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1章

36話 計画3 ダンジョン攻略

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 まあ当たり前だけど、普通のゲームと違う点としてこのゲームはフルダイブ系の挙動や動作がリアルと変わらない所にある。だからこそと言うか大変なのは。

「戦闘前に松明を横に置かないと行けない所かな!」

 今回狙っていたのはモンスターとか攻略ではないのでそこまで戦闘とかをするほどじゃないと思っていたが、大部分がアクティブだった。蝙蝠だけはノンアクティブだったが。

北エリア2 暗闇の洞窟
Lv6 バット
Lv6 ラージスネーク
Lv8 コボルト
Lv10 ロックラック

 Lv6バットの量が多いから他のモンスターに関しては数が多くない。多分だがダンジョン毎にモンスターの総数が決まっていて、他のを倒せば他が増えるという感じだろう。モンスターの情報も一度攻略されているので、その辺りもアンロック済み。勿論だが攻略されるまで全てマスクデータ扱いにされている。
 
 この辺もいちいち攻略済みのダンジョンに時間を掛けなくていいという配慮かもしれない。アイテムや宝箱等も攻略組にしゃぶりつくされているので、大したものは残っていない。絞りかす状態のダンジョンって初見攻略じゃなきゃうま味もないわけだし。
 
 攻略以外でこのダンジョンに用があるのはもうちょっと強い相手でのレベリングをしたいとか、Lv10のロックラックが一応魔法生物になるらしいのでそれのドロップ狙いだろう。ちなみに自分以外にもプレイヤーがちらほらといるが、大体はPTを組んで奥の方へと行っている。
 
「そんな事より手ぶらで使える光源が欲しかったよ!」

 噛みついてきている蛇を振りほどき、松明を置いて銃剣を構える。この動作がきつい。何なら一度松明で受けてみたが松明が壊れるわ、すぐに火が消えて視認できないからあわてて松明付けなおして、置いて構えて、なんてことになっててんやわんやの騒ぎを一人でやっていた。
 後手に回らなきゃいけないというのはしょうがないが、無理してでもカンテラ買って腰に下げておけばよかったと後悔する。今度から光源はカンテラにしよう。そうしよう。

「くそ、やっぱりケチったら何にも良い事ないわ」

 飛び掛かってくる攻撃を受け、跳ね除けてから突き攻撃。正直銃剣の使い方としてこれ以上の物がないので戦闘がマンネリ化してる。せめて撃てるならバリエーションも増えるというのに、やっぱり火薬の製造は急務だわ。

「それにしても持ち替えの手間が掛かるのが問題よね……スキルで夜目とか光源出せる魔法とか覚えたいけど、そっちにSPとか割きたくないし……やっぱりPTが一番なんだろうけど」

 ポリゴン状になって消滅していく蛇を見つめながら一息。こんな壁も出来ない、火力も出ないという状態のキャラなんてメリットがないし、私自身PTは神経を使うから好きじゃない、火力が出るとかまともに戦闘が出来るならちょっとは違うわけだが。

「まあ、狙いはそもそも戦闘とかモンスターじゃないし」

 ダンジョンマップを開いて蝙蝠の群生地を確認する。あの砂丘の舎弟からもらったデータの中に数の多いポイントというのは地味に表記されていた。情報クランってやっぱ伊達じゃないのね、名前のセンスは悪いけど。
 
 そうして松明を掲げ、曲がり角やら不意打ちには注意しつつじりじりと進んで行く。レベルの差はそこそこあるにせよ、不意打ちクリティカル何て貰うと一気に形勢は悪くなるし、ただでさえ松明の持ち替えをしなきゃならんのにそんなにダメージを貰ったら回復もしなきゃならんし多分っていうかいっぱいいっぱいだ。
 このまま何事もなく狙いのポイントに行ければよかったのだが。

「ロックラックか……名前の通り岩の魔法生物だけど……どう倒すか……」

 明らかに魔法攻撃してくださいと言った感じの動く岩なんだが、銃剣で斬り合いって相性最悪に悪いじゃないか?ただでさえ非力で攻撃力もがっつり高いわけでもなく硬い相手ってのは初めてだから、気合入れてやるしかないか。幸い、HP下級ポーションは一本も使ってないし、ガチっても大丈夫だとは思う。

