するクランハウスを指定してください」

 そういわれると目の前にマップのウィンドウが現れて購入可能のクランハウスが強調表示される。
 狙い所だった、北西側、大通りに面した一等地は購入できるようだったのでそこを選択。

「では、クランハウスの内装を決めてください」

 そういうルールだったか。
 特に料金が変わったり……と言う訳ではないので、完全に趣味だな。和洋中どれでもいいと言うので、洋風にしておく。外見が思いっきり洋風なのに中身が和風だったら頭混乱するし。

 そしてここから諸々の注意事項……って程でもないが、クランハウスの仕様と内部施設の紹介、出来る事、出来ない事、諸々の説明を受けていく。

「オプションはいかがいたしますか?」
「例えば、どんなん」
「クランハウスから転移が可能になる物、生産施設、商業施設、専用NPC等、後でも購入する事が可能ですが、どうします?」

 自宅との大きい違いは商業施設と専用NPC、どこまで飛べるか分からないが転移可能って所か。こういう時、分からないのは素直に聞くのが一番いい。
 転移の範囲はどれくらいかと聞いたら、街中にある奴と同性能、しかも行きも帰りもクランハウス間の行き来なら無料って言う超絶良心的施設。
 NPCに関しては専属の執事を雇えると言った所だな。やれる事は色々あるらしいので雇ってみないと分からんな。
 とりあえずクランハウス150万、商業施設で10万、NPC雇うのでさらに10万。計170万Z也……また金策しないとなあ。

「じゃあ商業施設とNPC、あとはLクランハウスでいいかな」
「はい、では此方の方にサインを」

 流石に金額が金額なので最終確認まできっちりするとは。
 いやまあ、確かにクリックミスだったり、何かしらの選択ミスで数百万飛んでいくって精神的、労力的に一気にやる気が失せるからしょうがない。リアルでも金額の大きい時は何度も確認したうえで取引するからそりゃそうだって話よ。
 ぽちっとミスって数百万が飛んでいって詐欺だのなんだのって色々なMMOでやらかしてる問題だし、余計なトラブルを起こさないのは運営するにあたって結構必要な所だな。
 
 そういうわけで指でさらさらっとなぞってサイン完了、その後に最後の確認ボタンを押したら購入完了、二段階認証って大事。

「お疲れ様です、此方がクランハウスのキーになります」
「物理キーってマジか」

 古めかしい鍵ってモデルが凄い。
 とにかく購入したクランハウスの方に向かい、私の新しい家の前へ。

『暇な奴、私の所に集合』
『エルスタンか?』
『そう、北西の方な』
『俺様は依頼中だから無理だ』
『儂は向かっとるぞ』
『あたしはダンジョンアタック中かなぁ』

 意外と忙しいな、うちのクラン員は。



 そうして暫く待っているとトカゲと髭親父がやってくる。

「結構早いんじゃない?」
「うちのボスがお呼びだからな」
「これ幾らしたんだよ、いいとこだぞ」
「170万くらいかな、あの猫耳にでかい看板作って貰おうか」
「金額が違いすぎるわ」
「今更じゃろ、あの家だって200万くらい掛かってるしな」

 髭親父の奴がさらっと言いながら扉をがちゃがちゃと開けようとする。まだ開けてないんだから開くわけないだろ、って言うか私より先に入ろうとするんじゃーない。

「色々作ったりなんだりでゲーム開始2週間で400万使ってるのって私くらいじゃないかな」

 冒険者ギルドで貰った鍵で扉を開けてから3人揃って中に入る。
 うんうん、良い所を買っただけあってかなり広々なショップが1Fにある。

「結構広いな、レイアウトや棚に関しては自分たちでやれって事か」
「此処の一角貰って銃工房は浪漫あるなあ」
「オプション付けて商業施設にしてるから、好きにしていいわよ」

 こつこつと足音を鳴らしながら奥にある階段を上がり2Fに、此処は手を入れていないのでどちらかと言うとリビング的な感じだな。ちらっと奥まで見てから続けて3Fに上がってどういうのかを確認。
 1Fがショップ、2Fがたまり場、そして3Fに個室になっている。

