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3章

96話 1発/3万

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 何だかんだで時間をかけまくり、山頂へとたどり着く。結局のところ温存し続けて一発も撃たず、自動回復でじりじりと全快しきる。
 銃弾が作れたと言う事は撃つたびに消費していたMP3と刻印が不必要になった、これだけでもかなりの進歩と言うか楽になった部分でもある。
 MPリソースを温存できるというだけでもかなりメリットだよなあ。しかも貴重なダメージソースを連射しやすくなってるわけだし、さっと構えるだけでもすげえ絵になるわ。

「でもまあ、倒すなら倒すで片付けたいわな、せっかく作った銃弾だし、使って倒せませんって間抜けにもほどがあるし」

 ボスがいるであろう、軽く開けた地点をちらりと見てから煙草をふかして一服。別にリアルじゃヘビースモーカーじゃないけど、匂いがいいからついつい使ってしまう。単純にいい香りで落ち着くから吸ってるわけだが、銃と煙草とかもう鉄板。
 左腕が銃の奴とか、早打ち0.3秒の奴とか、13な奴とか、葉巻や煙草とか咥えてるし、絵になるし、しょうがないね。

「おっと……ボスエリアに入ったか?」

 相変わらずのこそこそ歩いて中に入ると雰囲気が一気に変わる。何て言うかピりつく感じ?フルダイブ系のゲームもあるけど、単純にゲーム勘が働いてる。
 撃った瞬間に当たったって感じるとか、音とか光とかないけど、何となく此処にいるってのをゲームのうえでも察する事とかやってりゃ分かるよね。分からない?

「さーて、ボスらしいボスが出てきて欲しいけど」

 エリア中央の辺りまでやってくると地響きが鳴り、すぐに数歩下がって一息。
 地面が盛り上がり始めるのをちらりと見てから影響がないだろう位置まで下がってその様子を眺める。
 うっわ、すごいな、これぞボスって感じでゴーレムが出てきた。
 
「それにしてもゴーレムってイメージはレンガ積みのあれを思い出させるけど、大体が岩とか鉄とかの塊に手足の付けた奴がオーソドックスなんだけどなあ」

 目の前に出てきたゴーレムは鉄の塊に手足の付いたタイプだが、どことなく形が良い。なんだろな、無骨な所に洗練された部分がある感じ。大きさ的にはこの間戦った大ゾンビより一回り小さいくらいか?それでも4~5mくらいは確実にある大きさだな。私が2m足りないくらいでその倍ちょいだからそんな物だろう。
 しかしこの手のゲームでエリアに入ったからボス戦になるってどういう事なんだろうな、悪い事もしてないし、テリトリーに入ったから、と言う感じなのか?縄張り意識強いなあ。蝙蝠はノンアクティブだったけど。

「まずは攻撃パターン見てから反撃かな」

 アクションゲームやら格闘ゲームも結構その場のノリと言うか、見て避けるタイプではあるんだが、一発貰うと即死する可能性かなり高いので、ここは安全策。
 最近のゲームは初見殺しとかあれ嫌いなのよね、あと自分の操作とキャラクターの動きが合わないとかもイライラする。その点T2Wは思った通りに動いてくれるし、動けるのがいい点だ。

「叩きつけ、パンチ、キック……往年のプロレスラーみたいな動きしてくるわね」

 モンスターを育成するゲームに出てくるような動きもあるな。こういう敵って鈍重のわりにパワータイプと言う感じだが、所々機敏にうごいてくるからまあまあ厄介だ。
 攻撃速度に関してはかなり速い方だし、振り下ろしの速度はかなりえぐい。

