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1章

18話 3人目

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 少し駆け足気味に席を離れ、一目散に武器を見に行く。
 それにしても私もまだ未熟だよ、散々今まで煽りプレイとか舐めプレイとかファンメール貰ってきたのに馬鹿にされていると感じてしまった。あの頃はまだ実力があったからこそだったが、今の貧弱状態でああいわれるとそう感じざるを得ない。

 公開処刑みたいなもんだよ、相手もただでさえ目立つ奴だし、私は私で不遇職の生き残りみたいな扱いだし、あそこでずっと好奇の目に晒され続けるのはごめんだ。

「煽り耐性低いわ、私」

 煽ってたわけじゃないが、本人がそう感じればそういう事になる。無自覚だろうし、ちゃんとした紳士だと言うのもわかる、本心から凄いとか褒めていたんだろうけどね。

「やめやめ、ああいう聖人とは関わらないのが正解」

 だからソロは気楽だ。ある意味で好きにやってもいいわけだし。だからこうしてNPCの武器屋に来てじっくり装備を見れるんだから。

「何買うんだ?」
「ちょっと待って」

 ショップのNPCの会話を指で遮りながらじっくりとメニューと自分の所持金を見比べる。T2WにおけるNPCはAI搭載の好感度システムありのもので、会話や関連クエストで派生クエストが出たり、ショップのでの割引が受けられたりする。勿論マスクデータなのでどのくらいためてるかは分からないのだが。

 そして私がここで悩んでいる原因はもう一つあり、カスタマイズの関係だ。あの時は縄とナイフで括りつけた簡易的な物で成功したが、ここで買う武器がどこまで使えるかどうかがポイントになる。

 重い武器はまず無理だろうし、一番軽い武器だとナイフしか選択肢しかないが、それだと攻撃力が低い。だからと言って攻撃力の高い物にすると重量が大きい傾向になる、そうなるとウサ銃を装備できない可能性も出る。憎たらしいほど絶妙なバランスにしてるよ。

 ショップ売りの装備品はデータとして見れるがそれがカスタマイズできるかどうかが分からない。多分SLvが上がれば判断できる気もする。が、確定情報ではないものに貴重なSPをつぎ込むのは博打が過ぎる。銃弾を作れない以上、二度撃ち、装填、調合のSLvを上げるのは後回しにするとしてもやはり抵抗が強い。

「お客さん、何悩んでるんだい」
「ナイフくらいに軽くてナイフよりも長くて攻撃力の高い武器が使えるかどうかってところ」
「そんなもんここじゃあねえよ……冒険者のハンドメイド品探したほうがいいんじゃねえか」

 確かに店売り品よりも良い物を作ってるのはそっちだ。ただ問題としてはそっちはそっちで金が掛かる。ハンドメイド品は手間と時間と材料費が掛かっているからこその値段なのだ。何よりもNPCよりも気を使って売買に望まないと、てめえには売らねえなんて言われた時点で終了する。まあそこまで職人気質の人物がいるとは思わないが。

「じゃあとりあえずナイフ一本」
「はいよ」

 最初に買ったナイフを保険として購入。これで一応しくじったとしてもどうにかなる。所持金全額ぶち込んで結局使えませんでしたとか、目も当てられん。銃剣無しの銃で戦闘するというのが無理ということはゲームで銃弾を撃ち尽くしたときに経験しているわけだし。

「無人販売はあるけど商人連中は自前で仕入れてるからそこの値段も加味されてるだろうし、そもそも良い物は直接売買が基本って聞いたこともあるし……やっぱ鍛冶生産系のプレイヤーと直交渉するしかないかあ……」

 
 深くため息を吐き出しながら多少久々に露店エリアにやってくる。武器、防具に関しては鍛冶系とは言え分類が結構細かく違ってくる。金属武器や木工武器で鍛冶の方向性が違うし、防具も金属製布製でジャンルが別だし、もう生産職は色々と派生が多すぎるうえに特殊過ぎる。

