上 下
148 / 622
5章

140話 対人の心得

しおりを挟む
 あ、そういえば犬野郎の奴を使って堂々と表で取引させるってのを忘れていた。
 それでもやろうと思っていたのは、あまりにも取引が無い場合の手段だったし、一応二人顧客を掴んだわけだから贅沢言うのはやめよう。

 それにしても此処からどうするかって話だが、とりあえず自分の畑に行ってジャガイモに水やってから硝石丘掘り返してみるか。
 さっさとガンナーギルド見つけて銃弾買える様にしないとなあ……そしたらこの延々と繰り返す硝石稼ぎもなくなる……わけではないな、結局硝酸作るのに必要になるから、其れ関係の物を作る時にずっといるわ。
 どっかにチリ硝石みたいな自然に採掘出来る所欲しい、確か乾燥地帯にあるとか聞いたけど、その他自然に発生する条件ってよくわからん。

「って言うかあんた私の自宅に住んでるけど、他の事してんの?」
「どうした急に」

 相変わらず楽しそうに酒造して、木工で樽を作っている髭親父を見つけてため息交じりに吐露する。別にこのゲームで何をしようが、他プレイヤーや運営に迷惑を掛けなければそれは自由ってのは分かる。狩るの疲れるしとりあえずログインしてだらだら会話するだけとかもあるし、そこは本人の遊び方だが。

 だとしても私の自宅に住み着きすぎじゃねえのか、自分の畑とかどうしてるんだって話にもなる。

「レベリングとか、稼ぎとか色々あるじゃない」
「最初は楽しかったんだが、好きな物作って楽しむ方が長続きするからな、今の所レベリングも必要がない、だったら楽しんで酒造なり出来る此処に入り浸りになるだろ?」
「そういう物かしらねえ……って言うか木工と鍛冶出来るんだったら庭の空きスペースに机と椅子くらい作ってくつろげるスペースでも作んなさいよ」
「ふむ、それもいいな……何だったら儂の畑もこっちに移したいくらいだ」
「つーか畑20面はもう使い切ったから拡張できないっての」
「農業ギルドのレベルを上げたら耕地面積は増やせるだろう?」

 そういえばそんなシステムがあったな。
 よくよく考えれば、ファーマーガチ勢の連中なら効率化とかが進んで行くと農地拡大をしたくなるに決まっている。20面ってファーマーが頑張れば結構すぐにL畑で埋めれるし、ちょっと考えれば増やさないって選択肢が運営的にはないわな。
 問題はどのレベルまで上げて、どのくらい増やせれるのかって話になるわけだが。

「広げるのは今後次第ねえ……ってか知ってるって事は20面以上もってるんじゃない」
「まあな、ただL畑全面ではないからな」

 なんかどや顔してくるの引っぱたきたくなるわ。

「どっちにしろ私は私で使うからダメよ、転移だけなら私の自宅から直で自分の畑いけるんでないの?」
「そりゃのう、こっちと向こうを反復横跳びしとるだけだ」

 だったら自前で家とか酒とか作れるやん……とは言わないでおく。数少ないクラン員のうえに専属でやってくれているわけだから、自宅でやれる事はなるべくかなえてやるのがボスという物だな。



「そういえば次のイベントまでに酒は量産できるぞ」
「何それ」
「……公式見てないのか?」
「だってずっとログインしてゲームしてるから、公式なんて大型アプデとか致命的なバグ修正くらいしかチェックしないわよ」

 これだからと言った顔をしてから、片手で自分の頭を分かりやすく抱えている。そもそも常に公式チェックしてるとかそれはそれでどうなのよ。
 ゲームのアップデートの曜日とかは確かに確実にチェックはするけどさ、MMOの大型アップデートって言うほど頻度多くないだろ?
 これがアクションゲームとか格ゲーとかの対戦物なら都度修正があったり、追加があったりは更新の速い物もあるからわかるが。

「で、イベントってなにすんの」
「対人イベントだと書いてあったな、流行りのバトロワ系でもやるんじゃないのか」
「バトロワねえ……」
「何だ、好きじゃないのか?」
「いいやー?新作はとりあえず触ったりするし、スマホ、PC、コンシューマーでもやるけど、微妙っちゃ微妙なのよねえ」

 八つ当たり樽に腰かけてからメニューを開いて、ゲームのお知らせを見れる部分を確認していく。
 確かに対人イベントを開催するらしい、内容は髭親父の言っていた通りバトロワ系、悪くはないんだが、バランス調整とかどうするんだよって話になる。
 こういう対戦物をやる際に大事なのは公平性になってくる。対戦物に付きまとってくる1強武器とかキャラとかがいい例だな。
 そもそもこういうゲームと相性が悪いのに何でやりたがるのかね。

「バランスが劣悪なのを楽しむ物もあるけど、この手のゲームとはあんましなのよね」
「モンスター相手だけもつまらんからだろう?」
「まあ、やりたい気持ちとか言いたい気持ちは分かるが。職業とステ、レベル差とかをどういうバランスでどうやってやるのかって思うのよ」

 考え込みつつ一つずつ整理していく。別に対人が嫌いって訳ではないが、バランスの悪いゲームは嫌いだ。

「装備とステとアイテムはどうするのかーってのもあるし、そもそもこの手のゲームで遠距離職が強いってのは定番すぎてなあ」

 お知らせのイベント概要とかを確認しつつ、バランス悪いだろと零しつつ考え込む。
 いや、イベントするのはいいけど、対人じゃないゲームでの対人って受けが悪い場合が多いし、これで参加してない人が不利益を被るならそれはそれで問題でしょ。