「揺れるわ、陥没するわ、足元悪くしてくるわで、相当厄介な相手ね」

 今更ながらコンバットブーツを手に入れておいて良かった気がする。足元のグリップは効くのである程度の踏ん張りだったり、動きは悪くない、問題としてはその踏み込んだ場所が崩れたり、小さくてグリップが不十分になるとかそういうのがある。
 足場が崩れ蹈鞴を踏んだ所を「ぶん」と風切り音をさせながらゴーレムの腕が横切っていく。やっぱ体勢を崩すと振りの速さも相まって即死級の攻撃が飛んでくる。
 そんな簡単でもない相手の動きを見つつ、ぎりぎりで攻撃を何とかよけながら攻撃のパターンを見て動き続ける。
 接近戦はもうやる予定はないので、距離を取って立ち回る事を意識しつつも逃げ道を相手で塞がないように動く、この辺もPvEメインのFPSやTPSでは常套手段だな。

「デメリットでこっちのAGIが落ちてるけど、十分対処できるなら話は別だ」

 なんなら死に戻りまで覚悟していたわけだが、接近戦オンリーの相手ならまだこっちにも分がある。鳳仙花の射程だけまだ気になる所だが、両腰二つの銃でヒットストップを狙いながら距離を詰めて試し撃ちでいけるだろう。

「でもまあ、試し打ちにはいい相手だよな」

 そんな事を言いながら大きくため息と煙草の紫煙を吐き出してから正面に相手を見据えてからにぃっといつもの凶悪な笑みを浮かべる。
 ゴーレム自体も此方を正面に視認?それとも気配察知だろうか、どちらにせよ此方側を見てから右の振り下ろしの攻撃。それを散々見てきた範囲と攻撃速度から安置の部分へと飛び避け、振り下ろした右を上げる隙を見逃さない。
 Dボアを右腰から抜くと同時に腰構えのまま二度撃ちを発動し同時撃ちと変わらぬ速度での2射クイックドロウ。「ババン」と重なった銃声音が響き、ゴーレムの左肩の辺りを撃ち抜く。

「いい出来じゃない?全部自前で作れた割にはさ」

スキル名:二度撃ち レベル:1
詳細:【アクティブ】【MP消費3】
  :発動すると無条件で2連射する
備考:但しフルオート、単発銃の場合使用不可

「改めてみると使い所が限られてるわね……ライフルとか向けっぽいし、序盤の攻撃スキルって感じ」

 スキルを横目で見ながら狙いをつけ、残っている4発を叩き込む。パイプライフルならこれだけで12MPも使う大技に近かったのに、気にしなくてもいいってのはでかいな。
 そのまま腰の近くで構えて撃ち尽くしたDボアをインベントリに仕舞い、すぐに左腰に下げていたG4を抜いて両手でしっかりと腋を締め、小さく構える。
 その瞬間、嫌がる様に振ってくる横薙ぎの攻撃をしゃがみ、髪の毛をちりちりと掠める音と風切り音に軽く冷や汗をかきつつ、振り切った後一旦後ろに1ステップ。相手の攻撃範囲がそれなりに広いので相手が一歩移動すると案外距離を詰められると言う事か。
 落ち着いて振り戻しをしてる所を見据え、狙いをがら空きの足へと移し、拳銃特有の「パン」という炸裂音の様な物をさせながら銃撃。
 一発当たるたびにびくっとした挙動をして、動きが一瞬止まる。とは言えほんの0コンマ何秒と言うものだが、歩き出しを押さえれるのは強い。

「やっば、超楽しい」

 撃つたびに空薬莢が地面に落ちる音を聞き、ヒットストップを使いつつ一定距離を保ったまま移動撃ち、距離さえ保てばあまり怖い相手でもない。同じ遠距離職でもここまで連続攻撃が出来ない弓とか魔法はもうちょっと苦戦するだろう。
 ともかく弾倉内に残った銃弾を撃ち当て、撃鉄が2度下ろされカチカチと空振りしている音を聞いてからまたインベントリに仕舞い、代わりに鳳仙花を抜き出す。

