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2章

64話 侵入者

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 しばらくの兎狩りからの肉調達。そして売却のループを繰り返してMP下級ポーションをさらに追加で3個。12個の肉を手に入れる為にラビット20匹近く倒すとは思わなかったが、相変わらず運が悪い。
 これで朝方~昼過ぎまで時間が掛かったが、集合時間まではまだ一応時間があるのでPT会話でお互いの情報を交換しておこう。

『ねえ、ステータスって何型?』
『うわっ、え、ああ、V型です』
『私の出会う奴ってなんでこうも極型になってるのかしらね……』
『ダメでした?』

 犬野郎はVR型の所謂物理魔法対策ばっちりのパーフェクトタンク型だったわけだが、こっちは完全に物理特化型のタンクになる。
 T2Wにおけるステータスは私の様な3振り、犬野郎の2振り、ドワーフの1振りが主流だが、特に3振り以上になるとステータスの完成が遅くなるというデメリットもある。ただしレベルが上がればその分汎用性が上がったりやれる事の多さは増えていく。
 逆に振りの数が少なくなればなるほどステータス自体の完成は早いが汎用性はかなり失われる。特に1極型はそれに特化してると言う事になるので装備で補ったりしなければいけない部分が多くなる。
 チェルシーに限っては魔法攻撃に激弱だろうし、装備類で魔法防御を上げるのが鉄板だが。

『まさかとは思うけど、装備って物理特化?』
『すごいですね、アカメさん、その通りですよ!』

 やばい、今まで出会った中で一番脳筋かもしれん。まあ種族的にドワーフで小さい男の子が大きい盾を持って前線に立っているってそりゃあ絵になるし、好きな人凄い刺さるのは確かだよ。汎用性かなぐり捨てている根性は凄いと思うが。

『絡め手貰うと厳しそうね……私も魔法強くないし』
『HPポーションはいっぱいありますよ!』

 うん、これは結構覚悟して望まないと行けないっぽいな。

『そう言えば夜なにやるんですか?』
『村人が深夜に山の中に歩いて行ってるのが怪しいんだけど、がっつり追跡したら攻撃手段がなくなるのよ』
『どういう事ですか?』

 ああ、そうか、遠距離職って基本的にMP消費しないからそうなるのか。確かに弓職系の魔法特化とかじゃない限りMPって使わないし、普通に撃ったら攻撃できるって思っているのか。
 いや、そりゃそうか、火刻印での発火装置なんてゲームならではだが、普通の発想じゃこんな所に辿り着かないだろうな。

『……私の場合、銃撃のたびにMP消費するのよ。だからってINTも上げているわけでも無いからMPがほぼレベル通り。しかも追跡するのにもMPを使うから戦闘になってもならなくても前衛がいるって話』
『はぁ、なるほど……?』
『とにかく、あんたは前で盾を構えてくれればいいのよ』
『なるほど!』

 うん、良い子なんだろうけど、アホの子だわ。PT会話をしながら、昨日追跡を断念した地点までやってきて辺りを見回す。プレイヤーはちらほらと居るので、少し聞き耳を立ててみる。

「イベントって言われてるけど、進展ないねえ」
「なんか同じモンスターでも強いのがいるとかでそれがキーになってるんじゃないかって言われてるけど」
「村人が怪しいってのも言われて、夜に出歩いてるのを見たとか」

 やっぱり進行的には同じ所か。これ以上となるとやっぱり難しいと言うか、何だかんだでイベント2日でリアル2時間なんだし、4日目辺りに確定しないと多分イベント失敗するとは思う。
 そんな事を考えながら足元やら山側に続いていた足跡の周りをごそごそと探る。トラッカーを使っても山の方へと続いている足跡はなく、さっき歩いていたプレイヤーの足跡がラビットを追っていったくらいの足跡しか残っていない。
 
「強い敵ってのも気になるわね……やっぱり何かが操っているとか関係しているのは確定かしら」

 結構深部まで行かないといけないんだろうか。とりあえず老人に渡すための今晩のおかずを回収してからいったん戻る。




「今日も出かけるのか」
「予想を確信したいからね」
「気いつけてけ」

 集合時間前にそっけない会話と食事を済ませて仮眠をとる。何かしら知っているわけではないだろうけど、やはり異変と言うのは気になるのか、少し寂しそうな顔をしている。そんな顔をちらりと見つつ「いってくる」と言い残して集合場所に。

「待ったか?」
「あ、今きたとこです!」

 私に慣れてきたのか元気な声で私に返事をしてくるドワーフっこ。相変わらず自分よりもでかいタワーシールドを背負っているのがシュールだ。とは言え戦闘用の装備にしているのか、がっちがちのプレートアーマーには合っている。身長以外は。

「もうちょっと人数狙っても良かったけど、時間もないしとりあえずは二人で行くわよ」
「はい!それで、何を?」
「村人が不審に出歩いていたのが深夜なんだけど、私が付いていった相手は帰ってきてないから、他の奴がまた出歩くと思うのよ」

