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3章

85話 100%への道のり

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「先進んでるのか進んでないのかいまいちわかんないのよねぇ」

 出来上がった金属薬莢をじっくり眺めながら「ふーむ」と唸る。
 金属薬莢と言えば鈍い金色だが、私の目の前にあるのは灰色のそれこそ鉄パイプの色だ。

 まあ物は悪くないんじゃないかな。耐久テストとかその辺の事してないから一気に駄目そうになるけど。
 いや、それでも完成すれば銃弾としての機能が出来るからセーフなのか?やれる事の多いゲームだからこそこういう細かい部分もしっかり確認しておかないといけない。
 
「とりあえず試してみるか」

 流石に街中じゃテストはできないのでいちいち外にいかなきゃいけないってのは面倒だが、エリアチェンジすぐの周辺には敵もいないし、実験するには十分だろう。どうせ耐久テストだし、当てるとかどうとかってのは二の次よ。

「薬莢にー、火薬を入れて弾入れてーってしたら底から火薬漏れるのか」

 揺らすとちらちらと火薬が零れる。雷管の差込部分だからしょうがないし、素人作成のものはこんなものか。
 何より「銃弾」として完成してないから底の開いた金属筒だし。とりあえず紙を使って底を塞いで導火線代わりにしておく。

「弾を固定するのに先端を絞るんかな」

 うーん、この小さい物の先端を絞るってなるとペンチなり、専用の工具とか作った方が良いかな、工業製品の手作業ってやっぱ工具とか道具が無いと難しいよなあ。
 っていうけど、ざっくり作れるし鍛冶メニューからさくっと加工する。ゲーム処理万歳。
 加工して弾の部分を固定した金属薬莢を逆さまにして何度か振ってみる。
 
 うむ、漏れ無し、落ち無し、固定良し。

「自分の想像していた物がしっかり作れるとやばい楽しいな」

 そんなわけでそれを手元に持ちつつ、一旦外のエリアに出ていく。
 流石に私の自爆騒ぎがあったし、街中で発砲とか爆破はやめておこう。FFがないとはいえいらぬ問題が起きるというのは避けておきたい。

 エリアチェンジしてすぐ、南エリア2-1とゼイテの境目で作った金属薬莢、中身は勿論火薬と弾だけを詰めた物だが、手頃な木を狙う様に地面に置いて角度を付ける。
 
「で、後は火を付けて、と」

 火打石で紙に火を付けると共に金属薬莢内部の火薬に火がついて、よくゲームなり映画なりで聞く発砲音、「パァン」と小気味の良い音が響くと共に弾丸が発射される。

「ああ、そうか、パイプライフルよりも圧が掛かるから耐えられないって事か」

 確かに発射され、薬莢は地面に残ったまま、火薬特有の白い煙と焦げ臭い匂いを辺りに撒きつつも成功しているのは見て取れる。薬莢自体は特に問題なく形は残っているがそこそこ歪に変形しており、しばらくするとポリゴン状になり消失している。これの仕様はポーションの空き容器と一緒か。
 で、問題は薬莢じゃなくて弾側の方で、木には当たっているわけだが発射段階でくず鉄弾が圧力に耐えられていないのかバラバラになって散弾状態になっている。

「くず鉄だからなあ……鉛と鉄、大量に手に入れないといけないか……もろ産業革命だな」

 メニューからいつものメモ帳に実験結果を記載してから一息。
 突き刺さったくず鉄散弾もしっかり時間経過で消失していく。まあ残っているとデータ食うからね、FPSとかでも銃痕は一定時間で消えるわけだし。

 そういえば破壊可能オブジェクトの大半はすぐ消えるくせに木だけやたらと耐久が高くて消えない頭悪い調整したタイトルがあったな。時代逆行する前に3作れよな、マジで。

「とりあえず実験的には成功かな、鉄弾は後で作るとして……残りは雷管だけか」

 出来上がったものを満足げに見つめながら、また今後の事を考える。
 この実験で確定したのは、弾、火薬、薬莢だ。弾は発射されるが改良余地あり、火薬はこのままでも問題ない、相変わらず3gしか入れてないが、それ以上の強装弾化も紙薬莢の時に発射できるのは確認した。
 貫通力とか弾速があがるっぽいが、イベントの時は装填スキル重視だから詳しく見れなかったが。
 薬莢は完成でいいだろう。素材とか作り方をしっかりすれば再利用も出来るようになる思う。

