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1章

29話 金=情報

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 ショップでナイフと縄をいつも通り購入して、破損した場合の予備を確保。
 とりあえず必要な物は無いのでどうした物かと考える。

「後はレベリングって話だからなあ……硝石の場所を探すのに情報クランフル活用にするかな……でも結局鍛冶と木工はしないといけないわけだし」

 相変わらずの歩きメニューをしながらその情報クランがいると言われている、私にとって呪われている露店エリアの方にやってくる。毎回来るたびにガサツエルフとか犬耳ショタとか、シェパード獣人とか、普通の相手に会えない呪われているエリア。そもそも私が普通じゃないというのはあるが。

「改めて見ると色んな店があるのよね」

 そういえば雑多に見続けた事しかなかったから改めてしっかり見るのは初めてだ。
 
 T2Wにおけるプレイヤーズショップは、店舗を丸ごと購入するか賃貸契約。露店に関してはショップを開けるという権利を購入か課金するかで手に入る。課金と言っても数百円だし、権利自体はそこまで高くないらしい。これもβ情報だし、そもそも私はそういうのに手を出す余裕も必要性も無いので詳しく調べていないというだけ。
 
 大雑把に露店の広がり方だが、装備品、消耗品、料理の3カテゴリーが纏まっている。具体的な中身に関してはもう、それぞれ色々あるので考えるだけ無駄というものだが大体このカテゴリーごとに、あとは行ってみて足で探すしかないと言う事。

「相当稼いでるみたいだしなあ……情報を売買してるなら路地裏とかそういうのじゃないとは思うんだけど」

 と、思っていたらでかでかと看板を掲げている。そりゃそうかって言うか自己主張激しすぎる。客足はそうでもないのだが、儲かっている感は凄まじくでている。逆に怪しさ満点すぎるのだが。どっちにしろ話を聞いてみないと分からない。

「すいません、情報クランってここですか?」
「イエース!何が欲しいんだい!ボスの情報?エリアの情報?それとも気になるあいつのことかい!」

 やけにテンションの高いヒューマン、特に特徴のない種族「人」でまあ、見た目も普通の人、身長とかも160~70くらいだしテンション以外は普通。

「すげえ胡散臭いんだけど……証拠はないの?」
「オウ!正真正銘、情報クラン『壁に耳あり障子にメアリー』だぜ!」
「やっぱ胡散臭い……」
「調べろよ!掲示板とかうちのサイトとかちゃんとあるから!」
「名前とクラン名と露店の情報開示して、調べるから」
「そこまでしないと信用できないんか!」
「できん」
「えぇー…名前はサンドヒル、露店名はクラン名に支店ってつけてググってくれよ!」

 こんな口から先に生まれたような男の話をほいほいと信用できるかと、一旦メニューを開いてログアウト、タブレットから検索を掛けて情報クランの名前と聞いた名前を入れていく。
 数分後、同じところにログインし直すと、あの煩そうな男が目の前にいる状態だった。目覚めがわりいわ。

「ちゃんと名前出てきたわ、ふざけてるけど」
「だろー?俺ちゃん嘘つかないし!」
「で、まあ情報を聞きたいんだけど」
「おう、いいぜ、金はいるけどな!」

 こいつの音量を絞ってやりたい、しかも調べたらこの砂丘、そこそこ有名なプレイヤーらしいが。

「硝石、欲しいんだけど」
「ほほう、硝石……硝石……?」

 ああ、ダメだ、情報持ってない。こういう反応するときって大体その手の物は持っていない。

「はっきり言いなさいよ」
「いや、まあ……ない事もないんだけど、あるとは言い切れないというか……」
「幾らの情報よ?」
「何ていうか幾らとか言えないというかなんて言うかえーっと」

 やっぱり持ってないわこれ、明らかに分かってないというか、お茶を濁しているのが思い切り泳いでいる目を見ればわかる。表情まで読み取れるからこのゲーム凄いよね。フルダイブってここまでやれるなんてすごいわ。

「やっぱ振り出しかあ、家畜関係のクエスト探してやるしかないか……」
「いやいや、ちょっとまって!いや、まあ、あるっちゃあるんだから!」
「だから幾らなのよ、ここで時間食うくらいなら自力で探すし」
「えーあー……わかった、わかった!こんなとこで言えんからうちの本店で」

