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1章

49話 大いなる一歩

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 暗闇洞窟を抜ける前に、ロックラックを数匹倒したら追加で硝石も手に入れ、合計3個になったので満足しつつ帰還。あとは何事もなくエルスタンに戻ってからガウェインとは別れる。
 少しの間だけではあったが前線組メインタンクって凄いわ。まあ今後何かでPTを組むことはないとは思う。そもそもレベルが違いすぎるし、方向性が違う。私が足を引っ張っている状態で寄生は好きじゃない。

 それにしても対ロックラック用に作ったパイプ爆弾は完全に改良の余地があった。多分だがもっと火薬を詰めて圧縮と密閉を完璧にしなければ手榴弾のようにはならないのだろう。石も適当に詰めた奴なので花火の様な配置が出来ればダメージはもっと出るんだろうか?

 どっちにしろ目的の硝石検証はできたし、それも回収できたので全部生成できれば黒色火薬は合計103gだ。一応火縄銃換算で行けば34発分。これと合わせて弾も作らなければならない。
 
「まあ、火薬は今すぐじゃなくていいから、最後に必要な物を揃えてから、かな」

 確定情報じゃなかった硝石も検証できたので、火薬の憂いも無くなったし、あとは銃本体と弾が出来れば先込め銃としては完成する訳だ。

 ……そういえば火縄のギミックに関して一つ思いついた事があったのだが、また情報クランで聞きこむしかないか。忘れていたガサツエルフの所にいくのもありかもしれん。とは言え生産系の情報は、秘匿度が高すぎて情報クランでも回収できないとか聞いたな。
 生産レシピと言うのは人それぞれで製法が違い、作り方で性能が変わるとか言う頭のおかしい仕様のせいで門外不出だわ、秘伝だわ、とにかく下手に情報が流れない。
 で、生産系の横の繋がりと言うのも前に触れたがとにかくネットワークが凄い。製法が分からない、作れないから聞いてみてもヒントまでしか貰えないのが暗黙のルールであり、口外なんてしたらもう袋叩きで情報封鎖食らうっていう徹底ぶり。
 もちろん生産職を馬鹿にしたとか敵にしたら一瞬にして生産系の大手は門前払いになる。

 まあ、私としては生産系に門前払いを食らった所で実害がないのでガサツエルフにもあれだけがんがん行けるわけだが。

「まあ、聞いてみるだけ聞いてみるかな」




 鍛冶総合クランの名前聞いてなかったわ、どうせ情報クランみたいにふざけた名前なんだろうけど。って思ってたんだけど。

「ヘパイストスってめちゃくちゃ王道じゃない?」
「え、そうなの?」
「鍛冶やってるなら知っときなさい……ギリシャ神話に出てくる炎と鍛冶の神様よ」
「へー、すごいんだなあ……」

 ガサツエルフの作業を後ろで座りながら見つめる。何か作ってる時は真面目なんだけどなあ、武器センスは相変わらずない。

「で、私の頼んでたナイフって出来てる?」
「もちろん!今度こそ良い物だよ!」

 壁に掛かっていたナイフを一本持ってくる。すげえ、ちゃんとしたナイフだ。呪われていないビジュアルのナイフとかこいつの武器で初めて見た。



名称:ナイフ改 武器種:短剣
必要ステータス:STR3 DEX3
攻撃力:+9 命中:+20
効果:無し
詳細:合金を使用し粘りの強い短剣
製作者:テラ



「よく500Z(ゼニー)で済んだわね」
「もっといいの作れるのに!」
「センス悪いのよ、あんた」

 代金の500Zを渡してナイフを光に当ててみたりする。鈍く光を反射させながらも刃の部分はしっかりと鋭い。ちゃんとやればできるじゃないの、このガサツエルフ。カスタマイズのレベル上げてナイフ壊れない様にしておくかな、ちょっと申し訳ない。

「で、ちょっと話変わるんだけどさ、魔法を使った武器とかの製造知らない?」
「えーっと……魔法武器って事?」
「いや、例えばMPを流したら火が出るとかそういう感じの」
「ある事はあるけど、あたしは無理かな……スキルがないし」
「出来るのはいるんだ?」
「あいつ」

 丁度話している所の目の前を歩いている奴を指さす。おー……これはまた苦手な人には苦手なフォルムをしている。顔はがっつりトカゲの獣人で、鱗の色は緑色、種類的にはイグアナとかそっち系っぽいが、そこまでは詳しくない。

「何だ?」
「ねえ、あんた刻印できたよね、どんなものか教えてあげれない?」
「実用レベルの威力出すのって厳しいぜ?しかも必要スキル多いし」
「威力よりも発火させる目的なのよ、で、何?」
「遠慮ねえな、あんた……まあ、サブマスの頼みだからいいけどよ……刻印を入れるだけなら錬金と細工が必須だな、後は何に入れるかで鍛冶とか木工が変わるし、派生スキルも必要だな」

 うん、ある程度は予想していたが、細かい作業での細工、魔法的な加工で錬金の合わせ技って事だろう。どっちにしろ今の状態じゃ、自作するというのは難しい。此処で細工まで手を出したらそれこそ回らない。