「やっぱ結構いい物を買ったんじゃないかな」

 そういえばついでに付けたNPCがいないんだけど、どこにいるんかな。

『階段の所にメニュー画面があるんだが、これは何だ?』
『ちょっと待って、確認する』

 3Fの階段付近に言われた通りのメニュー画面が常に表示されているので、さくっと手を触れて反応をチェック。
 
『ああ、これはクランハウスの管理メニューだわ。権限弄ったり、オプションの有無や、部屋の設定とか色々出来るわ……とりあえず、一般プレイヤーの1Fへの許可と、あんた達のオブジェクト設置権限と……』

 メニューを触って何があるのか、どういう事が出来るのかを確認しつつ、設定を進めていく。

『ちょっとトカゲと髭親父、1F行って何か設置してみて、あとNPCの設定も出来たからそれもチェックね』
『仕事してるみたいだな』
『お、色々おけるぞ、ショップの設定だけ分からんけど』

 この辺のチュートリアルは分からんな、案外こういうのってマニュアルが無いから手さぐりってのもあるんだけど。一旦あの2人の所で変えた所含めて確認するか。
 ついでに2Fに転移装置の設置も完了っと。

「大体の設定できたけど、どう?」
「NPCの設定もしなきゃいけないみたいだぞ」

 木工でさくさくと商品棚を作っているトカゲを横目に見つつ、私と髭親父の目の前にいるマネキン状態のNPCモデルを前に唸る。

「まさかのキャラクリ……クランハウスの設定は出来たからあんたも好きにしていいわよ」
「ふむ……じゃあ出来上がった酒でも並べてみるか」

 さて、キャラクリか、こういう他人に見せなきゃならないって場合には結構困るんだよな、私のセンスが無いと言うのも問題であって、そこもなあ。
 クリエイトの画面を出しながらどうするかを考えるのだが、特に戦闘力やプレイヤーに対して有利に働くと言う訳ではないので、特殊造形も思いのまま。自由度の高い専属NPCが10万で作れるって中々いいかもしれんのだが、どうしようかな。

「猫、犬の動物にしたところで面白みはないし、ちょっと奇を衒ったとこもなあ……メイドにしたらベタだし、執事で爺さん作るのももっとベタすぎるし」

 服装は固定だけどベースは自分で弄らないといけないのマジで悩むわ。かと言ってなあ、変なのやってもそれはそれでちょっとおかしいってなるし。

「いい加減さっさと作ったらどうなんだ?」
「拘る所はちゃんと拘らないと駄目なんだよ、170万突っ込んでるしな」
「ああ、うん、俺が悪かった」

 安い金額ならまあいいかって妥協はするけど、此処まで長い事時間かけて折角買ったんだから拘りぬかないと。
 いや、もうこうなったら好きな造形のキャラつくりゃ良いわ。
 


「出来たわ」
「どういう趣味なんだ」
「色々見てたら希望が見える物があったからさあ」

 一言でいえば女性型のアンドロイド、これで確定するのが機械工学にちょっとだけ未来が見えたと言う所よ。
 ただキャラクリの時もそうだったが、プレイヤー自体に何かしらのメリットがあるわけじゃないので、こういう種族もいますってだけかもしれないし、運営の遊びかもしれない……散々悩んでメイドロボかよって所もあるけど。

「結構な美人だ」
「アカメには似とらんな」
「美人作るの上手いっしょ」

 服装自体は固定の燕尾服だが、手足だったり顔の造形を見るとロボって分かるのがいいよね。
 外見は黒髪赤目で私ベースだが、四白眼でもない少し垂れ目、長髪を団子にして後頭部に括ってるのが特徴かな。

「おはようございます」
「妹みたいっしょ」
「お前さんが2人いると言うのはハードモードじゃろ」
「ちげえねえ」

 トカゲと髭親父の奴がけらけらと笑っているのでため息交じりに葉巻を取り出して口に咥える。
 と、共に葉巻に火を付けてくれるロボ娘。うむ、良い執事だな。

「名前の登録がありません、マスター」
「えー、あー……じゃあ、サイオン」
「では、其方で登録しておきます」

 ぺこりと頭を下げてから入口の方に待機する。そうか、現状じゃ商業施設として成り立ってないから手持無沙汰になるからの挙動か。部屋の掃除だったり施設維持はゲームだからやらんしな。
 
「やっぱ金掛けただけあるわ」

 全部終わって禁煙していた葉巻を堪能するのはこれまた格別。
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