 と、話がそれたが、狙い所は金属系武器の加工をできる鍛冶職人だ。場合によっては木工武器で打撃系に切り替えてもいいかもしれないが、叩くのと言うのは腕力ありきだし、叩くのに特化した物は折れないために身の詰まった木材を使うのを考えると重い場合が多いからどうしてもと言う場合にしておこう。

「うーん……流石にエルスタンじゃ大した物がないな……そりゃそうだろって話なんだけど」

 練習用に作った店売り品よりも出来のいいちょっと強い武器を店売りよりも安く提供している。まあ善意の販売なので利益は度外視、在庫処分と一緒だ。

 しばらく武器関係の露店とプレイヤーショップを確認してみるが全くもって良い物が手に入らない。こうなるとやっぱり採掘して自前で製造するのが一番いいんじゃないかって方向性になる。どうせ自分で銃身を作る気でもあったわけだし、鍛冶のレベルを結局上げる予定は変わらない。しかしその問題は採掘エリアまで自前で行って戻ってくる事が前提になる。

「結局どん詰まりだわ」

 累計30件目のプレイヤーショップのメニューを閉じて、無駄金使うのやめようと思う。デスペナ食らった所でどうせ900Z(ゼニー)だ、動物の皮9枚、もしくは下級肉3個で取り返せる。

「あんた、よっぽどの目利きみたいだね?」

 褐色の長身美人が声を掛けてくる。種族は耳長族。わかりやすく言えばエルフとかそういう奴。格好としてはツナギにノースリーブのガテン系姉御、そんな感じだ。

「別にそんなんじゃないわよ、欲しい物がないだけだし」
「へぇ、どんなものが欲しいんだい?金属系の武器だと思うけど、こういうのとか?」

 インベントリから取り出したのはかなり大きい両手剣。竜殺しとか名前の付いていそうな奴。そんなもん振り回せるやつこのゲームにいるのかよ、って思ってたら褐色エルフは普通に振り回してる。どんだけSTR極にしてんだ。

「どう?最近第二エリアのボスを仕留めたって実績もあるこの武器」
「……いらない」
「じゃあ、こういうのは?」

 次に取り出したのがやたらと厳ついロングソード。明らかに呪いとか、破壊とかそういったやばい名称がついていそうだが、やっぱりそんなもの扱える訳ないだろ。

「これ並みに軽くて攻撃力の高い短剣かショートソード以外はいらん」

 店売りナイフを見せた瞬間に厳ついロングソードを落として落胆し始める。それにしてもその厳ついロングソード、切れ味どんだけなんだよ、地面に突き刺さったぞ。

「あ、あたしの武器は、み、店売りナイフより、劣っているだと……」
「いや、そういうわけじゃなくて」
「こんなもん、こんなもんっ!」

 鍛冶用のハンマーでロングソードを叩き壊している。しかもガチ泣きしながら。ああ、もうまた街中で騒ぐ奴だよ…っていうか、また泣かせてるじゃん、何にもしてないのに。

「ふーっ、ふぅー……!」
「持ってないなら、もういい?」
「ちょっと来なさいよ!」

 とてつもない気迫と剣幕で近寄り、しかも鼻息荒く迫ってくる。鍛冶ハンマー持ってるガテン系の女とか危険な匂いしかしない。っていうかまた目立つ事してるよ、もういい加減ひっそりと過ごしたい。

「分かった……分かったから……」
「よし、こっちこい!」

 やっぱりソロの方がいいよ、変な奴しか会わないし、いつも巻き込まれているのは私だし。いつになったら採掘にいけるんだろうか。と言うか私の意思が弱いせいで巻き込まれているのだろうか?
 
 なんにせよ未だに木炭しか作れていない現状、もう少し進展がある実りのある事が起きれば幸いなのだが。
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