「これの底に仕込んで、外部から発動できるようにならない?」
「鉄パイプじゃねえか、まあ処理的には製法と場所さえ指定出来れば出来るけど、よっ」

 トカゲ獣人が鉄パイプを受け取り、メニューを開いて操作していくと筆の様な物が現れる。それを持つとさらさらと何かを書き込み、完成した時のSEが鳴って処理終了。やっぱりゲーム処理って偉大だよね、いちいち細かい部分まで指定はできるけど大雑把に自分の考えている通りに処理されるわけだし。


名称:鉄パイプ(質2)
詳細:火刻印を施された鉄パイプ


「ほい、完成……それにしてもこんな物何に使うんだ?」
「銃作んのよ」
「へぇ、そりゃすご……いぃ!?」
「じゃ、また来るわ」




 刻印された鉄パイプをインベントリに仕舞い、そのまま鍛冶ギルドへ向かう。そして生産施設に直行し、刻印された鉄パイプを取り出しメニューを開く。刻印された側を下にし、刻印を潰さない程度に片側を潰して蓋をする、此処は特に念入りに。そしてパイプ爆弾を作った時と同じようにする。そうして刻印された側を試しに魔力、MPを流す様にイメージすると「ぼっ」と軽く火がついてすぐに消える。
 
「よし、後は針金を作って、と」

 着火確認をして、すぐに針金を生産。此方もレシピとしては鉄延べ棒を溶かして加工するわけだがいつもありがとうゲーム処理、適当に叩いて伸ばしたらあっという間に完成だ。


名称:針金(質2)
詳細:鉄を細く糸状にしたもの 精度によって強度が変わる


 これでとりあえず考えていた必要材料は揃った。
 着火方法だけは仕組みを変えてみたのだが。この魔力による着火方法、実はガウェインから聞いた、私以外のドラゴニアンの話に直結してくる。どうやら「魔法矢」と言うスキルを使って戦闘する弓職と言う事だったのだが、魔法矢と装備の刻印における魔法ブーストで火力を上げると言う特殊戦法を使うとのことだった。
 と言うかあのシェパード野郎は強い奴と言うよりも特殊プレイしてる奴をスカウトしているんじゃないのか?とは言えそのおかげで悔しいが、ガウェインと組んで洞窟の攻略を出来たうえに、私の知らない情報を共有できたという点ではかなり有益だった。こっちの差し出した情報に関しては銃剣くらいなのだが。

「ただまあ、これからを考えるとあくまで一時的な方法なのよね、これ…ただでさえリソース使うのに余計な事が増えたわけだし」

 あまりにも原始的な先込め銃を作っている訳だが、この一連の動作を考えていくと、火薬、弾の量と合わせて自分のMPの管理も必要になる。
 ばかすか撃つ事はないのでMP切れは起こらないとは思うが、どのくらいの時間で発火して撃てるのかと言うのも問題になる。今試したのものでも結構集中して流し込まないといけない上にMP3も消費してやっと火が出来た。ただでさえ狙わないといけないのにだ。
 現代……と言うと語弊があるが、現代の火縄銃にまでもっていくまではまだ時間が掛かりそうだ。

 とにかく銃身(仮)が完成したので銃床を作っていく。鍛冶ギルドの中で木工をするというのも可笑しい話だが、シラカシの製材をさらに加工して「コ」字になる様に削りだす。今まで完璧な銃床を作ろうとしたから失敗していたわけで、もっと単純な機構にするわけだ。これなら木工難易度も下がる。
 そうして「コ」字に切り出した製材の間に鉄パイプを乗せ、針金で固定していく。ここは特にスキルが必要ないのでインベントリから取り出したアイテムを組み立てていく。
 そうして出来上がったものが手筒花火を細くしたような銃らしきものだ。



名称:パイプ銃 武器種:短銃
必要ステータス:STR3 DEX7
攻撃力:+10 命中:-30
効果:単発 命中時固定ダメージ20 装弾数1発 先込め式 火刻印
付属品:無し
詳細:自作の銃 爆発に指向性を持たせるというだけであり、精度は非常に悪い
  :また手製の為一定確率で破損する
製作者:アカメ



「また、これは不格好ね……まあ究極と言うか問い詰めればこういう事だろうし」

 構えて撃つなんて事も出来ないんじゃないかって思える程だ。なんなら照準すらついていないので、鉄パイプに詰めたものをどうにかまっすぐ飛ばせるようにした物とでも言うべきだろうか。
 そういえば飛ばす物も作っていなかったし、あまったくず鉄延べ棒で玉も作っておくか。


名称:くず鉄玉
詳細:くず鉄で作られた玉 真円ではないうえに割れやすい


「よし、これで完成だ……」

 ものすごく長い時間が掛かったように思える。ゲーム内時間で言えばかなり掛かっているがリアルタイムで言えばまだ丸二日程度だ。だとしても案外あっさり……ではないな、かなり苦労して、こんな不格好な物が最初とは。しかもこれ下手したらウサ銃で銃剣使った方がまだ戦える気がする。
 どちらにせよ、T2Wの中では小さな出来事かもしれないが私にとっては大いなる一歩だ。

「……うふ……うふふふ……見たかぁ!」

 鍛冶ギルドで思わずガッツポーズし、目の前に置かれている文字通り「私の」銃を見て咆哮を上げる。
 まだまだやる事も、やりたい事も残ってはいるが、本当に大きい一歩目を踏み出したに過ぎない。



 私のT2Wはここから始まるんだ。
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