 で、やっぱり問題は雷管になるわけだが、今の所手づまり感が強い。
 一番作りやすいのは雷酸水銀だろう。確か硝酸水銀の溶液にエタノールを混ぜ込んで反応させるんだったかな。他の化合物も調べれば出てくるけど、頭痛が痛い状態になるくらいにこんがらがる。
 何を使うというのは分かるんだけど、どう反応させるのかを調べるまでが大変だったり。

「水銀調べてみるかあ……辰砂か自然水銀を探すのがベースかなあ……しょうがない、エルスタンに戻って情報聞いてみるか」

 正直スライムに塩ぶっかけて硫酸塩を手に入れるってのを考えていたのだが、此処まで来たら雷管作ってやろうと思う。まあゲーム開始4日目で銃弾作られたら運営涙目だと思うけどな。
 って言うか販売されるんかね、銃弾って。

「ああー、大変、ちょーたいへーん」

 ゼイテに戻って冒険者ギルドの近くにある転移地点というか、転移してくれるNPCとの会話を経て、エルスタンに転移していく、料金2,000Z(ゼニー)也。 
 ついでに情報買う時に例の物も手に入れておくか……お金足りるよな。




 青い光の輪を出しながらエルスタンに逆戻り。
 すぐさま歩き出していつも通り情報クランの酒場にやってきて、これもいつも通りウェスタンドアを思い切り開けてカウンターに行く。
 またいつものようにグラスを置かれて酒を注がれる……のを手で止める。

「あんたアルコール持ってるでしょ」
「……ふむ……」

 カウンターにいるマスターがぴくりと眉を1つ動かす。一応プレイヤーらしいが、すごいRPしているな。

「幾ら?」

 グラスを磨く手を止めてしばらく考え込んでいる。ちなみにだがアルコール類があるかどうかは既にショップの情報と言うかメモしておいたものを確認し、あると言う事を確認済みだ。
 どっちにしろ度数の高い物がほしいし、いい酒置いてあるここが狙いになるのはそりゃそうだろって事よ。

「物に、よりますね……」
「高ければ高いほどいいわね、純度の高い良い物とかも好きよ」

 人差し指を舐め、空になっているグラスの口を濡れた指でなぞる。
 敢えて顔は合わせずに会話を続け、相手の出方を伺う。いつもは一杯しか頼まないものを瓶一本丸ごとくれって言ってるんだからそこの試算をしているのだろう。

「1本1万」
「物は?」

 カウンターにごとりと透明な容器に入ったアルコールが出される。やっぱ錬金なりなにかしらの要素でこの量の酒を造ってたんだろう、意外となんでもできるからなこのゲームの錬金って。
 置かれたアルコールを確認し、硬貨データを取り出して1万Z(ゼニー)の入ったものをカウンターに置いてマスターに滑らせる。

「良い取引じゃない?」

 空のグラスをこつこつと指で弾いて一杯貰う。
 貰ったものを上機嫌に口にしながら、次に欲しい物は情報だ。

「で、もう1個、情報が欲しいんだけど」
「要件を……」
「水銀の有無と産出地」
「では、此方を」

 データを受けとりそれを仕舞い、代わりに一杯分のZ(ゼニー)を支払う。
 余計な取引をしない話し合いって効率的にも考えて素晴らしいね。

 

 データは後で見るとして、カウンターを離れて外にでる。
 最近砂丘みねえな、そういえば。
 どっか左遷でもさせられたかな。

「よし、雷管までもうちょいだ」

 いつも以上に凶悪な笑みを浮かべ、これからの事を考える。
 ああ、楽しみすぎる。
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