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2章

69話 遊びは終わりだ

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 話の長い奴は大嫌いだ。
 あと自分語りをする奴もな。
  
「話がなげぇ」

 銃口から紫煙を燻らせ、火薬の燃える独特な匂いを辺りにさせつつ、明らかに不機嫌な顔を浮かべる。
 別に村人を生贄にしたとか、実験材料にしたとか、そんな事はどうでもいい。
 
「要点の纏められない奴は総じてクソだ」

 私の事を押さえている二人も口を開けてぽかんとしている。
 大体だな「今私は無防備になってます」ってアピールして自己陶酔してる奴なんて攻撃してくれって言ってるもんだろう。
 
「だからって不意打ちはずるいんじゃ……!」
「だってなげぇし」
「ええー……ボス戦終わりぃ?」

 私の事を掴もうとしながら揺さぶってくる。まあ、そうなる気持ちは分かるが、それよりも長い話を聞きたくない方が勝ったんだからしょうがないだろ。
 それに仮にもボスならこんなものでやられないだろ、だってボスなんだろ?

「……アカメさん、ボス戦終わりっぽいです」
「雑魚にも程があんじゃん、2発しか撃ってねえのに」
「よわっ、ボスよわっ!」

 うつ伏せに倒れているのを軽く遠目に見つつ、一定距離を保ったまま観察する。確かにピクリともしないな。

「ううん、いいのかなあ……って、何してんですか!」
「確認って大事でしょ」

 黒色火薬3gとくず鉄玉を装填し倒れている所に追撃。
 ……うん、やっぱりピクリともしねえな。二人は完全にドン引きしてる顔でこっち見てるけど、これくらい普通だろう。

「よし、死んだな」
「想定外すぎますよ……これ倒したら本当は村人が襲ってくるとかじゃ」
「出れないようにしたし」
「復活イベント的なのかなあ」
「モンスター扱いじゃないからポリゴン消滅しないのは引っかかるけどな」

 死霊系イベントなら復活するだろ、って言うかそれくらい手を打ってないってことは流石にないだろ。
 むしろそうだとしたら運営の設定ミスだし、想定外の事は考えておくべきだろう。

「とりあえず奥行って確認しようか」

 勿論死体は大きめに迂回してからボスエリアの奥に行くのだが、大したものはない。もうこれもど定番すぎる実験施設とか、何かの研究資料みたいなのが山積みになっている。
 こういうのって文章とか設定とかテキストデータを見る人にとっちゃかなり楽しい所なんだろうけど、正直私としてはそんな事よりゲームをさせろ派だし、コンプ要素としてなら集める位の認識なので。

「何にもないわね」

 そりゃあもう雑にひっくり返して辺りを確認する。魔法陣的な物が仕込んであるとか、隠し通路とか、そういうのを期待したわけだが、特にない。なんだよもう、拍子抜けにも程があるわ。

「アカメちゃん、雑だよね?」
「雑……と言うよりも、目的に対して手段がえぐいだけじゃ……」
「あたしはバトルジャンキーって自覚してるけど、アカメちゃんは効率厨だと思うなー」

 あらかたひっくり返して何もないのでがっかり、それにしてもどういう事なんだろうか、もうちょっと手ごたえのある相手だと思っていたのだが、昨日遭遇した一つ目ゾンビの方がまだ強かったぞ。
 
 とりあえず黒幕っぽいのは倒したし、外に出て現状確認してみないと……何であんな空模様になったのかも気になるしな。

「あれ、死体消えてますけど……」

 ボスエリア中央にあった死体が無くなっている、NPCだとしてもポリゴン状になって消滅するのか?それとも時間差で……?

