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2章

76話 寝る前の用事

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 そういえばアイテム性能見ないで字面とモデルの良さで銃3丁を選んだわけだけど、別に後悔してないし、むしろ意地でも銃弾作ってやろうと思ったからいいわ。
 それにしても何で銃弾交換出来ないんだろうなって思うのは当たり前の感覚かなーと思っていたわけだが。 
 ……いや、確かにこれは制限食らっても仕方ないし、運営の判断は合ってると改めて思うわ。



名称:鳳仙花 武器種:散弾銃
必要ステータス:STR5 DEX15
攻撃力:+15 命中:+30
効果:単発 装弾数2発 金属式薬莢 命中時固定ダメージ3×20
  :中折式 左右銃身撃ち分け、同時発射が可能
備考:カスタム及び付属品装着、分解不可
詳細:名前は散弾を飛ばす、空薬莢を飛ばす所から由来
  :有効射程が短いデメリットあり



「これはウサ銃なんか目じゃないわ……装弾数で言えばあっちの方が強いけど、瞬間ダメなら圧倒的にこっちだし」

 左右銃身から撃つだけで瞬間的に固定ダメ120だよ、装填のスキル使えば速攻で240ダメだし、5発撃った時のトータルダメージはこっちの方が高い。銃身に1発しか入らないわけだけど、水平2連は伊達じゃないよね、撃ち漏らしてもカバーできるってメリットもある訳だしさ。

「散弾銃でも銃弾使うのでいいんかな、細かい弾の分類はないって言われてるけど装填したら自動的に切り替わるとか?」

 未だベンチに座りながらストックに頬を付けて照準越しに地面を見つめる。やっぱ既製品はしっかり真っすぐ狙えるのって素晴らしい。まあどっちにしろ浪漫に溢れる銃なのは違いない。銃好きの女子だけど、心は男の子。
 空撃ちではあるが、トリガーを引くと左右の撃鉄が「ガシャ」っと2度下りる音がする。
 ああ、やべえ、これすげえ良いわ……。
 特に意味はないけどトリガーを引いて、撃鉄の下りる音を聞いたらすぐに銃身と銃床の中間を折るとガシャっと音が響く。これだけで気持良くなれる自信があるくらいには良い響きだ。

「街中で中折式の銃をがちゃがちゃと弄ってるとか危ない人すぎじゃね」

 こういう事をしていると不意に客観的になる。
 夢中になってる時は一切気にしないのに。
 まあ、しょうがないね、気持ちいいし、かっこいいんだから。分かってないと味わえない良さ。

「ってかこんな事して遊ぶ前にやる事やってログアウトするか、明日は日曜日だから起きてるのはまだ多そうだし、先に裁縫ギルドにいってスーツ直してもらおう」




 そうしてエルスタンの裁縫ギルドに、予定的には自前でスーツの修復を出来る様にするために上げようかと思ったが、このキャットスーツ、どのくらいのレベルで作れて修理できるのかがゴリマッチョしか知らないんだよな。
 基本的に製造レシピって秘匿するってのが一般的だから、聞いた所で教えてくれなさそうだが。

「いいわよぉ?」
「いいんかい」

 相変わらずの修羅場である裁縫ギルドの生産施設の一角であっさりとレシピを譲ってもいいと言われる。いや、貰った所でだな。まったくとため息を大きく吐き出しながら近くの椅子に座りこむ。

「そもそも裁縫のSLv幾つで作れて修復できるのよ」
「これねぇ、一応10以上かしらぁ……結構加工するの大変なのよねぇ」
「頼んだほうが早いわ」

 ボロボロになったキャットスーツをぺらっと取り出してゴリマッチョに渡す。どうやったらこんな風になるんだよって顔で見られているが、オーバーキルされる威力の攻撃貰ったんだからこうなるよ。

「まー……助かったのは事実だけどねぇ……」
「あら、なあにぃ?」

 うふっと声を出しながらこっちに迫ってくるゴリマッチョに顔を背ける。こう言う所は目ざといのは、なんだおねえの特権なのか?顔を背けたまま頬杖をつき、多少なりとイライラしている態度を取るが。

「……あんがと……」
「はぁーい♪」

 あの巨体でスキップして作業場に向かう。ああ、こっぱずかしい……。
 とりあえず情報ギルドに行って情報料を頂いてから料理やら他の作業に行くのが良いか?イベント情報はもう売れないし、何個か手に入れたスキルを提示してみるか、トラッカーとかガンスミスってそれなりに高値で買ってくれるだろうよ。