「この辺も敵と状況によって使い分けるべきだけど、試し撃ちだからまあいいか」

 何度か撃ち込んだのもあってダメージ蓄積で多少動きの鈍くなった相手を見据えながらじゃきっと鳳仙花を構える。
 ストックに頬を付け、しっかりと狙いを付けて攻撃する前に相手の攻撃待ち。何度か見た結果ではあるが、攻撃した後の振り戻しがあるので、そこを狙って射程内であろう距離に踏み込み、引き金を同時に絞ると水平2連の銃口から二つ火を噴いて相手の足を一気に削る。3×20の子弾も伊達じゃないね、当たった所が明らかに削れるような効果演出が出てくるし、かなり派手。

「やっぱショットガンの接近戦でのヒットってエフェクトが派手だわ」

 撃ちきった後はすぐに引いて、相手の攻撃を誘発し、避けてから確実性を高めた上で装填。本来であれば一発撃って、相手の出方に合わせてもう一発を撃って怯ませてから装填なり、反撃をすればいいのがこの水平2連の特徴と言うかメリットではあるだろう。
 問題としては長時間の戦闘となると集中力が落ちるし、下手なミスが出て一撃貰うと即死するだろうから、そういう事故を防止するためにも速攻で倒したい。

「リロード頻度は多いけど、その動作が楽しいから苦にならないのもいい所よ」

 水平2連式の弱点でもある、2発撃ったら弾切れと言うのも装填スキルを使ってカバー。
 一度中心を折り、きゅぽっと音を鳴らしながら薬莢の排出音をさせてからトリガーガードを支点にして銃を本体を一回転、銃床を手で止めると同時に中折れを元に戻して装填完了。装填のスキルってどの銃でも一度一回転させるルールでもあるんだろうか?カッコいいからいいけど。

「さっさと倒してやる事やらんと、なっ」

 咥えていた煙草をぷっと吐き捨ててから飛んでくる攻撃を避けては撃ち、装填を繰り返しながら立ち回る。ああ、これパターン入ったわ。大振り、デカブツ、移動速度が遅いと3拍子揃った奴が機動力もある遠距離攻撃出来る私にとっちゃ、余裕だよ。

「ハマると圧倒的に私の方が強いな」

 ここまで散々撃ち込んだら余裕でぼろ雑巾になるゴーレムを見つめながらも淡々と引き金を絞り続ける。とにかく攻撃避けて、撃ち、ヒットストップで攻撃のタイミングをずらして立ち回る。これがガンナーの基本立ち回りなんだろうな。
 とは言え、まったくダメージを受けないと言う訳ではなく、叩きつけの余波と言うか地面の石つぶてに当たったりして少しは削られたが、直撃は結局のところなかった。
 ともかくボスでタイマンかつ遠距離攻撃をしてこない相手何てこんなものだ。固定ダメージとステータスの関係があるから、Lvが高くても一撃貰わない限りは苦戦する要素はない

「1発/3万の高級品なんだからな?」

 ズタボロになった相手に止めの一撃を撃ちこむ。まったく……せっかく作れた銃弾だってのに、もう大量投入だよ。

「まあ、結局殆ど使い切った訳だけど、81万の赤字か……ほんと、情報クランに金ふんだくってやらんと」

 帰りにも水銀確保していかないとなあ……あと22発あるし、採掘の時に絡まれても対処できるだろう。
 そんな事を思いながら足元に転がっていた殆ど燃え尽きていた煙草を拾って最後の一吹かしをしつつ、殆ど動かなくなったゴーレムを見つめる。

「確かに強かったよ、金銭的にな」

 ほぼ吸い口だけになった煙草をぴっとゴーレムに投げ付け、ぶつかると共にポリゴン状になって消失していく。

「雑魚なのは変わりなかったけど」

 使った分の銃弾をインベントリからガンベルトに入れ、Dボアにだけ装填しておく。G4はマガジン問題解決するまではインベントリの肥やしだな。

「さーて、ボスも倒したし、下山ついでに水銀集めて帰るか」

 減った分は回収しないと赤字過ぎるわ。
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