「なんか下にいるっぽいよー」
「……自己生贄とか転生タイプだったって事か」

 低い唸るような地鳴りが響くと共に、ボスエリア中央の地面が盛り上がり、昨日見つけた一つ目ゾンビとは比べ物にならないくらいに大きい死体の集合体の様な物が立ち上がる。ふむ、どうやら自己生贄になって「私はこの世の最強生物になった」とかほざくんだろうか。

「よくこの私を殺してくれたな!とは言え、おかげでこの体を作る事が出来たのは礼を言わねばなら……」
「予想通り過ぎて言葉もねえ」
「物理型なら、まあ……」
「大型の敵は初めてだなー!」

 テンションが違うと言うか、復活したことは別に驚きもしないしむしろ復活しろと思ったくらいだ、既に覚悟もフィルター決めてるチェルシーも盾をすぐ構えて臨戦態勢。バトルジャンキーのマイカはストレッチしつつ臆する様子もなく見上げている。

「このゲームで初めてのボス戦としてはパッとしないわね」

 ざっくり言えばでかいゾンビではあるのだが、耐久力は高いだろうな、切り離したらそれが襲ってくるとかもあり得そうだし、とりあえず隊形を指示し、いつもの様に前がチェルシーで後ろに私、マイカは遊撃扱いで好きにさせる。

「PT会話切っちゃってますけど、大丈夫ですか?」
「他プレイヤー対策だし、ここなら声上げれば通じるでしょ、ねえ?」
「はーい!きこえまーす!」

 とんとん軽いジャンプをしながら楽しそうに大ゾンビに近づいていくマイカを見つつ、チェルシーの肩を叩く。

「前は頼むわよ、私は20発しか撃てないし」
「了解!」

 のっしのっしといつもの様に重量のある歩き方をしながら相手の腕が伸び切るであろう位置でタワーシールドを構えて腰を落とす。

「大きさは5m弱って所かしらねぇ、ずいぶんメタボ体型ね」

 大きく右腕を上げ、一気に落としてくる。重量と大きさに任せたすげえ力技だ。大体こういう敵って大きさが増えれば増えるほど鈍重になっていくな。それにでかいから素早いのってあんまりいないよなあ。
 そんな事を思いつつもゴウっと風切り音をさせながら振り下ろしてくる攻撃をチェルシーが盾を上に構えて受ける。耐えるようなうめき声を漏らし、足を地面にめり込ませながら食いしばって耐える。

「うっぎぃ……!」
「いいこねぇ」

 一緒になりしゃがんでいた所から駆出し、マイカへ手でサインを送る。

「チェルシーちゃんすごーい!」
 
 サインを見たマイカが大ゾンビの足元に入り、左足へと連続蹴り。打撃音を響かせながら振り戻すまでの間、ちまちまとダメージを与える。流石にうざったいのか右腕を戻し、虫を払う様に腕を動かしてマイカを捉えようとする。勿論それを回避するのは流石のAD型だよ。

「もうちょっと頭のいい相手だと思ったんだけど、そうでもないわね」

 銃剣を構え、マイカとは逆方向の足を斬りつける。手ごたえが薄いと言うか、どうも肉の塊を斬りつけている感触が強い。まあ肉の塊と言えば肉の塊ではあるんだろうし、しょうがない。やっぱり固定ダメージを中心としないとダメか。

「手ごたえないわね、こいつ」
「うーん、攻撃通じてない感じー」

 どしどしと足踏みをしてくるのを二人揃ってバックステップ、その着地狙いで両手で挟み込み。うわ、やっべ、私ら回避できない。クセにもなっているパイプライフルでの銃身受けをする為に横に構えてしまう。いや、ダメだ、これだと背中ががら空きになる。
 そのまま大ゾンビの手に押し込まれつつ「バチン」と音を立てて潰される……わけでもなく、チェルシーがいつの間にか盾で手の間に入り込む。
 私とマイカが押し込まれた勢いのままぶつかり尻もちをつくが、挟まれて即死何て事はない、やっぱり使えるメインタンクだよ。

「ぎっづぅ……!!」
「やっぱりあんたは最高のメインタンクよ」

 頭の血管切れるんじゃないかってくらいに力んで押さえながらもじりじりと挟まれていく。まったく、そんな事されたら、応えないと行けないじゃない。

「マイカ、私のことを蹴り上げろ」
「おー、連携ぷれーい!」

 挟み込みに堪えている所の間に立ち、軽くその場で跳躍。マイカがにまーっと笑っているのがちらりと見えた気がする。バトルジャンキーでもあって、快楽主義か?
 そうしてマイカが私の足の裏を狙い、そのまま上に蹴り上げると大ゾンビの上にまで一気に飛び上がる。……着地考えてなかったけど、まあいい。
 飛び上がりながら5g弾を装填、ジャンプ到達点の前に勢いのままレイアウトバラニーに入り、大ゾンビの真上に来たタイミングで引き金を絞る。爆発音と衝撃で体勢が崩れるが、良い具合に頭を撃ちぬく。
 数少ない運動部の経験が生きたよ。
 
