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2章

53話 かけ合わせ

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『To The World Roadへようこそ』




 リアルタイム19時、ゲーム内時間1/11の12時、ゲーム的には10日経ったことになる。いつも通り光の輪を出しながらログイン、北エリア1の自爆したところからの再開。すぐにリストとメモ帳を確認、これもログインの時恒例。

「流石にやっとできたとは言え、かなりだれてくるわね」

 一歩ずつ進んでいるのは確かなのだが、自分でも流石に牛歩すぎねえかと感じてきた。やっぱりガンナーギルドも探してみるか?まるまる無くすって事はないだろうけど。とりあえずエルスタンに戻って刻印関係について聞きに行こう、大体の予想は付いているけど。

「ってか街中に人多くない?」

 いつもと言うか、やけに人が多い、ゲーム開始くらいの時を思い出す。言うても2日前くらいの話、ゲーム的には10日ぶりだけど。こういう時に限って情報クランの尾行役がいない、せっかく色々聞いてやろうと思ったのに、なんなんだ。

「まあいいや、とりあえず鍛冶クランいこ」

 がやがやとしているエルスタンの中心地から外れて、あのトカゲの所まで速足で向かう、今の私って考えてみればパイプ銃とウサ銃を持っている訳で悪目立ちするからね。
 ……だとしてもやけに視線が痛い気がする。

「おい……あいつが、あれだろ?」
「いや、だとしてもサブあるし」
「ガセじゃないのかよ」

 ああ、やっぱり悪目立ちしてる、やだやだ、有名プレイヤーになった所で自分がゲームしにくいだけになる。このゲーム隠密とか変装とかそういうのあるだろうし、そっちのスキルも上げていくか?
 装備さえ仕舞っておけばただのドラゴニアンな訳だし、提げていた銃をインベントリに仕舞いこむ。



「って、事があってさぁ、何か知らない?」
「サブマスの知り合いだからって図々しいな、あんた」

 『ヘパイストス』に辿り着き、ガサツエルフに軽く挨拶してからトカゲの所に案内される。作業中だったので邪魔しない様に後ろに座って作業を眺めるわけだが、顔に似合わず細かい作業が得意なんだな。多分あれは彫金のスキルだと思う。と言うか彫金って金属アクセの製造しか使えないと思ってたけど。

「彫金って鍛冶と細工の複合でしょ?金属アクセしか使い道が無いと思ってたけど」
「本当に遠慮ねえな!まあ本来はそうだよ、防具に編み込み入れたりとかな、まあ詳しい所までは生産の暗黙ルールだから言えねえけど」
「……私の独り言と予測なんだけどさあ、T2Wの彫金ってつまり金属アクセが基本で、武器や防具に付加を加えられるんじゃないかしらね、だから刻印は彫金前提なんでしょ」

 メモ帳に書いておいた事をとりあえずつらつらと言っていく、これが間違っていても私の独り言だしトカゲにはぜんぜん関係ないからいいよね。どこかでぽろっと言ってくれりゃ儲け物だし。

「まあその刻印の前提までは知らないけど、魔法絡みだとは思うんだよね、良い所だと錬金だと思うけど」
「さあね……っと、それで俺に聞きたかったのはそれだけか?」

 やっぱ秘匿してくるか。まあそりゃそうだよね、錬金と鍛冶と細工でしょ?これだけで3ギルド使うし、なんなら使う材料も別だし手間がかかるのは確かだもん、そりゃそうか。それじゃあ出してもいいと思えるような話に展開すればいいだけになるな。

「これ、なーんだ」

 インベントリからパイプ銃を取り出して目の前でちらつかせる。わかりやすく二度見して目見開いてるよ、そりゃまあそうだよ、文明の利器と言うか一つのでかい可能性なのだから。

「おまっ、これ……!」
「あー、刻印について詳しくしりたいなぁー」

 この光景を見たら私ですら笑わざるを得ない。

「それにぃ、私ってぇ、特殊生産のスキルもあるんだよねぇー」
「……お、教えてくれるってか?」
「でもぉ、私ってぇ、此処のクラン所属でもなければ生産職でもないしぃー」

 座ったまま手に持ったパイプ銃を右に左に振ると分かりやすく目で追ってくれる。でも総合的に考えたら私って生産系はメインではないにしろそこそこレベル高い方だよな。なんなら総合的なレベルじゃ生産の方が高いわ。

「ああ、わかったよ!教えてやるから教えろよ!」
「物わかりの良い相手って好きよ」

 机に膝をついて寄りかかり、にぃっとギザ歯を見せて笑いかける。トカゲの方は多少なりとあきれた顔もしつつ周りに人がいないのを確認して、作業場の扉を閉める。内密な話でしかないし、妥当な対応だ。とりあえず立ち上がり、トカゲの隣に行ってパイプ銃を作業台の上に置く。それを目で合図して「みていいぞ」という様に顔を向ける。