「いつも通りパターン見ながら、反撃してか、こんな事ならもうちょっと情報絞り上げてやればよかった」

 倒さなければ目的の地点に行けず、回り道も出来ない。どうせ死んだ所で失う物は経験値だけだしこの辺で魔法生物というのもどんなものか確かめておくのがいいだろう。これからこういうのを相手しなきゃならないわけだし、リアル経験値の為にもやるしかない。

 Lv10ロックラック、名前の通り岩の集合体、塊がごろごろと動いている。形的には不格好なピンクの悪魔と言った感じだろうか。攻撃方法はそれこそ魔法か?単純に岩で殴ってくるようなパワープレイという可能性もあり得るが。結局戦ってみれば分かるし、いいもん出れば良し。
 松明を洞窟の壁面に立てかけ、倒れない様にしておき、銃剣を構える。
 目の前というか次の曲がり角の所にいるわけだが、魔法生物って探知方法が特殊とかどうとか見た覚えがある。手頃に足元にあった石を近くに投げてみたが特に反応しない、ウサ銃で壁を叩いて音を出してみても意味無し。一歩踏み込んだら一撃攻撃が当てられると言う所まで来た瞬間に相手がぐりんと動き出す。
 
「探知は一定範囲内に侵入か?」

 ロックラックの正面であろう部分が此方を向いてくるのを見た後はすぐに下がって様子を見る。そうするとまたうろうろとその場を徘徊というか転がったりとしながら離れていく。範囲内に入ると問答無用に喧嘩売ってくるのはアクティブならではだが今までは後ろを取っていたりすれば攻撃はされていなかった、そこが今までの奴との大きな違いになる。他にも多分アクティブのキーになりそうな要素はあるが、魔法生物なだけであって魔法の発動とかだとは思う。

 さて、こうなってくると戦い方としては一撃離脱しながらゆっくり減らして削り切るのが妥当か?だとしても一回攻撃してからターゲットが固定されるかどうかも問題だが。

「何にせよ、長期戦は覚悟しないと、ねっ!」

 こっちを認識していないのを確かめてから、曲がり角から飛び出てロックラックに一撃。黒板に爪を立ててひっかいたような音を洞窟内に響かせ戦闘開始。
 とりあえず確認のため、攻撃した後すぐに松明の置いてあった曲がり角手前まで引いてみたが、しっかりと追従してくる。やっぱり一度攻撃した相手を優先して攻撃するんだろうか?結局タイマンだからあまり気にしないが。
 そうして通路でロックラックとのガチが始まる。パターンを掴むまでと相手の硬さを考えれば多分今までで一番の苦戦になるだろう。
 
「魔法生物って物理だけじゃ倒せないとか、そんな事はないわよね?」

 もしそうだったら詰みだが。

「おら、かかってこい、このクソ岩!」

 ごろごろと転がり近づいてくるのを警戒していると、急な高速回転。ああ、これは避けないと絶対痛いぞ。形状からして突進攻撃とかは予想してたがそういう系だとは。
 地面が擦れる音と共にばしゅっと射出されるような音を響かせて此方へと突っ込んでくる。こんなもん受け防御なんて出来るわけがねえ、慌てて右に横っ飛びをして回避。それなりに後方にある壁に「ドゴン」と大きい陥没音をさせている。

「やっべ、あれ食らったら死ぬんじゃないかな……」

 すぐに立ち上がり音のあった方に向き直る。遠くから回転音が微かに聞こえてくるのに嫌な予感が働いた。魔法生物なんだろうし、五感での探知ではないのは確定だし、どうやって識別してるかは分からないがとにかく私から見えない位置で突進してくる攻撃をまた避ける。の、だが。タイミングを計り、もう一度右に避けたと思ったらまさかの変化球だよ。慌てて銃剣で受け防御をするがそのまま撥ねられ倒れ込む。そして私を当て逃げした奴はまた壁に激突音を響かせながら突っ込んでいる。

「いっだぁ…!咄嗟に防御出来た私えらい…!」

 31あったHPもあの一撃で20も持ってかれている。そりゃあもうすぐにHPポーションを飲んで回復する。って言うかこいつの対処は狭い所に行った方がいい、なんなら曲がり角で戦う方が対処しやすいんじゃないか。
 ふらつきながら立ち上がり、空になったHPポーションを投げ捨てて激突した壁の方へと走り、まだこっちに向き直り、回転行動をする前に突き攻撃。ギャリンと音をさせ、火花を散らしながら攻撃が当たる。効いてる感じは薄い。