 何かを諦めたのか、それとも覚悟したのか露店を閉じると「こっちだ」という様に手招きされる。T2Wでは路地裏でカツアゲしたりとか、暴行とかそういうのは一切出来ないし、詐欺とかも報告すればGMが飛んできて一発でアカBAN、良くても停止処置最低一か月とかを貰う。そういうわけでやましい事は基本的にNGなので付いて行っても問題ないと言う事になる。

 しばらく付いていくと、西部劇とかに出てきそうな酒場にたどり着く。ウェスタンドアを開け、中を通っていくのだが、樽が置いてあったりもう、テンプレートで酒場っといった感じでカウンターにはやる気の無さそうなバーテンダーがグラスを磨いている。そんな酒場のカウンターに隣同士で座って話を続けていく。

「結論から言えば、ある」
「あるんじゃないの」
「ある事はある、けど無い」

 ふむ、と考えてみる。こういう感じの場合は存在は確認できたが入手が分からないと言う事だろうか。それともあまり口外したくない程の秘匿情報なのかだ。あとは確認できていないから濁しているかもしれんが。
 そのままカウンターに指をとんとんと叩きながら考えて一つ結論をだす。

「よし、自力で探すわ」
「だから……って、待って待って!」
「何よ、めんどくさい……」
「いや、流石に聞かれて手ぶらで返すのはうちの方針と言うか俺ちゃんのポリシーの反すると言うか」
「方針もポリシーも意味は一緒だ」

 やばい、こいつと話していると頭が痛くなる。こういうすぱっと結論を言わない奴はイライラしてくる。傍から見ても明らかに鋭い目つきがさらにきつくなっているのが分かるだろう。

「お、おぉ……いや、そのだね……はい、わかりません」
「じゃあ何で此処に連れてきたのよ」
「あ、はい……えっとですね、情報が確定じゃなく、データしか存在を確認できないので」
「じゃあデータ見せて」

 傍から見たら完全に脅しているのは私だろう。目つきの悪いドラゴニアンがヒューマンを委縮させて敬語で話させているわけだし。

「あ、はい、えっとお値段の方が……」
「じゃあ、これ」

 500Z(ゼニー)をカウンターに置いて砂丘の横に滑らす。ちなみにだがゲーム内貨幣は自分が取り出して渡す場合にはトレード画面を出す必要はなく、直で受け取ればいい。もちろん盗まれるように見えるが、自分で見た相手を許可するという内部処理がされているので、他の人がそれを取ろうとしても透過するので持っていくことはできない。また何百万の額であっても少し大きい硬貨一枚で済むのはいい所。こんな所でもキャッシュレスよ。

「え、ちょ、500Z(ゼニー)って」
「散々時間取らせて、こんな所まで来て、結果無いですって言うまでの手間料引いといたから」
「えぁー……じゃあ、何か買えるような情報とか……」
「ガンナー、銃のカスタマイズできるよ」

 何すかそれって顔している所にインベントリから銃剣の付いたウサ銃を取り出して見せる。明らかに目泳いでるよ、やっぱこのゲームすげえわ。

「ちょえ?だって銃ってアタッチメント装着しかできないんじゃ?」
「どうせガンナーって私しかいないし腐ってる情報でしょ、道具屋の縄と一本100Z(ゼニー)のナイフつけりゃ出来るわよ、こんなの」
「それ、完全に初情報なんですが……」
「銃弾買えないから諦めてやめたんでしょ、マスター、こいつのツケで一杯」

 グラスの置かれる音と共に薄茶色の液体が注がれる。匂いからウィスキーだろう。勿論リアル成人してるので普通にグラスを傾けながら流し込む。

「これでも私、T2W唯一のガンナーよ?後発組に売れる情報、これから増やせれると思わない?」
「ええ、まあ、そうだと思いますが……」
「じゃあ、安い買い物でしょ、さっさとデータ見せなさいよ」

 肘をついてグラスを揺らしながら「にぃ」っと笑う。これ完全に悪役がやる行為だ。
 観念したのか硝石に関するデータを飛ばしてくる。


名称:硝石
詳細:化学組成KNO3 主な用途は肥料や発火材 


 データで見れると言う事は存在していると言う事だし、肥料で使用とかを考えれば農業系の職がこれを求めている可能性もある。どちらにせよ、存在しているという事が大事であり、あとはどう入手するかによる。まあ実りは少ないとはいえ、まあ半歩前進ってとこだ。

「入手場所分かったら教えなさいよ」
「せめて別料金で!」
「考えとくわ」

 グラスに残ったものを飲み干し、見せていたウサ銃を仕舞ってからウェスタンドアを両手で大きく開きながらクランハウスを出ていく。
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