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4章

106話 ファイアーパッチン

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「T2Wって正式名称はTo The World Roadだけどある意味ではTime to Winとも読めるから皮肉っぽいわね」

 チェルと再会してから一度家に戻り、ゲーム内時間でそれなりに経ったジャガイモの育成状況を見つつ水を撒いてからまたエルスタンに戻って情報やらショップ巡りを開始する。農業のレベル低いのに一気に手広く畑を作るのは失敗した気がする。農場経営のゲームでも初期にぎりぎりまで資金つぎ込んで常に栽培して金策とかもよくやってたけど、MMOじゃ勝手が違うな。

「まあ、RPGはMMOに限らず時間で強くなるからなあ」

 個人的に一番理解できないのは、やたらと時間を掛けてるくせにそこまで腕前も上がらず、初心者~中級者くらいの所でうろうろしてるくせに顔やら態度がでかくて面倒くさい相手だな。時間さえかければ上がるものって見たとしても何の指標にもならない。むしろそれだけ上げる時間を掛けてるくせにその程度の腕しかないのかよって見られるのもあるな。

「ま、時間は掛けてるけど強くなってないのが私だけど」

 そんなくだらない事を考えつつショップのラインナップを確認しながら樽を探す。そもそも樽ってどうやって作るんだろう?一応見る限りと言うかよくある感じの物としては枠に使う木材、蓋、それぞれを固定する金属の輪、と言った感じか。
 しかし此処に来てこのデフォショップにも限界が近づいてきている。一般的な道具類は置いてあるのだが、微妙に手の込んだものが置いてない。
 そりゃ最初の街の雑貨店なんてこんなものなので、どちらかと言うと処理に困ったアイテム類の売却先の側面が強い気がする。
 雑木加工のちょっとしくじっただけのもので10Zとかで売れたので、アイテム処分がやっぱりメインなんだろう。雑貨としては良い具合に揃ってるのは確かだけど、微妙に欲しい物がないってのが問題なのよね。

「ほんと、T2Wってやっぱすげえ皮肉だわ」

 ふいーっと一服してからショップから出てくる。やっぱりプレイヤーショップの方が充実してはいるんだが、問題は雑貨が少ない。つまるところ遊びが無さすぎるのがプレイヤーショップなんだ。
 基本的に実用性と需要の問題があるから、私だけが欲しいとか、一部しか使わないような奴はとにかく露店にすらならばない。
 一部の需要しかないのに数が多い露店の中からそれを探し出すってそれはもう無理ゲーっていうか探し出す為に露店をずっと張り込むくらいなら自分で探したり作ったりした方が圧倒的に楽だし時短にもなる。
 
「って思ったけど、樽って普通売ってるもんじゃないんかい!」
 
 そもそも樽ってなんだよ、中に猿が入ってるとか、鉄骨の上から転がして髭親父を引き倒すとか剣で刺したら髭親父が飛び出すとかそういう用途か。後はもう酒?焼酎とかワインとかそっち系くらいしか思いつかない。

「やっぱ自作か……木工のGLv2で樽のレシピありゃいいけど……出来なきゃ板材作って自作か」

 どうせ後者になるよ。だって今まで散々そうだったんだから、いきなりレシピが見つかってさくっと余裕で作れるわけないよね。って言うかそんな事今まであったかな?ああ、そうそう、鉄板とか鉄パイプはレシピが見つかったよね。あれは僥倖って言うかマジで助かったけど。


「まあ、結局なかったんだけどさ」

 木工ギルドに再加入した甲斐もねえ。ちなみに再加入も5,000Zだった。そんな事よりもなんで樽の一つや二つ売ってねえんだよ、色んなRPGでも樽って出てくるし、なんなら樽の蓋とかアイテムとかも存在してるのに。なんならリアルじゃポリバケツの蓋だって樽の蓋みたいなもんだし、あの水色のそこそこでかい奴は盾向きじゃん?

「そういうこっちゃねえんだよ!」

 吸ってた煙草を掴んで思い切り地面に叩きつけて鼻息荒くふうふうと肩で息をする。ああそうかい、そういう事ならやってやろうじゃねえか、今更超難易度だろうが不遇だろうが、かかってこいや。そんなこっちの心を折るような難易度と理不尽なゲームも散々やってきたんだよ、ファッキン!チームゲーの脳足りんの味方引き連れてどうにもならない戦況で負け戦する方がまだきついわ。

「やっぱり伐採かよ……もぉー、さっさとファーマーの情報寄越せよあのちんちくりん!」

 地団太を踏んでひとしきりストレスを吐き出してから煙草を取り出して火打ち石でかちかちと火を付けようとすると何かスキル出てきた。

『条件を満たした為「生活火魔法」のスキルがアンロックされました』

 なんだこの便利スキル。


スキル名:生活火魔法 レベル:1(最大)
詳細:【アクティブ】【MP消費1】
備考:【取得SP1】火を出す事が出来る様になる 


「何度も火打ち石使ってた恩恵か?どっちにしろ、取っておくか」

 ぽちぽちとスキルメニューを開いて取得完了。試しに使ってみると指先からぽっと火が出てくる。イメージと言うか指先からライターの火みたいな感じだが、これすげえ使えるわ。

「導火線や煙草にも使えるし、いちいち火打ち石出さなくてよくなるだけで十分だわ」

 一旦指を払って火を消してから煙草を咥え、指をぱちんと鳴らすと共に指先から火を出して煙草へと。すぱすぱと火を付けてからふいーっと一息。

「ちょっとテンション上がったから板材と金属輪作りに行くか」

 樽の留金としての金属輪は鉄延べ棒を使えばいいから、これはとにかく試作するとして、木材に関しては木炭で全て使い切った訳だし、これは取りにいかないと行けないな。

「……伐採のレベル10くらいになるまで雑木集めまくるか……つーか樽に合う木材ってなんだよ」

 ぶっちゃけ思い付きで樽作ろうって流れになった訳だし、そこは調べていないからしょうがないな。パイプライフルを作る時の様に銃床一つに何がいいとかあれがいいとかまでの情熱を注げないので、もうこの辺は適当よ。……あれ、樽ってとりあえず密閉出来る様になっていればいいから別に金属パーツを使わなくもてもいけるんじゃねえかな?

「まあログアウトした時に調べりゃいいわ、とにかく木材手に入れてくるか」

 煙草を咥えて伐採斧を担いだ状態になってからエルスタンの北エリアへと向かう。それにしても容姿とやってる事がちぐはぐすぎて逆に気持ち悪いな。

「まー、とにかくいつも通りの材料集めよね」

 長身の目つきの悪いドラゴニアンが肩に斧担ぎながら煙草吸ってガン飛ばしてるだけで道は譲られる。完全にヤカラだし、そりゃそうか。もう目立たないとかどうとかいいわ。今までは作ってるものがものだったから隠れたり目立たないようにしたけど、家の中じゃ誰も見る事が出来ないし、なにやったってどうやったってばれないなら気にしなくていいし?


「もうちょっとまともに銃弾量産できりゃ攻略とかダンジョンアタックとか積極的にやりたいんだけど、あー、大変だわ、マジ大変だわ」

 エルスタンの北エリア、いつもの様に伐採しているポイント辿り着くと共に斧を振るって雑木狩り。これがリアルだったらこの辺一帯あっという間にはげ山にしてる気がする。とりあえず3スタックくらい集めておけば試作して失敗しても問題ないだろ。樽作るのにどれくらいの木材を必要になるかも分からないからとにかく集めるってだけだけど。

「ガンナーってなんなんだろうなー!」
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