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3章

86話 単純な事

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 T2Wは忘れていたがVRMMOであり、オープンフィールドで自由度が高いというのが売りだ。
 まあ一応のエリア区切りがあるのでオープンと言う訳ではないかな?
 で、何でこんな話を言っているかと言うと、目の前でやっている行為がそれにあたる。

「おー、すげえ……固まってくわ」

 ずるずると地面に湿った痕を残していくスライムに塩を掛けながらしゃがんでじっくりと観察する。
 塩を掛けた所が反応しているのか塩化し、固形化している。

「しかも攻撃判定にならないっていう」

 ぱらぱらと塩を掛けるとぽろぽろと固まったのが零れる。一応固まったのを木の枝で突いたりなんだりしてみたが、特に溶けたりはせずにつかめる様になっている。

 そういうわけで摘まんでじっくりとデータ確認してみるが、何かしらのアイテムデータが出るわけではない。量的にもっと多かったらアイテムとして認識されるのだろうか?

「モンスター毎に有用な攻撃方法があるかもしれないって事かなぁ、ある程度落ち着いたらそっちのモンスター博士的な事するのも楽しそうだ」

 スライムに塩を掛けながらそんな事を思う。

 で、何でこんなことをやっているかと言うと、例の水銀。こいつが問題になる。
 結論から言うと水銀自体は存在している。しかも採掘地と手に入るエリアも判明済み。
 で、何が問題かと言うとダンジョンと言う事で、そのダンジョンの深度が結構深い。

 それじゃあ何でここでスライムに塩ぶっかけながらぼやいてるのに繋がるんだって話になるのだが。
 ぶっちゃけ4回死に戻りした。
 場所自体は東エリア2-2のダンジョン扱いの山だ。東の沿線上ではあるが、二周目のエリアなだけあって結構きついって言うか、ダンジョンにすら辿り着いていない。
 そして此処で撒き塩しているのはただの八つ当たりでもあり、気分転換でもある。

「マジでどうしよう……って言うか単純にレベルが足りないのか」

 正直な所、コボルト戦士との戦い方もかなり特殊と言うかかなりごり押し感が強い。南エリア2-2はどちらかと言うとノンアクティブ中心だから戦闘は殆どない。北エリア1-3ですら地味にきついし。
 今までが出来過ぎていたんだ、まあ序盤じゃ銃剣と銃格闘での戦い方が出来たから通用していたわけだ。今いるところでも特に問題ないと言うか、大丈夫ではあるのだが、戦闘時間が長く、集中が切れると一気に無し崩れになる。
 序盤の序盤、東エリアで犬相手にぼこぼこにされたのを思い出したよ、つい4日前の話なのに何故か懐かしい話だな。

「良いナイフではあるんだけど、所詮はナイフだからなあ……」

 スライムのゆっくりしている移動を眺め、塩をまきながらどうするかと考える。銃撃でごり押しと言うのも手ではあるのだが、それだと今までと変わらない。むしろそれを重視して他が疎かになればこれ以上先にソロで挑むのは無謀だ。
 あくまでもゲームだからトライアンドエラーと、地道なレベリング、死に戻りしたところでデメリットは金銭と経験値だし、何度も死のうが問題はない。別にデスゲームでもないし。
 とは言えT2WはVRMMOでフルダイブの最先端のゲームよ、レベル分は自分の経験と動き方を考えるだけでステータスになぞらえたもので動いてくれるが、どうあがいても装備をどうにかしないと攻撃力は上がらない。

「って言うかいつものパターンだな、目的の物を手に入れるための寄り道」

 東エリア2-1の先に行く前に、もう一度私の装備を見直すことが必要になるとは、コボルト戦士もはっきり言ってごり押しに近い。とにかく盾を持っているのでそれに密着し、押し込んで体勢を崩させる戦法で凌いでいる。
 剣と盾を持っているのは確かにきついが、タンク型の戦闘を見ていた経験が生きている。犬野郎もチェルの奴も正直な所接近戦が苦手だった。受けてから一度押し返してのカウンターを使うのが犬野郎の基本戦法だった、……私が余計な事を言ったから盾でのカウンター攻撃になったけど。
 チェルの場合は完全に受け防御に特化してるから反撃をはなから考えていない立ち回りだった。地下通路で押し込まれた時に前に進めなかったのも、その手の密着した場合の対処という経験が少ないからだったからと思う。
 
「まあコボルトはいいとして現状だって話なんだけど」

 塩だけでスライム倒せるって凄くね?って言うか塩凄くね?

「やっぱり周辺探索とレベリングしてから素材回収かなあ……雷酸銀って手もあるけど、銀が分からん」

 銀装備はあるから銀はあると思うのだが、基本的に高額だからこの辺ではまだ取れないと思う。まあエルスタンに戻って情報クランで聞いてみるっていうのも手ではあるな。

「エルスタン周辺じゃ銀の情報は無かったから第二、第三あたりかなあ……用途が幅広い分、銀鉱石とかインゴットがあったとしても高額っぽいし」

 何より今は破産済みなので、金策もしなければならない。1回2万で4回死んでるわけで、8万Z(ゼニー)分の所持金を吹っ飛ばした訳で、ゴリマッチョに渡しておいて本当に良かった。

「とりあえずレベリングするかあ……鉛と鉄も工業的に多く取りたいからエルスタン周辺で集めつつ、レベル上げてからのダンジョンアタックか」

 何だかんだでHP下級ポーションも減ってきたし、色々と足りない部分が目に見えてきたのも事実だ。くず鉄玉も鉛玉にしたいわけだし、このままやったところで今日中の雷管作成が若干厳しいだろうか?

「って言うかリアルで結構時間経ってるし、一回ログアウトして計画整理するかな」

 この間はイベント終りののんびり時間でざっくりとした奴しか考えていないし、一度ここでログアウトしてもう一度状況を確認したうえで、何が必要でどういうルートを通るかしっかり見直すべきか。
 ゲーム内でスライムを塩で虐めて八つ当たりするくらいならログアウトして一旦飯や風呂を済ませて落ち着いた状態になってからやるのがありだろう。

「それにしたって今までサボってきたレベリングと、銃剣の強化を改めてやることになるとはね」

 塩まみれになり、元々の3分の1が削れたスライムを見送り、地面に残った塊を集めてみる。アイテム名は勿論ゴミなので硫酸塩作成は失敗だ。やっぱり硝石と硫黄を混ぜて燃やして硫酸作るとしよう。
 でもまあ、道筋的にはかなりはっきりしているから、手探りで兎に角あれこれやっていた火薬を作るとか、どうやったら銃を作るのかって所が無いだけマシだろう。

「ゴールが見えているスタートなんだから始めた時よりもぜんぜんいけるじゃないの」

 手探りであれこれやってる時にくらべりゃ全然マシさ。
 手に付いた塩をぱんぱんと手を叩いて払ってから立ち上がり気分転換完了。

「そこら辺の鉱床叩いてすぐに水銀なり銀なりぽろぽろ出てくるご都合主義な展開とかあこがれるわ、マジで」

 ふいーっと息を吐き出してから伸び、一旦ゼイテの街中に戻って冒険者ギルドの近く、いつも使っているようなベンチに座ってログアウトを進める。

『お疲れさまでした、これよりログアウトを行います』

 機械音声が響くと共に、私の意識はいつものベッドの上に戻ってくる。
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