「それでも不利だとしても、対人ってある程度のラインは何となくと経験と勘で行けるのよ、その後はシステムと環境を理解、その次はもうセンスよ」
「下手の横好きとかもいるだろうに」
「確かに『やっていて楽しい』ってのは大事だわ、モチベーションもあるしね、ただそれはソロだけのゲームの話なのよ」
「別にやっていれば楽しいんじゃないのか?」

 これだからという様に大きくため息を吐き出して煙草に火を付けて咥える。
 
「本人だけならいくら負けようが何しようがいいのよ、そりゃてめえの責任って訳だし、システム的に悪い事をしてなければね」
「今回は個人戦だからその横好きの連中も」
「んー……個人とクランみたいね」

 開きっぱなしのお知らせを確認しつつどっちで参加するかを考える。これ参加人数の上限が参加者全員だったらやばいわ。マップの広さとか特設マップ使うのかもあるな。
 正直な所、ゲームイベントとしてのハードル自体はかなり上がっている。

「クラン参加で大々的に名前の宣伝がベターかなあ」
「儂は対人が苦手だ」
「まあ、やるってなったら私だけで行くわ」

 可能ならそれで勝ちを得て、大々的に名前が出た所で『どーん!』と私の妨害行動をしてきた奴にギロチンを落としてやれる。
 正直な所、これだけの為に参加しようと思っているくらいだ。それ以外の物で期待する所はあんましない。

「流石に1対多じゃ勝ち目は少なくないか?」
「んー……出来なくはないけど、大分難しいって所かしら」
「どうするんだ?」
「まー、もうちょっと詳しいのが出ないと何とも言えないけど……でかい所とか強い所って目の敵にされる場合が多いから、そこの漁夫に乗るのが一番かなぁ。大体は淘汰されて大手の数クランに絞られるから、後はそこでちょっかい出していい具合に削って最後の勝ち馬に乗るってとこかしら」

 ざっくりとお知らせを読み切ってからメニューを閉じる。
 日程的には近日なので土日に合わせるか、平日夜~深夜前くらいで開催するんだろう。
 今回に関しては前回のイベントの様にある程度の調査とか謎解き、ではないが足で情報を稼いで順繰りクリアしていくタイプではないし、一発勝負だろう。

「本当は?」
「集団で動いてる所に火炎瓶投げ付けて燃やしてやるとこ見たい」
「下衆か!」
「そういうのは良いとしても、対人は色々あるのよ。人数が少ない分立ち回り方も変わるし、ゲームのルールによっちゃ単純に通用しないってのもあるかもしれんし」

 ぷかっと紫煙の輪を吐き出して一息つきながら大分まったりとした時間を堪能している。

「T2Wはステ振りで基本の動きに+αって形だから、リアルの年齢とか体格は関係ないし、それこそ経験と立ち回りとセンスじゃないかしらねぇ」
「そこは自信あるのか」
「そりゃねー……ビックタイトルのFPSで世界ランク500以内だったって経験はあるし」
「てっきり1位だと思っておったが」
「そのゲームだけ物凄い集中してやれば上がったんじゃないかしらねぇ、そもそもランクより私は勝つのが大事だし、今回のイベントもその『勝ち』の為の一部よ」

 吸い切った煙草をぷっと捨てて、樽から降りてぐいーっと伸び一つ。そろそろ疲れてきたし、一旦ログアウトしてリフレッシュするかな。

「何にせよ対人って色々難しいのよ。一部のプレイヤーが常勝するとか突破できないってなればコンテンツ過疎化するだけで運営としては癌にしかならないわ」
「儂とばっかり話してるわりに色々考えてるな」
「居候なんだから暇つぶしくらい付き合いなさいよ」

 じゃあ、何をすれば?という顔をしたのでジャガイモ畑を指さし、収穫手伝えと言う顔をしてやると、ため息交じりに樽を作る手を止めて収穫を始める。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

VRゲームでも身体は動かしたくない。

姫野 佑
SF
多種多様な武器やスキル、様々な【称号】が存在するが職業という概念が存在しない<Imperial Of Egg>。 古き良きPCゲームとして稼働していた<Imperial Of Egg>もいよいよ完全没入型VRMMO化されることになった。 身体をなるべく動かしたくないと考えている岡田智恵理は<Imperial Of Egg>がVRゲームになるという発表を聞いて気落ちしていた。 しかしゲーム内の親友との会話で落ち着きを取り戻し、<Imperial Of Egg>にログインする。 当作品は小説家になろう様で連載しております。 章が完結次第、一日一話投稿致します。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO

無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。 名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。 小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。 特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。 姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。 ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。 スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。 そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

僕の召喚獣がおかしい ~呼び出したのは超上級召喚獣? 異端の召喚師ルークの困惑

つちねこ
ファンタジー
この世界では、十四歳になると自らが呼び出した召喚獣の影響で魔法が使えるようになる。 とはいっても、誰でも使えるわけではない。魔法学園に入学して学園で管理された魔方陣を使わなければならないからだ。 そして、それなりに裕福な生まれの者でなければ魔法学園に通うことすらできない。 魔法は契約した召喚獣を通じて使用できるようになるため、強い召喚獣を呼び出し、無事に契約を結んだ者こそが、エリートであり優秀者と呼ばれる。 もちろん、下級召喚獣と契約したからといって強くなれないわけではない。 召喚主と召喚獣の信頼関係、経験値の積み重ねによりレベルを上げていき、上位の召喚獣へと進化させることも可能だからだ。 しかしながら、この物語は弱い召喚獣を強くしていく成り上がりストーリーではない。 一般よりも少し裕福な商人の次男坊ルーク・エルフェンが、何故かヤバい召喚獣を呼び出してしまったことによるドタバタコメディーであり、また仲間と共に成長していくストーリーでもある。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...