「やっべ、これ受け身とれなかったらすげえ痛いだろうな」

 無理やりの2段ジャンプの様になったせいで空中での体勢を崩し、そのまま背中から落ちる。
 うっわ、これすげえいてえ、受け身取れないし、20ダメージ貰ったぞ。

「いっだぁ……!」

 落ちた衝撃で肺に残っていた空気が絞り出されて咽かえる。しかも落下衝撃ですぐに立てない、幾らダメージを与えた所で腐っても……いや、腐ってるから大ゾンビ。活動が止まるまで油断できないのに。
 げほげほと咳き込みながらパイプライフルを杖代わりに立ち上がろうとするがうまく立ち上がれない、これが朦朧ってバッドステータスか。
 カバーと思ったが、大ゾンビの反対側にいるチェルシーは膝をついて荒い息を吐き出しているのがちらりと見える。そりゃあのでかい攻撃を一人で受けてるんだからそりゃそうなるわ。
 大ゾンビはと言うと上半身がそのまま回転し、ラリアット攻撃を繰り出してくる。くっそ、だから腐った相手はこういう無茶苦茶な攻撃してくるから嫌なんだよ。

「うーりゃっ!」

 振り回してきた腕の攻撃をマイカが蹴り、滑らせる。受け流しなんて芸当も出来るのか、このバトルジャンキーは。

「立てるー?」
「無理、すげえ痛い」
「まだ余裕じゃんー♪」

 カポエラ的な動きでロックラックの時にも見た横回転の動きを捌きながら私の前で耐える。が、流石に回転の勢いが強いのかじりじりと押し込まれてきている。

「チェル!なんでもいいから攻撃しろ!」
「わかって、ますよぉ!」

 反対側で立ち上がったチェルがロールインベントリを開き、刃のついた中型のラウンドシールドを選択し取り出すとすぐさま投げ付け、大ゾンビの回転部分へ上手く刺さり食い込む。シールドブーメランとか言いそうね、あれ。 

「うりゃ、っとぉ!」

 回転が鈍くなった振り回しの腕をマイカが跳ね上がり起きの要領で両足を使って蹴り返す。こっちはこっちで時間を稼いでくれたおかげでバッドステータスから復帰、HPポーションを飲んで回復も済ませる。
 
「あー、きっつ……そっちは?」
「足いたーい!」
「大分削られてます……けどっ!」

 正面からの単純なパンチをタワーシールドで受け地面に足跡と土煙を上げながら私とマイカへの攻撃を受ける。すげーなV極型。

「流石にそろそろ死にそうですけど!」
「まったく……12レベルで倒せる相手じゃないよなあ」
「……え?」

 アクティブの装填を使って即時リロード、腕が伸び切り引き戻す際にまた頭に一発打ち込んでやる。うーん、効いてるかいまいちわからん。

「アカメちゃんやっぱおかしいよ」
「僕も改めて思います」

 ぐらつきはする、ただそれでも動きは止まらないだけあって耐久力はかなり高いな。やっぱりでかい一撃で吹っ飛ばすしかない。

「やっぱ頭吹っ飛ばすのが一番だな、あーあ、あれいてえのに……」
「何する気なんですか?」
「マイカ、もう一度頭目がけて私を飛ばせる?」
「出来ると思うけど、一回見られてるし、引きつけないとダメかなあ」
「うまい具合にあいつのパンチを受けられるなら、多少は時間稼ぎができると思いますけど?」

 振り下ろしの攻撃を飛び避けてから一旦全員で距離を取る。動きは鈍重だが、一撃が重いな、相変わらず。一応五感としては視覚確認だろうから、目を潰せばある程度は見つからないだろうか?どちらにせよ少ない知能で対応位はしてくるだろうし、結構攻撃対応してくるのは確定か。