 そういいながら手招きして、昨日の見失った地点の方角へと歩き、村の端まで来てから隠れるように促す。昨日の完全に見失った時からの追跡ではなく、隠れつつの尾行に切り替える方針だ。
 チェルシーの方も茂みに隠れているが、タワーシールドが隠れていない。さっさと降ろせとジェスチャーをすると照れたように顔を赤らめてからそれを降ろして一緒になって隠れる。

「元凶が多分こっちにいると仮定して、他の犠牲者が来るとしたらこっちだと思うんだけど……」
「誰か来ましたよ!」

 声を上げてるチェルシーの口を抑え、ようとしたがハラスメントブロックで触れる事は出来ない。一応意図を察したのか自分で口元を抑えて黙り込む。
 そして誰かと言うのが、やっぱり村人。ここは村人Bと言っておこう。昨日追跡したのと違うのは女性と言う点だろうか、この村人についての情報は入れてないな。茂みから歩いている村人の顔を確認しておいて、おばちゃん辺りに聞いたらまたあることない事言ってくれるのを信用しよう。
 そうして隠れている所を横切って、一直線に追跡断念した地点に、そうして山側へと歩いていくのを確認する。その間も音をたてたり気づかれないようにチェルシーの一挙手一投足を見ておく方が大変だった。

「やっぱりこの地点か……私が後ろで道案内するから前衛は任せる」
「はい……!頑張ります……!」

 声を立てるなと何度も言ったおかげかひそひそ声をしつつも声を荒げる。根は真面目なのに。とにかく不意打ちの戦闘も起こるだろうし、キャットスーツとコートを着ておく。私の装備を見て感嘆の声を漏らすのはいいけど、じっくり見すぎだろ。

「不意打ちとかもあるかもしれないし、警戒するのよ」
「任せてください……!」

 むふーっと鼻息荒くしているチェルシーを前に、トラッカーを発動して足跡を辿っていく。
 このまま尾行を続けても良かったのだが、気づかれて巻かれたりすると意味がないのでここは確実性の高い追跡方法で行こう。
 
 トラッカーの弱点だが、画面が白黒になるので奥行きとか境目が見にくくなるのがきつい。しかも山の中なので、躓きかけたり、ぶつかりかけたり何度もあり、そのたびにチェルシーの頭で支えたりしてしまう。勿論ハラスメントブロックがあるので触れないし、蹈鞴を踏んでしまう訳だが。
 ……うん、やっぱり誰かと一緒に来るのは正解だった。

 
 しばらくそんな事をしながらMP下級ポーションを1本飲み、20分程度進んだところで古い屋敷のような所を見つける。

「よし、ここね……マップにマーカー入れて……うん、結構離れてるわね、村からは」
「装備重くて疲れた……」

 ふーっと大きいため息を吐き出しながらチェルシーも息を整えている。そりゃあんだけ重い装備してりゃそうなるわ。スタミナ的な問題じゃなくて精神的な所と、動作の重さが起因してるんだろうけど。
 トラッカーを再度使用して屋敷の周りに敵がいないのを確認してから入口を確認する。足跡自体はそのまま屋敷の中に入っているのでここが正解だろう。
 
「あんた死に戻り平気?」
「好きじゃないけど……」
「分かった、やばかったら先に逃げていいわ」

 そりゃそうか、デスペナあるんだし、気にするよね。とにかく屋敷の入口まで来てから前衛後衛をしっかり組んでから中に入る。内装は簡単に言えば生物災害の1に出てくるあの感じではある。
 
「け、結構雰囲気ありますね……」
「あー、この感じ懐かしいわ、これ」
「な、なな、なに言ってるんですか……!は、初めてじゃないですか……!」
「ポリゴン荒い時の方が怖かったのよね」
 
 トラッカーの効果は続いているので足跡が見れると思ったが、入ってすぐにぷっつりと切れているので、効果も切っておく。
 とりあえず真正面に大きい階段があるので、そっちを……無視して横にあるドアに方へ行き、ノブ側からチェルシーを前にしたままドアを開けて直ぐに下がって中の様子を伺う。応接間なのか暖炉に椅子、調度品が並んでいるが、火は入ってないので薄暗く寒い。
 私、ファンタジーゲームをしていたのに何時からホラーゲームやってたんだっけ?
 敵がいないのを確認してから一緒になってその部屋に入ると共に、ドアが「バン」と大きい音を立てて閉じる。くっそ、典型的なホラー展開なのに驚いたよ。チェルシーなんて「ぴぁ!」っと鳴き声を上げてるよ。

「も、もう帰りたいですけど……!」
「イベントエリアなのは確かね」
「何で、そんなに、平然とぉ……!」

 一方通行のダンジョンってわけか、こりゃ気合入れていかないとやばそうだ。
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