 何て言うか久々にエルスタンの色んな所を歩き回っている気がする。
 なんだ、私って初期街から出られない呪いにでも掛かってるだろうか。未だにエリア2から先に進んでないし。
 

 そんな事を思いながらあのクソださクラン名の酒場のウェスタンドアを開ける。
 
 そしていつもの様にバーカウンターの席に座り、一杯注文する。煙草とか葉巻でも今度探すかな。
 不愛想なマスターからもらう一杯に軽く口を付けてから一息。

「特殊生産スキルと追跡スキルの情報」
「物によるわ」
「ガンスミス、トラッカー」
「……買うわ」

 隣に座ったクラマスが硬貨のデータを机にぱちりと置くのを横目で確認する。さて、問題はここからどう金を巻き上げるかが問題になる。ある程度小出しにしつつ料金を釣り上げていくか、一気に高額な金額要求から、条件を下げてるパターン、どっちになるかな。

「幾ら出せる?」
「5万」
「10万」
「6万」
「10万」

 ここで折れるかどうかがポイントだ。まあ私が折れるって選択肢は中折式の鳳仙花を使う時くらいだよ。普通の人なら値段を下げるんだろうね、そんな気はさらさらないし絞れるだけ絞り上げたいんだけど。

「……分かった、分かったわよ」
「トラッカーだけど、取得は楽ね。足跡をじっくり観察したらアンロックされるわ」
「そんな簡単な……」
「馬鹿みたいに派手に魔法とスキル撃ってる前線と攻略組じゃ無理ね」

 グラスの氷をからからと転がし、また軽く口を付けて喉を潤す。
 こんないい酒どこから仕入れてくるのやら。
 隣のクラマスは情報を書き込みながら、別のプレイヤーに検証指示を出し始めてる。

「で、ガンスミスね……鍛冶、木工が最低でもLv5以上かしらね。あとは銃身、銃床、固定パーツの3個で自由製作、まあガンナーが居ないから検証しようがないだろうけど、後発とかサブ、2次にとっては有益よねぇ」
「貴女、どこまでやりこんでるわけ……?」
「今日のイベントでグループ1位取れる位にはガチね」

 残ったグラスの中身を飲み干し、カウンターテーブルをごんごんと叩く。さっさと金を寄越せと言う合図を一定のリズムで叩き続けると、硬貨データが目の前に滑り込んでくるのを手で止める。

「ついでに尾行してた事の迷惑料を請求したら?」
「う、ええ……まあ……」
「私エルスタンに一軒家欲しいんだけどなあー」
「それは、ちょっと……」
「そう思ってるって事をあんたの胸の中にしまっておきなさい?」

 机の上にあった硬貨データを持ち、それに軽く口づけをするのを見せてからにぃっといつもの様に笑いかけ、席を立ち、ウェスタンドアを大きく開いて出ていく。手口が脅迫じゃねえか?


 さて、これで寝る前に出来る事は全て終わらせたかな。
 料理スキルに関しては中途半端になるくらいなら、寝てすっきりしてからじっくりがっちりやりたい。
 モチベーション的には多分このゲームやって一番やる気があると思う。イベントマップでの老人宅の鍋とか団子とかお茶とか普通においしかったし、ああいうのを再現したい。
 後は資金力を頼りに素材を購入して作って売りまくるというのを繰り返すだけだ。

「まあ、ゲームだからこその資金力でぶん殴るのは鉄板よね」

 久々に増えた所持金をにいーっと笑いながら、ログアウトをする。





 これもいつもの様にHMDを外し、ベッドに腰かけてからぐいーっと伸び。
 リアル2時だし、何だかんだでイベント含めたら最低7時間連続プレイだよ。これから睡眠を入れて、飯と着替えとシャワーと朝の用事を済ませたら9、10時くらいかな。ってかログインするたびに半日近くぶっ続けでやるの普通になってきたな。

 まだリアル4日だけど、ゲーム内時間4倍早いからあっという間の感じが強い。
 それにしてもイベントもあれだけ長い事やってた感覚の割には5時間だったな。
 
 そういえばあそこの村だが、転移先としてマップ解放されて、茶屋やらは有料に切り替わったが団子とお茶を堪能できるってだけでかなり有益じゃね?
 
「とりあえず……疲れたし、寝よか」

 まあ変わらず同じベッドなんだけど、ばふっとそのまま倒れ込む。
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