「ええい!こいつ!」

 激突している間はピヨってるのかどうか分からないが、向き直る?までに時間が掛かるみたいだ。しかしやっぱり銃剣で突き入れるのはダメージが入ってるか微妙すぎる。2回攻撃して距離を取ったら突撃してこないであろう位置に陣取る。こういう突撃系は距離を取るから助走距離が出来る。だったら肉薄しながら近接攻撃を貰った方がダメージは少ないだろう。

「それにしても硬い……!」

 銃剣を振るっても響くのは金属音で、単純に相性が悪い気がしてきた。


『カスタムM2ラビットが破損しました』


 そしてここでまさかとは思ったのだが銃剣の破損が発生した。流石に硬い物に何度も突き入れたり、弾かれたりすれば戦闘終了前に壊れると言う事だろう。私だってこんな風にがんがんやってたら壊れるって納得だよ。

「くっそ、カスタマイズする余裕なんてないのに!」

 破損と合わせて弾かれ、怯んでいる所にぶんと風切り音をさせながら横に回転し、生えていた手のような部分が掠る。なるほど、つまりこいつは横と縦の回転での攻撃をしてくるという事だ。

「意外と理にかなってる攻撃してくるじゃない……!」
 
 軽く後ろにステップを踏んで距離を取り、高速回転が終わった所を狙い攻撃する……が、どうせ銃剣部分で攻撃しても駄目ならそれこそ銃のストック部分、いつも言ってる全体を指すものではなく、体に当てて安定させる底の部分を叩きつける。
 
「叩く方が良いと思ったけど、これでもないか……!」
 
 弾かれる事はないが手に振動が伝わり、かなりびりびりと痺れるリアルな感じが伝わってくる。フルダイブってすごいわ、ほんと。ああ、やばい、痺れてるせいで構えなおしが出来ない。相手は回転を始めている。

「ああ、くそ、直撃はまずいって!」

 ストックの底を当てたままロックラックを足蹴にし、後ろに倒れる様に距離を取る。倒れた所に回転攻撃が来るとバチっとはじける音と共に何も装備してない場合に装備されているサンダルが宙を舞う。思い付きの割にはうまい事回避できたんじゃないかな?あと、忘れてると思うけど、こいつはボスでも何でもない雑魚だからね。

「お前も銃弾出来たら覚えてろよぉ!」

 横回転しながら移動してくるとかいう攻撃に切り替えてきたよ、こいつ。尻もちついたままずりずりと下がって回転が収まるまで待ち、弱まった所で反撃再開、もうなりふり構ってられるか、ストックの底で叩き、何度も足蹴にし攻撃する。銃剣なんかよりはダメージ入るだろう。ほんと、このゲーム、憎たらしいほどリアルだよ!

「いい加減、くたばれ!」

 がんがんと叩き、蹴り、掠めた攻撃で減るHPをポーションで回復しながら数分。やっとの事で回転攻撃をしなくなる。ダメージを1でも与えれるなら何度も殴ればいいだけの事、泥臭すぎる戦い方だ。
 そうして何十回と殴り、蹴りを入れて動かなくなった所をさらに叩き続け、ようやくポリゴン状になり消滅していく。


「ああ、疲れた……!」

 消滅していく様を眺めつつ、肩で息をしつつ整える。魔法生物ってきついわ。結局6本もHPポーションを使う羽目になったし、銃剣は破損するし、実りが少ないよ。
 と……そう思っているとアナウンスが響く。


『銃格闘のスキルがアンロックされました』


「怪我の功名だけど……狙いはそっちじゃなかったわ……」

 あんだけ銃で殴って蹴り入れてりゃそりゃ覚えるよね。果てしなく殴りつけてたきがするよ。

「ふーい……目的は、この奥だってのに……」

 これだけやってまだ目的にたどり着いてない。今度からロックラック見つけたらガン逃げしよう。
 しかもこれだけやって目的の場所に行ったとしても目的のブツがあるとも限らないのが何とも悲しい話だ。

「まったく……苦行が過ぎるよ」
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