「しょーがない、死に戻り覚悟するか……作戦はさっきと一緒、マイカは打ち上げ台、チェルが盾受けでひきつけ、いいわね?」

 まさかどこぞのサッカー漫画みたいな事するとは思わなかったけど、とにかくこいつを潰さない限りイベントは成功しないし、クリアも出来ないだろう。やっぱり倒すならきっちり倒したいじゃない。

「勝つためにちょっとした道具を作るから、しばらく頑張ってて」
「りょーかい!」
「はいー!」

 二人が大ゾンビの方へと接近し、戦闘を繰り広げる間に私は私でやる事を済ませよう。
 まずはメニュー画面を開き、鉄パイプを取り出し合わせて鍛冶で片側の底を潰す。

「アカメさん避けて!」

 声を聴いて反射的に横っ飛び、直径1mくらいの瓦礫が横を掠めていく。やっぱりそこそこ頭を使う攻撃してくるじゃんか。
 一息付き、メニューでのアイテム作成を続ける。さっき作った底を潰した鉄パイプに黒色火薬40gを流しいれ、細かく刻んだ針金0.5mを入れて紙で一旦の蓋、麻糸を真ん中に突っ込んで導火線代わりに。

「いっだぁー!」

 私の横っ面をマイカの体でひっぱたかれる。なんだ、吹っ飛ばされて来たのか。

「アカメちゃん、流石に二人じゃきついよ!」
「分かってる、もうちょっとだから」

 すぐに体勢を整え、ごめんねーと言いながら戦列に復帰するマイカ、やっぱり心なしか楽しそうにしてるよ。そんなトラブルもありつつ、最後は「にかわ」で密閉し完成。


名称:パイプ爆弾
詳細:黒色火薬40gの手製爆弾 針金入り


「……レシピ作成でレシピ内容変えればよかったのかな」

 出来たパイプ爆弾を手に持ったまま、打撃音と衝撃音とさせている所に参戦。風切り音のするでかいパンチをタワーシールドを斜めにして受け流し、体勢が崩れた所をマイカが蹴りで追撃。

「最後の作戦だけど、あいつの頭に爆弾ねじ込んで吹っ飛ばすから」
「アカメちゃん爆弾作れるんだ」
「秘密よ?」

 ギザ歯でにぃっと笑った口元に人差し指を当てるのを見せる。それを見てまた楽しそうににぃーっと笑う。

「それはそうと早くしてくれませんかね!」

 タワーシールドを構え、がんがんとそれを叩かれているチェルシーが叫んでいる。よく見れば色々とぼこぼこになっていると言うか、歪んでいる。頑張るいい子だな、本当に。
 がんがんと殴られているチェルシーのすぐ後ろにマイカが待機して足で素振りする。飛ぶ準備はできたし麻糸の導火線に火を付けマイカの方へと走りだし直前でジャンプ。
 そのジャンプに合わせてマイカが背中を地面につけて足の裏を一気に押し上げる。さっきよりもスカイな奴だな。

「ガンナーって何なんだろうなぁ?」

 さっきは上を通り越す形で飛んだわけだが、今回は顔に目がけて飛び掛かる。流石に何もない顔面に捕まるのは厳しいので銃剣を構えて思い切り突き刺して姿勢を維持。
 吠えて、声を上げる、まさに放りこんでくださいと言わんばかりの大口を開けてくれるサプライズ付きだ。そんな状態の奴にはプレゼントをくれてやらんとな。

 火のついたパイプ爆弾をそのまま口に放り込み、パイプライフルを抜いて5m弱の高さからジャンプ。
 後は離脱するだけと、思っていたのだが横からの衝撃で体が「く」の字に折れる。
 急に来る衝撃に目がちかつくほどだ。なんだ、どうしたと思っていたらでかい手が私の事を叩いている。
 
「うっがぁ……!?」

 そのまま吹っ飛ばされ、二度三度地面を跳ねる。
 ゴム毬ってのはこういう感覚なんだろうな。
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