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6章

171話 モチベーションは雰囲気と見た目

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「やっぱりコートとスーツで畑仕事するの、違和感しかねえ」

 鍬を肩に担いでふいーっと、一息ついて自分のジャガイモ畑を眺める。この格好と状況を見たらツナギと麦わら帽子でも作っておけば様になるんだけどなあ。
 あのゴリマッチョに頼んだらさくさくっと作ってくれるかな。もう軽装備や服装に関しては完全におんぶにだっこだな。自作してどうこうするって言ってた最初の頃が懐かしいな……その発言してまだ数日だけど。
 何でもかんでもあれやこれや手を出して結局どん詰まりしまくったんだから、その辺は反省しよう、反省終わり。

「水撒きも終わったし、硝石丘の混ぜ掘りも終わったし、品質上げと併用して作物を作るってのが効率がいいか」

 あー、疲れる、と言いながら腰を叩きつつ自宅の方に、そういえば2日ぶりに自宅を見たわけだけど、所々物が散乱しているような気がするって言うか事実散乱している。
 そりゃまあ、自宅の中は弄られない様にして置いて、庭周りは好きにさせおいた私が悪いんだけどさ、もうちょっと綺麗に使ってほしいな。

『伝令ー、伝令ー、私の家の庭は綺麗に使え』

 まったく、いい歳してこんな事言わせるんじゃないよ。
 ……雑に使ってる私が言えた事じゃないけど、自分が汚すのと他人が汚すのってやっぱり大きく違うのよね。別に掃除が嫌いって訳でもないし、リアル自宅は殆どすっからかんなくらいには物は置いてない。
 だからってサンドボックス系のゲームをやって装飾過多だったり、凝った建物を作るって労力は使わない。やっぱりめんどくさいだけのプレイヤーだな、私って。

 とりあえず庭の片付けもするかと、ぶちぶちと文句を言いながら片付けを始める。
 汚れていると言っても、鍛冶や木工で使った端材だったり、何かの破片が散らばってるくらいなんだけど、使った後は綺麗にしろっての。

「ゴミ箱とか作ったらアイテム処分できるんかな」
 
 インベントリに入ったものを直接処分できるってコマンドはあるが、放り込んだら処分できるとか自動で売却してくれるなんて設置物があったらいいのに。
 何だったかな、PCゲームでローグライクとショップ経営を組み合わせたゲームがあって、そのゲームではダンジョンで手に入れたアイテムはその場でそのまま換金できるってシステムがあったんだよな。処分って結構勿体ないから10Zや1Zでもいいから換金したい貧乏性。

「とりあえず貝殻取りに行くか……ついでにゴリマッチョの奴からツナギ無いか聞いてみよ」

 服飾だから、作業着ぐらいはあるだろ。


 

 ダークレッドのスーツに、茶色のコート着て、黒い髪を揺らし赤い目をぎらつかせ、角と尻尾が生えているってやっぱ目立つわ。
 どこ行ってもこっちをじっくり見てくるのって何なんだろうな、イベント終りで騒がれるってのはまだ分かるけど、もう二日も経ってるし、一過性のもんだって思ってたのになあ。

「おーるけ」

 「ルージュ」のクランハウス1F、プレイヤーショップと化している所で呼び鈴を鳴らす。毎回毎回このクランにお世話になってるけど、常に忙しいんだよね、ここ。
 見た目装備もあるし、何だったら防御追及、効果追求のインナーだったり軽装備も売っている。重装備、軽装備どっちでも装備できるインナーがあるから需要が高い産業だよな。
 うちもこういう稼げるシノギをやったほうが早めに目標金額達成できるんじゃないかね。うちのクランの特産物って酒、火炎瓶、爆弾、銃って所か。

 うん、まあ……流石に需要がピンポイント過ぎて売れないわ……農地拡張したら自作の葉巻でも作ろうかな。

「どっちも需要ねえなあ……」

 もう一度呼び鈴を鳴らしながら葉巻を咥えて火を付け一服。ぷぁっと紫煙の輪を作って遊んでいたら、多少やつれたようなゴリマッチョが下りてきて、抱き着いてくる。まあ、何かもういいかな。

「もぉ、何であんなことしたのぉ!」

 そのままがくがくと体を揺さぶられるのだが、身に覚えのない事言われてもしゃーないだろうに。

「何が」
「もぉー、あのイベントのせいでそのスーツの問い合わせばっかりなのぉ!」
「ええやんけ、ブランド拡散よ」
「性能高いから作るの大変なのよぉ!」

 嬉しい悲鳴ってこういう事なんだろうけど、やっぱり要望が多いと応えたくなるんかね。
 きっと作業してる上の階は鉄火場になってるんだろうなあ、あー、こわいこわい。

「私ツナギ欲しいんだけど」
「何でそんなに神経図太いのかしらぁ!」

 がくがく揺らされつつ葉巻を堪能しながら要件を淡々と、下手にここで付き合うと巻き込まれて痛い目見るのは知ってるので、適当に流しつつ仕事を振っておく。

「出来合いのとかない?このスーツとコートで農作業するの、大変なのよね」
「ちょっと、これで農作業してんの!」

 ハンカチあったら端っこ噛みながら「きぃー」と言うだろうね。ゲーム的には別に問題ないからいいんだけど、やっぱ雰囲気って大事じゃん。あと目立たない服装が欲しい。

「作業着みたいなものがほしいのよね、変装ってか顔とか隠れるようなのだったり、あとあれ、コードネームが蛇の奴が使ってるマルチツール眼帯とか欲しい」
「どっちもあるけどぉ」
「1万くらいでいい?性能ってよりも見た目と、気の持ちようだし」
「はぁー……いいわよぉ、青いツナギと眼帯なら今すぐだせるわぁ」

 さくっといつものトレードで交換して終わり。
 その場で着替えて眼帯も付けてみる。

「どうよ」
「むかつくぅ、カッコいいのむかつくぅ!」
「機械系生産も存在してんのかなあ……やっぱ浪漫よね、小型化したマルチツールみたいなやつ」
「ほら、とっとと行きなさいよっ、こっちは忙しいのよっ」

 そんなにぷりぷり怒らなくてもいいじゃん、私VIP待遇とか言われたのに、ちょっと扱い雑じゃない?
 で、そのままぐいぐい押されて店の外に追い出される。
 
『機械系の生産欲しくない?』
『急にどうした』
『いや、あったらサイトだったりレーザーポインターみたいなものも作れないかなーって』
『それは鍛冶クランの時にもあったかな、チェーンソー欲しいって木工連中にも言われたし』
『ロケットパンチ欲しい!』
『もうちょっとゲームが進んだらあるのかもねぇ……ライフルの銃身下部にチェーンソー取り付けて一撃必殺みたいな浪漫もしたいし』

 3作目で相棒が死ぬってあの展開はゲームながらに泣けたなあ。毎シリーズ死んでたキャラが最後だけ生きてたって展開も面白かった。ただナンバリング完結した後に続けるのってやっぱり若干もにょるわ。
 
「ま、とりあえず変装的なのもできたし、これでもうちょっと目立たないでしょ」

 追い出されてた所を見られて目立っていたのは別の話になるんだけどな。
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