「材料は、鉄パイプと木材に針金か……こんな簡単な仕組みで銃になるってマジかよ」
「発火装置は刻印でオミットしてるし、詰めてぶっ放すだけなら何でもいいんじゃない?砲って言われてもしょうがないけど」
「じゃあ弾と火薬も?」
「当たり前でしょ、無けりゃ作ってないわよ」

 パイプ銃をじっくりと見て、ここがどうだのあそこがどうだのとぶつぶつ言っている。そりゃ、自作銃なんて見たら生産的には大きい発見だろう。私以外にガンナーはいないが、自作してるというのは少なからずいるはずだしな。見る限りこのトカゲもそっち系ではあるし。

「で、刻印は?」
「あんたの予想は合ってるよ、鍛冶と細工で彫金、魔法効果を入れるために錬金との組み合わせでさらに派生……つまり複合スキルをさらに複合するって話だ。ただ流石にレベルは分からないけどな」
「概ね考えていた通りか、複合の複合までは考えてなかったけど」
「あと特殊生産スキルになるからSPが必要になるけどな、特殊生産は多分スキル1枠扱いだ」
「あのガサツエルフじゃここまでの話聞けなかったと思うわ」

 さりげないディスり、そういえば名前はテラだったかな。とにかく予想していた部分に関しては概ね間違っていなかった。なんなら組み合わせにさらに組み合わせると派生するというのもいい情報だった。刻印に関してはSLvを上げれば問題ないだろうし、分からなくなったらまたここに来ればいいだけ。

「それで、そっちの特殊スキルは?」
「ガンスミスよ」
「マジかよ……こっちの情報薄くねえか」
「銃を組み立てた時にアンロックされたけど、SLvまでは分からないわね、とりあえず木工鍛冶はLv5だけど、多分一定レベルかつ組み立てなのが条件だとは思うわ」

 パイプ銃を見つめながらトカゲが同じように材料をざっとインベントリから取り出してメニューを開いている。ここでいきなり試すのはどうかと思ったが信憑性の部分では若干怪しいのは納得できる。手順を変えたりなんだりとしているがうまい事いっていないようだ。

「んー……ダメだな、組み立てしても銃は作れない……これ特性的な部分も必要なんじゃないのか」
「組み立てだけなら問題ないと思うわよ、ガンナーが製造可能ってわざわざ表記してるのを考えれば製造成功のSLvが緩和されてるってのが妥当じゃないかしらね」
「つか、何でそんな情報を?刻印一つに対してでかすぎじゃねえか」
「今の私にはそれを出すだけの価値があると思って言ってるのよ、フリントロックと火縄の機構を無視して威力上げられるし」

 これは事実、火縄銃の実射動画とか見ればわかるが銃口と火皿の部分から煙と閃光が出ているので、そこでロスが起きている。逆に私のパイプ銃に関してはロスは起きないがその分衝撃が強くなる。つまり威力の部分でロスが発生してないという大きいメリットが刻印によって施されるわけだ。それにちょっとだけ転用できれば爆弾とかにも使えると思う。この辺は取得してみないと分からないが。

「まあ、使い道はただ魔法を出すだけ、とは限らないのよ」
「……どうしてこうもドラゴニアンってのは我儘なんだろうな」

 はぁっと大きいため息を付きながらパイプ銃を返して来る。大体どういう物かを確認してトカゲもメモ帳を読み込ませているのかウィンドウを開いて書き起こしをしている。

「とりあえず開幕イベントじゃ間に合わねえな、条件が難しい」
「何それ、エルスタンに人多かったのもそれ?」
「そうだぞ、専用マップでイベント戦だとよ、公式見てないのか」
「見てる暇ないくらいやってたからなあ」

 後でちゃんと公式見よう、やっぱり短所だよ、一つの事しか見えなくなるってのは。それにしてもイベント戦か、報酬がどんなものか分からないけど、せっかくならやってみないと損だろうな。

「トカゲ同士でやる?」
「残念、先約がいるんでね」

 振られてしまった。別に期待して言ったわけじゃないからいいのだが。

「んー……刻印覚えて改良する時間はある、かな」
「もういいだろ、俺も準備とかあるしな」
「へいへい……今言った事口外するんじゃないわよ」
「当たり前だろ、言えるかよこんなもん」

 ぶつくさ言いながらも作業台で木工のレベリングを始めている。やっぱり男の子にとっちゃ銃って浪漫よね。……いや、私も好きだけどさ。

 
 これ以上いても邪魔だろうし、その場を離れて鍛冶クランを後にする。イベントとなると派手には動けないが装備の新調くらいはしておきたい。刻印はその後でもいいわけだし。
 
「とりあえずパイプ銃弄ってみるかな」
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